「ランニング」が支える自由な働き方と社会課題解決 出社義務や社内ルールは一切ナシ!の企業経営が成長を促すワケ

取材日:2023/07/11

「世界を一つの家族にする」の理念を掲げ、マーケティングやビジネスプロデュースをはじめとする幅広い事業を手掛ける株式会社ウィルフォワード。時代に先駆けて、2011年の創業時から出社義務をなくし、社内ルールもゼロ。なかでも特徴的なのは、就業中でも「ランニング」を推進する健康経営です。ランニングは健康だけでなく組織の絆と個人の成長をもたらすと話す、その背景に迫ります。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 成瀬拓也さん

    成瀬拓也さん

    株式会社ウィルフォワード

    代表取締役

この事例のポイント

  1. 自己評価中心の評価制度を成功させる秘訣
  2. 出社義務なしを実現するオンラインコミュニケーションの活用
  3. ランニングを通じて社内外の絆と健康を促進

自由な働き方と社会課題解決を両立

出社義務なしの働き方を推進されているというと伺いました。どのようなきっかけ、背景があったのでしょうか?

成瀬:私は前職のコンサルティング会社でHR系の仕事をしていたのですが、「業績向上」を目指して昼夜を問わず奔走する毎日が、果たして社会課題の解決の一助になっているのだろうかと悩むことも少なくありませんでした。

時には、心身の健康を犠牲にしてまで業績を追い求めることもあり、もちろん私自身、仕事にやりがいを感じていたからこそできたことではあります。ただ、この働き方を良しとしてしまえば、別の社会課題を生んでしまうのでは?と、ふと感じたんです。そこから、より意味のある働き方を求めるようになり、それが、今の会社を立ち上げた時の「出社義務なし」の導入や、形式的なルールの撤廃をする契機となりました。

「出社義務なし」とは、どのように運営しているのでしょうか?

成瀬:メンバーそれぞれの裁量で最適な働き方を自分で選択できるように出社を義務としていません。また、就業時間についても、完全フレックスタイム制を採用していて、時間をどのように使って仕事をするかの裁量を社員それぞれに持ってもらいつつ、主体的に業務を行わないと、成果を出せない環境づくりを重視しています。

ただ、この経営が成り立つのは、義務ではなく、Willで働くことができる人に限るという前提があります。自分の「Will」、つまり意志や願望に従って、従業員が自由な働き方を選び、業務を進めることができるからこそだと考えています。同時に、ルールがない代わりに、カルチャー作りに重きを置いてきたという背景があります。

出社が義務でないと、一般的にコミュニケーション機会の減少などが懸念されますが、当社では、業務報告を義務とするような従来のルールはありません。その代わり、必要に応じて自主的にコミュニケーションが生まれるカルチャーからのアプローチなどの工夫が活発に行われています。

一例を挙げると、いかにも参加が億劫になるような「朝礼」のネーミングを、「パワーモーニングフェス」と呼んでみたり、「勉強会」ではなく、「人生を変えた衝撃インプット」といったキャッチーなタイトルをつけてみたり(笑)。

実際「なんだろう?」と参加率が上がったりするんです。社内に向けてマーケティングするみたいな感じです。こういった強制ではなく、遊び心を持って自主性を促す工夫は、ルールなしの自由さから生まれた一つのカルチャーだと思っていますし、副次的な効果として、仕事のアウトプットもアイデアフルになったと感じています。

「どう仕事をするかは、本人次第」というスタンスに対して、実際の社員の働き方はどのようなものですか?

成瀬:出社義務がないからといって、全く会わないといった状況にはなっていません。それぞれが必要に応じて最適なコミュニケーション手段を取っているので、会社で顔を合わせることも、もちろんあります。

私は「サバンナ経営」と「動物園経営」と呼んでいるのですが、サバンナ的な自由さの一方で安全が保証されない厳しさもある環境でガンガン刺激を受けて成長する働き方を望む人もいれば、快適な安心感のある動物園的な環境で、コツコツと丁寧に経験を積む働き方を望む人もいます。

私は元々、「サバンナ経営」を重視していたのですが、会社の拡大に伴って多様なメンバーが増え、なかには「動物園経営」を望む人がいることを知りました。これは、どちらがいい悪いではなく、組織として成長するには、両方の人材が必要であると気づいたんです。

実際、現在当社では、さまざまなキャリアパスや働き方の理想を持つメンバーが、働く場所や時間を自分でデザインしつつ活躍してくれているので「ルールなし」の柔軟性は、多様性を支える土台にもなっているのだと思います。

評価はどうされているのでしょうか?

成瀬:報酬については、今は、同一労働同一賃金の考えもあるので、一般社員は給与テーブルが適用される状態がありますが、今でも管理職には「自己評価」をもとに決めてもらっています。 成果報酬ではなく、宣言報酬で給与を支払う仕組みですね。

「自己評価」による報酬決定が、実態とのミスマッチのほか、高い報酬を要求するなど、コストの圧迫といったリスクにつながることはありませんか?

成瀬:実態とのミスマッチという意味では、高い金額を言うというケースは少なく、むしろ「低すぎる自己評価」をするケースの方が多いです。そのようなケースでは、話し合って擦り合わせるというより、なぜそう考えたのかという問いをぶつける中で、自己評価が最適に調整されていくという感じです。

また、この制度にしてから、PL(損益計算)だけではなく、BS(貸借対照表)などのファイナンスの話もメンバー全員が意識するようになり、経営に対する意識が上がったという副産物もありました。その点では、リスクよりもメリットが大きいと感じていますね。ただし、教育コストとコミュニケーションコストは当然あがります。

組織の絆を築く鍵は「ランニング」

日々のコミュニケーションや社内イベントなどで、社員間の絆を築いているとお聞きしましたが、具体的にはどのような取り組みを行っているのですか?

成瀬:業務に直接関連しない会話も含め日常的なコミュニケーションは、常に大切にしています。なかでも、目黒に「一軒家オフィス」を構えていた時期は、オフィス内でメンバーがランチを作り、冬は毎日のように鍋を囲むなど、まさに家族のように昼食をとっていました。

タイムパフォーマンスという意味でも、移動の時間がなくなるため非常に効率が良く、調理するメンバーも交代して担当するので負担も分散できます。何より、“胃袋”をつかむことで社内のロイヤリティが高まり、同僚間の絆が深まりました(笑)。

今は、オフィスを鎌倉へと移転したのですが、当時の一軒家オフィスは、よりリラックスした雰囲気でお客様をお迎えできる空間でもあったため、社員同士はもちろん、お客様とも「仲間」のような関係性を築くことのできる当社の礎となった環境の一つだったと思います。

コミュニケーションの工夫についても教えてください。

成瀬:当社のワークスタイルで成果を上げるには、当然オンラインコミュニケーションの活性化が重要な要素となるため、主にチャットツールを活用して、チーム全体のコミュニケーションの共有性やリアルタイム性を担保しつつ、円滑な業務進行を実現しています。

また、私たちは「オンラインコミュ力」と称して、営業活動などのビデオ通話でも質の高いコミュニケーションを心掛けています。そのほか、テキストコミュニケーションならではの摩擦を避けるため、ユニークなスタンプを用いることもありますね。

そういうちょっとした気遣いの“潤滑油”が、気持ちの良い人間関係の構築につながることは多々ありますから。

「ランニング」も組織づくりに取り入れているそうですね。

成瀬:はい。一緒にランニングをしたり、企業対抗の駅伝大会にも挑戦しています。

駅伝大会では、去年は2位で悔しい思いをしたのですが、チーム全員奮起し、今年は後続に大差をつけて1位を獲ることができました。

1位とはすごいですね!「ランニング」を導入するきっかけや背景・目的について教えてください。

成瀬:ランニングを導入した経緯は、働き方に対する考え方を変革したかった私の想いが背景にあります。

以前、とあるアウトドアウェアメーカーのアメリカ本社を訪れた時、会社前のカフェでパソコンを開いていた男性が社屋へと入り、数分後にウェットスーツにサーフボードを抱えて海へ入って行ったんです。その光景はある意味で衝撃でしたし、その姿を目の当たりにして、働く時間や場所を自己責任で決め、より自分らしい働き方を実現できる環境を作りたいと強く思うようになりました。

そのため、当初から「ランニング」にこだわっていたわけではなく、事務所が鎌倉にあり、目の前が海なので、SUP(サップ)にも挑戦したこともあります。ただ、SUPは、バランスをとるのに必死でコミュニケーションどころではなかったですね(笑)。

なので、試行錯誤してみて手軽さや健康面へのメリット、また、ランニングであればコミュニケーションを取りながらもできるといった特性から、ランニングが定着したという感じです。実際、私はランニング中に、走りながらミーティングをすることもあります。

実は、ランニングは、親密度が高まりやすい「クオリティタイム」を構成する、「お互いを意識できる」、「多少困難がある」、「継続できる」の3つの要素を含んでいると言われていて、心理学的に組織づくりや文化醸成に取り入れるのは理にかなっているんです。

ランニングには、親密度を高め信頼関係の構築を促す効果も期待できるという。

就業時間中も「ランニングOK」とする周囲の反応や実践状況はどうですか?

成瀬:そもそも強制ではないですし、就業時間のコアタイムもないので、反対する声はありませんでしたね。

ただ、私自身が率先してランニングを実践し、社内で連れ出しの「ランニングメイト」を募ることでランナーが徐々に増えるなど、組織づくりの一助になっていることを実感しています。ちなみに、社内にはレンタルシューズやウェアなども揃っているので、お客さんと急遽走りにくいこともありますよ。

ランニングによる組織や事業への変化について教えてください。

成瀬:ランニングは、ヘルスケア事業の一環として取り組む一方で、社内コミュニケーションの促進やクリエイティブなアイデアの発想にも効果的だと感じています。

走りながらのミーティングでは、社員の方から「一緒に走っていいですか?」と声かけされ、走りながら社員の相談事を聞くこともありますし、オンラインに至っては、私は日本一ランニングしながらミーティングに参加している人間ではないかと思います(笑)。

机に向かって膝と膝を突き合わせて話をするのもいいですが、フランクに相談をしたいときは、お互いにリラックスできますし、ランニングは有効です。

さらに、ランニングの取り組みは社外にも影響を与えています。当社のヘルスケア事業においては、お客様への説得材料にもなっており、全くランニングを導入する素振りもなかったお客様が走ることが日課になり、効果を実感されていると非常に嬉しいですね。

「うちもランニングを取り入れてみたい」と感じた企業へのアドバイスなどはありますか?

成瀬:アドバイスとしては、ランニングを強制するのではなく、社員が自発的に取り組むことを促す環境づくりが重要だと思います。

ランニングは、自分で目標を設定し、達成できるようコツコツと努力を積み重ねるスポーツです。そのため、自己実現や自己成長といった思考力や行動力を養えるメリットもあるのですが、いずれもやらされ感を感じるような環境では逆効果となってしまうでしょう。

自発的に巻き込まれる人を増やすことで、より良い組織文化を築くことができるのではないでしょうか。

バックエイジングを日本の当たり前に

今後の事業面の目標を教えてください。

成瀬:現在取り組んでいるBACK AGING(バックエイジング)の事業を国内で普及させて、生涯挑戦しつづける人を増やすことです。

現在は、市ヶ谷と鎌倉に店舗を持ち、治療とトレーニングを提供を通して、身体の痛みや不具合で、やりたいことを諦める人を少しでも減らすための取り組みをしています。この事業を拡大し、いつまでも健康で挑戦し続ける人を増やしたいと考えています。それが、僕らが掲げる「Challenger Forever(チャレンジャーフォエバー)」のコンセプトです。

さらに今は、腰痛や肩こりなどの慢性的な痛みに悩む人に注目しています。治療を目的としないリラクゼーションや、痛みを取る対処療法は多く存在しますが、根本から治療できる方法を提供している場所はまだまだ多くないと感じています。事実、腰痛や肩こりが国民病と呼ばれるほど多く、かつ減っていない現状がそれを物語っています。

腰痛や肩こりなどに限らず、体に痛みや不安がなければ、気持ち的にも「挑戦してみよう」という人は多くなると思っています。「健康寿命」の延伸が叫ばれていますが、病気ではないだけではなく、より健康的で活動的な「アクティブ寿命」を延ばしていきたいです。

同社が運営する治療&トレーニングスタジオ「BACK AGING」では、アクティブ寿命に着目したサービスを展開。

「アクティブ寿命」が延びることで、社会にどのような変化が起きるとお考えですか?

成瀬:いつまでも挑戦し、社会で活躍できる人が増えることで社会がもっと希望に溢れ、高齢化社会においても社会保障が高齢者に偏ることなく、若い未来の層に重きをおくことができるようになるのではないでしょうか。その結果、日本全体が豊かになると考えています。

しかし、日本は医療福祉制度が整っている一方で、予防医療や将来のための健康維持・増進といった意識が低い傾向にあります。そのため、何ら症状のない人に「健康の必要性」を伝えても刺さらないんです。事業の推進だけでなく、「健康」に対する意識の改革も必要だと感じるなかでは、もっともっと影響力をもっていきたいですね。

最後に組織面の目標について教えてください。

成瀬:組織づくりにおいては、これからも多様な価値観を持つ人たちが働きやすい環境づくりを続けたいと思っています。

その一方で、私たちが目指している日本の当たり前を変えるような挑戦には、常識を覆すような取り組みが必要になる局面もあるでしょう。だからこそ、天才的な能力やアイデアを持つ人が自由な発想のもと躍動できる環境づくりにも注力していきたいです。

「Challenger Forever」が当たり前の社会になるよう、私たちも積極的に挑戦し続けたいと考えています。

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