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VRで「発達障がい」を疑似体験

新時代の研修が実現する職場のインクルージョン

公開日:2024/12/19
VRで「発達障がい」を疑似体験

発達障がいをVRで疑似体験できる研修サービスを提供している株式会社NTT ExCパートナー。職場での理解促進と共生社会の実現を目指す革新的な取り組みについて、体験者の感想とともに、開発者の想いを伺いました。

お話を伺った人
  • 石原愛さん

    石原愛さん

    株式会社NTTExCパートナー

    マーケティング部 営業推進部門/営業推進担当

  • 浅野勝紀さん

    浅野勝紀さん

    株式会社NTTExCパートナー

    DXソリューション部 ソリューション制作部門/ソリューションプロデュース担当

「11人に1人の声に応えたい」が開発のきっかけ

ーー御社の事業内容について簡単に教えてください。

石原:当社は、2023年7月にNTTビジネスアソシエとNTTラーニングシステムズが合併して誕生しました。

主な事業内容として、NTTグループや一般企業向けの社員研修、映像制作、Webサイト制作のほか、ヒューマン・キャピタル(HC=人的資本)分野を中心に、幅広いソリューションやテクノロジーにより、働く社員と企業双方の持続的な成長を支援しています。

元々、NTTビジネスアソシエはHR分野のコンサルティングや業務支援を中心に展開しており、NTTラーニングシステムズは教育研修事業を行っていました。合併後は、それぞれの強みを活かしながら、総合的なサービスを提供しています。

ーー発達障がい体験研修VRパッケージを開発した背景や経緯を教えてください。

石原:今回、職場での発達障がい理解につながる取組みとして着目していただいたと思うのですが、最初に開発したのは、職場をテーマにした研修ではなく、教育現場における研修プログラムだったんです。

当社ではこれまでもVRを活用した研修プログラムの開発経験がありました。例えば、ハラスメント体験VRや視覚障がい体験VRなどです。これらの経験を活かし、発達障がいについても同様のアプローチができないかと考えたのがきっかけです。

そして、文部科学省の調査によると、通常学級に在籍しながらも「学習面又は行動面で著しい困難を示す」ことから特別な支援を必要とする可能性のある児童生徒の割合は8.8%、つまり11人に1人という高い数字が示されています。そういった現状や社会的な課題認識があり、発達障がいを持つ児童への理解を深める必要性を強く感じました。

発達障がいは目に見えない障がいであり、当事者にしか分からない感覚があります。そのため、VR技術を使って疑似体験することで、より深い理解と共感を得られるのではないかと考えました。

[参考:文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」]

ーー開発プロセスについて教えてください。

石原:当社はVRや研修プログラムづくりのノウハウはあるものの、開発にあたり、専門家との連携は不可欠でしたので、一般社団法人日本発達障害ネットワーク(以下、JDDnet)にご協力いただき、監修を受けながら進めました。

体験プログラムは、それぞれが短いドラマ仕立てになっているのですが、そのテーマや、場面の流れ、セリフなどのシナリオは、社内で出たアイデアをJDDnetの先生方に確認いただきながら作成したものです。

具体的には、発達障がいは、一人ひとり、その症状が異なることを念頭に、発達障がいの特性を伝えつつも、過度に否定的な印象を与えないように配慮しています。また、いじめや差別を想起するような表現を避け、適切な対応例も含めたバランスの取れた内容にすることを心がけました。

撮影にも、JDDnetの先生に立ち会っていただき、演技指導なども受けながら撮影しています。

没入型体験で理解を深める、発達障がいVRプログラム

ーー具体的にどういった障がいへの対応を学べるのでしょうか?

石原:プログラムでは、注意欠如・多動性障がい(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)、学習障がい(LD)、発達性協調運動症(DCD)の4つの発達障がいを取り上げ、それぞれの特性を体験できるシナリオを用意しています。

ADHDの特性を体験するシーンでは、不注意や多動性、衝動性を再現し、重要な予定を忘れてしまったり、会議中に集中できず手遊びをしてしまったりする様子を体験することできますし、ASDのシナリオでは、感覚過敏や強いこだわり、コミュニケーションの難しさなどを再現しています。

また、LDの特性のうち、読字障がいを取り上げたシーンでは、マニュアルの文字が歪んで見え、スムーズに読み進めることができない様子を映像で再現しています。

DCDについては、複雑な動作の困難さを表現していて、例えば、両手で別々の動作をする作業が上手くできない様子などが体験できます。このように、発達障がいの特性を単なる知識としてではなく、感覚的に理解できるようにしています。

ーーなぜ通常の2D映像ではなく「VR」にこだわったのでしょうか?

石原:「没入感」にこだわりたかったというのが大きな理由の一つです。

確かに、通常のモニター画面で見られる映像を見てもらう方が手軽ではありますが、その場にいるような臨場感はVRでしか提供できない、VRならではの体験だと思います。VR映像は240度の視野がありますので、ぐるっと見回していただくことで、発達障がいのある人の様子だけでなく、周囲の同僚の表情や反応も視界に入るようにしています。こうした映像づくりも臨場感を演出するポイントです。

発達障がいは、脳機能の発達が関係した障害と言われていますが、目には見えない障がいですし、苦手なことがある一方で、優れた能力を発揮できる領域や場面もあることから、苦手なことに直面した時に「怠けている」、「努力が足りない」などと思われてしまいがちです。

そういった周りからは理解されにくい障害の理解を深めるには、VRの「体験しているような感覚」は、まさに効果的であると思っています。視覚や聴覚が過敏であるという特性についても、通常よりもまぶしさを感じる映像に加工したり、音が大きく聞こえるよう加工したりすることで、当事者の感覚を理解する手助けになるよう工夫しています。

ーーVR体験を導入した研修の具体的な内容を教えてください。

浅野:VR体験では、発達障がいのある人の視点だけでなく、上司や同僚の視点からも状況を体験できるようにしています。主観と客観を合わせることで、多角的に理解できるように工夫しているんです。

例えば、ADHDの特性を体験するシーンでは、まず発達障がいのある社員の視点で、重要な商談の予定を忘れてしまう状況を体験します。実際のコンテンツでは、障がいのある社員が、予定を事前に把握していたにもかかわらず、別の同僚から依頼された仕事に集中してしまったことで、その予定を忘れてしまう状況が映し出され、その後、先輩社員が「アラームを設定して忘れないようにする方法」をアドバイスします。その姿を見て上司が感心する、という構成です。

各シーンは約2~5分程度で構成されており、1回の研修で3本程度のコンテンツを体験していただくことが多いです。そして、体験後に、ディスカッションの時間や専門家による解説を聴く時間を設け、より理解を深めていく、という流れですね。

ーー開発する上で重視したポイントを教えてください。

石原:開発において最も重視したのは、体験者の方々の理解を促すことです。単に「こういう人がいたら大変だ」「迷惑だ」という否定的な感想で終わらせないよう、「より良い対応を学ぶ」プログラムになるよう強く意識しました。

そのために、よくない対応と望ましい対応の両方を示し、参加者自身の職場に置き換えて考えていただくようにしています。全てを完璧に対応することは難しいかもしれませんが、「ここまでなら対応できるのではないか」といった具体的な気づきを得ていただくことを目指しています。

ーー現在の提供状況について教えてください。どのような企業や団体が利用されていますか?

浅野:職場向けの研修プログラムでは、人事部やダイバーシティ推進室など、職場の多様性を推進される部署や担当者様からの問い合わせを多くいただきました。

また、最初に開発した教育現場向けの研修プログラムは、自治体の福祉課、社会福祉協議会、学校の教職員、保健師の方々にご利用いただいていていますね。

当初は、教職員や、教員を目指す学生への提供を想定していましたが、都内の中学生を対象とした心のバリアフリー授業、昔で言う道徳の授業ですね。そのカリキュラムとしても導入いただくなど、想定よりも幅広い分野からの興味関心をいただいています。

とはいえ、今はもっと多くの方々に知っていただく必要がある段階ですが、ありがたいことに、2024年10月には、ニューロダイバーシティアワード(B Lab開催)の研究開発部門で準グランプリを受賞いたしました。

※ニューロダイバーシティとは、発達障がいを含む神経の働きの多様性を肯定的に捉え、伸長する考え方のこと

できないことではなく、できることで考えるのが合理的な配慮

ーー発達障がいがある人に職場で活躍してもらうためには、どのようなことが大事なのでしょうか。

石原:単なる配慮ではなく、「合理的な配慮」が大事だと考えています。

合理的な配慮とは、本人の意に反して仕事を取り上げたり、同情から特別扱いをしたりするのではありません。むしろ、苦手なことがあっても、工夫することで共に働けるようにするための配慮です。

なかなか「これ」といった言語化が難しい部分ではありますが、できないこと視点で考えるのではなく、できることに焦点を当てて考えるのが、ひとつの「合理的」かどうかを分けるポイントになるかもしれません。

例えば、コミュニケーションが苦手とされている人でも、細かいチェックを必要とする作業の正確性が高いという特性を持っていることがあります。そういう人であれば、経理のような部門で、明確なルールに基づいて仕事をすることが得意かもしれません。

障がいのある人の特性を活かしつつ、組織全体にとっても利益がある体制を構築し、プラスの発想で捉えられるようにするのが大事だと思います。

いざ体験!視覚だけではない工夫で「当事者感覚」を実感

今回は、ビズクロを運営する株式会社kubellの社員も発達障がい体験研修で使用されるVR映像を体験させていただきました。

体験したのは、ADHD、そして、ASDの特性を描いた2本のオフィス編コンテンツです。ドラマ仕立てになったコンテンツは、上司の視点、発達障がいのある人の視点、同僚の視点という3つの視点で構成されています。

※イラストはイメージです。


例えば、ADHDの特性を描いたドラマは、重要な会議の予定を忘れてしまう男性社員のストーリーです。スケジュールやタスク管理が苦手なADHDの特性が理解されず、予定を忘れたことを同僚から強く叱責されるなど、本人も周囲も困惑します。しかし、一人の先輩社員が、予定の発生時にアラームを設定して管理をする方法を提案。無事にスケジュールの管理ができるようになる、といったストーリーになっています。

そのほかにも、聴覚過敏を伴うASDの特性をオフィスに設置したサーキュレーターの音が気になって仕事に集中できない状況で再現。コンテンツでは、最初は気にならなかったサーキュレーター音が、本人視点に切り替わった瞬間に大きな音で聞こえるように設定されており、感覚過敏の「当事者感覚」を体験できるようになっています。

実際にVRを体験!リアルな体験が生む気づきとは?

ーーまずVR体験を希望された理由を教えてください。

楠美:VRを使った研修に興味があり、今回、体験に手を挙げたのですが、感覚を通じた体験は、やはり実際にやってみて分かる価値だなと思いました。座学の研修は、飽きてしまうことも多いと思いますが、VRだと、座学と実習のハイブリッドのような感覚なので、能動的に学べますね。

増山:私は、今年の4月に新卒社員として入社したのですが、会社には、毎月のように新しい仲間(新入社員)が増えていきます。

自分の会社に限らず、様々な人が活躍する社会で、発達障がいを持つ方の視点もそうですが、それだけでなく、自分とは違う見え方があることを理解したいと思って参加しました。実際に、体験してみると見え方の違いというか、物事の見え方は一つではないことを学べました。

ーーVR体験を通じて、発達障がいについての認識は変わりましたか?

楠美:今回、学校編のADHDのシナリオで、ずっと本題と関係ないことを話し続けてしまう男の子のドラマ(コンテンツ)も体験させてもらいましたが、学生時代の記憶などを遡ってみると、コミュニケーションの違和感など、「もしかしたら?」と思い当たる節はあります。

ただ、当時の自分は、発達障がいの知識もなかったですし、ドラマの中の子たちのように、恐らく怪訝な表情をしてしまっていたかもしれません。改めて、本人視点で周囲の反応、向けられる表情や視線を体感した時は、正直胸が痛かった...。あの「当事者感」は、絶対に忘れないと思いますし、それが知れただけでも、大きな気づきになりました。

増山:発達障がいという言葉自体は知っていましたが、症状として、具体的にどういった行動・態度に出るのかまでは理解していませんでした。

ただ、今までの人生を振り返ると、「話が脱線してしまう」のは、自分自身もありますし、障がいの有無に関わらず、そういった経験を持つ人は多いと思います。

もちろん、程度の差はあるのだと思うのですが、そのくらい身近なことなんだと思いましたし、だからこそ、障がいとして理解してもらえない難しさもあるのかな、とも思いました。

発達障がいの特性を理解しておくのは、発達障がいを持つ人に対して、というより「お互いに」より良い関係を築くために必要なことなのだなと感じましたね。

ーーVR体験を通じて、今後の対応で気をつけたい点はありますか?

楠美:望ましい対応として、相手の意見をしっかり聞くことが大切だと思いました。「一般的にはこうだ」と決めつけて伝えるのではなく、相手がどういう風に感じているのかをまず聞いて、どうしたら働きやすいかをしっかりと話し合うことが望ましいと思います。

逆に望ましくない対応は、「普通はこうだから」とか「みんなはこうしているから」というように押し付けたりすることだと感じました。

増山:一人ひとり本当に違うので、発達障がいだから、自分はこうだから、と決めつけるのではなく、その人はどうなのか、の視点から考えることの大切さを知りました。

自分の視点を完全に排除して考えるのは、簡単なようで難しいですが、今回、発達障がいを持つ人はどう見えているのかを少しでも知ることができたので、合理的な配慮として「できること」の視点で理解し、必要な配慮ができるようになりたいなと思います。

体験で終わらせるのではなく、職場での行動変容につなげたい

ーー合理的な配慮のある就労を実現するために、企業が行うべき取り組みにはどのようなものがありますか?

石原:採用や職場への受け入れのタイミングで様々な取組みが求められるとは思いますが、研修を受けるのが手軽に取り入れられるアクションの一つとして良いのではないでしょうか。研修の対象を一般の社員や管理職、経営層など、様々な層に広げていくことで、理解や関心、気づきが広がっていけばいいなと考えています。

まずは、自分には関わりのないことだと遠ざけてしまうのではなく、身近なこととして捉えることが大切です。

実際に体験いただくと、学生さんなどからも「自分にもそういうことがあるかもしれない」とか、「小さい頃に自分がちょっと変な子だなって思っていたけれど、そういうことだったのかもしれない」という声をいただいたりします。そういった気づきの機会を提供できるのがVR研修のメリットです。

ーーVR体験プログラムの効果については、どのようにお考えですか?

石原:VR体験プログラムは、単に見るだけの研修とは異なり、「当事者の感覚」を体験することで、より深い理解と気づきを促せるのが特徴です。ラーニングピラミッドにもあるように、ただ見ているだけよりも、自分で動いて何かをするという体験の方が学習効果が高いということが分かっています。

当社のVR研修では、発達障がいの特性だけでなく、視覚障がいやハラスメントなどのコンテンツも提供していますが、なかでも発達障がいやハラスメントは、見る人の視点によって判断に曖昧さが出る「グレーゾーン」が課題になることも多いのではないでしょうか。だからこそ、VR体験を通じて新たな気づきや多角的な視点を得られるのは大きな価値があることだと思っています。

「そうだったのか」という気づきを、具体的な行動の変化につなげていく。これが最終目標です。例えば、発達障がいのある人が感じる音の聞こえ方を体験したことで、職場の座席配置を工夫する。こうした一つひとつの変化が、発達障がいのある人だけでなく、誰もが働きやすい職場づくりにつながっていくはずです。

ビズクロ編集部
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