営業重視の改革、組織の一体感より強固に 常識への挑戦マインドを育むコミュニケーション戦略

取材日:2023/03/24

日本特有の習慣である敷金を削減し、不動産業界の商習慣打破に挑んでいる株式会社日商保。業界的にチャレンジングな取り組みを支えるべく、メンバーが最大限のパフォーマンスを発揮できるよう組織変革を続けています。詳しくお話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 権藤 豪さん

    権藤 豪さん

    株式会社日商保

    経営企画部部長

この事例のポイント

  1. 営業職が“本業”に専念するための業務見直し
  2. 営業にチーム制導入、仲間とサポートし合う
  3. 行動指針となるvalue設定。評価や採用基準にも活用

SFAシステム一新、情報管理がスムーズに

御社が展開する敷金削減サービス「敷金半額くん」とは、どのようなサービスなのでしょうか?

権藤:敷金削減サービスはオフィスや店舗を借りる企業に対し、当社が敷金の代わりに提供する保証制度です。

敷金に充当するはずだった資金を経営安定化や事業資金に転換してもらうのが目的であり、非合理的な商習慣である敷金をなくすことで、日本企業の成長を促したいと考えています。

ほかにも、敷金不要のオフィスなどユニークなサービスを提供されていますね。事業展開に合わせ組織を変革してきた点はあるでしょうか。

権藤:不動産に関連する事業では、どうしても関わる当事者が多いという特性があります。借りる人がいて貸す人がいて、物件によっては管理会社や仲介会社も含まれるためです。

顧客情報や取引先情報が複雑につながっており、売り上げやキャッシュフロー、取引先データなどの情報管理が一元化しにくくなっていました。営業支援システム(SFA)で管理をおこなっていましたが、例えば、営業の誰が顧客とどんなコミュニケーションをとっていて、どこまで話が進んでいるか、つながりや経緯が分かりにくかったのです。

現場担当者と経営陣から改善を求める声も上がっており、顧客情報を蓄積するだけでなく、コミュニケーションの流れも可視化できるシステムを求めて、SFAツールの変更・改善などを続けていました。

その結果、昨年導入した当社にとって“3代目”となるSFAツールの活用によって、1年で商談件数が前年比2倍に増えている状況になっています。もちろんSFA導入だけが理由ではありませんが、組織全体の案件状況を把握しやすくなりましたし、商談の設定がスムーズになったことは間違いありません。目標管理やKPI(重要業績評価指標)の管理もしやすくなりました。

情報共有の部分を改善した上で、社員の働き方も変えた部分はありますか。

権藤:主に営業サイド、つまり最前線のメンバーが働きやすいように環境を整えています。

従来は営業担当が1人で案件の発掘から契約締結まで、一気通貫でおこなっていました。ただ、取り扱う案件数が増えると、それに伴う事務作業に忙殺されます。

そこで営業とバックオフィスに近い役割だった営業事務の業務分担を見直し、営業は案件の獲得や顧客とのリレーション構築に注力。一方、営業事務は事務作業に止まらず、契約までの細かい調整や手続きも担うことにしました。最前線の営業だけが案件獲得から契約までの流れに習熟する一貫制ではなく、分業にすることで、営業事務を含め組織全体の対応力と対応スピードが底上げされてきたと感じています。いずれは営業事務の業務をもう少し広げ、物件を借りたいと思っている企業への説明やオーナーさんとのやり取りもまとめて担当できるような体制にしたいと考えています。

2人1組のチーム制で連携や成長を促す

このほか、営業が働きやすくなるように取り組まれていることはありますか。

権藤:チーム制ですね。営業を原則2人一組でおこなうように変えました。もちろん1人で案件を開拓しても問題ありませんが、その後の業務はペアで進める仕組みです。

チーム制導入の狙いは何ですか。

権藤:先ほどお話したように、案件開拓から契約に至るまで営業が1人で対応しようと思えば、できてしまうサービスです。しかし個人プレーヤーばかりの組織になってしまうと情報共有が進みませんし、営業が持つ経験や知見が会社の財産として蓄積されないので事業の成長スピードにも限界がきます。

そのほか、複数メンバーが「同じ物件」の営業を個々にしていたというようなトラブルが起きたこともありました。

当社の営業職の平均年齢は20代後半です。若い分だけ営業経験が少ないメンバーもいますし、仕事が思うように進まず1人で悩んでしまうケースもあります。2人の間でしっかりコミュニケーションを取りながら情報を共有し、一緒に動いて提案したりフォローし合ったりできるような仕組みにしたかったのです。さらにSFAを通じて各チームの状況を把握し、上長や同僚がアドバイスを送っています。

チーム制の効果は表れていますか。

権藤:2023年1月より導入し始めたばかりではありますが、情報共有の活性化が案件獲得につながったケースも出始めています。

メンバーには個人としての達成目標に加え、チームとしての目標も設定されていますので「積極的にコミュニケーションを取りながら一緒に営業するほうがいい」という空気ができつつあると感じています。案件や業界の現場について情報を一番多く持っているのは営業です。ですからメンバー同士で情報や意見を交換しながら試行錯誤して仕事に取り組んでもらうと、必ず成長につながると思いますし結果も出やすくなるのではないでしょうか。チームの活動を見ていると実感しますね。

valueを共有し、全員で古い商慣習打破へ

近年は、行動指針となるvalue(バリュー)も設定されていますね?

権藤:従来、会社としての大きな方向性や考え方として、「本業を助ける金融」というビジョンや、成長したい企業が資金を有効活用するためのサポートをしたいとの思いから「挑む企業に新しい保証を」とのスローガンを掲げていました。

ただ、このビジョンやスローガンを、社員一人一人の判断基準や行動基準に落とし込んだ指針はありませんでした。そこで、全メンバーが参加するワークショップを開き、社員と経営陣の議論の末、決めたのが「『プロ』であること」、「Always challenging(挑戦していく)」「Be positive(ポジティブに取り組む)」「Keep thinking(考え続ける)」「With respect(尊敬と思いやり)」のvalueです。

valueは、メンバーとして大切にすべき価値観を言語化したものですが、今後は、人材採用の基準としても生かそうと考えています。

valueの中でも特に大切にされている考え方はありますか。

権藤:「『プロ』であること」、そして「ポジティブに取り組む」でしょうか。 当社は敷金減額保証のプロですが、単にサービスを売るための人材を集めた会社とは考えていません。自分たちのサービスを使ったら顧客に何が起きるか、何を起こしたいかを提案できる人材を目指すべきであると思っています。

2011年にサービスを提供し始めた時は「こんなサービスにニーズなんてないだろう」との声しか聞こえてきませんでした。前例のないサービスですから自分たちが価値を伝えないといけないし、「前例がないからチャレンジしましょう」と促さないと世の中に広まりません。主体的に社会を動かす存在になることからプロという表現を使っています。

商習慣に限らず、慣習の歴史が長ければ長いほど、その本質がどうであれ、慣習を変えていくこと自体が大変難しくなります。だから失敗しても落ち込まず、ポジティブに取り組み続ける姿勢を重視したいですし、互いにチャレンジを褒め合えるカルチャーが大事だなと思いますね。

古い慣習を変えていくために、会社としての取り組み方や仕掛けのようなものはあるんですか。

権藤:具体的な仕掛けみたいなものはないかもしれないです(笑)。一つ言えるのは、代表もマネジメントレベルのメンバーも、当社の提供するサービスの価値を確信して仕事をしていますし、「浸透すれば社会を変えられるよね」と本気で思うメンバーが集まって組織ができあがっているからこそかもしれませんね。

営業も同じです。サービスについて否定的な意見を言われる場面もまだありますが、いいものを広めたいとの思いで頑張ってくれたからこそ、ここ2〜3年は業績が大きく伸びてきていると思います。

人材面でいえば、会社と合わなかったり営業で厳しい思いをしたりして辞めてしまう人がいるのも事実です。ただ、目標や価値観を共有できれば乗り越えられることもあるでしょう。valueはその軸になります。1人で古い制度に立ち向かうのではなく、valueのもとでみんなが一緒に頑張る姿勢を前面に出したいと考えています。

valueは評価制度にも活用されていますか。

権藤:valueの浸透や実行を推奨するため人事評価にvalue項目を新設したほか、valueを体現したメンバーを月毎と年間で表彰する取り組みもしています。営業活動や社内向けの施策でも何でもいいのですが、上長が「すごくvalueに沿った行動だったから、ぜひ共有しよう」としてノミネートされる場合もあるし、メンバーによる自薦・他薦もあります。

評価基準に限らず、評価方法もここ1年で変化しています。これまでにないサービスを打ち出している会社なので、単に実績だけで評価されたらメンバーもしんどいはず。そこで過程もしっかり見るようにしました。

例えば、売り上げにはつながっていなくても、新たな利益につながる実績や取り組みができれば、その時点で成果として評価します。valueに沿った採用もしていますし、評価システム全体が徐々に良い方向に進んでいると思いますね。

日本企業や社会を変える人材輩出を目指す

会社としてこの先、どんな組織を目指していくのでしょうか。

権藤:ビジネスとしては保証サービスだけではなく、不動産や金融の知見をベースに、多方面の支援サービスを展開したいと考えています。

組織としては、やりがいがある楽しい環境を作りたいと強く思います。小さな会社ではありますが、産休や育休を取得して職場復帰に復帰したメンバーもいますし、これからも物理的に働きやすい環境は意識して整備していこうと考えています。

前例のないビジネスに取り組む中で、働くメンバーにも常識を覆すような挑戦ができる人材になってほしい、そのために御社が土壌になるとのお考えはあるでしょうか。

権藤:当社のサービスは、特に多くのスタートアップ企業やベンチャー企業で使われています。事業成長のために資金を効率的に使いたいと考えているからですね。私たちは社会を変えていきたいとの思いを抱いていますが、スタートアップ企業も同じでしょう。社会を変えるビジョンを持って事業を起こした経営者がたくさんいらっしゃいます。同じ志向を持った企業や経営者と一緒に仕事が出来る環境は、そんなに多くありません。とても貴重な経験になります。さまざまな企業と関わりながら仕事をしていく中で、メンバーが実現したい新しいビジョンを持つこともあるでしょう。

代表がよく言います。「ずっと会社にい続ける必要はない」と。メンバーそれぞれにやりたいことや人生の目標があり、それが会社の方向性と合っているから一緒に働けるわけです。しかし10年後、20年後に方向性が違ってくれば当社を離れて別の業界や会社に移ってもいいですし、独立してもいいのです。当社がバックアップするスタイルでもいいですし。しかも当社は目に見えないサービスを売るビジネスを展開していますので、営業力が身につくと思うのです。営業力はあらゆる業種や会社で必要とされますよね。

新しいものに挑戦するマインドは組織としても大事ですし、挑戦するメンバーを後押しできるようにしたいと考えています。

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