「自己決定」を鍵にしたワークスタイル改革 「自分の意思で決める」ことが社員の幸福感を生む

取材日:2023/03/01

最先端テクノロジーとWebマーケティングの豊富な知見によりデジタルビジネス支援を手掛ける株式会社ギャプライズは、2020年にワークスタイル改革を実行。前向きに変化を生み出せた背景には、組織が一体となり、現状に甘んじず改善に取り組んできた歴史がありました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 鈴木隆司さん

    鈴木隆司さん

    株式会社ギャプライズ

    共同創業者/広報ブランディング統括責任者

この事例のポイント

  1. 自信創出と働く幸せ実感につながる、「自己決定」文化
  2. 社員それぞれのベストパフォーマンスにこだわった働き方改革
  3. 能動的な行動を賞賛・評価する制度で自己決定と主体性を促進

「自己決定」をキーワードにワークスタイル改革を実行

新型コロナウイルス感染症の流行により、御社の働き方は変わりましたか?

鈴木:大きく変わりました。以前から環境に依存しない働き方をつくりたいと考えていたところに、緊急事態宣言が発令され、感染症対策の一環としてリモートワークを導入することに。これまでの出社を前提とした制度が崩れたのを機に、ワークスタイル改革を一気に進めることとなりました。そこで改革のキーワードに選んだのが、「自己決定」です。

キーワードに「自己決定」を選んだ理由を教えてください。

鈴木:リモートワークの導入などにより、当社のメンバーは働く時間と場所の選択肢を自らの手に取り戻しました。その選択肢を行使するには、当然自分で判断し決定していかなければなりません。もちろん、自己決定には責任が伴いますし、自分で責任を負う覚悟も求められます。

しかし、自己決定は、仕事に対してオーナーシップを持つための第一歩だと考えています。オーナーシップを持って仕事に取り組むと、「他者への貢献」「信頼がベースにある人間関係の構築」「自分への自信」が、自然と付いてくるようになる。これは他者に依存しながら仕事をしていては、得難いものであり、働く幸せを実感する要素でもあります。

自己決定自体にも幸福度との相関関係があると言われていますが、オーナーシップを持って働くことも幸福感や自己実現とのつながりがあると思います。

社員の「自己決定」を促すための取り組みや心がけなどはありますか?

鈴木:上司に監視されながら働く環境では、パフォーマンスは上がりませんし、常に指示を待つようになってしまうでしょう。抽象的ですが、それは「ギャプライズらしくない」んです。

だからこそ、「メンバーを信じ、仕事を任せる」体制を作らなければなりません。メンバー自身が仕事に責任を持てる環境の中で、いつでも相談できる関係性と、相談できる場があるのが理想です。そのためのコミュニケーション不足にはならないよう心がけています。

目指すはベストパフォーマンスが発揮できる働き方

ワークスタイル改革は、具体的にどのように進めましたか?

鈴木:まずバックオフィス部門でワークスタイル改革プロジェクトを立ち上げました。

そこから役員を交えて改革の根本的な目標となる5つの考え方を決定し、その軸に基づいて、「働き方」「物理的環境」「コミュニケーション」「業務体制」の4つのカテゴリーで2020年5月から段階的に取り組みました。

「5つの考え方」とは具体的にどのようなものですか?

鈴木:「労働時間や場所ではなく最適な環境で成果を出すことが重要」「正しい成果は正しいプロセスと規律から生まれる」「労働時間や場所は上長及びチームの合意をもとに従業員自身で決める」「物理的なオフィスが無くても完全に業務が回る会社にする」「コミュニケーション量は減らずむしろ増やす、リアルのコミュニケーションの機会は定期的に設ける」の5つです。

その上で、ベストパフォーマンスが発揮できる環境やBCPなどの観点も目的として見据えつつ、具体的な施策へと落とし込んでいきました。

新しいワークスタイルを、社員はどのように受け止めましたか?

鈴木:ありがたいことに、ポジティブに受け止めてくれましたね。

当社はイスラエルのスタートアップを中心とした海外企業のテクノロジーソリューションを日本の市場と顧客に提供する事業を展開しています。日々革新されるテクノロジーを取り扱う事業特性から、新規施策を進めやすい企業風土が醸成され、メンバーが常に挑戦に前向きなことが功を奏した部分もあると思います。

たとえば、テレワークを導入した際に、勤務環境整備手当を支給したのですが、チャット上で購入してよかったモノをシェアするコミュニケーションが自然に生まれ、その情報をわかりやすくまとめる人も出てきました。

よりよい環境づくりを自主的に実践してくれた結果だと思います。

働く場所や時間の選択を社員に委ねたわけですが、生産性に影響はありましたか?

鈴木:アンケートをとったところ、個人としての生産性は下がってはいないものの、チームとしての生産性は上がっていないと感じる人もいました。その部分は、基本的には事業部単位での自主的な改善を促しつつ、ブラッシュアップを図りました。

テレワーク導入に合わせ接触回数を増やそうと試行錯誤

テレワークを導入するにあたって、工夫をされた点はありますか?

鈴木:最初は、部署ごとで常に「Zoom」をつなげている状態にするなど、メンバー間の接触回数を増やす取り組みをしました。

導入時こそ拒否反応もありましたが、いざやってみたところ、声をかけやすくなったという好意的な反応が多かったです。

ただ、カスタマーサクセスやセールスなどの部署は、取引先とのミーティングも多く、常に接続しているわけにはいきません。常時接続でなくても業務が円滑に回るとわかったこともあり、現在は体制を変更しました。

他には工夫した点はありますか?

鈴木:以前から週に1回1on1ミーティングを行っていました。その回数を増やすように事業部長には伝え、積極的にコミュニケーションをとってもらうようにしました。

取引先とのやりとりに関してはいかがですか?

鈴木:コロナ禍で、商談や打ち合わせは、ほぼすべてオンライン実施に変更されました。

時間の融通がつきやすく、対面よりも打ち合わせの回数を増やせるなど、多くのメリットを感じています。オンラインでのつながりでも、コミュニケーション次第で十分に信頼関係は深められるとわかりましたね。

「横軸ランチ」で部署や立場を超えた交流を活性化

社員同士のコミュニケーションにも注力されていますが、具体的な施策はありますか?

鈴木:横軸ランチ制度を2017年から行っています。当社にはいろいろな世代のメンバーがおり、雇用形態もフルタイム、時短勤務、アルバイトとさまざまです。

どうしても部署や立場で、交流するメンバーの偏りが発生してしまい、仕組みをつくらなければ横のつながりをつくるのは難しいと考えて、この制度をつくりました。

横のつながりをつくる必要性について、どのように考えていますか?

鈴木:仕事の中には、相談したり一言声をかけたりするだけでスムーズに進むものもあります。

しかし、相手の人となりがわからないために声をかけられず、機会損失をしていると感じる場面がありました。一度でも一緒に食事をすれば、相手に対して親近感が湧きます。食事中は仕事の話ではなく、好きな音楽や漫画の話でも構わないので話してもらい、広がりをつくってほしいと思いました。

どんなメンバーで食事をするのでしょうか。

鈴木:部署も立場も勤務形態も違うメンバーが4~6人で食事に行きます。会社からの補助は、1回につき1,000円。3ヶ月に1回メンバーチェンジをするようにしています。

ランチメンバーの構成は、横軸リーダーになった人が、同じようなメンバーで偏ることがないよう調整しています。

開催効果はいかがでしたか?

鈴木:いろいろな効果がありました。たとえば、一緒に食事をしたことで他チームのリーダーに相談しやすくなったというメンバーもいますし、質問をきっかけにリーダーが課題に気づくことができ、そこから勉強会を開催するようにもなりました。

別案件の担当者同士が相談し、ナレッジを共有し合うことで、相乗効果が生まれることもあります。

もちろん、純粋に「1000円の補助」をうまく活用して、ちょっと豪華なランチを純粋に楽しんでいるメンバーもいますし、横のつながりから、バーベキューや釣りなどのプライベートの交流を楽しむメンバーもいるなど様々です。

コロナ禍によって、横軸ランチの開催方法に変更はありましたか?

鈴木:オンラインでの開催になりました。

自宅からのオンライン参加ならではの利点もあり、ランチ会に限らず、仕事が終わった後、夜に軽くお酒を飲みながらコミュニケーションを取っているチームもあります。なので、事前に昼と夜のどちらの会に参加したいかをアンケートをとり、それを元にグループを編成するようになりました。

ある時は、Googleストリートビューを使って自分の地元を紹介する試みもしました。学校や通学路、よく通ったお店や友達とケンカした場所などのエピソードを披露し、盛り上がりましたね(笑)。

バリューを実現したメンバーをMVPとして表彰

そのほか、新たな取り組みなどはありますか?

鈴木:月に1回開催しているロング昼礼の場で、取引先に聞いた「コロナ禍で当社を選んだ理由」を発表するようにしました。

取引先へのコロナ禍による影響、当社を選んだ理由、競合との比較などをインタビューし、その様子を動画にまとめるというものです。

お話を聞いてみると、当社のサービスがニーズに合っていただけではなく、サポート体制やメンバーが評価され選ばれていると明らかになり、うれしかったですね。担当者のモチベーションが上がる効果もありました。

「人柄」を高く評価されていらっしゃるのですね。では、社員のみなさんが仕事において大事されている点は何ですか?

鈴木:当社は仕事の中でメンバー一人ひとりがバリューを実践することを大事にしているため、バリューを実現したメンバーをMVPとして表彰する取り組みも四半期ごとに行っています。

当社のバリューは、「リーダーorフォロワー」「昨日を超える」「変化を楽しむ」です。

これまでのMVP表彰では、事業部長が候補者を選定し、候補者によるプレゼンに対する全社的な投票を経てMVPを選出していました。

非常に盛り上がるものの、毎回候補者を選ぶのが難航しますし、投票も僅差です。そのため今後は、360度評価を参考にするなど、少し改善しようと思っています。

2023年第1Qの選出理由は、「チームをより良くしようと考え、変化を楽しみながら行動している」「常に顧客の『やりたい』を実現することを軸に考えているのが行動に出ていて、かつ成果を出している」といった評価によるMVP受賞でした。

制度の改善や新設に積極的な姿勢が感じられます。これまでもずっと改善に力を入れていらっしゃるのでしょうか。

鈴木:創業期から改善には力を入れています。

過去には、K&P(改善&パワーアップ)制度という、些細な改善提案も評価する仕組みを設けていたこともありましたし、MVP表彰もそうですが、いずれも自主的に考え、自分の意思で動くことを評価し、賞賛する制度だと思います。

このような土壌が、社員の「自己決定」を促し、ワーク・エンゲージメントを高めることにつながっているのではないでしょうか。

刺激と成長を求めて移転を決めた新オフィス

2023年2月には、本社をコミュニティ型ワークスペースであるKANDA SQUARE WeWorkに移転されました。移転のきっかけをお聞かせください。

鈴木:多くの会社と同様、当社にとってもオフィスの移転は会社の成長とリンクしており、過去4回の移転はメンバーと成長の喜びを共有する出来事でした。

当初は雑居ビルの一角にオフィスがありましたが、2019年にはオフィスビルに移転。格式を感じるビルにあるレイアウトにもこだわったオフィスは、当社が1つ上の段階に成長したことを実感できる瞬間でもあったのです。

しかし、移転から1年後に新型コロナウイルス感染症が流行し、リモートワークが中心になりました。改めてオフィスの役割について考える機会にもなり、移転を決めました。

あえてコミュニティ型ワークスペースを選んだ狙いは何ですか?

鈴木:刺激と成長をテーマにしたためです。現在は週2日出社なので、オフィスの規模はこれまでの半分で十分です。規模よりも重視したのは「行きたくなるオフィス」であることです。

KANDA SQUARE WeWorkは、コミュニティ型ワークスペースなので、自社の専有スペースで働いてもいいですし、気分転換に共有スペースで仕事することもできます。

さまざまな業種や職種の人がワークスペースを行き来し、交流イベントもあるので出会う楽しみがあります。また、WeWorkは全国各地に拠点があり、出先での隙間時間を有効に使うために神田以外の拠点を活用することもできるので、メンバーからの評判はいいですね。

今後の展望をお聞かせください。

鈴木:期せずしてコロナ禍によりオンライン化に大きく舵を切った側面はありますが、コミュニケーションの機会が減ってしまったというのも事実としてあると思います。だからこそ、意図的に増やす必要があると感じています。

四半期MVPイベントも、オンライン参加を認めることで参加率が上がったという変化がありました。今後どういった形に落ち着くのかは、試行錯誤を繰り返しつつになりますが、お互いに顔が見える機会は失わないようにしたいです。

今期のテーマは、コミュニケーションをさらに増やすためのいろいろな仕組みづくりですね。

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ビズクロ編集部
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