「社員」に捉われない人材活用で可能性を拓く 事業に必要なデータサイエンティストをインターンシップで育成

取材日:2023/04/28

SaaS型アルゴリズム提供事業を展開する、かっこ株式会社では、インターンシップ制度を活用してデータサイエンティストを育成し、事業の戦力にしています。今回は「社員」という肩書きに捉われない人材活用の可能性について語っていただきました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 成田武雄さん

    成田武雄さん

    かっこ株式会社

    取締役事業部門管掌 COO 兼 データサイエンス事業部長

この事例のポイント

  1. インターンシップで人材を確保し新規事業を展開
  2. フルリモートインターンシップで、地方や海外の学生も参画
  3. インターン生がインターン生を育てる“エコシステム”を構築

新規事業に必要な人材を、中途ではなくインターンで確保

まずは、インターンシップ制度を導入したきっかけを教えてください。

成田:インターンシップ制度を初めて導入したのは2015年です。当時は新規事業の展開を検討していた時期。データサイエンスの技術を活用してクライアントの生産性や売上向上を目指すサービスを作りたいと考えており、データサイエンティストの人材が必要となりました。

しかし事業がうまくいくかどうか分からない段階で、年収の高いデータサイエンティストを中途採用するのは、会社にとってリスクでもあります。そこで、専門分野を研究している学生の力を借りてはどうかと思ったことが、インターンシップ制度を作ったきっかけです。

フルリモートインターンで地方や海外の学生もジョイン

2023年現在までのインターン生の受け入れ状況について教えてください。

成田:2023年現在で累計120人を超えました。近年は年間20人〜25人ほどのインターン生を受け入れています。

当社は社員数約30人であるのに対してインターン生が20人以上もいるので、よく驚かれます。もちろん育成や教育にあてられるリソースには限りがありますが、それでも熱意のある方にはチャンスを与えたくなりますし、「採用したら良い化学反応が起きそう」という方は積極的に採用しています。

また、コロナ禍をきっかけに、インターン生も社員同様にフルリモートで活動できる体制を整えたため、現在は、関東圏外や海外在住の学生にも参画していただいています。フルリモートでのインターン制度は学生から好評で、一時期は採用倍率が40倍近くになったこともありました。

40倍の倍率とはすごいですね!

成田:新型コロナウイルス拡大時はインターンシップやアルバイトができない学生が大勢いましたので、需要とマッチしたのだと思います。当社としても優秀な学生と出会える機会がふえました。

また海外でデータサイエンスを勉強している日本人留学生もおり、単位取得のためにはインターンシップを受ける必要があります。市民権やビザの問題から現地企業でインターンシップを受けられないという学生にとっても、フルリモートでのインターンシップが受けられることは都合が良いようです。

インターン生を受け入れたことで、御社にはどのようなメリットがありましたか?

成田:データサイエンスにおいて、未知のデータをコンピューターが分析できるようにするためには情報の整理や理解が不可欠であり、実は非常に労働集約的な作業が含まれるんです。そのようなとき、インターン生の力を借りて業務をスピーディーに進められる点はとてもありがたいですね。少ない社員数のなかで生産性の高い仕事ができているのは、インターン生の力も大きいと思っています。

また学生は扶養内で働きたいという方がほとんど。あらかじめ最大の労働時間や報酬額が確定するため、人件費に対する予算が立てやすいというメリットもあります。

社員とインターン生を隔てず、互いの不足を補う関係に

インターンシップでは具体的にどのような業務をしているのでしょうか?

成田:インターン生の業務は大きく分けて2つあります。1つは当社のメインプロダクトである不正検知サービスの品質開発や分析。もう1つは、実際の企業様のデータを扱った問題解決プロジェクトでの業務です。責任の重さこそ違いますが、業務内容は社員とほとんど変わらないですね。

2年、3年と長期的に参加しているインターン生のなかには、社員の指示を受けることなく、自分のプロジェクトとしてチームをけん引している方もいます。

自社の重要な業務をインターン生に任せることに対して、社内から反対の声はなかったのでしょうか?

成田:「責任のある計算や分析を学生に任せて怖くないのか?」「本当に大丈夫なのか?」と言われたこともありました。しかし私は、「正社員だから能力が高い」とは限らないと考えています。

たとえば同じ計算問題を解かせた際、正社員よりインターン生のほうが良い成果を出すことがあります。ほかにも、綿密な作業ができるかどうか、新たな手法を考えられるかどうかなども同様です。「社員」だから、「インターン生」だから、ということではなく、人にはそれぞれ得意不得意があるということですよね。その分野が苦手な社員に任せるより、得意な学生にお願いするほうが、会社としての生産性は確実に向上します。

最終的にトラブルが発生した際に責任を取るのは、社員であろうと学生であろうと責任者である私。それならば勝率が高い方に任せても問題ないのではないか、という旨を社内の人間に話して理解してもらいました。

インターン生がより高度な業務を任されることで、社員との間に軋轢は生まれないのでしょうか?

成田:当社の場合はありませんね。特にデータサイエンティストの場合は、立場や企業の枠を超えて新たな技術やノウハウを高め合おうとする文化が根付いています。業界的に、他の組織と比べて軋轢などが起きにくいのかもしれません。社員自身も学生の考えや知識に対して、真摯な姿勢で自分のものにしようと向き合っています。

インターン生を受け入れてから、社内にどのような変化がありましたか?

成田:インターン生の存在は、社員に良い刺激を与えています。社員たちは日々の業務で腕を磨いて実践力がある一方、忙しさゆえに最新の研究に追いつけていないのが現状です。対して、インターン生は実践力こそないものの、大学で最先端の研究に触れています。インターン生と社員が共に活動することで互いに足りない部分を補い合い、新たな発想も生み出せていると感じています。

さらに学生の良いところは、ポジティブで失敗を恐れないところ。自分の興味に猛進していく学生たちから影響を受け、私たちも挑戦心を失わずに頑張ることができています。

データサイエンティストの卵を育てる教育プログラム

インターン生は採用後すぐプロジェクトに参加するのでしょうか?

成田:いえ、すぐに実際の業務に参画するわけではありません。学生の学部学科や学年はさまざまですので、知識や能力にもばらつきがあります。実務で最低限の水準を担保するため、まずは試用期間として約1カ月間、こちらが用意した課題に取り組んでもらっています。会社が教育機関となってデータサイエンティストを育成するイメージです。

具体的にどのような教育プログラムなのか教えてください。

成田:課題は2つ用意してます。1つ目は、オープンなデータを収集、分析してプレゼンテーションしてもらう課題です。例を挙げると「慶應大学周辺の物件で、最も家賃が安くて間取りが広い部屋は何駅の周辺に多いのか」といったテーマを学生自身が設定。そして住宅情報サイトから物件データを集め、プログラムで計算処理できる状態まで自分で整理して可視化してもらいます。

この課題の目的は、データを正しく取り扱う能力を身に付けることです。

大学の研究でもデータを扱いますが、その多くは最初から整理され「あとは分析すればいいだけ」の状態です。つまり、思い通りにならない状態から試行錯誤する経験をしたことがない学生が大半です。しかし実務では、データを自らの手で整理できなければ仕事になりません。基礎的で簡単な課題ではありますが、自信を持って業務に挑んでもらうために課しています。

もう1つはどのような課題でしょうか?

成田:もう1つの課題として、プログラミング言語を学ぶためのオリジナル問題集を用意しています。当社ではビッグデータを扱っていますが、コードの書き方が汚ければ、本来数分で完了する計算が数十分も要することがあります。要は、コードも結果さえ出ればいいどんな書き方をしてもいいということではなく、自分勝手な書き方は、組織の生産性を下げてしまうことにつながるのです。

課題を通して「コードの書き方でこんなに違いが出る」ということを理解してもらうと同時に、「組織に貢献できる仕事をすること」について学生に意識してもらいたいと思っています。

現場で活きる教育プログラムになっているのですね。プログラムを構築する際に苦労した点はありますか?

成田:実は、私はもともとデータサイエンス分野の出身ではありません。ビジネスでは企画のキャリアが長く、どちらかというと数学も苦手です。そのなかでどのようにプログラムを組もうか考えた際、たとえ私自身が計算をできなかったとしても、学生たちの能力を把握して活かすことができれば、可能性が広がるのではないかと考えました。したがって、まずは「この技術を使って何ができるのか」をキャッチアップすることに注力しましたね。

そのうえで、当社のデータサイエンティストと試行錯誤を繰り返し、現在の教育プログラムと評価システムを作り上げました。

現役データサイエンティストからの振り返りが学生の糧に

インターン生の評価制度についても教えていただけますか?

成田:まずは学生自身が自己評価をします。約70項目の能力一覧表を用意しており、それぞれに対し「なぜそのような評価にしたのか」が分かるエビデンスも提示してもらいます。

そして学生の自己評価に対し、当社のデータサイエンティストが「現在の品質では、自己評価に達していない」「自己評価以上に出来ているから自信を持っていい」というようなフィードバックをしています。ビジネスの現場で成果を上げている現役のデータサイエンティストからフィードバックがもらえる経験は、学生にとって貴重な経験になると思いますね。

インターン生を教育する際に心掛けているポイントはありますか?

成田:インターン生だからといって学生扱いをせず、一人のエンジニアとして扱うことを心掛けています。実際、責任ある仕事を遂行してもらっていますし、学生側も意欲的に取り組んでくれています。お互いフラットに議論し、学生の意見を実際のサービスに組み込むこともありますね。

「学生だからできる」「学生だからできない」という考え方はせず、社員と同等の戦力として対等に接しています。

御社のインターンシップに対して、インターン生からの反応はいかがでしょうか?

成田:学校では学べない技術を学生のうちに吸収できる点が面白いという声をいただきます。またデータサイエンティスト未経験の段階からプロジェクトに参加できることや、現役データサイエンティストからフィードバックを受けられる点も大きなメリットであるようです。

さらに他社での就職活動でも有利に働くことがあると聞いています。面接で「かっこでインターンをしていた」と話したことをきっかけに話が弾んだり、インターンシップでの実績が良いアピールになったり。当社のインターンシップを受けた学生が代々入社している会社もありますね。インターンシップ卒業生がそれぞれの就職先で活躍していることが、当社の信頼につながっているのかもしれません。

学生が学生を教育するインターンシップの“エコシステム”

インターンシップ生の教育が場当たり的な運営となってしまい、社員の大きな負担となってしまうケースも少なくありません。御社のインターンシップ制度が成功した秘訣は何でしょうか?

成田:インターン生を巻き込んだ、インターンシップ制度の“エコシステム”が構築されている点が、成功の秘訣かもしれません。

たとえばインターン生の教育について、社員でなければ育てられないということはありません。当社には、インドネシアからインターンシップに参加している、インドネシア人の学生がいます。その方のメンターを務めるのは社員ではありません。アメリカ在住のインターン生がリモートで教育しています。インターン生同士で教育し合っているのも当社の特徴ですね。

インターン生はたまたま新卒という立場でないだけであり、社員との垣根はないと思っています。「社員でなければできない」「対面でなければ教育できない」と決めつけず、個々の能力を活かすことが大切ではないでしょうか。

最後に、今後の展望を教えてください。

成田:これまで、なぜ多くのインターン生を受け入れてきたのかというと、データサイエンティストの人材が業界全体として不足していることが大きな理由です。当社のインターンシップに参加してデータサイエンスに触れた学生たちが、近い将来さまざまな会社で活躍してくれたらうれしいですね。そして、データサイエンティストの横のつながりが生まれていくことを期待しています。

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