「働き方改革」で社員と求職者から選ばれる会社へ 創業100年を迎える老舗酒類メーカーの働き方改革

取材日:2022/12/21

全国的に有名なしそ焼酎「鍛高譚(たんたかたん)」をはじめ、酒類事業を主力とする総合酒類メーカーのオエノンホールディングス。2024年に創業100周年を迎えるにあたり、熱心に取り組み続ける「働き方改革」を通じてどのように社内が変化していったのかお話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 和泉 亨さん

    和泉 亨さん

    オエノングループ 合同酒精

    人事グループ/グループマネージャー

  • 守屋 美穂さん

    守屋 美穂さん

    オエノングループ 合同酒精

    人事グループ/リーダー

  • 入江 大介さん

    入江 大介さん

    オエノンホールディングス

    コーポレートコミュニケーション室/リーダー

この事例のポイント

  1. 16時半退社やフレックス制度でワークライフを充実
  2. 最大10日の特別休暇が業務の属人化を解消
  3. 「助勤制度」で各工場間の人手を柔軟に最適化

「社員を大切に」の想いから始まったワークライフバランス

2008年に経営方針として「ワークライフバランス」を掲げたきっかけを教えてください。

和泉:企業ですから、当然「生産性を向上させたい」という目標もありますが、それ以上に「社員を大切にしたい」という社長の強い想いがきっかけでした。そのため、当時はトップダウンで経営方針に「ワークライフバランスの促進」を盛り込みました。そして、2009年にはワークライフバランスの2大テーマとなる「年次有給休暇取得推進」と「所定外労働時間の削減」を、部下の指導・育成のほか、経営的な観点から所管の組織を統括し、組織目標の達成を目指すライン経営職の業績目標管理の項目に追加して取り組みをスタートしました。

「働き方改革」は生産性向上とどのように結びつくとお考えでしたか?

和泉:今までの働き方では有給休暇の取得や時間外労働の削減を達成できないので、社員が本当に必要な仕事に集中できているか、ムダな作業をしていないかを見直す必要がありました。例えば週1日の休暇を増やそうと思えば、週5日かかっていた仕事を効率化して週4日で完了しなければなりません。そうして生まれた余暇を活用し、自己啓発に取り組む時間や、家族と過ごす時間を増やすことで社員の生活が潤うと考えています。

取り組みの前後で時間外労働の削減や有給休暇の取得はどれほど改善しましたか?

和泉:2021年時点で、2008年と比べて時間外労働は65%の削減、有給休暇の取得は66%の増加を達成しました。

個々に違うライフスタイルに寄り添う改革の推進

「働き方改革」の推進において社内からの反発はありましたか?

和泉:会社の方針として定めていますので、全体的に取り組みは順調に進みました。ただ就業時間を従来の9時〜17時半から8時〜16時半に変更する際は、社内からの反対が多かったです。例えば、毎朝保育園に子供を預けている社員や遠方に住んでいる社員から、始業時刻に間に合わないかもしれないという意見が多々ありました。それらの問題については、時短勤務やフレックス勤務などを組み合わせることで個々のケースに対応しています。新たな取り組みの場合、社員によって色々な考えがあるかもしれません。ただワークライフバランスの実現は労使共通の願いですので、長い年月をかけて会社の方針が浸透したと思います。

入江:終業時間が16時半になり、私自身「空が明るいうちに帰る」ことに初めは戸惑いました。ただ、早い退社時間は、実際、プライベートの充実につながりましたし、それを続けるために、より業務の効率化を自ら考えるようにもなりました。朝8時の始業は、慣れてしまえば、9時までの1時間を特に業務に集中できる時間として有効活用できるようになっています。

和泉:就業時間の変更のほか、2011年のノー残業デー導入や年一回、2日間連続(現在は3日間)の有給休暇取得を必須とするなど、かたちから入ったことが良い結果につながりました。「休むためにはどうしよう?」と、社員自ら仕事の進め方を見直すきっかけになったと思います。

コロナ禍での在宅勤務についてはどのように対応されていますでしょうか?

和泉:当社では、コロナ禍以前の2017年から在宅勤務制度の試験導入を始め、コロナ禍でのテレワークのニーズの高まりに応えるべく2020年から本格運用に切り替えました。試験導入の中で起こりうる問題を一つずつ解消してきたので、コロナ禍でもあわてることなくスムーズに対応することができました。今では、工場勤務の方を除くほとんどの社員が必要に応じて在宅勤務を活用しています。会社のほうが集中しやすいという社員の声もありますので在宅勤務を押し付けるようなことはなく、各社員が業務に応じて在宅勤務か出勤のどちらかを選べるようにしています。

生産部門ならではの「働き方改革」の推進

一般的に難しいとされている生産部門のワークライフバランス実現についてはどのように取り組まれていますか?

和泉:当社の永年勤続表彰制度では最大で10日間の特別休暇を取得できますが、シフト制の勤務だと連続した休暇は取りにくいという声がありました。そこで気持ちよく休んでもらえるように、休暇を分割でとれるよう制度を変更しました。また、2021年に時間単位年次有給休暇制度を導入しています。生産計画によっては、定時より早く終業できる日があるという生産現場の声を踏まえて導入したのですが、結果的に、生産部門以外の多数の従業員も活用するようになりました。また、できるだけ「その人がいなければ業務が進まない」というような属人的な業務を減らすために、技術の継承や多能工化を推進しています。

そのほか工場勤務の方向けの取り組みはありますか?

和泉:各工場間で連携して人員を補完できるよう「助勤制度」というものがあります。この制度により、繁忙期における人手不足の解消や有給休暇のスムーズな取得が実現しています。

「仕組み」の改革による生産現場の人手不足解消や省力化もされていると伺っています。

守屋:リモートシステムを導入して生産プロセスを遠隔操作することで、作業員の業務を効率化しています。ただ完全な無人化を目指しているわけではなく、必要な作業に必要な人工を割り当てるということが大事であると考えています。

和泉:物流センターの在庫管理においても、これまで出庫記録は事務所に戻ってデータ入力する必要がありました。センター内の事務所なので、「ちょっとした移動」ではありますが、それでも非効率を生む原因になっていたのです。そこでタブレットを導入し、現場でリアルタイムの在庫管理ができるようにしました。現在もムダな作業はないかを継続的にチェックし、一つずつ改善に取り組んでいます。

時代の変化と社員の声を大切にした制度の推進

制度の新設や変更はどのように進められているのでしょうか?

和泉:2021年に新設した副業や兼業を認める「副業・兼業制度」のように、時代に合わせた新たな制度の導入と、現行制度をより良いものに改良していく二本柱で進めています。制度の改良について例を挙げますと、経験者採用も増えてきた現状を踏まえ、永年勤続表彰制度の適用条件を10年単位から5年単位に縮めました。会社を取り巻く環境は常に変化していますので、労使間で協議をしたうえで柔軟に対応しています。

守屋:当社グループでは「ダイバーシティプロジェクト」や「女性活躍推進プロジェクト」といった社内の有志が集まったプロジェクトがあります。「在宅勤務制度」や、女性のキャリアアップを目的とした外部研修に参加する「女性社員向け社外研修制度」、先輩社員と定期的に面談し、キャリア形成を図る「メンター制度」などはプロジェクトからの発案、いわば“社員の声”から実際に導入された制度です。

「女性社員向け社外研修制度」ではどのような研修に参加できるのでしょうか?

守屋:課題を率先して解決できる女性リーダーの育成を目指し、「リテラルシンキング」、「リーダーシップ」、「プレゼンテーション能力向上」、「キャリアデザイン」、「生産性向上」など、参加者が必要だと考えたテーマを自由に受講することができます。また、社外研修制度ではありませんが、男女ともに対象の「ちょこっと留学」という制度では、社内のほかの職種の業務を経験することで多面的な問題解決能力を磨いています。

「メンター制度」はどのような制度でしょうか?

守屋:こちらも女性社員向けの制度になります。3ヶ月にわたり毎月1回のペースで別部署の先輩社員と定期的に面談を行い、仕事へのチャレンジ精神向上につなげています。自身のキャリアを一人で考えるよりも、相談できる先輩社員がいることで目指すべきビジョンが描きやすくなるのではと考えています。また、先輩社員にとっても部下や後輩を指導するトレーニングになるので、お互いに成長できる制度です。

男性育休取得率50%以上。厚生労働大臣から子育てサポート企業として認定

男性社員の育休取得率が54.5%(2021年実績)と他社と比べて高い水準ですが、社内の反応を教えてください。

守屋:育休を取得した男性社員にインタビューしたところ、育休申請時に所属する部署の上司や同僚に快く了承してもらえて良かったという感想がほとんどでした。長期休暇となりますので業務の引継ぎなど課題がないわけではありませんが、男性の育休取得率は他社と比べても高い水準です。現在のところ男女ともに育休を活用して公私のバランスをうまくとっている印象です。

育休のほか、子育てに関する制度はどのようなものがありますか?

守屋:当社独自の制度としては、法定の育児休業期間満了後も保育所への入所ができず、常時育児が必要な場合、または、1歳以上~小学校就学前までで子の傷病による看護のために長期的な休暇が必要となった場合に、1年を限度として取得できる「子育て休職」があります。さらに、育児休業期間中最長1ヶ月分の基準給与と育児休業給付金との差額分を補助する「子育て補助金」があり、所得減少をカバーすることで育児休業の積極的な取得を促進しています。復職後の支援としては、「時短勤務」「看護休暇」があります。法定では、子が3歳になるまでが対象ですが、当社は小学校卒業まで対象となります。このように、法定以上の対象期間に拡充することで、子育てと仕事の両立をサポートできるよう努めています。こうした取り組みの結果、厚生労働大臣認定の子育てサポート企業として認定され「くるみんマーク」を取得しています。

「この会社で働いて本当に良かった」と思われ続けるように

最後にお聞きしたいのですが、ワークライフバランスを推進するにあたってどのようなビジョンを描いていますか?

和泉:若い世代の方々に「この会社で働きたい」と思ってもらえるように、待遇の一つの側面として働き方を魅力的にしていければと思っています。採用面だけではなく、広い意味で「選ばれる会社」になるために必要な施策が「働き方改革」だと捉えています。

守屋:取り組みにより有給休暇の取得率や平均残業時間などを数字で示せますので、入社希望の学生さんから「とても良い会社だと思いました」とうれしい言葉をいただいています。ただ数字だけではなく「働き方改革」を通じて生まれた社内の雰囲気や社員の高いモチベーションこそ一番大切なことだと思っています。先日の内定式で社長から「入社がゴールではなく、実際に働いてみてから入社して本当に良かったと思っていただきたい」との言葉がありました。これこそが、まさに当社が目指すべきビジョンであり、社員の皆さんが少しでも楽しくやりがいをもって働けるようにすることが私たちの使命です。

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