働き方と新卒採用の常識を覆した組織変革 スーパーフレックスやAI面接の導入で組織に多様性が誕生

取材日:2023/06/13

経営統合を機に働き方を刷新したというUSEN-NEXT GROUP。生産性向上と多様な人材の活用を両立する「Work Style Innovation」のほか、近年は新卒採用にAI面接を取り入れるなど、従来の常識を覆す取り組みに挑んでいます。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 西村壽哉さん

    西村壽哉さん

    株式会社USEN-NEXT HOLDINGS

    コーポレート統括部/人事部長

この事例のポイント

  1. 働き方を個人が自由にデザインすることで生産性アップ
  2. 新卒採用にAI面接を導入し、マッチングの可能性を拡大

自分が最も生産性を高められる働き方を、自らデザイン

働き方改革に着手した経緯を教えていただけますか?

西村:2017年12月、 USENとU-NEXTが経営統合して現在のUSEN-NEXT GROUPが発足しました。新たな出発点に立ち、グループ全体として今後どのように成長すべきか考えた際に浮かび上ったことは、「果たして今の働き方は、結果につながる最適な働き方なのか」ということでした。

以前はどのグループ会社も固定労働時間制での勤務が当たり前でした。「決まった時間に出勤し、決まった場所で働く」という働き方は、管理者にとってはマネジメントしやすい働き方です。しかしそれは昔のビジネスや生活スタイルに合わせたやり方。当時は社会的にも「ワーク・ライフ・バランス」「多様性」という言葉が注目され始めた時期でもあり、「このままの働き方で会社は成長できるのか」という疑問がありました。

成果を出せる働き方は一人ひとり異なります。そこで、自分が力を発揮できる働き方をそれぞれが自律的に考えて働いてもらおうと、当社の働き方改革施策である「Work Style Innovation」が誕生しました。

Work Style Innovationとは、どのような取り組みでしょうか?

西村:コアタイムのない「スーパーフレックスタイム制度」やテレワークを導入し、時間や場所に捉われない働き方へ移行しました。

Work Style Innovationのテーマは「かっこよく、働こう。」です。私たちにとって「かっこいい」=「成果を出すこと」。自由に時間や場所の使い方をデザインすることで、自分にとって一番成果が出る働き方を実現しています。

具体的にはどのような働き方をしているのでしょうか?

西村:スーパーフレックスタイム制度の場合は、月の所定労働時間を守っていれば、1日の労働時間は自由に調整が可能です。「午前中は子どもの用事があるから、今日の仕事は昼からにしよう」「11時に現場に直行して仕事をスタートしよう」など、生産に必要な時間に合わせた出社体制が実現できています。

また、1日の最低労働時間の定めもないため、土日祝日以外に“非稼働日”を作れるのも特徴です。たとえば、平日週5日のうち週4日は10時間働いて、1日は有給休暇を使わずに休むといった調整ができるわけです。ワークスタイルが多様化したことで、プライベートとの両立もしやすくなったと感じています。

Work Style Innovationは、どれほどの期間をかけて実行に移したのでしょうか?

西村:スピード感を意識していましたので、約半年ほどで一気に展開していきました。当社はグループ全体で約5,000人の社員がいることもあり、新たなシステムの導入及び管理は大変ですが、グループ統合のタイミングだからこそ、ダイナミックな変化の必要性を感じていたのです。従業員一人ひとりに「このグループは本当に変わっていくんだ」「これからどうなっていくんだろう」という期待感を芽生えさせたかったという意図もありましたね。

各社社長が熱量を込めて社員に想いを伝えてくれたこともあり、スピーディーな変革が実現できました。

働き方を変えてから、生産性の向上は感じられましたか?

西村:定量的な可視化は難しい面があるのですが、新型コロナウイルス禍であっても売上、利益ともに右肩上がりに成長しています。もともと成果に対してのコミットメントが強い社風だったということもありますが、働き方を変えたからといって著しく成果が落ち込むことはありませんでした。

通勤などの移動時間が減ったほか、労働時間の柔軟性が上がったことで、自宅で育児をしながらフルタイムで働けるようになるなど、「生産性が上がった」という社員からの声が多く聞こえています。

まだまだ活躍できる人材なのに「60歳だから定年」に疑問符

このほかにも働き方に関わる取り組みはありますか?

西村:たとえば、仕事以外のアクティビティ活動を支援する「Special Activity Worker制度」というものがあります。スポーツやモデル活動、そのほかさまざまな活動をしていながらも当社で働きたいという方を受け入れることで、人生設計の多様化をもたらすことができたらと思っています。

また多様な人材活用として、定年を従来の60歳から、70歳に延長しました。

定年の延長は国としても推進していますね。

西村:そうですね。これまでは60歳になったら全員一律に定年退職。もし再雇用する場合は大幅に報酬を落として契約社員として働くという形が一般的でした。しかし60歳でも、まだまだ元気に活躍できる方は多くいらっしゃいます。年齢に関わらずその人の価値を活かすことで、組織成長につながると考えました。

当社では60歳になった時点で、60歳で定年退職するか、70歳まで定年を延長するかを選べるシステムにしています。 もちろん定年を延長する際は、正社員として再雇用します。報酬や役割などはこれまでと同じ条件の方もいれば、この機会に変更となる方もいますね。

実際60歳を迎えた社員のなかで70歳定年を選択されている方は、9割以上に及んでいます。

定年を延長することによって、企業側にはどのようなメリットがあると感じていますか?

西村:近年は人材確保が難しくなってきていますので、労働力が確保できる点は大きなメリットではないでしょうか。

また若手社員に対して、ポジティブなロールモデルになっていると感じています。60歳を過ぎても生き生きと働く社員を見ることで、「意欲があれば活躍し続けられる会社なんだ」と実感できるはずです。

定年延長は、多様な人材が活躍できる会社であるというメッセージとなり、結果としてエンゲージメントの向上にもつながるのではないかと考えています。

就職活動にAIを導入し、マッチングを自由に

御社では「就活維新」として新卒採用にも力を入れているとお聞きしました。

西村:「会社選びから就職活動、マッチングはもっと自由であるべき」という思いから、「就活維新」が誕生しました。

働き方と同様に、「これまでの新卒採用活動は何か変ではないか」という違和感があったのです。全員が決められた服装、髪型を強いられ、手間のかかる書類を何枚も提出しなければならない。会社側の都合で学生が不便な思いをしているのは、どこか“いびつ”だと感じていました。

当初は「超!全力採用」と銘打ち、我々も学生もお互いに全力で採用に挑める施策を考えていました。そこから発展し、テクノロジーの力で就職活動の常識を覆そうとした取り組みが「就活維新」です。

具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか?

西村:当社では選考過程にAIを導入した、AI面接を行っています。エントリーから採用までの流れとしては、以下のようになります。

1. 名前、生年月日、メールアドレスだけでエントリーできるSimple Entryで応募
2.1分間の自己PR動画「Smart PR」を提出
3.AIインタビュー
4.社員との1on1またはグループディスカッション
5.最終面接

2〜3の過程を「AIエクスペリエンス」と呼んでいます。Smart PR、AIインタビューではAIが動画を解析し、学生の印象や能力値を数値化。結果は私たちの資料としてだけではなく、学生自身にフィードバックされますので、今後の就活活動の参考にしていただいています。

数値化される項目にはどのようなものがあるのでしょうか?

西村:Smart PRでは笑顔度や発話量、熱量などの印象が、AIインタビューでは論理的思考力や協調性など能力値が数値化されます。

「人」の主観的な目線ではなく、数値として可視化されることは、非常に参考になっています。ただし、AIの結果だけで合否の判定はしていません。あくまで参考指標のひとつとして活用しています。

「AIエクスペリエンス」のなかで特に効果を実感しているものはありますか?

西村:自己PR動画のSmart PRは大変面白いですね。スーツではないカジュアルな服装や自分の好きな場所で撮影していただく方が多く、人となりが分かりやすいです。

良い意味で面接の時と印象が違うことも多々あります。面接時間は限られているのですべてを理解するのは難しいものです。補完材料として有効活用しています。

ちなみに、学生の皆さんはどのような動画を投稿されるのでしょうか?

西村:ほとんどの場合は、これまで頑張ってきたことや、これからやりたいことをPRしていただいています。

そのほか、バスケットボールをやっている方は体育館で撮影したり、特技の歌やダンスを時間いっぱい披露したり。なかには、姿形が見えないほど遠くから熱意を叫ぶという、突飛なPRもありましたね(笑)。

皆さん自由にアピールされているんですね。

西村:ときには、自分がこれまでやってきたこととして、部活動などの過去の映像を編集した動画を投稿する方もいます。

自律的に考えてアクションを起こすというやり方は当社のカルチャーでもあります。学生一人ひとりが創意工夫ができる余地があることで、当社にマッチするかどうかが分かりやすくなったと感じています。

面接官も話すテーマも学生がカスタムして、自分らしさを発揮

AI面接の後の過程についても教えてください。

西村:AI面接の後は「Free Style セレクション」という、人と対面するフェーズに入ります。すぐに最終面接にチャレンジ、もしくは、1on1やグループディスカッションに進むか選択が可能です。学生1人当たりの最大面接回数は3回。3回1on1をやってもいいですし、1on1を1回、グループデイスカッションを1回やって最終面接に臨む、でも構いません。選択はすべて学生個人にお任せしています。

選考過程や方法を選べるとは面白いですね。

西村:選考方法だけではなく、最終面接を除いて、各1on1の面接官や当日話すテーマも選べます。面接官に関しては、事前に60〜80人の面接官プロフィールを公表し、話したい人を選んでもらっています。

面接官がどんな人か分からないと緊張してしまい、力を発揮するどころではない方は多いはずです。面接官とテーマを自由に設定することで、その人らしさを存分に発揮してほしいと思っています。

面接官や話すテーマが多様化することで、採用の軸がぶれてしまうことはありませんか?

西村:新卒採用では基本的に、カルチャーフィットを重視しています。自由に話してもらって、その人の人となり、キャラクターがちゃんと見えた方が、軸がぶれずに選考できていると実感しています。

就活維新によって、エントリー数や内定の承諾率に変化はありましたか?

西村:採用マーケットでの競争は激化していますが、就活維新の実施後は、おかげさまでエントリー数や承諾率は高水準を維持しています。他社平均と比較しても、良い状況にあるのではないかと思います。

就活維新という取り組みを通じて、当社の働き方や事業に対してもポジティブな印象を発信できていたらうれしいです。

社員が自律的に成長できる仕組みを構築していきたい

今後取り組みたいことはありますか?

西村:今は、ChatGPTをはじめとした生成系AIを活用して、さらに面白いことができないかと考えています。たとえば、企業側と求職者側とのマッチング精度を高める仕組みなど。数ある会社のなかで自分がどの企業に合うのか、自分は何がやりたいことなのかが明確に分かる人は少ないと思います。マッチングの参考情報として何か提案できる仕組みを作りたいですね

最後に、今後の展望を教えてください。

西村:キャリアやスキルを自律的に高めていけるようなカルチャーや仕組みを、より強く実装していきたいと考えています。もっと社員から活気ある意見や提案が自律的に出て、チャンスがつかめる。そして成長に対して道筋が描けて、夢を実現できる組織を目指したいですね。新しく入ってくる方々に対しても、想定以上の活躍ができる組織にすることが、これからの目標です。

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