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始まりは予算ゼロ!茨城県下妻市のDX戦略とは 独自の研修、新庁舎移転で環境整備…成功に導いた工夫の数々

取材日:2024/07/10

人口4万人余り、茨城県の南西部に位置する下妻市。民間企業にはない自治体ならではの課題を抱えながら、タイミングをうまく捉え、担当者のアイデアと実行力でDXを推進しています。下妻市役所のDX推進、これまでの歩みについて、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 小林正幸さん

    小林正幸さん

    下妻市役所

    市長公室 DX推進課/課長

この事例のポイント

  1. 非効率な業務や紙資料、若手職員の退職でDXの必要性を痛感
  2. ノーコードツール導入、庁内のサポート充実で浸透を図る
  3. ノウハウを全国へと還元。自治体のDX推進へ

「非効率さ」は若手職員の士気にも影響。予算0からの改革

下妻市役所がDX推進に取り組むことになったきっかけについて、教えてください。

小林:以前は、市役所の組織の中にDX専門の課がなく、総務課の中に「情報管理係」として設置されていました。人数も少なく、具体的な取り組みはあまりないのが実情で、議会でもDXをもっと進めるべきなのではないかという一般質問が出されていました。

ちょうどその頃、市長が令和4年4月から2期目を迎えるにあたって、公約でDX推進を掲げたんです。それを受けて部署が新設されることになり、私が担当になりました。

元々、DXなどに興味をお持ちだったのですか。

小林:いえ、文系出身ですし、高度なIT知識があったわけではありませんが、元々パソコンをいじるのが好きで、業務でも自分でエクセルのマクロを使って業務の効率化を図っていました。知らないことでも、創意工夫して業務を変えていく。そういった意識は高かったと思います。

そうした適性を買われてか、以前の、情報管理係を4年間担当していたんです。

しかし、当時は課ではなかったので、昇進した時点でその職務を離れることとなり、別の担当になりました。異動になってからも、世の中にどんどん新しい技術が誕生するにつれ、自分が担当していたらやりたいことがたくさんあるなと思うこともしょっちゅうでした。

その後、晴れて「DX推進課」が新設されるわけですね。新設当時は、市の業務などについて具体的にDXが必要だと感じる課題や問題点はありましたか。

小林:やはり、多くの業務が非効率だと感じていました。世の中ではスマホだけであらゆることが完結するのに、市役所では従来と変わらない工程を経ているものがたくさんあったんです。

例えば、会議の度に準備する紙の資料も、資料の差し替えがあるとホチキスを外して作り直していました。また、組織内外の方に向けた会議の出欠確認やアンケートの実施・回収についても文書やメールを利用していて、返信された内容を転記していました。こうした業務が積み重なり、多くの部署で職員が日常的に残業をしていました。

それから、この頃、若い職員が退職するケースが目立ちました。そうした細かい業務のしわ寄せがいくのは、結局、若い人たちです。若い人たちは学生時代にデジタルを使いこなしてきたはずです。しかし、市役所では時代が逆戻りしたかのような無駄な仕事に追われ、もしかすると、本来やりたい仕事ができないと感じてしまったのではないかと思います。このまま仕事のやり方を変えないと、また若い人が辞めてしまうのでは、という危機感がありました。

課題が山積する中、就任後はどのようなことから始めたのですか?

小林:一つは、DXを推進するための体制づくりです。まずは下妻市が全庁的にDXを推進するために市長を本部長とする推進体制を最初に作りました。また、全ての課にDX推進リーダーを配置し、所属課におけるDX推進の中心的な役割を担ってもらうことにしました。

併せて、DX推進計画も策定したのですが、計画策定に当たっては、DX推進リーダーをはじめ、職員を対象に、今困っていること、実現したい業務改善などの意見を募ったうえで行っています。

チャットツールを導入してほしいとか、業務に使えるノーコードツールを使いたいとか、いろいろな意見があり、それらを私たちDX担当がまとめあげ、計画を策定した形ですね。

私が異動した4月時点では、組織の構想も計画策定も全く準備されておらず、さらにはDX関連予算も0からのスタートだったので...。ないない尽くしのなか、全て自分で組み立てなければいけなかった最初の1年間は、本当に大変でした。

ノーコードツールを導入、サポートや研修も自分たちで

具体的にどのようなことに取り組まれたのでしょうか。

小林:職員の業務効率化を大きく進めたものの一つが、ノーコードツール「kintone」の導入です。プログラミングができなくても簡単に必要なアプリが作れるkintoneを使って、例えば、これまでエクセル管理していたものをkintoneに移行したり、紙ベースだったアンケートをkintoneを利用することでスマホから回答できるようにし、集計を簡単にしたり、作業時間を大幅に減らすことができるようになりました。また、作業時間の短縮だけでなく、紙ベースで郵送していたものがなくなったことで郵便料金が不要になり、費用の面でも大きなプラスになっています。

それから、健診の予約やいろいろな講座の申し込みなどがスマホ一つでできるようになったため、市民の皆さんから「下妻市は便利になった」という嬉しい声をいただいています。相談業務をお受けする際も、前回の相談内容をいちいち探すことなく、kintoneで一元的に閲覧できるので、窓口でお待たせしたり、何度も同じ説明をさせたりすることが少なくなりましたね。

いろいろなツールがある中で、kintoneを選んだのはどのような理由があったのですか。

小林:YouTubeやサイボウズのサイトで他の自治体が利用している様子を見て、これなら全庁的に使えそうだと感じました。さらに導入の決め手となった大きな理由は、ちょうどタイミングよく、1年間無料のキャンペーンがあったことです。使い勝手や実際に効果があるかを見極めてから導入を決めたいと思っていましたが、一般的には無料で試せる期間は1か月程度なんです。

ノーコードツールで自分たちでアプリを作成するようなタイプのものは、1か月では成果が見えづらいよな...と、その点が導入の障壁になっていたので、このキャンペーンを見つけて「まさに、今だ」と思いました。

実際に導入しても、職員の皆さんが使いこなせるようになり、成果を出すのは簡単ではないと思います。入れただけにならないよう、定着させるために何か工夫した点はありますか?

小林:kintone導入以前から独自の研修会を実施していたノウハウがあるため、kintoneについてもカリキュラムを自分たちで作り、開催することにしました。始めたばかりの頃は若い職員が中心でしたが、その職員が研修後、自分の課でkintoneを使っていろいろとアプリを作り始めると、それを見た先輩や上司が「何だか便利そうだ」、「研修会に出た方が良さそうだ」と感じ、だんだん上の世代の職員も参加するようになっていったんです。現在では、全体の7割から8割ぐらいの職員が基礎編の研修を受講済みです。

独自の研修会がうまくいったので、導入後のサポートに関しても外部業者さんによる相談会や講習会の開催といった伴走支援は、敢えて利用していません。

しかし結果として、全て自前で行ったことがうまくいった要因の一つになったと思います。

外部の方にお願いして研修会や相談会を開いても、その日は教えてもらうことができますが、普段分からないことがあったときすぐに聞くことができる環境がないと、そこでストップしてしまいます。私たちの課で、大概の事は教えられるようにすることで、皆さんがいろいろと質問しに来てくれて、問い合わせの電話もよくかかってくるようになりました。令和5年度の実績ですが、研修会を51回開催し、延べ531人が参加しています。研修会の回数とサポートの良さはどこにも負けない自信があります。

全国の自治体が悩むDX推進、ノウハウを還元したい

kintoneのほかに、これがDX推進に大きく役だったと感じるものはありますか。

小林:なんといっても大きかったのは、昨年の5月に開庁した新庁舎への移転です。移転を機にそれまでの有線LANから無線LANに切り替えたほか、モバイルPCを導入することができました。パソコンを持って会議に出席できるので、会議のたびに紙の資料を準備する必要はほとんどなくなり、ペーパーレス化が進みました。

ペーパーレス化が進んだことで、経費削減のため、プリンターも台数を減らしています。今、担当部署に年間の紙の使用量がどのくらい減ったか調べてもらっている最中なのですが、おそらく相当削減できたのではないかと思います。

DXを推進するうえで感じた、自治体ならではの課題や難しさはありますか?

小林:自治体は、売上や成果の追求が求められる民間企業とは異なるので、今までと同じように仕事をしていても、職員の給料が減ることはありません。そうした中でDXのような簡単ではない「改革」を進めるためには、トップのリーダーシップと、危機感を持って自ら動く現場担当者が必要だと思います。

特に自治体の場合は首長の存在が大きいですね。下妻市でも、そもそもが市長の公約からスタートしていますし、何かあるたびに強く後押ししてくれたお陰で、市の幹部にもDXへの意識が浸透し、非常にやりやすくなったと思っています。

自治体の場合は税金で運営されていることを考えると、業務効率化によって無駄なコストをなくすことは市民のためでもありますよね。

小林:そうですね。無駄なコストをカットするというだけではなく、DXを推進することでスマホで手続きが行える便利な市役所になることで、市民サービスの向上にもつなげることができます。我々だけが恩恵を受けるのではなく、当然ながら、市民の皆さんにとってメリットのあるDX推進にしていきたいですね。

今後の展望や、新たにチャレンジしたいことはありますか?

小林:全国には1700余りの自治体がありますが、そのうち約7割は下妻市と同じ、人口5万人未満の小規模な自治体です。政令市や県庁所在地のような大きな自治体には多くのSEが常駐している一方で、小さな自治体には、DXをやろうと思っても予算がない、担当になったけど一人ぼっちでどうしていいかわからない、というところがたくさんあるのではないかと思います。

下妻市も、新庁舎への移転やkintoneの無料キャンペーンなどのタイミングがなかったら、ここまでDXを進めることはできなかったと思います。

つい先日も、とある自治体の担当の方が、どのようにDXを推進しているのか勉強したいと言って見学に来られましたが、普通なら当然新幹線を利用するような距離なのに車を運転して来てくださいました。伺ったところ、やはり担当はその方だけで予算もほとんどなく、非常に苦労されているということでした。

そういった自治体の皆さんの課題解決につながる場として、(一社)日本デジタルトランスフォーメーション推進協会と協力して「自治体DXラボ」を立ち上げました。自治体同士の知識やノウハウの共有を通じて、DXの必要性を感じていながら課題を抱えている全国の自治体のDX推進の悩みを、一緒に解決していければと思っています。

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