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「ともにしあわせになるしあわせ」を体現したDX 財務部門の帳票送付作業をデジタル化し、コストと労力を削減

取材日:2024/06/12

大手通信販売会社の株式会社フェリシモの財務部では、かつて仕入先への膨大な帳票送付を手作業で行っていました。DXの議論が後回しになりがちな間接部門において、フェリシモが大切にする「ともにしあわせになるしあわせ」の考えのもと どのように業務改革に取り組んだのか、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 天谷浩人さん

    天谷浩人さん

    株式会社フェリシモ

    財務部部長

この事例のポイント

  1. 帳票送付の自動化で郵送コストと人件費を大幅減
  2. 仕入先と協力しながらの効果検証で、スムーズな導入を達成

毎月600社への帳票送付が、コストと業務を圧迫していた

財務部の業務内容や、今回どのような業務改革に取り組んだのかを教えてください。

天谷:当社は、ファッションや雑貨、手作りキットの定期便事業を展開している会社です。そのなかで財務部では、社内の収支管理や、商品の仕入先様への帳票作成・送付などの業務を担当しています。

そのなかでも、仕入先様への帳票送付のデジタル化に取り組みました。

当社では、1か月ごとに各仕入先様からの納品実績をまとめ、こちらから受領書兼請求書を送付しています。以前は帳票送付をすべて郵送で行なっていましたが、現在は電子データでお送りしています。

帳票送付のデジタル化に取り組んだ背景を教えてください。

天谷:当社の仕入先様は多岐にわたり、毎月約600社に対する帳票送付が発生します。手作業で帳票分別や封入・封緘を行なっていた際は、作業完了までに丸2日ほどかかっていました。

帳票送付作業は月初に行うのですが、ただでさえ忙しい時期に人手を割かなければならないことは、部署全体としての負担増大にもつながっていました。

また、毎月の郵送にかかる切手代は約5万円、封筒・印刷代は 約5万円と、かなりのコストが発生していたのです。作業負担とコストの課題から、前々から業務改善の必要性は検討していました。

本格的にDXに取り組むことになったきっかけは、新型コロナウイルスの到来です。外出規制により在宅勤務への移行が求められるなか、財務部では帳票送付作業を行うために出社せざるを得ませんでした。

郵送したとしても、先方の担当者が在宅勤務をしていたならば、受け取りに時間がかかります。先方から帳票の確認と返送をしてもらわなれば、当社としても代金の支払いを行うことはできないので、取引を正しくスムーズに行うためにも、帳票送付をデジタル化する必要がありました。

利益を生まない間接部門へのDX投資はやむなく後回しに

コロナ禍前から、帳票送付作業に対する課題を認識されていたのにも関わらず、なかなかデジタル化が進まなかったのはなぜでしょうか?

天谷:私たち財務部は、直接的な利益は生まない間接部門です。社内では、商品の売上向上に向けた議論は積極的に行われるものの、業務改善についての話し合いは、やむなく後回しになっていたのが実情です。

社会的に電子帳票化の動きも進み始めていましたが、義務ではありませんでしたし、間接部門の業務改善に投資するメリットも十分には理解できていませんでした。

コロナ禍前から業務のデジタル化に向けたツールの導入には取り組んでいたものの、DXの実行を推し進めた直接のきっかけは、それまで使用していたツールの保守が切れてツールを切り替えざるを得ないという事情によるものでした。

仕入先目線でのツール運用で、双方の負担を軽減

帳票送付業務のデジタル化には、どのような手順で取り組んだのでしょうか?

天谷:まずは推進チームを結成し、業務の棚卸やツールの選定、効果検証を進めました。

この際、財務部だけではなく、同じく帳票送付の作業に悩んでいたIT部と共にプロジェクトを進めました。ツール導入のコストメリットを享受するためには、財務部単体よりも、他の部署を巻き込んだほうが効果的だと考えたためです。

ツールの導入にあたっては、ベンダーとのやり取りはIT部、効果検証や仕入先様への説明は財務部、というように、役割を分担しながら運用体制を整備しました。IT部の協力のおかげもあり、ツール選定から約3か月後には、運用を開始しました。

今回導入したのはどのような機能を持つツールでしょうか?

天谷:帳票送付に関する一連の作業が、効率化・自動化されるツールです。元々使用していた会計ソフトからの全仕入先分の帳票データを一括でダウンロードし、ツールにアップロードするだけ。あとはツールが自動で仕入先様ごとに帳票を仕分けし、メールで送付してくれます。作業時間としては10分もかかりません。

ツールを選定する際の基準は?

天谷:当社と仕入先様の双方で、データのアップロードやメッセージのやり取りができるツールを探していました。

こちらから請求書をお送りした後、仕入先様に社判の押印や内容修正などをしていただき、請求書を返送してもらうという手順を踏んでいたため、一方的な送付しかできないツールでは、当社だけでなく仕入先様の負担軽減も含めた「双方のメリット」につながらないと考えたためです。なお、現在は請求書送付から支払いまでの工程をさらに簡略化させています。

また、仕入先様の担当者がITに慣れているとは限らないので、誰でも使いやすいツールであることを重視しました。

手作業での帳票送付をなくし、年間120万円のコスト削減!

デジタル化を行なった効果はいかがですか?

天谷:まずは、月約10万円の郵送コストを削減できました。加えて、作業工程が減り、従業員の負担も大幅に軽減。帳票送付のために発生していた残業時間や休日出勤もなくなり、働き方の改善や人件費削減が叶いました。手の空いた時間で、より高度な業務を任せられるようになり、部署としての生産性も向上したと感じています。

当初は3年ほどでツール導入のコストを回収できれば上出来だと考えていました。しかし、実際には1年ほどでの回収に成功。ツール導入に対する投資効果は大きいですね。

導入効果は、会社や部署内からも評価されています。

運用にあたり、社内外で混乱はありませんでしたか?

天谷:社内では大きな問題はありませんでした。

仕入先様に関しては、本格導入の前に何社かにご協力をいただいてテスト運用をし、リアルな意見を参考にしながら実装を進めていました。各社へツール導入のご案内や作業マニュアルもお送りしていたため、ほとんどの仕入先様で問題なく導入していただくことができました。

ただ、切り替え当初は、「郵送のままがいい」という仕入先様も30~40社ほどあり、その分については従来通り郵送でお送りしなければなりませんでした。

そこで、電子データでの帳票送付に加えて、郵送代行サービスの利用を追加。現在、財務部では手作業での帳票送付を一切行わずに済んでいます。

物流部門にも展開し、さらに毎月40万円のコストダウンに成功

現在は財務部門だけでなく、物流部門でも帳票送付作業のデジタル化が行われているそうですね。

天谷:物流部門への展開は、財務部にツールを導入した当初から視野に入れていました。というのも、物流部門は、財務部門よりも扱う帳票の種類がはるかに多い部門です。納品受領書のほか、返品伝票や納品時のケースラベルシール、バーコードシール帳票など、約50種類の帳票を扱い、すべて郵送やFAXで送付していました。

コスト削減のメリットも財務部より大きいことが分かっていましたが、いきなり大がかりなデジタル移行を行っては、現場の混乱が大きくなることが予想されます。そのため、まずは先行事例として帳票の種類が少ない財務で運用に慣れてから、物流部門へ展開しました。

物流部門での効果はいかがでしたか?

天谷:以前までの物流部門の帳票封入・封緘作業は、二人体制で毎日半日かけて対応していました。デジタル化により、この作業工程を丸々削減できたことは大きな成果です。郵送にかかるコストも月40万円ほどダウンしました。

データ配信に切り替えたことで、発注から納品までのリードタイムがなくなり、仕入先様からも好評です。

帳票送付作業のほかにも電子化を進めている業務はありますか?

天谷:紙ベースで承認を行っていた立替精算の電子承認化や、インボイス制度に伴い請求書支払書類の電子化なども進めています。

これまで財務部では、出社しなければ仕事ができないことが当たり前でしたが、その状況を打開するため、できることから少しずつデジタルに切り替えています。

間接部門への投資メリットを、情熱を持って発信

御社では混乱なくスムーズにDXを進められている印象を受けます。DX成功の秘訣はありますか?

天谷:DXを行うと、社内だけでなくお取引様にも影響が生じます。自社だけで一方的に進めるのではなく、取引先の声も聞きながら共に導入検証を行ったことで、大きな混乱なく運用することができました。

また、当社の社風も、成功要因のひとつかもしれません。当社では「パッションドリブン」という考え方の下、直接部門も間接部門も、年齢や役職も関係なく、一人ひとりが情熱を持って業務に取り組んでいます。一社員も遠慮なく声を発することができますし、新しい取り組みに前向きなため会社や仲間からの抵抗感もありません。協力が得られやすい土台が整っていたと感じています。

多くの企業において、間接部門の業務改革が進まないことが課題となっています。そのような企業に対し、DXを進めるうえでのアドバイスはありますか?

天谷:間接部門は直接的に利益を生む部門ではありませんので、間接部門の投資が後回しになる企業も多いのかもしれません。

当社でも、間接部門・直接部門に関わらず、設備やシステムをただ入れ替えるだけ、更新するだけでは、投資の了承を得るのはなかなか難しいです。

「投資」には、相応の「メリット」が求められるものであり、社内からの理解を得るためには、まずは間接部門に業務改善ツールを導入するメリットを分析・検証することが不可欠でしょう。当社がDXを進めるにあたっても、取引先も含めて不便が生じないことと、業務改革によって業務コストや人件費が削減されるなどの会社にとっての投資メリットがあるかを慎重に検討し、経営層へ必要性を発信したことで実現しました。

また、「DXすること」が目的にならないよう注意しなければなりません。自社の課題を明確化しないまま、「DXが流行っているから」という理由で何となく取り組んでしまうと、かえって不便になってしまったり、コストがかさんだりしてしまう恐れがあります。

当社がDXを進めたのも、「DXに取り組みたいから」ではなく、業務時間やコストを削減したかったから。ツールの導入はあくまでもそのための手段です。

DXツールを活用しながら全業務のデジタル化を目指す

現在の課題や今後の目標を教えてください。

天谷:お取引先様や他部署と連携したDXは進んでいるものの、財務部内ではまだまだ紙ベースでの作業が残っている状況です。

当社は「月に1回ランダムで商品が届く」という通信販売業のなかでも特殊なビジネスモデルを展開しており、当社のニーズを網羅できるツールがなかなかないという実情もあります。しかしながら、今後は全ての業務をデジタル化していきたいと思っています。

これから期待しているのは、Peppol(ペポル)の活用です。Peppolは、電子データをネットワーク上でやり取りするための標準規格であり、日本においてもPeppolに準拠した日本標準仕様の確立が進められています。Peppolが導入されることで、仕入先様の会計システムに関係なく、電子文書のやり取りが可能になります。伝票入力作業はなくなり、紙の請求書はもちろん、PDFデータも不要になるでしょう。

当社が大切にする「ともにしあわせになるしあわせ」のコアバリューは、自分たちだけの利便性だけでなく、お取引先様やお客様の幸せを追及することを意味します。これからもDXを通じ、経営にも影響を与えられる改善を思考する時間を増せるよう、また間接部門である私たちからも皆が幸せになる社会づくりに取り組んでいきたいです。

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