信頼構築への施策で「働きがい」を高める デジタルマーケ会社のインナーコミュニケーション戦略

取材日:2023/02/07

デジタルマーケティング領域で成長を続ける株式会社キュービック。「働きがいのある会社」ランキングで、2022年度に6年連続ベストカンパニーに選出され、メンバー間のコミュニケーションを促進する数々の社内施策を実践してきました。その狙いや成果についてお話を伺いました。※本文内、敬称略。

お話を伺った人

  • 小笠原舞子さん

    小笠原舞子さん

    株式会社キュービック

    ピープルエクスペリエンスオフィスPR

この事例のポイント

  1. 能力×意欲の最大化による働きがい創出の仕組み
  2. 心理的安全性の確保にもつながる「FAM制度」

ヒト・ファーストを体現する、抜てき文化や情報開示

「働きがいのある会社」に6年連続でランクインされました。メンバーが働きがいを持てる環境づくりが成功していると思いますが、その要因はなんでしょうか。

小笠原:キュービックのコアバリューである「ヒト・ファースト」を会社として体現できているからではないかと思います。「ヒト・ファースト」は「ただメンバーに優しく接すること」ではありません。優しいばかりではなく、時には耳の痛いことも伝えてその人の本質と向き合い、ともに答えを出したり、ありたい姿を実現できたりするまで全力で支援することなのです。そう言った組織の風土が、会社が取り組むすべての施策につながっているという点で、「ヒト・ファースト」を評価していただいていると考えています。

人を大事にすると明言している企業は多いのですが、そのスタンスがきれいごとではなく、具体的な施策と紐づいているかが重要な点だと思います。当社は、2022年に「働きがいのある会社」若手ランキングで1位になりました。会社として若手とベテランを分けて何か特別な施策を行っているわけではありませんが、「抜てき文化」が背景にあると思っています。

これは当社代表の世一の言葉ですが、8割成功する見通しのあるプロジェクトや業務への社員の登用であれば、それは「抜てき」とは言わない、未経験の業務ないし、成功の見通しは五分五分かそれ以下、というプロジェクトを「社員の成長」を信じて任せてこそ抜てきである、と。なので、そのような考え方が文化としてあります。そして、そこに紐づくように評価もミッショングレード制、つまり成果主義ではなくて「期待値」に対する評価基準が設けられています。

よりレベルの高い仕事に取り組むことが推奨され、チャレンジしやすい環境とバックアップ体制、そして評価基準、それらが整っていることで文化が醸成され、モチベーションや働きがいの向上につながっているのではないでしょうか。

抜てき文化や評価方法以外に、働きがいのある組織を作るため会社として注力されている点はありますか。

小笠原:キャリアデベロップメントサイクル(CDC)と、情報の積極開示です。

能力と意欲を掛け算し、総量が大きくなるほど働きがいのある組織になると考えています。そこでまず能力を高める大きな取り組みがCDCです。具体的には、社員のやりたいことを目標に反映し、上司との面談などで振り返りをしながら、次につなげていきます。

一方、意欲を高める取り組みのひとつが情報の積極開示です。例えば経営会議はインターンも含めて誰でも参加でき、かつ、起案もできます。もちろんどんなアイデアでもOKになるわけではないですが、価値のあるアイデアだと経営陣から判断されたら即実行できるし、予算も割り当てられます。手を上げれば、いくらでもチャンスを掴める機会が転がっているんです。

あと「心理的安全性」を保つコミュニケーションも大事にしています。例えば仕事で壁にぶつかった時、同じチーム内のメンバーよりも他チームのメンバーへの相談の方が機能する場合があります。そこで、業務ラインが同じ人同士のつながりばかりでなく、部署を超えたつながりをつくれるように工夫しています。

つながりと安心が得られる居場所となる「FAM制度」

それがFAMというユニークな制度ですね。

小笠原:FAM(ファム)はFamily(ファミリー)の略で、部署や社歴、職種などに関係なく集まることのできる、社内における家族のようなコミュニティです。制度がつくられて初期の頃はランダムにメンバーを決めていましたが、何か共通点があるとコミュニケーションがより活発になり、つながりも強くなりやすいだろうということで、今はフットサルが好きな人、ワインが好きな人など、 一定のテーマを持った部活動のようなコミュニティへとシフトさせました。25、6人ほどの大人数のFAMもあり、活動予算も会社から支給されます。ちなみに私は「ビール部」や「ワイン部」、「釣り部」に所属していて、先日、「釣り部」でバスを貸し切り群馬県にワカサギ釣りにいきました。

FAMはメンバー同士がコミュニケーションを取ることで相互理解を深めたり、仕事で困ったことを相談してアドバイスをもらったり、仕事以外の居場所としてセーフティーネットのような機能を果たしています。組織の人数が増えていく中で、縦や横の関係だけではなく、部署を飛び越えた「ナナメの関係性」を構築する制度と言えますね。

社内メンバー10人前後から成る「FAM」は、社員の「第2の居場所」になっている。

FAMをはじめ、オフラインのつながりを大事にする一方でテレワークも導入していますね。

小笠原:そうですね。現在は「在宅勤務は週2日まで」というハイブリッド型の勤務スタイルとなっています。IT業界は変化が激しく、スピード感ある対応力が求められます。また、私たちはチームとしての価値創造にこだわっていること、そして、現在は第三創業期というフェーズにあり新規事業の創造にも注力しているところで、さまざまな新しいアイデアを歓迎していること。こうしたことを考えると、やはりオフラインのコミュニケーションが当社においては有効だと思っています。一定期間、条件を変えてパフォーマンスの違いをテストし、その結果を踏まえて現在の「在宅勤務は週2日まで」という、出社と在宅勤務のハイブリッド型に落ち着きました。

テレワーク導入に合わせて、働き方の制度や仕組みを変えた点はありますか。

小笠原:もともと月曜日の朝のみ全社員が集まってオフラインで朝会を実施していたのですが、コロナの影響で全員がフル在宅勤務をすることになったタイミングで、朝会を週5回に増やし、オンライン実施に変更しました。ハイブリッド勤務に移行した今は、週2回、月曜と金曜に実施していますね。

朝会を増やす提案は経営者側からですか。それとも社員から?

小笠原:現場と経営の両者からですね。時代に逆行するようですが、当社はもともとウェットなコミュニケーションを好む会社なんです。そうしたコミュニケーションを生み出すヒトや、そこから発展したカルチャーに魅力を感じて集まった仲間も多くいます。なので、全社員が在宅勤務になったときには、社内の「インターナルコミュニケーションチーム(IC)」が「このままではまずいことになりそうだ」と感じて、経営陣に朝会の回数を増やす提案をしました。経営陣もコミュニケーションや雑談機会が大きく減少していくことに危機感を示していたので、両者の考えが合致した形での変更でした。

社員のインサイトも探求し、人材への投資に注力

ICは社内のコミュニケーションを潤滑化するための組織ですよね。対外的なプロモーションを推し進めるためにコミュニケーション戦略を練る部署は珍しくありませんが、なぜ社内に向けた組織があるのでしょうか。

小笠原:「インサイトに挑み、ヒトにたしかな前進を。」というキュービックのミッションに向かうためですね。当社では、自分でも気づかないようなインサイト(深層心理)に近づき、その人が本当に欲しているものを届けるマーケティングを大事にしています。WEBメディアやWEB広告でもインサイトをつかんだコミュニケーション手法を考えないと、商品購入やサービス利用につながらなくなっているからです。インサイトへのアプローチが必要なのはインターネットの向こう側にいる人に対してだけではなく、実は社員に対しても同じこと。人の成長を促すためには、相手の事をわかったつもりになるのではなく、「この人が求めているものは何か」を深掘りするコミュニケーションが重要ですし、社内であっても情報共有を徹底するには「伝わっているであろう」というコミュニケーションは排除していく必要があると考えています。

ICチームの他、「タレントマネジメント」というメンバーの育成・成長を考えるチームもありますが、人材に投資することは創業時からかなり力を入れており、個人の生産性を上げる取り組みにつながっています。

いまは転職が当たり前の時代ですので、会社のために社員が存在しているというよりは、社員は自身のビジネスパーソンとしてのキャリアアップやスキルを磨くため会社に所属していると考えられるのではないでしょうか。そう言った意味でも、会社は理念やビジョンを共有するパートナーとして、社員の能力開発に注力するのはもちろん、現代の生き方をサポートすべく投資しているとも言えます。

300人規模の会社ながら、学生インターンを100人も採っているそうですね。これも人への投資の一環ですか。

小笠原:日本の新卒採用市場は、一括採用で一斉に始めて決まったらおしまい。4月になったらすぐ社会人ですよ、という形が一般的です。これでは学生と企業の間でミスマッチが起こりやすくなりますよね。そこで長期のインターンによってミスマッチを防ぐとともに、早い段階から能力開発できたらと考えて一緒に働いています。

実際、みなさん優秀で、適切なミッションと正しいフィードバックを与えられることでどんどんと成長していきます。もちろんインターンを経て当社に入社してくれたらうれしいのですが、入社につなげるという視点だけで考えているのではなく、キュービックで自身の能力を開発して社会を大きく前進させてほしいとの思いを込めています。そのほかにも会社として、将来世代の視点を取り込んでビジネスに生かせるメリットがあります。

インターンを終えて大手企業に入社した学生が、「もっと裁量を持って働きたい」と、数年後に戻ってきてくれるケースもあり、当社の働きがいを重視する文化がそういった結果につながったのかな?と思うとうれしくなりますね。

内省に振り切った一日「コアデー」により、課題発見力を養う

これらの施策は、実際に組織の成長につながっているのでしょうか。

小笠原:50人ほどの組織のころは、目的や意図が明確に言語化されなくても、経営陣と社員の阿吽の呼吸的なコミュニケーションが成立します。ところが組織が拡大してさまざまな考えを持った人が増えると、仲間同士のコミュニケーションがスムーズにはいかなくなりますし、全員の見ている方向にもズレが生じてきます。ですから、はじめにお話した情報の積極開示や、誰でも参加できる経営会議の取り組みが大事になります。

このほか、月に1度全社員が参加するマンスリーセッション、四半期ごとのクオータリーセッションで業績や施策の進捗状況、会社の課題などを共有しています。これにより社内コミュニケーションが深まり、会社と社員の信頼関係も強固になって、組織の成長につながっていると思います。

メンバーみんなが働きやすい職場になるために、会社として考えていることは何でしょうか。

小笠原:働きやすい職場と、働きがいのある職場はイコールではないと考えています。働きやすい職場と聞くと、少し楽なイメージが浮かぶのではないでしょうか。一方、働きがいのある職場は、大変なこともあるけれど、この会社で働くという意志にもとづいてスキルや意欲を高められる場所ではないかと思います。

能力が磨かれたりモチベーションが醸成されたりする機会は、日々の仕事の中で生まれてくるものです。もちろん必要な研修や、新入社員に1人以上のフォロー社員が3カ月伴走するオンボーディングなどを手厚くやってはいますが、自分自身で課題を見つけられる機会こそ大事にしなければなりません。このため毎月1回約2時間、「コアデー」というイベントを実施しています。どんなに忙しくても通常業務を止めて、1カ月間の仕事で良かった点と、次への課題を内省し、そのあとチームのメンバーからフィードバックしてもらいます。これにより次の1カ月にやるべきことが明確になります。 私たちは働きやすい会社であった上で、社員一人一人が自分のキャリアや意欲と会社を結び付けて成長できる、そんな働きがいのある組織であり続けたいと考えます。

次に読みたいおすすめ事例

ビズクロ編集部
「ビズクロ」は、経営改善を実現する総合支援メディアです。ユーザーの皆さまにとって有意義なビジネスの情報やコンテンツの発信を継続的におこなっていきます。