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制度ありきではなく、メンバーを基点に考える D&I AWARD大賞受賞企業に聞くD&I推進のポイントとは

取材日:2024/12/18

Web制作、アプリ開発、システム開発のUI/UXデザイン、企画からシステム開発までワンストップで支援する株式会社PIVOT。今回PIVOTの代表を務める宮嵜さんとD&I推進の立役者である栗林さんのお二人に、推進の背景やポイントについて伺いました。 ※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 宮嵜 泰成さん

    宮嵜 泰成さん

    株式会社PIVOT

    代表取締役社長

  • 栗林 裕美子さん

    栗林 裕美子さん

    株式会社PIVOT

    DE&I推進リーダー

この事例のポイント

  1. D&Iはメンバー基点に働きやすさや環境を整えていく取り組み
  2. D&Iの成功にはチャレンジの芽を摘まないことがカギになる

D&Iはいろんな人が働きやすい環境を作る取り組み

御社ではD&Iをどのように定義されているのでしょうか。

栗林:当社を含めたAZグループ共通の定義としては、「D&Iとは組織に所属するさまざまな人たちが、お互いの経験や能力、考え方を認めながら活かしあえる状態である」「私たちのグループに所属するいろんな経験をしてきた一人ひとりが真に持ち味を発揮して、公平に成果に貢献できる組織を目指すこと」となっています。

D&I推進をグループとしてしっかり取り組むことになった際に、グループ会社のメンバーと私で、社内に発信するためにいろいろ議論して作り上げたのが先の定義です。その定義に加え、D&I推進の目的も明確に出していて、「グループの社員一人ひとりが充実して働ける状態を目指すため」としました。

宮嵜:私自身D&Iは、端的にいえば働きやすさに集約されると思っています。「多様なバックグラウンドや状況を抱える社員が働きやすい環境とはどんな形だろう?」と考え、試行錯誤していく取り組みがD&Iではないかと。

日本のD&Iでいえば、ワーキングマザーが働きやすい環境を作ることがよく議論に挙がりますよね。このテーマ自体は揺るがないのは当然として、ワーキングマザーだけにフォーカスすると、そうでない人からすると「なんで?」と思ってしまうことは、どうしても出てくる。

だからこそワーキングマザーでない人も含めて働きやすさを追求していくこと、「10人いれば10通りの働き方ができる環境」を構築していくことが求められていると感じています。

D&Iを推進しようと思われたきっかけについて教えてください。

宮嵜:当社は創業者が女性ということもあり、正直なところ「女性活躍を推進していかなければ」といった意識や概念がありませんでした。そもそも活躍することが当たり前だったので。またデザイン業をしているという背景もあり、もともと女性メンバーが多く、出産や育児のようなライフイベントは当然次々と発生してきます。

そのためライフイベントがあっても働き続けられるようにしなければ、優秀なメンバーが離れていってしまいます。これは経営危機に直結するので、いかに働きやすくできるかをこれまでもずっと模索してきたんです。

なので私自身は当初D&Iという風に捉えていませんでした。メンバーが働きやすいように制度を整えてきた延長線で、結果的にD&Iと重なる部分が結構あったみたいなところですね。 ただ当社も徐々にメンバーが増えてきたので、何となく推進するだけでは難しい局面も出てくるだろうと思いまして。そこでD&Iの定義や考え方をしっかり認識し、社内全体に伝えていかなければならないと考え、現在に至っています。

制度ありきではなく、メンバー基点で

D&Iについて具体的にどのような取り組みをされているのか教えてください。

栗林:D&Iの考え方を浸透させるという意味では、隔週でミーティングを公開する「オープンラジオ」という取り組みを実施しています。ここではグループ会社と当社から有志で集まった私を含めた5人が中核メンバーとなって、D&Iに関するさまざまなテーマを持ち寄って議論し、その様子を公開しているんです。

中核メンバー以外も自由に参加や発言できるので、ときには社員の悩みや課題がテーマになることもあります。「誰もが意見していい」という空気感を作りたいという狙いもあるので、特に議論のオチも求めず、対話できる場として継続していますね。

ただこのオープンラジオについては「興味がある人は参加してね」というスタンスなので、どうしてもリーチできない層が生まれてしまいます。そのため、ハラスメント研修やD&I研修などの情報共有は、人事が定期的に実施しています。

宮嵜:制度面でいうと労働時間の選択の幅を大きく広げているところは、大きな特徴だと思いますね。単純な時短勤務ではなく、あなたは何時間働きたいですか?というような形に非常に近い。そのため「私は6時間がいいです」「私は週3日がいい」みたいな形で希望し、その形で働いてもらっています。

また男性育休取得率も高く、全員でサポートするような体制は築けているかなと。例えば先日当社の唯一の専任営業担当者も3か月の育休を取っていました。

いずれも制度が先にあったわけではなく、社員の事情に合わせて個別に環境を調整していった結果ですが、それがいま上手く制度として成り立っていると思いますね。

制度を先に構築するわけではないということでしょうか?

栗林:私自身も出産を契機に地方に引っ越して、現在もリモートで働いていますが、当初はリモートワーク制度はありませんでした。私のときもそうでしたが、まずは一人二人個別の事情や意志で、「働く場所を変えたい」であったり、「時間を短くしたい」であったり、相談してくる社員が出てくるんです。そこでまず特例的に総務と相談しながら、いろいろ環境を整えていくわけですね。そこから他の人も使いたいという形なのであれば、後追いでルールを作って制度化することになります。

なので今当社にある制度は、ほとんどがまず先人となるメンバーが自らの状況などをふまえて「どう働きたいか」を相談し、その意見を基にいろいろと調整してきた結果生まれたものなんです。先に宮嵜があげた男性育休も国の制度ではありますが、実際に会社で実施するとなれば、色々な準備が必要です。そのため、役員がまず先例として育休を取って、それをもとに環境を整えました。

男性育休については活躍している役員が率先して取って、それでいて仕事も折り合いをつけて、きちんとやっている姿を見せてくれたというのが大きかったですね。

メンバー同士の信頼関係があってこそ成り立つ

D&Iを推進するうえで重要であると考えているポイントを教えてください。

宮嵜:多様な働き方を実現する制度を支えるのは、総務や労務に所属しているメンバーです。当社ではフロントデスクといっていますが、このフロントデスクがどれだけ柔軟に対応してくれるかという点は非常に大きい。

もしこのフロントデスクのメンバーが楽をしたいと考えると、個々の社員の事情に合わせて、制度を後追いで合わせていくことは絶対にできません。だから本当にフロントデスクのメンバーには感謝しています。

栗林:あとは各制度を利用しているメンバーが成果を出して、周りの信頼を勝ち取っているという点が何よりも大きいと思っています。というのもリモートや短時間勤務などの制度は、他者にしわ寄せがいく可能性もあるわけです。でもメンバーは会社からの信頼があり、メンバーも会社への信頼や期待に応えたいという思いがあるので、しっかりと制度のなかで最大限の成果をあげようとする。

自分に合わせて手間をかけて制度を作ってくれたのだから、その期待にちゃんと応えようとする力が全体的に働いていると思いますね。

あらかじめ信頼関係を醸成しておくことが重要ということですね。

宮嵜:当社のD&Iがスムーズに進んでいる背景の一つに、リモートワークが上手く回っていることがあると思っていて。コロナの前に福岡に支店を作るといった局面があったのですが、その際にリモートするうえでのメリット・デメリットや、コミュニケーションの取り方を徹底して議論しました。

そのため、もともと異なる働き方をしているメンバーとの信頼関係の築き方や土台があったんです。その土台のうえに、新しいライフイベントにどう対応するかを考えることができたのは大きかったと思います。

当たり前ですが当社で働いてくれている社員は、全員がいなくては困るメンバーなんです。メンバー同士もお互い、リモートでも短い時間でも、どんな形であっても一緒に働いてほしいと思っている。ここの信頼関係がD&Iの各制度を支えているんです。育休や産休のメンバーがいると、「いつ戻ってきますか?」みたいな話はよく出ていますよ(笑)。

信頼関係を築くうえでのポイントはあるのでしょうか?

栗林:監視をしないということでしょうか。リモート環境を導入すると監視したくなる気持ちはわかるのですが、これは逆効果だと思います。監視はいわば性悪説に基づいて、サボリや違反の判断に労力を割くわけなので、監視する側もされる側も精神的に疲弊してしまいます。

しかし信頼関係を築くには、管理者はそこをぐっと我慢して、一度勇気をもって離れる必要があると思います。もし問題があればどのみち評価のタイミングで露呈するので、毎日目を光らせなくてもいいんです。だから「後はもう任せるよ」と手放してしまう。

人間は信じられていると思ったら頑張るんです。監視されれば逆に自分は信頼されていないと感じてしまうので、まず信じて任せることが大事だと思います。

時差や異文化の壁をどう乗り越えるかが課題

D&Iを進めていく中で、どのような課題や壁を感じましたか?

栗林:私がPIVOTで目指していたのは「いつでもどこでも働ける」ということで、このうち「どこでも」はかなり実現できたと思っています。ただ、「いつでも」はまだ難しいと感じています。

日本国内は勿論、アジア近郊など時差が大きくない場所であれば問題ないのですが、ヨーロッパ圏など昼夜がそもそも逆である地域の場合は、超えないといけない課題があると思っていて。実際過去にイギリスにメンバーがいたこともあったのですが、初めての試みだったので、お互いに苦労があったと思います。
当社はクライアントワークが中心ですし、社内においてもリアルタイムで話し合いの場を設けるとなると、どちらかが早朝や深夜など本来の就業時間を超えた部分で対応しなければなりません。ここをどうクリアしようかという点は現在も模索しています。

ただこの課題も、例えばクライアント対応が必要な業務は難しいですが、開発なら「いつでもどこでも」という働き方と相性がいいと思っています。逆に時差を利用して、会社として、24時間稼働できる体制にしようと思えば可能ですよね。

宮嵜:経営的な視点でいえば、当社は多国籍化が進んできているので、異文化コミュニケーションをもっと全社的に学ぶ必要があると思っています。悪意のある接し方をするようなメンバーはいませんが、異文化に関する知識が足りていないことで、知らず知らずのうちに偏見や差別的な言動に繋がるリスクは拭えません。

だからこそ、それぞれの国で文化や価値観の違いがあるという点を念頭において、差別や偏見と受け取られる可能性のある言動について、全社で学ばなければならないと考えています。ここを放置してしまうと、せっかく入社してくれた優秀な外国籍メンバーが働きにくい環境になってしまいますから。当社にはベトナムとマレーシア、ミャンマー、中国と4か国の外国籍メンバーがいるので、この辺りの対応や学びは喫緊の課題かと思っています。

最大の成果はメンバーが働き続けてくれていること

D&Iの取り組みを通じて得られた成果について教えてください。

宮嵜:個々のメンバーが今も働き続けてくれて、しっかりと活躍してくれていることですね。ただ在籍することが目的で、活躍できていないみたいな状況にはならず、各自責任のあるポジションでしっかりと活躍してくれています。

もしこのメンバーがいなくなれば、その分の知見やスキルが失われてしまう。これは経営的に考えると大きなデメリットです。いろんな事情を抱えていたとしても、D&Iを通じて各自のできる範囲で働いてもらえるなら、それは経営にとってプラスでしかありませんから。

栗林:当社ではワーキングマザーが全社員の10%ほどを占めるのですが、産休と育休を取得して復帰した女性の離職率は0%なんです。出産や子育てが離職のきっかけにならず、D&Iによって貴重なリソースを確保できているというのが大きな成果だと考えています。

こういった取り組みや成果があって、2023年度のD&I AWARDにおいて中小企業部門の大賞を受賞されるに至ったのですね。

栗林:そうですね。D&I AWARDでは女性管理職比率50%以上を達成しているという点を高く評価してもらいました。現在の日本ではジェンダー、特に女性活躍にまだまだ課題がある状況です。そんななか、当社は冒頭で宮嵜がいったように、女性活躍が当たり前で、「いないとそもそも仕事にならない」というスタンスがあったので、その点を評価されたのではないかと。

宮嵜:女性管理職比率50%以上は、特に目標として掲げていたわけではなく、お願いしたいメンバーに頼んでいったら、結果的に50%を超えていた、ということにすぎません。

そもそもD&I AWARD自体、「獲りにいった」わけではなく、スコアシートみたいなものがあるので、それでチェックしてみたら現時点でクリアしている要素が多かったので、応募してみようといった流れだったんです(笑)。

最初の一人を「前例がないから」と潰しているうちは一生進まない

これからD&Iに取り組もうとする企業はどのような点を意識すべきでしょうか。

宮嵜:やはりチャレンジの芽を摘まないというのが一番重要だと思います。何かしら事情があって働き方を変えないといけないメンバーが相談してきたときに、チャンスを作ってあげて、応援できる制度が絶対に必要です。

例えば東京にしか拠点がない企業があったとして、メンバーから「家庭の事情で沖縄で働きたい」と相談されたときに、大抵の場合「だめ」と答えてしまうと思います。しかしそこでどうやったらそれを実現できるのかを一緒に考える。どうやったら仕事への成果もコミットしたうえで沖縄に行けるかを、しっかりと向き合って対話することが大事です。

正直最初の一人を潰しているうちは無理だと思います。「まだそういうルールや前例がないから」といっていたのでは、一生D&Iは実現できません。固定観念から脱して、最初の一人にしっかりと向き合い、応援できる体制や制度を作ることが先決でしょう。

D&Iが浸透していない企業が新たに取り組んだ場合、どういったメリットがあるのでしょうか。

宮嵜:日本は現状少子高齢化が進んでいて、どのような業界でも人手不足と言われていますよね。なので現場で人手が足りていないといった課題が少しでもあるなら、D&Iを推進することで働き手の確保がしやすくなるでしょう。

今は20代や30代の若手だけに絞って、どんどん採用できる時代ではありません。その点、当社でも取り組んでいる外国籍人材はもちろん、出産や育児を経験した女性やシニア、障がい者などにも視野を広げることで、働き手となる母数を大きく拡大できます。

今現在の制度に当てはめて採用できるかを判断せず、働きたいと思ってくれる人に合わせて社内制度を柔軟に構築していけば、多様な人材を確保できるはずです。

メンバーの選択肢や可能性を広げることが次のステージ

今後、D&Iの推進をどのように進めていこうと考えておられますか?

宮嵜:D&Iの考え方を整理して、社内に対してしっかりと発信していくことは継続しなければいけないと考えています。D&Iによって組織がどう強くなるのか、いろんな環境や境遇の人が活躍できる環境が企業にどのようなメリットをもたらすのか、といった点をしっかりと言語化して伝えていきたいですね。

ただしD&Iは「自分に合わせて自由に制度を作ってもらう」みたいな甘い話ではありません。制度を構築するからには、制度を利用したうえでどのように成果や責任にコミットするのかを考え、メンバーと企業が相互に歩み寄ることが重要です。この点も社員には理解してもらう必要があると考えています。

栗林:当社は声を上げれば何とかしてくれる会社だと思います。実際私もまず相談して、それが特例から制度になった経緯があるので。ですが誰もが自分の都合を相談できるわけではありません。どうしても「会社に迷惑かけるのではないか」「ルールではこうなっているから、どうせ無理だろう」と思ってしまう人も一定数いるんです。

こういった悩みや事情があるのに言い出せず、自分の中で折り合いを付けて苦労している人に対して、どうアプローチしていくかが次の課題だと思っていて。とはいえ、悩みを無理にほじくり出すことは違うので、やっぱり「誰かに相談すれば、その選択肢を作れるかもしれない」と思える環境を作ることが、一番効果があることだと思うんです。

可能性や選択肢があることは、ライフスタイルの幸福度に大きく関わります。自分の中で抱え込んでいる人の可能性を少しでも広げられるように、「話してもいいんだ」「相談してもいいんだ」という空気感や雰囲気を作っていきたいですね。

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