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人とAIが協働する、幼稚園のDX Chatwork×ChatGPTで職員も保護者も快適に

取材日:2024/02/21

神奈川県でしみずがおか幼稚園を運営する学校法人アルコット学園では、幼稚園業務のDXに取り組んでいます。生成AIとチャットツールを活用した、業務効率化の仕組みについて詳しくお聞きしました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 鈴木 雄大さん

    鈴木 雄大さん

    学校法人アルコット学園 しみずがおか幼稚園

    副園長

この事例のポイント

  1. ChatworkとChatGPTを連携させ、業務を効率化
  2. 「DXプランナー」を開発し、他園のサポートにも尽力

業務負担軽減と魅力ある園づくりに向け、DXを始動

アルコット学園では幼稚園のDXを進めているそうですね。まずは、DXを行うに至った経緯を教えてください。

鈴木:職員の業務負担軽減と、幼稚園の魅力向上のために、2020年頃からDXに着手しました。

以前から教育業務と事務業務は分業していたものの、それでも教諭の仕事において、事務作業や保護者対応は大きな割合を占めていました。子どもと向き合う時間に集中するためにも、教育に関係のない業務はできる限り省力化したいと考えていました。

加えて、近年は少子化が加速し、入園者の確保が難しくなっています。そのなかで当園を選んでもらうためには、子どもや保護者にとっても、快適で魅力的な幼稚園にしていかなければなりません。

これらの課題を解決するために、生成AIやチャットツールを業務に組み込み、DXを進めています。

連絡帳記入から塗り絵作成までAIがサポート

AIを活用した業務効率化の具体的な取り組み内容について教えてください。

鈴木:ChatworkとChatGPTを連携させ、Chatwork上でAIに質問し、自動回答が受けられるシステムを構築しました。

職員がよく活用しているのは、子どもの体調に関する相談です。たとえば、高熱と発疹の症状がある子どもがいた際、Chatworkで質問すると、「水疱瘡の可能性があります」などの回答がAIから返ってきます。

もちろん、医療的な事項ですので、AIの回答を鵜呑みにすることはありません。今後の対応を判断するうえでの、補助的な材料として活用しています。

連絡帳の作成もAIがサポートしているとお聞きしました。

鈴木:連絡帳の文章をAIに提案してもらうことで、連絡帳記入の時間を削減しています。

「日時・場所」「概要」「原因」「園の対応」「子どもの様子」など、連絡帳に記入すべき事項をあらかじめ設定しており、それにしたがって、職員が内容を入力します。すると、文章パターンを学習したAIが、入力内容をまとめて自然な文章を作成してくれる仕組みです。

日々の連絡帳作成は、職員の負担が大きい仕事のひとつ。以前は1人分の連絡帳を作成するのに、上長から添削してもらう時間を含めて、最低10分はかかっていました。園児同士の喧嘩やトラブルが発生した際には、誤解を生まないよう慎重に内容を考えるため、さらに長い時間を要します。

そこで連絡帳の記入内容をAIに提案してもらったところ、作成時間が4分ほどに。定型に沿った、抜け漏れのない文章が完成するため、上長の確認もしやすくなりました。

職員は常に園児の安全管理を行いながら業務をしなければなりません。事務作業の時間を短縮することで、本来の教育業務に専念できています。

ほかにもAIを活用している業務はありますか?

鈴木:たとえば、子どもたちが遊ぶ塗り絵もAIで作成していますね。

塗り絵の用意が手間だったということもありますが、いつも同じような塗り絵では、子どもたちも飽きてしまうものです。

AIを活用すると、完全にオリジナルな塗り絵を無限に生成できます。子どもの要望に応じて、「恐竜×現代の生き物」のような、市販品ではあり得ないテーマも実現可能ですし、年齢に応じて難易度も変更できます。

AIで作成した塗り絵は、子どもたちも、いつも以上に夢中になって取り組んでくれています。

保護者との連絡はオンラインで。出欠確認が1時間→5分に

幼稚園の仕事のうち、保護者対応も大きな割合を占めていると思います。何か業務効率化の取り組みはありますか?

鈴木:保護者との事務的なやり取りは、基本的にオンライン上で行えるようにしています。

たとえば、以前は園児の出欠連絡を、電話かメールでいただいていました。しかし職員は朝8時の園バス出発までに、園児の出欠表を作成・共有しなければなりません。風邪やインフルエンザが流行する時期は連絡が殺到するため、早朝から対応に追われることも珍しくありませんでした。

そこで、園児の出欠連絡は、Googleフォームで入力してもらうようにしました。入力内容は、職員が使用しているChatworkにデータが送られ、出欠表も自動で生成されます。その結果、これまで1時間以上かかっていた業務が、5分以内に終わるようになりました。

出欠確認以外のやりとりは、どのように行っているのでしょうか?

鈴木:出欠連絡以外の質問に関しては、Webサイト上に質問フォームを設置し、AIに自動回答してもらっています。

保護者からの問い合わせは多数寄せられますが、7割ほどは「今日はお弁当の日ですか」「上着を着て登園してもいいですか」など、園のルールに関するもの。同じような質問が来るたび、職員が手を止めて対応するのは、非効率的でした。したがって、よくある質問はWebサイトで解決できるようにし、職員は残り3割の個別対応が必要な問い合わせに集中できるようにしました。

また、Webサイトではなく、電話で連絡をしたいという保護者のニーズにも対応するために、電話のIVR(自動音声応答)サービスを導入。音声認識した電話の内容を自動でテキスト化し、Chatwork上で確認できるようにしました。保護者は24時間連絡ができますし、返答が必要な場合も、職員の都合の良いタイミングで折り返しができるなど、職員と保護者双方の電話作業を効率化しています。

連絡方法を変更した際、保護者に混乱はありませんでしたか?

鈴木:特に混乱はなかったですね。

むしろ、保護者にとっても、園への連絡は面倒くさいものです。朝の忙しい時間帯だと電話が混み合い、なかなか繋がらないこともあります。一言伝えるために、何度も掛けなおすのはストレスです。

連絡手段のDXは、保護者側のメリットも大きいのではないでしょうか。

アルコット学園で使用している、AIを活用したシステムは、元エンジニアのご経歴を持つ鈴木さんが作られたそうですね。開発の際に意識したことはありますか?

鈴木:当園のDXを進めるために、独学でプログラミングを学び、Google Apps Scriptなどを活用して一連のシステムを構築しました。

AIの自動回答システムに関しては、あらかじめ私が用意した文章を回答する場合と、ChatGPTがWebサイトなどで学んだ知識を基に回答する場合があります。

その際、不確かな情報を回答しないよう、質問内容によってはAIに自由回答をさせないような仕組みにしています。また暴力的なワードが含まれていないかの確認を何重にも行うなど、リスク管理は万全に行いました。

社内の情報基盤はChatwork一つ。会議もチャットでOK

職員の方が情報を確認するためのツールはChatworkに統一しているのですね。

鈴木:Chatworkを開くだけで、すべての確認ができるようにしています。逆に、Chatwork以外は徹底して使わないようにしていますね。

職員同士で園児の様子などを共有する際も、口頭ではなくChatworkで行っています。

なぜChatworkでの情報共有を徹底しているのでしょうか?

鈴木:以前は、口頭で情報伝達を行っていました。しかし、忙しく余裕がなくなると、伝達の抜け漏れが発生してしまい、それが原因で新たなトラブルが発生するものです。トラブル回収のためにさらに時間がかかるなど、悪循環は続きます。

口頭での情報共有は極力なくすため、会議も原則Chatworkで行っています。

対面での会議は行われないのですね。

鈴木:「2時間会議をしたのに無駄な時間だった……」ということはよくあることだと思います。会議の参加者が多くなるほど日程調整も難しくなり、急ぎの課題に対しても、すぐに解決できない可能性が高まります。

そのため、当園ではChatworkで議題を送り、職員それぞれに意見を回答してもらっています。何か問題が発生した際も、翌朝には解決できるなど、課題解決のスピードが桁違いに速くなりましたね。

リアクションについても、いちいち「はい」「了解です」などを返信していると、必要な情報が流れていってしまうので、リアクションマークで済ませてもらうようにしています。このような小さな積み重ねによっても、情報共有は効率化されていると感じています。

チャットツールはどのように選定しましたか?

鈴木:金融機関でも使用している、セキュリティの高いツールを選びました。それでも万が一のことを考えて、個人情報を含む内容については、イニシャルなどで運用するようにしています。

あとは何より、従業員が使いやすいものを選ぶことが大切だと思います。当園が導入したChatworkは、IT知識がない人でも簡単に使用できるため、社員教育の手間も省くことができました。

残業ゼロ・年間休日140日を達成!教育の質も向上

業務のAI化について、職員の方の反応はいかがですか?

鈴木:最初は不安の声もあったものの、実際に導入してみると好評でした。

職員は人間ですので、自分も同僚も上司も、いつも同じコンディションでいられるとは限りません。同じような事象が発生しても、その時々によって対応に差が生じてしまうものです。システムを活用することで、人間のコンディションに左右されずに、業務の質も担保されるようになったと思います。

業務時間や待遇での変化はありますか?

鈴木:残業時間がゼロになりました。もともとは1日2時間ほどの残業に加え、行事の前には夜遅くまで準備をしていることもしばしばありました。今では、行事前日でもすぐに帰れるので、行事当日に全力を出せています。

同時に、年間休日も大幅に増やしました。現在は年間休日を最低140日に設定しており、なかには150日ほど休めている人もいるのではないでしょうか。持ち帰りの仕事もほとんどないので、金曜日の仕事終わりから週末にかけて旅行に行く職員もいるほどです。

また、今まで残業代として支払っていた部分を基本給に置き換えることで待遇面も改善し、働きがいが創出できているように感じています。

職員が休めるようになったことで、保育の質も変わりましたか?

鈴木:業務へのストレスが軽減され、職員がいつでも笑顔で過ごせるようになりました。

職員が楽しそうに働いている点は、保護者からも評価していただいています。良い口コミを書いていただくことも増え、少子化が急速に進んでいる状況でも、過去最高の入園者数を達成することができました。

DXを加速できたのは、助け合いの風土があったから

職員の方の離職率や採用状況はいかがでしょうか?

鈴木:採用に関して、以前は求人広告を出していましたが、今は口コミで入職希望者が来てくれるようになりました。ですので、求人媒体への出稿や人材紹介サービスの利用料といった、採用時の外部コストはほとんどかかっていませんね。

離職率も低いと思います。私が入職して以来、年度途中で辞めた方は、1人もいません。また、入社1~3年のうちに辞めてしまう方もほとんどいませんね。もちろん、家庭の事情などで退職される方はいますが、多くの方が長期的に働いてくれています。

離職率が低い理由は、やはり業務の効率化が進んでいるからなのでしょうか?

鈴木:もちろん、業務が効率化したことによって待遇が改善されたこともあるでしょう。しかし、それ以上に、互いに支え合える職場の風土が構築できているおかげだと思います。

仕事をしていると、つらいことや大変なことは必ず起きます。しかし、何かトラブルが起きた際は、職員1人で解決するのではなく、些細なことでも経営陣を含めて一緒に解決を図っています。日常的に職員と経営陣とのコミュニケーションも大切にしていますね。

園全体で助け合う姿勢があることで、職員の心細さは軽減されるはずです。この基盤があったからこそ、DXも加速したのではないかと思っています。

DXの第一歩は、無料のツールで十分!

(他園の皆様に向けて)DXの第一歩として、まずは何をしたらよいのでしょうか?

鈴木:いきなり有料のツールを導入する必要はないと思います。有料システムを使うと、「高いお金を支払っているのだから使わなきゃ」とプレッシャーがかかるものです。使いづらくても撤退しづらいですし、だからといって、機能の追加やカスタマイズをするのも面倒です。最終的にツールに合わせて業務のやり方を変えることになれば、本末転倒ともいえるでしょう。

高額なシステムを使わなくても、チャットツールを導入するだけで連絡効率は高まるはずです。

また、無料のGoogleサービスを活用するのもおすすめですね。アンケートはGoogleフォームで、データベース管理はスプレッドシートで、作り込もうと思ったらWebアプリも作れます。無料のツールだけでもDXの第一歩は十分可能ではないでしょうか。

そして導入の際には、まずは経営陣を中心にスモールスタートではじめることが大切です。そのうえで、従業員にDXの必要性やメリットを十分理解してもらうことで、スムーズにDXが進むのではないかと思います。

IT化する業務はどのように選定したのでしょうか?

鈴木:業務内容を深く知らなければ適切な改善はできないので、職員全員と個別面談をしながら現場の状況を把握し、繰り返し発生する事務的な業務を中心に、IT化するものを選定しました。

とはいえ、業務の選定については、「人が行うべきこと」と「自動化すべきこと」の2択ではなく、「人とAIが協力してできること」も選択肢にあるのではないかと思っています。 たとえば、塗り絵の例であれば、塗り絵を作るのはAIですが、園児から要望を聞き出すのは人の仕事です。

当園としても、まだまだAIを活用できる場はあると思っており、AIの可能性を広げていきたいと考えています。

DX事例を発信し、幼稚園業界と日本の未来を明るくしたい

最近は新たに、他の幼稚園のDXをサポートする取り組みもされているそうですね。

鈴木:カスタムGPTによって他園のDXをサポートするアプリケーション「DXプランナー」を開発しました。

たとえばDXプランナー上で「メール業務を効率化するためにはどうすればいい?」と投げかけると、「しみずがおか幼稚園では、Chatworkを利用して連絡手段を一元化しています」というように、当園の事例と共に解決策を提示します。

DX化をしたいと思っても、専門知識がないという幼稚園は多いと思います。不足している知識を、DXプランナーで補うことができたらと思います。

職員を「いつでも笑顔」にしたDXの取り組みを、今後は全国の幼稚園へと発信。

最後に今後の目標を教えてください。

鈴木:子どもたちはこれからの将来、必ずAIに関わることになります。今までは職員の業務効率化のためにAIを活用してきましたが、これからは教育にも活用の場を広げていきたいと考えています。

たとえば、ホームページやゲーム作成を通じてITに触れてもらったり、SNSやインターネットの付き合い方を知ってもらったりできるような、クラブ活動の場を設置できたらと考えています。

また、最近は、産学連携でAI活用促進活動を行う「Generative AI Japan」への参加も決定しました。当園の成功事例を発信することで、幼稚園業界に限らず、社会的にも良い影響を与え、10年後20年後の日本の未来を明るくしていきたいです。

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