組織全体を巻き込み取り組む女性活躍推進 コンサル会社が進める能力を発揮できる職場づくり

取材日:2023/04/10

コンサルティング会社である株式会社船井総合研究所は、女性社員の増加に合わせてジェンダーレスに活躍できる職場づくりに注力すると同時にデジタルツールの活用で業務効率化も推進。この取り組みを伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 橋本吉弘さん

    橋本吉弘さん

    株式会社船井総合研究所

    DX開発推進室/ディレクター

  • 御堂河内薫さん

    御堂河内薫さん

    株式会社船井総合研究所

    DX開発推進室/エキスパート

  • 中嶋のど佳さん

    中嶋のど佳さん

    株式会社船井総合研究所

    エンプロイーサクセス本部/タレントディベロップメント室/チーフプロフェッショナル

この事例のポイント

  1. ロールモデルとなる女性社員との接点が明確なキャリアパスに
  2. 男性にも「当事者意識」で、女性の働き方への理解を促進
  3. デジタルツール導入はトップダウンで行いスピード感を重視

女性社員同士の交流の場「キャリなびCAFE」を開催

御社が女性の活躍推進に力を入れ始めたきっかけを教えてください。

中嶋:当社では、2016年ごろに働き方の見直しが行われ、残業も大幅に削減するなど誰もが働きやすい環境に一気に変化したという経緯があります。そのような背景もあって、自然と女性社員の数も増えていきました。

ただ、女性社員の比率は増えたものの、当時は、キャリアパスのロールモデルとなる女性社員が少なかったため、ライフイベントへの向き合い方や昇進について女性社員が悩むケースが見受けられたのです。そこで、ダイバーシティ経営を進めるうえで問題視した経営陣から、私に女性活躍推進を担当するよう声がかかったのが2019年でした。

中嶋さんご自身も課題を感じる面はありましたか?

中嶋:当時、私は入社3年目でした。私自身も今後のライフステージの変化と仕事の両立に不安を抱えていた時期だったこともあり、引き受けることを決め、女性活躍推進プロジェクト「LadyGOプロジェクト」を立ち上げました。当初は私一人で始めましたが、現在は私の他にも仲間が増え、複数名で活動しています。

最初に着手したことは何ですか?

中嶋:「キャリなびCAFE」の新設です。当時の状況として、部署によってはチーム内で女性は一人のみといったケースも珍しくはなく、縦や横のつながりも少ない状態でした。

悩みを相談できる相手がいない女性社員もいたので、交流できる場の構築は、「LadyGOプロジェクト」を開始してすぐに着手した施策です。主に、入社1年目から5年目までの女性社員の仲間づくりの機会として運用していました。

内容を教えてください。

中嶋:現在は少し形態が変わって、入社1〜2年目の女性社員を対象とし、女性の先輩社員をモデル社員として招き、キャリア形成をテーマに話をしてもらっています。

当社の場合、キャリアの積み方は個人で異なり、入社時からずっと同じ分野でコンサルタントとして働きマネジメント職を目指す人もいれば、グループ会社への転籍やコース転換をする人もいます。「キャリなびCAFE」は、年3回開催しているので、毎回異なるキャリア形成をしているモデル社員を招き、自分にとって最適なキャリアを考えるきっかけとしてもらっています。

さらに、キャリアとライフプランの立て方をワーク形式で学ぶ場を設けたり、産休や育休制度の説明も行っています。

仕事の属人化を防ぎ男性社員が育休を取得できる職場へ

現在の育休の取得状況はいかがですか?

中嶋:女性は100%ですが、2022年度の男性育休取得率は14.3%(育休目的の休暇取得も含めると21.4%)です。

対象者は28名いましたが、取得したのは4人だけでした。取得率を上げるため、2023年1月から男性社員へ育休取得の呼びかけを始めています。

男性の育休取得が進まない背景について、理由を教えてください。

中嶋:理由の一つとしては、仕事の属人化が挙げられます。「このコンサルタントに仕事を頼みたい」という顧客も多く、代替できないケースもありました。もちろんお客様との信頼関係が築けているからこそなので、ありがたい状況なのですが、組織としては様々なリスクをはらむ課題でもあります。

そのような状態を改善するため、1つの案件を2人以上で担当するダブルアサインの仕組みを取り入れつつ、部署内の情報共有化を図り、コンサルタントが安心して仕事を休める環境づくりが進んでいます。

男性の育休取得率の向上により、社内にはどんな変化がもたらされると想定していますか?

中嶋:男性にも当事者意識をより強く持ってもらえるようになると思います。

例えば、育休中は給与の代わりに育児休業給付金が支給されますが、育児休業給付金は給与額を下回ります。それを知った男性社員からは「大変だ」といった声も上がって……。やはり自分が体験して得られる気づきは多いですし、育休を自分ごととして考えてもらえるきっかけになったので、よかったと思います。

男性社員の理解促進にもつながっているのですね。

中嶋:ライフステージの変化は、女性に限ったことではありません。子育て以外にも、介護、家族や自身の病気療養などの理由から、働き方を見直さなければならないケースもあります。長く働き続けるためには、必要な時にきちんと休める職場でなければなりません。

ですから、まずはある程度計画的に休みを取りやすい、育休を入口に労働環境を整備していきたいと考えています。

ただ、誤解してもらいたくないのは、女性活躍推進は、女性を優遇するための取り組みではないという点です。ダイバーシティ経営を推進する第一歩として、喫緊の課題であった女性を対象とした施策に着手しただけであり、あくまで最終目標は、誰もが働きやすく、活躍できる職場づくりであると考えています。

女性管理職比率を増やすために管理職に働きかける

女性の管理職を増やす取り組みについてもお聞かせください。

中嶋:女性管理職を増やすための主な取り組みは2つあり、1つが「ホッとランチ」です。

これはキャリアに悩み始める入社3~5年目の女性社員と1つ等級が上の女性先輩社員と接点をつくるためのものです。管理職の候補者が管理職とランチを共にすることで、キャリアで悩んだ際に相談できるようにしています。

2022年からスタートしたため、まだ大きな変化はありませんが、参加者の中には、管理職としての働き方が明確になったことで、昇進に意欲的になれたという人も出てきていますね。

2つ目の取り組みは何ですか?

中嶋:管理職向けの研修として行っている「レディカレ」です。

組織において、異性マネジメントにおける難しさや、ライフステージの変化によるキャリアへの影響は、女性の方が大きいという傾向があることは事実だと考えています。

また、仕事への自信の度合いには「性差」があるとも言われていますよね。そういった実状を知ってもらい、女性社員を始め、広く「自分とは異なる属性」の社員のマネジメントに活かしてほしいと思い行っています。

この先、力を入れたい施策をお聞かせください。

中嶋:これまでの3年間は女性を対象とした施策を進めてきましたが、今後3年間は男性にも当事者意識を持ってもらいながらジェンダーフリーな職場づくりを推進したいです。また、外国籍の社員も増加しているので、ダイバーシティな職場づくりを通じて組織としてのパフォーマンスを上げていきたいですね。

ただ、お伝えしておきたいこととして、女性管理職比率の向上は、社会的にも求められる取り組みであり、当社でも明確な目標として掲げています。ですが、管理職への登用が誰にとっても必ずしも「理想のキャリアパス」であるとは限りません。そのため、管理職比率だけにとらわれず、多様な働き方を推奨する中で、キャリアを考えるきっかけづくりを継続できたらと考えています。

ビジネスプロセスの統一や情報の集約を目指しシステム導入へ

業務効率化に向けた御社の取り組みをお聞かせください。

橋本:顧客管理からメール配信、商談管理などの機能を備えたソフトウェア「Zoho」を導入する社内PJプロジェクト「Zoho GRIT PJ」に取り組んでいます。

目的は2つあり、1つ目は生産性の向上。2つ目は同ソフトウェアの販売促進です。当社は「業績アップコンサルタント」として約6,500社以上の顧客を抱えていますが、昨今は業績向上において顧客のデジタル化への支援が欠かせません。顧客に最適なデジタルツールを提案するにあたり、まずは社内で実際に活用し、顧客に合わせた提案ができるようにする必要がありました。そこで「Zoho」の導入を図ったのです。

生産性向上にあたっては、当時、御社ではどのような課題を抱えていましたか?

橋本:当社の顧客は業種が多岐に渡っているため、部署ごとに異なる営業手法を用いていました。そのため情報の集約やビジネスプロセスの統一が進んでいませんでした。

加えて複数のシステムを導入していたものの、売上や粗利はスプレッドシートを使っており、データを集約するにも時間がかかり、リアルタイム性に劣るという課題もありました。

いつ頃から導入の検討を始めましたか?

橋本:2020年頃です。当時使用していた既存システムとの代替が可能か等を検討し、2021年10月頃に導入を決定。その後、「Zoho GRIT」のプロジェクトを立ち上げました。

メンバーには、船井総研ホールディングスからは代表取締役社長の中谷(貴之氏)、情報システム部門やセキュリティ部門の担当者、船井総研デジタルからはシステム部門の担当者、船井総合研究所からは代表取締役社長の真貝(大介氏)、私を含めたプロジェク担当者や開発担当者が参加しました。

実は過去にも業務の効率化を目指したプロジェクトはあったのですが、なかなか社内に浸透しませんでした。これまでの反省を活かし、社長肝いりで、大規模に行うことにしたのです。

モデル部署を選定し業務プロセスに合わせてカスタマイズ

プロジェクトの進め方を教えてください。

橋本:まず業績の良い部署をモデル部署として選定。開発チームが部署で行っているセミナーや研究会の業務プロセスなどを研究し、それらの業務を行えるように当社に合った機能のカスタマイズを随時実行していきました。

御堂河内:「モデル部署」を選定し、スモールスタートで始めたのちに徐々に対象部署を増やしていきました。各部署の業務プロセスをヒアリングするなかで、統一できるプロセスがあれば統一するのも開発チームの仕事でしたね。

同時に、カスタマーサポートの役割を行うチームも立ち上げ、要望の吸い上げも行いました。部署によって業務の進め方は異なりますのでツールに求める機能も異なります。部署ごとの質問はチャットツールの「Chatwork」に窓口を開設するとともに、Googleフォームを用意し、要望を伝えやすくしました。

こうした過程を進めるなかで、当社に合わせたツールの仕様が固まってきたので、開発チームとカスタマーサポートチームを統合。日々のミーティングで現場の要望を伝えつつ開発に反映させていきました。

新たなシステムを社内に浸透させるのは難しさもあると思いますが、その点はいかがですか?

御堂河内:常に既存機能のブラッシュアップと新機能の追加を行っているので、使い勝手も含めて社内からの問い合わせは多いですね。そのため、現在では各部署にZohoマスターという役職を配置しました。彼らが各部署での導入を支援するとともに、ハブ機能を持たせ、Zohoマスターの定例会議で活用推進にあたっての課題などを話し合って、より良い進め方を模索しています。

ただ、ツール活用を推し進めた結果、売上増加などが数字で表われてくると、それまで、ツールの導入に慎重だった部署も使用に対して前向きになってきました。

システムを通じて業績好調な部署の施策を水平展開

システム導入による効果はいかがですか?

橋本:導入して1年ほどが経ちましたが、昨年対比でセミナーの集客数は1.5倍、セミナーを経由した受注額は2倍以上と、効果は出ています。

御堂河内:当社では毎週、各部署にチャットを通じてKPIの計測結果を伝えています。指標に達しなかった理由を探るにあたっても、必要なデータが常に可視化され、すぐに取り出せる状態が構築されているので、以前よりも活発に議論が行われるようになりました。

また、有益な取り組みの水平展開も進みましたね。

当社は年間1,000回以上と、非常に多くのセミナーを開催しています。そのため、日常業務に追われて、開催告知のDMやメールマガジンの送付など、開催準備のタスクが滞ってしまう、あるいは、告知の最適なタイミングを逃してしまうといった課題が発生していました。

そうしたなか、社内のとある部署では、効率的かつ正確な期日管理体制がすでに構築されていたんです。そこで同部署の管理手法を成功モデルとしてシステムに落とし込むことで、スピーディな横展開の実現につなげています。

中小企業がデジタル化をスムーズに進めるうえで、アドバイスはありますか?

橋本:システム担当者だけではなく、経営陣やマネージャー層を巻き込んだチームで推進することが大事です。当社のZoho GRITもトップダウンだからこそ、スピーディーに進められたと思っています。

今回はノーコード・ローコードのソフトウェアを導入したため、イチからシステム開発を行うのに比べて初期投資額が抑えられました。仮にイチからシステム開発を行っていたら、要件定義とチェックの繰り返しとなり、時間もかかったでしょう。進め方とコストのバランスが非常に重要なのではないでしょうか。

今後の展望を教えてください

橋本:今後は持続的に業績を上げつつ会社を成長させていくために、さらにデジタルの活用に力を入れたいと考えています。今後は、AIやビッグデータの活用などにも取り組み、お客様の業績向上に寄与するだけではなく、当社としても新たなビジネスチャンスの創出を見据えて取り組んでいきます。

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