ITの力で働きがいを生む環境づくり 受付の常識を変えるシステムが社会課題の解決を導く

取材日:2023/03/29

年間200万人が利用するクラウド受付サービスをはじめ、日程調整や会議室予約機能システムを提供する株式会社RECEPTIONIST(レセプショニスト)。非効率な事務作業をなくし、人にしか出来ない仕事や価値の創出を目指しています。取り組みや今後の展望についてお伺いしました。※本文中、敬称略

お話を伺った人

  • 橋本真里子さん

    橋本真里子さん

    株式会社RECEPTIONIST

    代表取締役CEO

  • 藤村理紗さん

    藤村理紗さん

    株式会社RECEPTIONIST

    広報

この事例のポイント

  1. 効率化のみを徹底しない、心理的安全性を担保する職場を意識
  2. 固定観念を打破、質の高い結果を生む仕事に注力
  3. ESG経営で社会貢献度の高い「筋肉質」な組織を目指す

テレワークを機に社員自身が働き方をアップデート

ビジネスチャットを活用し受付を無人化・省人化できる「RECEPTIONIST」や日程調整ツール「調整アポ」など、御社は企業の業務効率化や事務作業の削減を目指すサービスを提供されています。会社自体も効率化や生産性の向上を強く意識されていますか。

橋本:創業当初は5名ほどでしたので、ある意味で効率よく働ける体制を作らざるを得ませんでした。

その一つがテレワークやフレックスタイム。今でこそコロナ禍で一般的になりましたが、当社は創業時から導入しています。これは働く時間や場所の選択肢があれば、人は自身の裁量で効率的に働けるし業務が進むと考えているためです。

また、SaaSビジネスを展開している会社ですので、自社のサービスに限らず、さまざまなSaaSサービスやITツールを使い、効率性がどの程度上がるかや費用対効果を確認することは大切だと思っているので、多くのITツールをすべての部署で取り入れています。

テレワークで社員同士のコミュニケーションに支障はありませんでしたか。

橋本:テレワークの実施状況は、例えば、コミュニケーションがより重視されるビジネスサイドと、自分のタスクをコツコツと進めるエンジニアやデザイナーなどのクリエイティブ職では、同じハイブリッド型の働き方でも、週の出社頻度が違います。

職種や業務によって最適な形にできるようにしているので、特に問題は生じていませんね。

「最適な出社日数」は、どのように決められているのでしょうか?

藤村:出社の頻度については、各部署のマネジャーに裁量を任せています。ですから例えば「この日は対面で会議しましょう」と、状況に応じてマネジャーがリアルなコミュニケーションを促進する機会を設定しているチームもあります。

そのほかにもコミュニケーションを活性化させる機会や仕組みなどはありますか?

橋本:毎月1回、全社員による「月例会」と呼ばれる会議を開いています。各部署の状況報告のあとは、懇親会のような雰囲気の中でプライベートな話をしたり、普段関わることが少ない他部署のメンバーと話をしてもらう仕掛けを創出しています。

日常的には各部署のマネージャーやリーダーが注意を払い、部下が疎外感や不安を感じないように努力をしてくれていますね。常時チャットでやり取りし、気軽に相談や声掛けができる環境が整っている印象です。そのため、テレワークなど、物理的に離れて働く時間が長くても、心理的安全性は担保されているのかなと思います。

テレワークやITツールを駆使し、社員の働き方がアップデートされたと感じることはありますか。

橋本:わかりやすいところでは、残業時間を減らせたことでしょうか。

藤村:コロナ禍の緊急事態宣言下では当社も全社員が完全テレワークになりました。一部では戸惑いもあったと思います。その声を耳にした経営陣から、「勤務時間を後ろ倒して、朝のリフレッシュや家事の時間を充実させるなど、個人の働き方改革を進めましょう。業務内外で、もっと気軽にzoomなどでコミュニケーションを取りましょう」との呼び掛けがありました。これを受け、社員みんなが、出社ペースだけでなく、時間の使い方についても、会議は業務が集中するタイミングを避けてセッティングするなど、自分なりに成果が上げられる働き方を積極的に模索するようになったと感じています。

その結果として残業が減ったほか、自発的に生産性の高い働き方がブラッシュアップされていった面はありますね。

ITツールを導入すべき仕事と、人が行う仕事の見極めはどのように行っていますか。

橋本:誰がやっても同じ結果が期待できる仕事や事務作業はITツールに移行させたいし、させた方が望ましいと思います。

一方、仕事内容に「熱量」が伴うものは人が行うべきではないでしょうか。熱量というのはオリジナリティやクリエイティビティで、これが必要な仕事は人にしかできません。誰に任せるかによってアウトプットの結果や質が違うところが、人に任せる面白さでもあるわけです。

アウトプットの結果に正確な均一性を求める作業については、IT化で徹底して効率を求めつつ、もっと人の熱量を感じられるような仕事にリソースを割けるような体制づくりができたらと考えています。

働くことに前向きになれる社会に貢献

IT化やデジタル化によって効率化や生産性が上がると、社会課題の解決にどうつながっていくのでしょうか。

橋本:少子高齢化により日本の労働人口は減少しています。しかし、働き手が減る中でも経済や社会の発展を目指すわけですから、ある種の矛盾が生まれていますよね。この矛盾を解決するためには、結局一人一人がどれだけ生産性を上げられるか、より質の高い時間を持てるのかにかかっていると考えます。

例えば「RECEPTIONIST」は内線電話を使わずにビジネスチャットで直接担当者を呼び出しますので、電話の呼び出しや内線電話の取り次ぎの必要がありません。その分の時間を捻出できますので、コア業務にその時間を生かすこともできるでしょう。

本来の業務に注力できるわけですね。

橋本:物理的な時間だけではなくモチベーションの創出も大切です。誰がやってもできる作業を「なぜ自分がやらないといけないのか」と不満を抱きつつ処理し、本来の業務に向き合うのは健全な状態とは言えません。

自分にしかできない仕事に集中してもらえる時間が増えるほどやりがいを感じてもらえますし、アウトプットの質も上がると思います。これも当社のサービスに引き付けると、会議室予約システムの「予約ルームズ」や日程調整システムの「調整アポ」で、ノンコアな作業の負担を減らし、そこに関わるネガティブな感情を排除する。やりがいを感じられる仕事に注力できる環境づくりの支援は、働くことに前向きになれる社会の実現につながると考えています。

代表自身も長く受付の仕事に携わっておられましたね。「受付対応は若手・女性がやるもの」との固定観念やジェンダーギャップの解消も「RECEPTIONIST」の導入で進んでいると感じますか。

橋本:はじめにお伝えしておきたいのですが、私自身、日本の受付文化を否定するつもりは全くありませんし、逆にとても素晴らしい「おもてなし文化」だと感じています。

来社されたお客さまに、「快く迎えられている」と感じていただくことは、企業にとってもどんなスタンスで顧客と向き合っているかを示し、企業イメージを演出できる場ですので有効に活用すべきなのです。

ただ、業務として女性だけ、あるいは、新人がやる仕事という合理性のない固定概念には、誰も違和感を持たずにいたわけですね。私も当時から、ジェンダーギャップに問題意識を持っていたわけではありません。ただ、このサービスが広まり、いろんな意見を聞いていくうちに、性別や年次で押し付けられている現実に違和感が強くなっています。かつては若い女性が企業受付のイメージでしたが、多様化していけばいいと思いますね。

会社の文化となるESG経営にも注力

社会課題の解決に関連しますが、ESG経営(Environment=環境、Social=社会、Governance=ガバナンスの3要素を重視する経営)に注力する姿勢を打ち出していますね。

橋本:環境面ではペーパーレスの推進と省エネルギーの推進、社会面ではワークライフバランスとダイバーシティ、ガバナンス(管理・企業統治)は情報セキュリティとコーポレートガバナンスを推進項目として挙げています。

上場企業に限らずスタートアップもESGを意識した経営をしていかないと、投資家や社会から評価されにくい環境になりつつある認識を持っていました。会社の文化として導入し推進すべきものですので、トップダウンで決めるのではなく社員みんなで考えようと。

藤村:半年ほど前に社内公募でメンバーを募り、ESGプロジェクトを発足させました。ほぼゼロからのスタートで、現状は会社のミッションやビジョンをかみ砕いて、自分たちの会社やサービスで何ができるかを議論している段階です。5月を目途にまずは社内から、具体的な取り組みを公表していきたいと考えています。

ESG 経営に注力するメリットや成果についてどのように考えていますか。

橋本:まず、社員のエンゲージメントを高めていける点ではないでしょうか。自分たちの事業を通じて社会にインパクトを与えられると思えれば、個々のモチベーションアップにつながります。さらに採用にも寄与するでしょう。現在は転職や就職活動において、事業や業務のやりがいだけではなく、事業や会社を通じて社会にどんな貢献ができるかという視点で仕事を選ぶ人が多いと思います。そのような視野を持った人材を採用できれば、会社にとってもプラスです。

ESG経営は売り上げに直結しませんが、人材確保の点からも必要であると。

橋本:そうですね。高いモチベーションや広い視野を持って社員が働ける会社は離職率の低下にもつながります。ESGに取り組み続けることで企業の価値自体が上がっていきますので、結果として売り上げを含めた企業活動全体に効果があると考えています。

少数精鋭で無駄のない「筋肉質」な組織づくり

働きがいや働きやすさという点で、会社が取り組まれていることはありますか。

橋本:社員の心が「当社で働きたい」との気持ちで満たされているのが、会社にとっていい状態です。その環境づくりに貢献しているのは、先ほどお話しした月1回の月例会。社員数が増えるほど部署内のコミュニケーションに偏りがちになるので、他部署のメンバーや会社全体への理解が深まる場所になっていると思います。

ただ、当社は働きやすい環境を作るための制度や仕組みを無理やり作らなくても、みんなが自主的に考えている感じがします。例えば社員が家でお菓子を作ってきてみんなに振舞ったり、インターンが卒業するときに部署でお別れ会をしたり。そんな様子を見ていると、血が通っていてあたたかい会社だなと実感しますね。

藤村:私も、当社はポジティブに自分自身で働きがいや組織に対するエンゲージメントを高め合えるメンバーが多い印象があります。チームでランチに出かけたり、同じ趣味のメンバーが集まって部活動のように社外活動をしていたりしますね。

当社のvalueの一つに「リスペクト」があり、お互いに感謝を忘れず、チームで成果を上げることを大事にしているので、メンバーが体現できていることが自然と会社の文化になっています。働き方の自由度は高いですよ。「今日はテレワークにしよう」「この時間から働こう」と自分で決められますから。

ただし、しっかり成果を上げているからこそ実現できる働き方でもあります。成果をあげるために「会議は効率的にやりましょう」「短時間の議論でもしっかり結論を出しましょう」と能動的な動きにつながっています。橋本がよく「自由には責任を伴う」という話をしますが、この考え方がメンバーに根付いている思います。

御社が今後目指すビジネスは、どのようなものでしょうか。

橋本:当社が提供しているサービスは効率化や課題解決へ導くものですが、同時にさまざまなデータを取得できるプロダクトです。「RECEPTIONIST」も「調整アポ」も人と人がつながるタッチポイントを提供するプロダクトですので、時間帯や人の属性を集積したデータから新たな機能を検討していきます。また、効率化を求めてサービスを導入したけれど、生み出した時間を日々の行動に活かせているか、あるいはより効率的に活動するためにどうするか、などを検討できる材料を提供できたらと考えています。

組織づくりの観点からは、いかがでしょうか。

橋本:組織については完成形がないので、模索し続けることになるでしょう。会社は生き物とも考えられるので、アップデートを続けていかないといけないのです。それでも意識したいのは、少数精鋭で何事にも立ち向かえる筋肉質な組織です。無駄をそぎ落とし、有効な資産をフル活用する筋肉質の組織だからこそクイックな意思決定が可能になり、時には迅速に方向転換できたり、経営の選択肢を増やせたりできると思うのです。社員にも自身の成長を感じてもらいやすい組織になると確信しています。

次に読みたいおすすめ事例

ビズクロ編集部
「ビズクロ」は、経営改善を実現する総合支援メディアです。ユーザーの皆さまにとって有意義なビジネスの情報やコンテンツの発信を継続的におこなっていきます。