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AI活用で採用改革!学生に選ばれる企業へ

採用ブランディングを構築し人事戦略を成功させる秘訣とは

公開日:2024/12/20
AI活用で採用改革!学生に選ばれる企業へ

人材獲得はどの企業にとっても大きな課題です。そんななか、店舗BGMなどの店内演出や店舗のDXを推進するUSENや動画配信のU-NEXTなどを傘下にもつ株式会社U-NEXT HOLDINGSでは、新卒採用プロセスにAIを活用し、学生から選ばれる企業へと進化。採用活動を通じて企業のブランド力を高める「採用ブランディング」にも取り組んでいます。AIをどのように活用したのか。同社の採用戦略部長、野村大河氏に、人材難の時代を勝ち抜く「AI」×「学生ファースト」の戦略について伺いました。

お話を伺った人
  • 野村大河さん

    野村大河さん

    株式会社U-NEXT HOLDINGS

    人事統括部/採用戦略部長

エントリーは書類から動画へ、新たな「採用のカタチ」追求

――まずは「就活維新」と銘打ち、採用改革に踏み切った理由について教えてください。

採用改革には2つの理由があります。一つは採用に関するブランディングを強化し、競合他社との差別化を図ることです。

そして、もう一つが、学生と企業がフラットな関係を築くべきだという考えです。従来の就職活動のように学生が全員同じリクルートスーツを着て、同じ髪型で、履歴書をたくさん書き、そして就職活動が一斉にスタートする状況は、どうしても企業が学生を選ぶ構図になりますし、対等な関係とは言えません。そこで、テクノロジーの力を活用しつつ、就職活動の常識を覆そうとした取り組みが「就活維新」です。

株式会社U-NEXT HOLDINGSの採用メソッド(一部)

・スマートPR(エントリーシートの代わりに自己PR動画投稿)

・選考フィードバック(AIによる自己PR動画解析結果のフィードバックや面接官からのフィードバックなど、選考通して新たな「学び・気づき」のある機会を提供)

・セレクティブ選考(3次選考は面接や選考場所を自由に選択)

・トライアウトリベンジ(最終面接で不合格でも希望者には復活選考実施)

――具体的な取り組みとして、まず「エントリーシートを廃止」されたということですね?

はい。エントリーシートではなく、自己PR動画によるエントリーへと移行しました。狙いとしてはまさに「常識を覆す」です。

少子化が進む中で就職活動をする学生数も当然減少しています。企業としては、(応募の)母集団も確保したいですし、加えて、多様な人材に集まって欲しいという思いもあるわけです。

じゃあ、学生がそれぞれのオリジナリティを発揮できる方法って何だろうと考えた時に、画一的なエントリーシートでの応募ではないな、と思いました。書類から見えることも、もちろんありますが、我々はどちらかというと学生の雰囲気や人柄といった情報をより多く拾いたかったんです。

――実際にエントリーシートよりも自己PR動画の方が「人柄」が伝わりやすい実感はありますか?

それはありますね。自己PR動画は、あえてテーマを設けず「自由な表現」でOKなので、登山が趣味だという学生が山頂で撮影した動画もあれば、アルバイト先でバイト仲間と楽しそうに撮影した動画もあります。

本当に多様なので、動画の方が個性を出しやすく、学生の工夫も伝わりますし、本人の人柄や本質を理解しやすいというか、その人の「長所」がストレートに伝わってくるのは実感しています。

山頂の動画は、風が強くて喋っていることのほとんどが聞こえないような動画だったんですが、一生懸命さや誠実さが感じられて印象に残っているくらいですから(笑)。今の学生は幼少期から動画に慣れ親しんでいる「動画ネイティブ」世代ですし、書類を作成するよりも動画を撮影する方が自然に取り組めて表現しやすいのかもしれません。

――動画でのエントリーに変更してみて、エントリー数への変化はありましたか?

動画の取り組みだけでなく、「学生ファースト」な採用改革を打ち出してからの変化になりますが、エントリー数は増えていますし、学生から選ばれる企業になりつつある実感は得ています。個性を発揮しやすい企業としての間口は、結果として、学生に「入りたい企業」として認知してもらえるフックになっているのではないでしょうか。

――学生側からしたらルーティンのように感じるエントリーシートが不要で、「動画でエントリーOK」となれば、就職活動自体が楽しくなりそうなイメージです。

まさに「就職活動を楽しんでください」という思いも込めていて。本来、自分の最初のキャリアを決める就職活動は楽しい体験なのですが、実際に楽しめている学生は、少数かと思います。就活を楽しむという意味でも、良い手段だと思っています。

加えて、「就活を楽しめる企業」というイメージは、採用ブランディングへのポジティブなインパクトになっていると感じています。選考を受ける段階で、当社を好きになってもらえるという感覚ですね。

――では、選考の材料としては、自己PR動画をどのように評価しているのでしょうか。

まず自己PR動画で合否を判断することはありません。あくまで選考要素の一つという位置付けです。

そのうえで、営業職の採用割合が多いこともありますので、対人スキルや明るさ、人当たりのよさなどの要素は見ています。これはエントリーシートでは、絶対に伝わらなかった部分なので、特に動画の有用性を感じるところでもありますね。

――その後の面接では、面接官を学生が選べるようにしているそうですね。

はい。この施策も学生と企業のフラットな関係づくりに基づいた「学生ファースト」の考え方の一つです。

学生が面接でより高いパフォーマンスを発揮できる環境を整えるために、面接官のプロフィールを公開し、学生が誰に面接してほしいかを選べるようにしています。些細なことかもしれませんが、お互いの共通点をアイスブレイクにしてリラックスしながら会話することもできますし、学生側が選ぶわけですから、時には、面接官が学生の中で当社で「会ってみたい人」である可能性もあるわけです。単なるジャッジの場ではなくなる、そのスタンスの違いは、「対等」のメッセージにもなっていると思います。

◾️応募者に公開される面接官プロフィールの例

AI導入・活用で、採用の常識を変えるチャレンジを次々と

――次のステップとして採用プロセスにAIを導入しました。始められた経緯を教えてください。

AI活用の試みとしてAIインタビューを導入し、学生との面接の日程調整をスムーズにすることを目指しました。

学生が選考を希望しても日程が合わず選考の機会を逃してしまうケースは、多くの企業が抱えている問題点です。当社もエントリー数が多いため同じ課題を感じていました。

――その課題を解決しようと、AIを導入したということですか。

解決というよりは、チャレンジという表現になると思います。

当社はコーポレートスローガンに「NEXT for U」を掲げ、「世の中のすべての人々の未来のために、エンターテインメントとテクノロジーで、未来をもっと新しく。」を実現するために、常に新しい挑戦を続けています。その意味で、新しいテクノロジーをいち早く取り入れて、活用できるようチャレンジしていく施策の一つでした。

また、時代の流れもあったと言えるでしょう。導入時期が新型コロナウイルス感染症の影響で対面での面接が難しい時期だったので、AIインタビューによる、いつでもどの時間帯でも選考に進める仕組みづくりは社会的な背景もあった状況でしたね。

――その後「AIインタビュー」の取り組みを廃止された理由についてお伺いできますか。

ここは明確で、当社の企業カルチャーが伝わりにくいという課題を感じたからです。

どうしてもAIによるインタビューは形式的な内容に偏ってしまいます。それが、バイアスのない評価として、いい面もあるのですが、カルチャーとのマッチ度や本人の適性を深く見極めるまでには至らなかった。今後、技術が進化することで、AIインタビューに再チャレンジすることはあるかもしれませんが、現時点では人が関わるべきプロセスだと判断したという流れです。

――では、今はどのようにAIを活用しているのですか。

応募された自己PR動画をAIで解析し、応募者の特徴や強みを分析しています。具体的には、これまで蓄積された応募者の平均値に対して、どういうところが個性や強みなのかを見ます。

また就職活動の参考にしてもらえるように、「こういう点があなたの強みですよ」と解析内容を言語化して、応募者にもフィードバックしています。

――AIと人の目で、評価に違いはありますか。

ありますね。AIの良いところは感情が入らない点。より客観的な判断を下すことができます。一方、人にはどうしても好みやタイプが影響する部分があるため、違いは生じます。とはいえAIの評価を判断材料の一つとして活用することで、より多角的な選考が可能になっています。

――AIと人の目の印象が乖離した場合、AIの結果をどう取り入れていますか。

基本は人間の判断を重視しています。AIの結果を持ち出すのは迷いが生じた時。例えば候補者が3人いて同等の評価で並んだ場合などには、一つの「加点要素」としてAIの解析結果を参考にしています。なので、AIの解析結果で合否が決まるということはなく、あくまでも最終判断は人が行うというスタンスです。

――最後は人の判断となると、結果として属人的なバイアスがかかる懸念はありませんか。

面接官によっては、何らかのバイアスがかかりやすい人もいるかもしれませんが、とはいえ、採用のプロセスやジャッジに人が関わる以上、誰が行ってもバイアスをゼロにすることは不可能ではないでしょうか。どちらかというとそこは、仕組みでカバーすべき部分かなと思っています。

ですから当社は1対1の面接を必ず2回行うことでバランスを取り、偏った判断に陥らないよう努めています。

――AIが出す「答え」に、AIならではの解析を感じることもあるのでしょうか。

AIならではの優秀さを感じているのは、解析よりも、学生へのフィードバックの特徴や強みの言語化のところでしょうか。

言語化って、人がやろうとすると意外に時間と労力の要る作業なんです。そこにAIの「言語化能力」がサポートに入ることで、非常に役立っています。

また、相応しいビジネス用語を適切に使って言語化するといったチューニングもAIでは可能ですので、例えば若手社員が面接を担当し、その部分のスキルが不足している場合に、こうしたAIツールで補えるのは強みですし、生産性を上げる戦力にもなっていますね。

――AIが採用プロセスに活用されていることは応募者もわかっているわけですが、反応はどうですか。

「革新的です」というポジティブな反応が多いです。当初は、「機械的」とネガティブに捉えられてしまう心配も全くなかったわけではないですが、そこはデジタルネイティブ世代ならではなのか、おおよそ前向きな反応でしたね。

ただ、しっかり「フィードバック」される点もポジティブな反応が得られている要素のひとつだと思います。AIだけで判断しているわけじゃない点を予め伝えていますし、就職活動の常識を覆す活動全体が、学生にも好意的に捉えられているのではないかと。

――学生目線の採用改革を行った結果、新卒社員のエンゲージメントや離職率に変化はありますか。

一定の効果は出ています。企業カルチャーへの理解の面でギャップが減り、離職率も改善傾向にあります。ただ、グループ全体としてみると、まだ大きな変化を生み出し切れていない印象です。

キャリア提案や配属先決定にもAIは活用できる?

――今後、採用プロセスにおけるAI導入の課題はどう捉えていますか。

採用プロセスではなく、人材マネジメントの領域ではありますが配属のマッチングにおけるミスマッチを軽減するのにAIが活用できるのでは?と思っています。

当社は音楽の有線放送が事業の始まりですが、今では店舗・施設向けのDX推進や動画配信のコンテンツ事業はもちろん、不動産事業や通信、エネルギー、金融関係なども手がけており、ビジネスの範囲が多様なジャンルに広がっています。ただ、広がる分だけ、個々人の適性を人事サイドがしっかり見極めて適切な配属をするハードルはどんどん高くなるわけですよね。

そこで、例えばその人の特性に応じて望ましい配属先の候補ベスト3をAIが提案できるようになれば、最終的には人が決定するにせよ、より適切な配属が実現し、その後の効果測定もしやすくなると考えますし、データが蓄積されればされるほど、精度も高くなりやすい領域ではないかなと。

――ほかにもAIを活用してみたいと思っている分野はありますか。

あとは、キャリアパスのサポートですね。入社後のキャリアを設計したりイメージを構築したりすることに、若い世代は慣れていないようです。情報過多になり、却って取捨選択できないのかもしれません。

そこでAIを活用して社員が入社後のキャリアの道のり「キャリアジャーニー」を作り、AIという第三者の意見として複数のキャリアプランを提案できるツールができればと思っています。

――上司から提示されるのとは違い、人が関係していない完全に「客観的な意見」部分ですね。そこにAIを使うのは面白いアイデアかもしれません。

そう思います。通常、キャリアプランのサポートは、直属の上司がするケースがほとんどだと思いますが、正直「苦手な上司」であれば、素直に受け止められませんよね(苦笑)。

「あなたのために作ったキャリアジャーニーです」と上司から言われても、腹落ちしないこともあるでしょう。とはいえ、そういう状況は多々あるわけで、そこで「中立的な支援」の立場にAIを活用し、AIからの客観的なキャリアジャーニーの提案も踏まえながら、最後は本人が選んで決める。そんなマネジメントが実現できれば、お互いにとって良い環境ですし、適切なキャリア選択にもつながるのではないでしょうか。

――採用活動に限りませんが、AIが様々な場面で使われるようになり、人がやるべきこととAIがやるべきことの線引きについて議論されています。

当社では、ジャッジにAIを使用しない、つまりAIが言ったことを全部OKにしないことを基本軸に据えています。

AIが情報収集や効率化に貢献する一方、人に残された価値や能力は「判断力」だと思っています。この点だけは人間の視点で行うべきでしょうね。どれだけAIの活用場面が広がっても、AIの解析結果を「絶対値」にはしません。また、戦略の策定や新規事業の構築などクリエイティブな仕事は人間でないとできないでしょう。そのためにどれだけのリソースや時間を投下できるかが勝負の分かれ目です。リソースを生み出すために、今の業務をどこまでAIに任せて効率化できるかを考えないといけません。

――AI導入の際、注意すべき点はありますか。

データの取り扱いが重要で、これにつきます。個人情報を取り扱いますから、AIが取り込むデータはセキュリティがきちんと担保されたものなのか、適切に管理する必要があります。

深刻な人材難へと突入。中小企業が採用を成功させる秘訣は

――この先、人材不足はもっと深刻化すると言われており、特に中小企業は極めて厳しい局面を迎えます。中小企業が人材確保に向け採用ブランディングで成果を出したいと考えた時に、気をつけるべき点は何でしょう。

企業理念やフィロソフィーの共有が重要だと思います。人を集める手段として年収を上げたとしても、一過性にしかすぎず、ブランディング形成にはなりません。

企業が本質的に大切にしている価値観をどれだけ発信できるかが、採用ブランディングの鍵になります。それらの理念や価値観をさまざまな方法で発信し、自社の魅力を広く伝える取り組みこそがブランディング構築に効果的なのではないでしょうか。

――振り返ってみて採用ブランディングで一定の成果を出せた理由は何だと思いますか。

学生が求めているものを言語化し、企業風習の見直しを行ったことが大きいと思います。「なぜ同じスーツを着て就職活動しているのだろう」と、おそらく誰もが違和感を感じていたはずですが、あえて言葉にせず疑いを持ちませんでした。そんな昔からの風習を言語化することで、課題が明確になり、取るべき方法が見えてきたかなと感じています。

――最後に、中小企業の経営者が採用ブランディング構築や採用活動を進める際に、取り組むべきことを教えてください。

もし、その会社に1人でも新入社員がいるなら、やることは決まっています。インタビューでその人を徹底的に深掘りしてみて欲しいですね。どういう人生を歩んできてどういう変化があって、どんな経緯や選択基準で入社を決めたのか。思いもよらないことが会社の強みだと認識できたり、学生や新入社員の頃の視点を思い出させてくれたり、対話の中で直接教えられて気づく点が実は多いのです。ですから質問の答えとしては、おそらく会社の中や現場にあるのではないでしょうか。

ビズクロ編集部
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