ジョブシェアで「子育てと仕事の両立」を実現 “全社員が時短”でも“成果10倍”を遂げた仕組みづくり

取材日:2023/05/22

「ママハピ」などのイベントを通じて子育て中のママを支援する株式会社ルバートでは、全社員が子育て中のママ、かつ時短勤務でありながら、高い生産性と成果を達成し続けています。重要な役割を果たしている仕組みの一つジョブシェアを中心に、組織づくりについてお話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 谷平優美さん

    谷平優美さん

    株式会社ルバート

    代表取締役

  • 北嶋 愛さん

    北嶋 愛さん

    株式会社ルバート

    イベント事業部

この事例のポイント

  1. 業務の可視化と細分化でジョブシェアの仕組みを構築
  2. 業務改善と時間対成果の追求で人材確保の間口を拡大

会社存続のため、全社員をフルタイムから時短に

現在は全社員が時短勤務をされていますが、そのような組織づくりをされた背景を教えてください。

谷平:当初はフルタイムの正社員で事業活動を行っていましたが、私の第2子出産や社員の独立などが重なり、事業を継続していくにあたって、フルタイムで働ける人材に限定して募集していたら迅速な人材確保は難しいと判断したため、現在の時短勤務での採用に踏み切りました。

1,000人の従業員がいる企業であれば、1人抜けたとしても大きな影響はないかもしれませんが、従業員が10人の企業で1人抜けたら、単純に戦力が10%も減ってしまうことになります。大打撃なわけですよね。

そのため、時短の導入は人材確保の側面もありましたが、これまで1人でおこなっていた業務を複数人の時短社員で担当することで、組織や事業におけるリスク分散を図りたいという意図もありました。

また、働く時間や場所に制約があるというだけで活躍の場が限られてしまっている人材のニーズに応えたいという思いが強かったというのもあります。

私自身、出産を機に勤めていた企業を退職した後、また働きたいと思って求人をみると長時間の出社拘束が基本の求人ばかりでした。働きがいや収入と子育てを両立できる仕事が見つからなかったので、最終的に起業するという決断に至ったのですが、当時の私と同じような思いをしている方もいるのでは、とニーズを感じていたのです。

北嶋さんもその1人だったというわけですね。

北嶋:そうですね。時間の制約がある中での職探しとなると、その多くがサポート的な業務となるのが一般的です。さまざまな求人を見てはいたのですが、業務内容だけでなく、勤務条件などへの不安もあり応募まであと一歩踏み出せない状況が続いていて……。

子育ての時間も十分に確保しつつ、仕事でのやりがいも追求する、その両立は難しいという現実に直面していたんです。そんな中で、まさに当社のママハピEXPOに来場者としてイベント参加した際に知った「ジョブシェア型の短時間社員」の求人は、私の希望を全て叶えてくれる期待が持てるものでした。

実際に働かれてみて、いかがですか。

北嶋:普段は子どもが幼稚園に通っている10時から14時半の時間帯に勤務しているので、専業主婦の頃と変わることなく、子どもと過ごす時間を確保できています。

自分は裁量とやりがいのある仕事ができて、子どもたちは今まで通りの生活が送れる。入社前とのギャップもなく、思い描いていた通りですね。

また、子どもが体調を崩してお休みをいただく場合でもチームで対応できる環境が整っているので、仕事が滞らない点もジョブシェア型の良さだと思います。

会社側からすると、社員増に伴って管理コストが増加する側面もあります。それでも、多くの時短社員を受け入れるのは、それを上回るメリットがあるということでしょうか。

谷平:そうですね。働く側のニーズに応えたり、業務を標準化したりしたことで、中小企業としてのリスク分散をしながらこれまで出会えなかった時間制約のある優秀な人材に出会える、または幅広い人材が回せる仕組みになったというのが大きなメリットです。

昔はフルタイム勤務の求人を募集しても応募は1、2件程度。一方、ジョブシェア型の時短勤務で募集したところ、1日で30件以上の応募があったのです。東京都心部では、多様な働き方を推進する企業も少しづつ増えている印象ですが、郊外ではまだまだという感覚です。

弊社は本社が千葉県船橋市、社員は千葉以外に関西、神奈川、埼玉と広域に離れていますが、働き方や仕組みを柔軟にしたことで、それだけ多くの人材から自社に合った方を見つけられるのは、大きな成果ですよね。

それだけでなく、私自身が感じた子育てしながら働くことの垣根を少しでも取り払いたいという思いの中では、実際に応募者や社員から「このような求人を待っていました」「働かせてもらって感謝しています」という声を多数いただくことができたのも嬉しかったです。

フルタイム正社員から短時間社員に移行する際に重視した点を教えてください。

谷平:ワークライフバランスの「ライフ」の部分ばかり重視して、いくら働きやすい環境を整えたとしても、成果が上がらなければ持続的に企業価値を高めていくことはできません。同様に、成果が出たとしても、人材の定着率が低ければサステナブルな企業とはいえません。

働く時間や場所に制約のある人材であっても活躍できる環境をつくると同時に、企業として成果につながる生産性を確保するための仕組みづくりを進めることが非常に重要だと考えました。

現在、テレワークと出社を合わせたハイブリット型の働き方を導入されていますが、こちらもワークライフバランスに配慮した結果からですか。

谷平:そうですね。フルリモートの時もあれば、逆に完全出社にした時期もあって、その経験を踏まえた上で、現在のハイブリット型が最も生産性が高いと判断していますが、今後も成果をみて変えるかもしれません。

フルリモートは、個人のタスクを黙々とこなすにはいい環境ですが、コミュニケーション不足により生産性が落ちることもあります。例えば、オンラインミーティングだと、誰かと発言が被ると聞こえなくなってしまいますし、ざっくばらんなディスカッションがしにくいですよね。孤独を感じる社員も出てきていましたし。

それならばと、完全出社に切り替えてみたのですが、今度は働く側の負荷が高くなってしまった。そこで、最終的にハイブリッド型に落ち着いたという次第です。

生まれた場所や住んでいる場所による働く環境の格差は減っていくといいと思っています。介護や育児との両立もしやすい上に、例えば環境の良い郊外からオフィス近くの都心に引っ越す必要性もなくなります。会社も移動費や光熱費のコスト削減になるので、あとはコミュニケーションの課題をどう両立するかですね。

徹底した仕組み化で成果を10倍に

ジョブシェアという仕組みが「全社員が時短」の組織を支えているそうですね。具体的にどのような取り組みなのでしょうか。

谷平:ジョブシェアは、業務の細分化によって仕事を“シェア”しつつ、それによってタスクや進行状況の可視化が徹底される仕組みです。

具体的には、業務の遂行に必要なタスクを洗い出し、作業レベルまで細分化してリストとして整理した後に、個々の労働時間に応じて業務を配分していくというものです。

1つの業務(プロジェクト)を複数の担当者がシェアして進行していくのですね。

谷平:そうです。それぞれのタスク担当を決めた後も業務の進捗や社員の適性を考慮しながら人員を柔軟に組み替えるように工夫しています。実際に、任せてみないとわからないことも多いですし、任せることで社員の成長につながるケースもたくさんあります。

また、各タスクは1人ではなく2人以上で担当しています。主担当と副担当がいることで急なお子さんの病気とか家族の行事で休む際もクイックに対応できますし、そのような環境は心理的安全性にもつながるからです。

ジョブシェアを導入するにあたって重視したポイントを教えてください。

谷平:脱属人化と標準化です。業務を分担するわけですから、特定の社員にしかできないという状況をなくし、誰でも同じ手順に沿って同じクオリティで業務を遂行できる体制をつくることで企業としての幅が広げられました。

標準化にあたっては、徹底した業務の可視化とマニュアル化を地道に続けました。当時は、「脱属人化」と「標準化」を合言葉のように、ひたすら言い続けていた記憶があります(笑)。

ジョブシェアを導入した効果はいかがですか?

谷平:従業員アンケートでは、働き方と働きがいの評価が平均で93点という結果が出ていますし、従業員満足度や人材の定着率も向上しました。

また、ジョブシェアに限らず、多様な人材を受け入れられるようになったことで、「組織のスキル」も上がり、自分たちでできることの幅が広がりました。具体的には、SNS育成、デザインの内製化や数値分析などですね。

イベント開催頻度も飛躍的に上がったそうですね。

谷平:以前は子育て女性向けのイベントの実施は、年間5回くらいが限界だったのですが、時短社員のジョブシェア体制にしたことで、約10倍の50回以上の開催まで増やすことができるようになりました。

業務をシェアすると聞くと、一見、生産性が悪いように感じられるかもしれません。ただ、私たちが組織として強くなれたのは、働く側のニーズに応えながら時間対成果を厳しく評価していく体制をつくったことによって、柔軟に業務が進められ、かつ効率的な成果を出すための環境が整ったからこそだと思います。

また、細分化したタスクを割り振っているので、より「適材適所」というよりも「適所適材」で人的リソースの活用が実現できる点も非常に合理的なのだと考えています。

ツールを活用してコミュニケーションを活性化

ただ、シェアするとなると、密なコミュニケーションは欠かせないかと思います。普段はどのような手段でコミュニケーションを確保しているのですか。

谷平:ChatworkとZoomの常時接続、業務に必要なあらゆる情報を一元的に管理して可視化・共有できるDXツールなどを活用してコミュニケーションを確保しています。

2017年から使用してるChatworkは、社外の方との進捗確認や業務連絡・画像共有など、テキストコミュニケーションを集約しているので、「Chatworkを見ればわかる」ようになっていますね。

また、テレワークをしている社員と会社をZoomで、常時接続することで些細なことでも、気軽に質問したり、声をかけやすい環境にしました。

おそらく常時接続は他社では賛否両論のある施策かと思いますが、実は当社では、社員の声からスタートした取り組みですし、常に顔がみえてすぐ話しかけられる環境は、「オフィス出社と一緒」だと思っています。そのため、常時接続に対して監視されているというより、不明点が気軽に聞けるというポジティブな捉え方になるようですね。

テレワークは働きすぎを防ぐほうが大事です。当社の社員は、一生懸命になりすぎて、つい働きすぎてしまう人も少なくないので、お互いに気遣える環境としても役立っています。

そのほかにコミュニケーションを活性化する取り組みはありますか?

谷平:1つは家族同士で集まるイベント、ファミリーデーです。 社員だけでなく、家族を含めて受け入れているという当社の気持ちを感じてもらえればありがたいと思って始めたイベントでしたが、お子さんを交えた交流は、例えば、子どもの体調不良などで社員が欠席した際の受け取り方の違いにあらわれていると実感しています。

子育て中の社員が多いので、そもそも相互理解のある間柄ではあるものの、「あの子大丈夫かな」と、お子さんの顔が思い浮ぶようになる違いはあると感じています。

また、各部の定例会もありますし、年に4回全社員でのランチ会やキックオフ会、年末の納会も開催しています。こうした場でのちょっとした雑談から生まれる企画や気付きもあるので、欠かせない制度ですね。

会社の制度はどのように策定しているのですか。

谷平:基本的に社員の声を聞いて制度化しています。小さな意見も聞いてもらえる、すぐ形にできる、というのは大手出身の社員ほど喜んでくれます。

主に、上長との1on1ミーティングや月報に書かれているちょっとした気づきや意見、あるいは社員との会話の中から新しい制度が生まれてくることが多いです。普段からコミュニケーションをとっているからこそ今の制度があるのだと思います。

時間に制約のある人材でも活躍できる企業のロールモデルに

御社のように、働く場所や時間の制約がある人材であっても、その活躍によって事業成長を遂げられる組織を作るには、企業はまず何から始めればよいのでしょうか

谷平:最初に着手すべきは業務改善と仕組み化だと考えています。

例えば「残業があるから時短は無理」の状況は、残業禁止のルールを設けたとしても改善されませんよね。改善するための施策は、業務のシステム化や標準化、人的リソースの見直しなど、組織によって異なりますが、課題の根本となっている要因を考え、そこに対策を講じることが重要だと思います。

システム化するための予算がないのであれば、無駄な業務の排除、メールや資料のひな形の作成、マニュアル化から始めてもいいのではないでしょうか。

マニュアル化や仕組み化は、一朝一夕でできるわけではないので、日々の細かい作業の積み重ねが大事です。当社は現在の仕組みを構築するまでに数年かかっていますが、仕組みが構築できれば業務の効率も良くなり、成果を上げやすくなると思います。

「働くママ」や「女性活躍」といった枕詞がなくなる社会へ

御社が目指す理想の社会について教えてください。

谷平:理想は「働くママ」や「女性活躍」のような言葉がなくなる社会だと思っています。そのために、我々自身がロールモデルになれるように試行錯誤しながらジョブシェア型短時間勤務の仕組みの完成度を高めていきたいですね。

ある企業の例では、営業職に在宅勤務の働き方を導入したところ、従来40件程度の応募が通常だった営業職に1,000件を超える応募が集まったそうです。いかに多くの人材が働き方の面だけで埋もれていたかがわかりますよね。

これは今後、予想される労働力不足を解決するためのヒントが詰まった事例だと思います。

今後取り組みたいことを教えてください。

北嶋:時短勤務でも環境さえ整っていれば、やりがいをもって戦力になれるということを当社からもっと発信していきたいですね。

谷平:働きたい気持ちがあっても、時間に制約があるだけで組織の主戦力からはずすのは社会の損失だと思いますし、責めるべきは人ではなく仕組みと管理側だというのが起点です。

働けないモヤモヤを抱える方をたくさん見てきて、制約がある中でもやりがいをもって組織貢献できる仕組みを当社が構築して成功イメージを共有することで、社会全体の価値観を変える貢献ができればと思っています。

個人の働きがいと会社の成果を最大化するために現在の仕組みをブラッシュアップしていきたいですね。

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