経営戦略の一つとして、文化醸成の専門組織を発足 社員の帰属意識向上の秘訣とは?

取材日:2023/05/30

常駐型のDX支援事業などを手がける、コクー株式会社。ほとんどの社員が取引先に直行直帰する中、社員同士の連携を深めようと立ち上げた、企業文化を醸成する専門組織の取り組みについて、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 石井一史さん

    石井一史さん

    コクー株式会社

    カルチャー推進室/マネージャー

  • 佐々木駿太さん

    佐々木駿太さん

    コクー株式会社

    カルチャー推進室/グループリーダー

この事例のポイント

  1. 帰属意識向上に向け、企業文化醸成の専門組織を立ち上げ
  2. 「仕事だから参加」ではなく、楽しめる仕組みづくりを
  3. 企業文化の醸成は経営戦略のひとつ、事業にもプラスに

取引先へ直行直帰、社員の帰属意識を高めるため組織立ち上げ

御社のカルチャー推進室について、概要や活動内容を教えて下さい。

石井:カルチャー推進室は、企業文化の醸成や理念の浸透などを目指して立ち上げた組織です。当社では、「一人ひとりが、会社をつくる。一人ひとりが、未来をつくる。」というミッションを掲げているのですが、社員一人ひとりのコクーへの帰属意識を高めることで、主体的に会社を良くする文化を作ろうと、2021年7月に設立しました。

会社への帰属意識が低下していると感じるような、何か具体的な問題があったのでしょうか?

石井:当社は、常駐型のDX支援事業を展開しているので、社員が、クライアント先の企業に常駐して仕事を行っています。そのため、基本的にクライアント先への直行直帰ですし、コクーの社員が一人しかいない現場もあるため、帰属意識や社員同士の仲間意識が醸成しづらいという事業特性があるんです。

こうした働き方は、クライアントとの信頼関係を築いたり、よりきめ細やかな支援ができるという利点がある一方で、所属している会社に対する思いがどうしても薄くなってしまうというデメリットもありました。

また、それぞれの担当者が、さまざまな経験を積んで知識を得ても、そのノウハウが、社内で共有されないといった課題もあったわけです。

そもそもオフィスに立ち寄ることすらないんですね。

石井:そうなんです。当社のCEOも、会社設立前は大手SI企業のエンジニアとして出先で仕事をしていました。自分も含め、同僚たちはそれぞれの職場でたくさんの知見を得ているのに、会社に対する意識が薄いため、それを社員同士で共有したり活用したりすることがほとんどなかったそうです。せっかくたまった知見が会社に還元されない状況を見て、もったいないなと感じていたんですね。

そうした背景があって、自分で立ち上げた会社は、もっと横のつながりを強くして帰属意識を高めるとともに、ノウハウがシェアされる組織づくりをしたいという思いがあったと聞いています。

設立当初から、そういった企業文化の醸成に関心が高かったのですね。

石井:はい。カルチャー推進室立ち上げ以前から、社員が集まるイベントなど、いろいろな取り組みがありました。

しかし、コロナ禍でイベントごともできなくなり、どんどんコミュニケーションを取るのが難しくなってしまったんです。さらに、コロナ禍以降に入社した社員は、業務上で関係のある社員以外の社員とは一度も顔を合わせたことがないという状態です。

みんなが何をしているかわからない、会社の雰囲気が伝わらないという、不安の声も出るようになってしまいました。

これはマズいぞ......と、強く感じたのと、もともとコミュニケーション活性化と組織の関係性などにも興味があったことから、自分がカルチャー推進室立ち上げをCEOに直談判しました。

コミュニケーションや企業文化の希薄化に危機感を抱き、カルチャー醸成が喫緊の課題であることをCEOに直談判したと話す、石井氏。

組織を作りたいと言ったときの反応はいかがでしたか。

石井:会社設立当初から、CEO自身も組織におけるカルチャー醸成に関心が高かったわけですから、もう、待ってました!と言わんばかりに、二つ返事ですぐにOKしてくれました(笑)。そのため。カルチャー推進室の立ち上げから現在に至るまで、CEOも積極的にサポートしてくれています。

カルチャー推進室の取り組みをきっかけに、社内に県人会も

カルチャー推進室のメンバー構成はどのようになっているのでしょうか。

石井:三部構成の組織になっています。まず1つ目が、自分と佐々木の2人からなる部門で、コーポレートフィールドといいます。カルチャー推進室の専従として、関連する業務をメインでやっているところです。

2つ目がキャリアフィールド。各部署の連携を強めるために、事業部の業務をしながらカルチャー推進室の仕事もする人たちが10名近くいます。

3つ目がクリエイティブフィールドといって、70名近くの人数がいる部門です。ここのメンバーはカルチャー推進室の所属ではないのですが、それぞれの得意分野を活かして、推進室の企画や運営を業務とは別に手伝ってくれています。

カルチャー推進室は、専任・兼任・有志の3層構造によるメンバー構成で、年間を通してさまざまな活動を行っている。

カルチャー推進室では、どのような企画を実施しているのですか?

佐々木:取り組みは多岐にわたるのですが、例えば、コクーラジオという社内ラジオ放送を行っています。

毎週水曜日、だいたい1時間の放送で、「福岡県出身の人」「(マンガの)ジョジョの奇妙な冒険が好きな人」などテーマを決めて、複数人でトークをしてもらうんです。

面白そうですね。どのような目的で始めたのですか?

佐々木:目的は、社員と社員をつなぐことです。同じ趣味など共通点を持つゲスト同士がつながったり、人となりを知ることで放送を聞いた人とゲストがつながったり、何かコミュニケーションのきっかけになってくれるのではと考え、始めました。

毎週、放送の最初にこの目的を必ず伝えて、聞いている人にも意識してもらうようにしています。

実際に、出身地が同じ人を集めた回のゲスト同士が県人会を作るなど、ラジオをきっかけにしたその後の交流も生まれています。

確かに、共通の話題があると、コミュニケーションも取りやすいですね。それから、御社には部活動もあると伺いました。

石井:はい。部活動はかなり盛んで、社員の7割近くが何らかの部に参加していますね。一番最初にできた部が写真部なのですが、私自身が部活動を立ち上げる際に、まずは自分が参加しないといけないと思い、趣味だった写真で部を作りました。

現在は、39もの部活があり、写真部の他にはゴルフ部、ゆる硬式テニス部などのスポーツ系、もくもく自習部やキャッチコピー応募部などの自己研鑽系、ちょっと変わったところだと紅茶部やチョコミント部なんていう部活もあります。美味しいお店の情報を共有したり、たまにオフラインでみんなで集まって活動したりしているようです。

部活動を初めて、社員の皆さんから何か反応はありましたでしょうか。

石井:他の事業の人と絡めるのがすごくうれしいという声をたくさん聞きますね。仕事で直接関わることのない人ともこれをきっかけに仲良くなり、業務に関するシナジーも生まれています。

他の現場で困っていることを聞いた人が、自分が持つ技術を紹介するなど、クロスコミュニケーションが自然に発生して、良い循環につながっているのを感じます。

得意分野を活かしてカルチャー推進室の運営をサポート

御社では、全社員が集まるような場はあるのでしょうか?

佐々木:全社員が3ヶ月に一回集まって、会社の理念や目標を共有する、「Tsuki-Ichi(ツキイチ)」という会議があります。

Tsuki-Ichiはカルチャー推進室ができる前からあったのですが、コロナ禍でリアルに集まることができなくなり、しばらくオンラインでの開催が続いていました。ただ、特に最初のオンライン開催では、いまひとつ盛り上がりに欠けてしまっていたんです。

その後、カルチャー推進室で運営を引き継ぎ、今年に入ってリアルとオンラインのハイブリッドで2回開催したんですが、2回目の開催では、リアルで参加してくれる人がかなり増えたのが印象的でした。

2023年1月にハイブリット形式にて開催した「Tsuki-Ichi」では160名もの社員が会場に集合した。

何か、参加者を増やすための工夫をしたのですか?

佐々木:参加したいと思ってもらえるように、演出に工夫をしたり、開催の告知を目立つ形にしたり、試行錯誤しています。

ちょうど期の切り替えとなる今年の7月に、一年の中でも一番大きな会をやるのですが、それを完全リアルで開催しようと思っています。全社員がリアルで集まるのは実に4年ぶりなので、来た人が楽しんでもらえる場にしたいと思っています。

佐々木氏は、「Tsuki-Ichi」をはじめとした全社会議が、一方通行の情報共有になってしまわないよう、参加者を惹きつける選出や工夫も重要だとしている。

いろいろな企画の運営を、クリエイティブフィールドの皆さんがお手伝いしていると伺いましたが、具体的にはどのように活動に関わっているのでしょうか。

石井:クリエイティブフィールドのメンバーは、それぞれ自分の得意なことを活かして、カルチャー推進室の業務に参加しています。

いろいろな班で構成されていて、例えばライター班は、会社のオウンドメディアで記事を執筆しています。それから先ほどご紹介したラジオの運営をしているコクーつなぎ隊、社内イベントの様子を撮影するムービー班、企画を告知するバナーなどを作るデザイン班など、本当にたくさんの班が、カルチャー推進室の活動を支えてくれています。

私が今力を入れているのは社歌を作る班で、理念を無理なく自然に浸透させるため、社歌を作っているんです。元ミュージカル女優だった社員や、現役のシンガーソングライターなど、参加している社員もバラエティーに富んでいます。ちなみに私自身も、実は元バンドマンです。

前職の経験などを活かせるんですね。クリエイティブフィールドの活動は、業務時間内に行っているのでしょうか?

石井:いえ、クリエイティブフィールドとしては、全て業務時間以外に行っています。お伝えしたように、うちの社員はほとんどがお客様の会社に常駐しているため、業務時間内に活動を行うのは難しいんです。

そのため、本来業務が終わってからの任意の活動になってしまうのですが、活動に対する熱量は凄まじいです(笑)。社歌のレコーディングも夜遅くまでかかってしまったのですが、なんだか文化祭みたいですごく楽しかったですね。好きなことや得意なことを生かして会社に貢献できる仕組みなので、参加しやすく、やりがいもあるのではないでしょうか。

「経営戦略」としてのカルチャー推進室の取り組みとは

社内活性化の取り組みや社内イベント等は、どの企業も盛り上げたいけれど、なかなか難しいのが現状だと思います。社員の皆さんが積極的に参加するようになる工夫やポイントは、何かあるのでしょうか。

佐々木:大切にしているのは、強制力を働かせて参加者を増やすのではなく、みんなが参加したいと思うような面白いものにする、という点です。

先ほどご紹介した「Tsuki-Ichi」も、面白ければ自然と社内全体のエンゲージメントや期待感も高まるはずです。

例えば、役員の挨拶で始まる「普通の会議」ではなく、冒頭にまるで映画の予告のような映像を流すなど、来た人が楽しめる演出です。仕事なんだから強制参加という会社の催しものは、もう現代では通用しないのではないでしょうか。社員が参加したいと思えないと、実施することの意義すら危うくなってしまうと思うんです。

そして、社員にぜひ参加したいと思ってもらうためには、企画運営する我々自身が楽しむこと、そして遊び心を持つことがポイントですね。

社内コミュニケーションを活性化したり、帰属意識を高めたりする取り組みは、企業にとってどのようなプラスがあると思いますか。

石井:カルチャー推進室の取り組みは、いわゆる経営戦略のひとつだと思っています。社員同士がつながることで知見の共有がすすみ、新たな事業アイデアが生まれるかもしれません。また、クリエイティブフィールドのような活動に参加することで会社に対する帰属意識も高まり、ひいては離職防止などにもつながります。

当社では、定期的に社員満足度のサーベイを実施していますが、実際に、クリエイティブフィールドに参加している社員と参加していない社員では、参加している社員の方が社員満足度が圧倒的に高いという結果も出ているんです。

何よりも、会社に貢献する活動に多くの社員が参加することは、まさに当社のミッションである「一人ひとりが、会社をつくる。一人ひとりが、未来をつくる。」の実現に直結しています。

カルチャー推進室が目指す企業文化がしっかりと根付いていけば、社員一人ひとりがより主体性を持って、会社を良くする方向に向け自走できるようになると考えています。

今後もカルチャー推進室の活動を通じて、運営側も参加者も楽しめる取り組みを行い、企業の成長につなげていきたいですね。

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ビズクロ編集部
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