中小企業と大企業、退職金の差は「約1,800万円」?!
企業規模で異なる退職金事情を詳しく解説
厚生労働省が発表した「令和5年就労条件総合調査概況」によると、現在約75%の企業が退職金制度を導入しているものの、その「支給額」を見てみると企業規模による格差が大きいのが現実です。今回は、退職後の生活に大きく影響する「退職金格差」の実態について、データをもとに詳しく解説します。
退職金制度導入率は74.9%
下記の表は、厚生労働省が公表した「令和5年就労条件総合調査概況|退職給付(一時金・年金)制度の有無、退職給付制度の形態別企業割合」です。
退職金制度の導入状況は、1,000人以上の大企業では90%以上が制度を導入している一方、従業員30~99人の企業では約70%にとどまるなど、企業規模による違いが見て取れます。
従業員数 | 導入割合 |
1,000人以上 | 90.1% |
300~999人 | 88.8% |
100~299人 | 84.7% |
30~99人 | 70.1% |
[出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」]
退職金制度を実施しない企業は増えている?
しかし、近年の動向を見てみると、大企業においても以前は100%近くあった制度導入率が、90年代後半から右肩下がりで減少していることがわかります。
りそな年金研究所が2024年1月に公表した「企業年金ノート」では、企業規模にかかわらず、1997年頃から退職金制度の導入率が低下。特に顕著なのは、従業員30~99人の中小企業で、1997年には約85%あった導入率が2023年には70.1%まで下落しています。また、大企業(1,000人以上)でも、1997年から10%程度減少しているのです。
【退職給付制度の実施状況の推移 (企業規模別) 】
[出典:りそな年金研究所「企業年金ノート 2024.1 NO.669」]
中小企業と大企業の退職金は1,766万円違う!
最新の調査によると、企業規模による退職金額の格差は驚くほど大きくなっています。中小企業と大企業では、同じ大学卒でも定年時に1,766万円もの差が生じるとされているのです。具体的な金額の違いを見ていきましょう。
中小企業のモデル退職金は最大1,091.8万円
東京都産業労働局の調査によると、中小企業の退職金は勤続10年(32歳)で約112万円。そして、勤続年数に比例して徐々に増加していきます。自己都合と会社都合の差については、勤続30年時点では自己都合の約654万円に対し、会社都合では約754万円と、約100万円の開きがあります。また、定年まで勤め上げた場合の退職金は約1,092万円です。
勤続年数 | 自己都合 | 会社都合 |
10年(32歳) | 112.1万円 | 149.8万円 |
15年(37歳) | 212.9万円 | 265.8万円 |
20年(42歳) | 343.1万円 | 414.7万円 |
25年(47歳) | 490.6万円 | 578.2万円 |
30年(52歳) | 653.6万円 | 754.2万円 |
定年 | ー | 1,091.8万円 |
[出典:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)7.退職金制度」]
大企業のモデル退職金は最大2,858.4万円
続いて、大企業の退職金を中央労働委員会の資料をもとに見ていきましょう。大企業の退職金は入社後の早い段階から中小企業との差が表れ始めます。
会社都合の場合は勤続10年で約306万円と、中小企業の約2倍の水準となっています。その後も差は拡大していき、勤続30年時点では約2,055万円と、中小企業の2.7倍に。定年退職時には約2,858万円に達するなど、中小企業の退職金に比べると2.6倍の金額差が生じることになります。
勤続年数 | 自己都合 | 会社都合 |
3年(25歳) | 34.1万円 | 69.6万円 |
5年(27歳) | 63.1万円 | 121.3万円 |
10年(32歳) | 182.8万円 | 305.7万円 |
15年(37歳) | 402.7万円 | 585.1万円 |
20年(42歳) | 761.9万円 | 1,021.6万円 |
25年(47歳) | 1,186.3万円 | 1,487.5万円 |
30年(52歳) | 1,771.8万円 | 2,054.5万円 |
定年 | ー | 2,858.4万円 |
[出典:厚生労働省|中央労働委員会「令和5年退職金、年金及び定年制事情調査」]
老後の備えは待ったなし!今からできる資産形成を考えよう
あくまで「モデル退職金」による比較ですが、中小企業の退職金は大企業の半分以下という厳しい現実があります。
その一方で、金融庁が指摘した「老後2,000万円問題」を考えると、たとえ大企業勤務であっても退職金だけに頼る生涯設計は見直す必要があるでしょう。
現役時代から、自分が働くと同時に、「お金にも働いてもらう」資産形成を計画的に行い、老後に向けた準備を進めることが重要です。