近年「静かな退職」という働き方が広がるワケ
新しい働き方に企業はどのように向き合うべきか
「必要最低限の仕事だけをする」—。近年、若手社員を中心に広がりつつある働き方が「静かな退職」と呼ばれ注目を集めています。今回は、なぜ「静かな退職」が増えているのか、企業に求められる対策は何かを、最新の調査結果から探ります。
[出典: Great Place To Work® Institute Japan調べ「静かな退職に関する調査」]
「静かな退職」とは
静かな退職(Quiet Quitting)とは、会社は辞めないものの、必要最低限の仕事しかしない働き方のことです。
残業や新たな業務などは引き受けず、与えられた必要最低限の仕事だけを淡々とこなすのが特徴で、2022年にアメリカのキャリアコーチであるブライアン・クリーリー氏が自身のTikTokで投稿したことをきっかけに世の中に広まったとされています。
34歳以下の3人に1人が「静かな退職」を実践
[出典:Great Place To Work® Institute Japan調べ「静かな退職に関する調査2024年」]
「働きがいのある会社」に関する調査・分析を行うGreat Place To Work® Institute Japan(以下、GPTW Japan)の2024年の調査によると、この「静かな退職」を実践している人を年齢層で見てみると、35〜44歳が27.8%と最も多いものの、20~25歳が12.4%、26~34歳が18.3%と、34歳以下の「若手」が全体の30.7%を占めているのが特徴的です。
続いて、45〜54歳が23.1%、55〜59歳が18.3%という結果でした。中堅社員も含めて幅広い年齢層で「静かな退職」という働き方が選択されていることがわかります。
働き始めて「静かな退職」をするようになった割合は71.0%
同調査では、実に71.0%の人が「働き始めてから」この働き方を選択するようになったと回答しています。つまり、多くの従業員は仕事に対して意欲的だった入社当初から、何らかの理由で徐々にこの働き方へと移行していったことがわかります。
なぜ「静かな退職」を選択するようになったのか
働き始めてから「静かな退職」へと移行した背景には、仕事に対する価値観の大きな変化があったことが伺えます。
同調査では、この働き方を選んだ理由として「仕事よりプライベートを優先したい」(38.2%)が最多で、「努力しても報われない」(27.3%)が次点。
実際に「静かな退職」のメリットとして、「プライベートの時間が確保できる」(47.8%)、「仕事のプレッシャーからの解放」(27.4%)が挙げられています。従来の仕事中心の生活から、プライベート重視へと、働き手の意識が大きく変化していることがわかります。
静かな退職の原因は企業にある?求められる対策とは
さらに「静かな退職」を選択した従業員の約4割は「職場環境が変わっても働き方は変えない」と回答しています。
つまり、一度この働き方を選択した人たちを、企業の取り組みや制度の変更などで「積極的で意欲的な働き方」へと変えるのは、至難の業であることがわかったのです。
[出典:Great Place To Work® Institute Japan調べ「静かな退職に関する調査2024年」]
そのため、企業においては、従業員が「静かな退職」を選択する前の“予防策”を講じる必要があると言えるでしょう。ここからは、「静かな退職」を防ぐ効果的な2つの対策をご紹介します。
適切な人事評価制度を確立する
まずは、適切で透明性の高い評価体制の確立です。「静かな退職」の大きな要因の一つが「努力しても報われない」という不満です。これを解消するには、成果に対する適切な評価と評価結果への納得度の向上、成長を実感できる仕組みづくりが欠かせません。
具体的な取り組みとして、月1回の1on1面談で目標の進捗を確認したり、四半期ごとに成果の振り返りを実施したりするのも良いでしょう。また、評価結果への納得度を上げるには、目標設定が適切であることはもちろん、評価プロセスにおいて「誰が・何を・何と・どう評価したのか」の透明性が高いことも重要です。
また、スキル習得に応じた資格手当の導入や、社内公募制度によって新たな挑戦の機会を提供するのも効果的です。特に若手社員には、小さな成果でも承認し、成長を後押しすることが重要です。
ワークライフ・インテグレーションを推進する
「仕事」と「私生活」に厳密な境界線を引かず、お互いにポジティブな影響を与え合う相乗関係にあるものとして捉えるワークライフ・インテグレーションの考え方を推進するのも有効です。
マイナビが行った「正社員のワークライフ・インテグレーション調査(2024)」によると、「仕事と私生活には関係性がある」と答えた人は7割と、そもそも関連してると考える人は多くいます。
この結果を踏まえ、企業は従業員が仕事と私生活を柔軟に組み立てられる環境づくりに取り組むのも、「プライベート時間の確保」を理由に「静かな退職」を選択する人の低減を狙えるのではないでしょうか。
[出典:株式会社マイナビ「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年版(2023年実績)」]
企業の成長は従業員の意識変化を理解することから
「静かな退職」は、働く人の「仕事」への意識変化を映し出したトレンドの一つです。
企業側が、「静かな退職」を増やしたくないと考えるのであれば、従業員がなぜこの働き方を選ぶようになったのか、その理由を理解し、予防的な対策を講じる取り組みが求められるでしょう。
しかし、その一方で、「静かな退職」を選択する側も、必要最低限の仕事をこなす働き方が、“将来的に”どう自分の人生に影響を及ぼすのか、今一度、考え直す機会が必要なのかもしれません。