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生成AIを含めたデジタルは目的ではなく手段 自治体の生成AIを活用した業務改革の最前線に迫る

取材日:2024/11/06

全国初の自治体環境での生成AI利用を可能とした生成AIプラットフォーム「zevo」。都城市は、そのzevoの開発において、中核的な役割を果たしました。今回zevoの開発秘話や生成AIの活用状況、得られた成果などについてお伺いしました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 佐藤 泰格さん

    佐藤 泰格さん

    宮崎県都城市

    総合政策部デジタル統括課/主幹

この事例のポイント

  1. 全国の自治体への横展開を前提に汎用性と使いやすさにこだわり開発
  2. 生成AIはあくまで手段であり効率化などの目的を意識することが重要

自治体環境で利用できる初の生成AIプラットフォーム

まず自治体専用生成AIプラットフォーム「zevo(ゼヴォ)」の特徴や機能についてお聞かせください。

佐藤:ChatGPTをはじめとした生成AIを、自治体専用ネットワークであるLGWAN(エルジーワン)環境で使えるというのが最大の特徴です。

私たち自治体は住民に関する個人情報を多く扱うことになります。そのため民間企業とは違ってインターネット上ではなく、基本的には閉じられたLGWAN環境の中で仕事をしていまして。なので基本的に自治体環境では、これまで生成AIは使えなかったんです。

各生成AIとLGWAN-ASPサービス(LGWAN環境とインターネット環境を安全に接続する技術)により接続するといった対策を施すことによって、セキュリティ面を担保しながら自治体でも生成AIを使えるプラットフォームzevoを構築しました。

zevoならではの機能はあるのでしょうか?

佐藤:生成AIは今競争が激しく、常に新しいアップデートがなされている分野です。なのでzevoではChatGPTに限らず、さまざまなモデルから選択できるようにしています。たとえばClaudeやGeminiなども繋げられるようになっていて、現時点で17種類のモデルが登録されていますね。こういった特徴を踏まえて、zevoはあえて「プラットフォーム」という呼称としているんです。

自治体といっても決して画一的な業務を行っているわけではなく、業務や庁内事情も大きく異なります。なので自治体によって生成AIのモデルを選択する際に、どの観点を重視するかも変わるわけです。料金が安い方がいいのか、それとも、クオリティを重視するのか。自治体が状況に照らし合わせながら、最適なモデルを選択できる。これもzevoの強みの一つだと考えています。

あとはやはりセキュリティ面での対策には力を入れていますね。たとえば機微情報(個人情報のなかでも特に扱いに注意すべき情報)を検知するような機能もありまして。プロンプト(生成AIへの指示文)で、個人情報に該当するものが入っていれば、アラートが表示されたり、マスキングしたりするような機能も搭載しているんです。

また生成AIそのものにはAPI連携をするため、入力した情報は生成AIの学習データとしては利用されません。この点も安心して使ってもらえるポイントになっていると感じています。

文書作成をはじめ、さまざまな業務で生成AIが活躍している

御庁では具体的にどのように生成AIを活用されているのでしょうか?

佐藤:本当にさまざまな業務に使っていますね。わかりやすいところでいうと、広報資料の文面の制作です。文章そのものを制作してもらうこともあれば、作った文章を要約することもあります。たとえば広報をするときに記者の方に提供するプレスリリース資料と、SNSに投稿する情報では文字量が違いますよね。こういう時に文字数に応じて生成AIに要約してもらっているんです。

あとはネガティブチェックでも活躍していますよ。自治体の立場では炎上リスクへの対策も非常に重要なんです。さまざまな価値観や多様性が尊重される時代においては、ジェンダーや貧困など、いろいろな観点での炎上リスクがあります。特定の人を不快にさせるような表現、いわゆるポリティカルコレクトネスなどもそうですが、文章や計画を作成する際にこういった観点で不適切な情報にならないかを、生成AIにもチェックしてもらっているんです。

人間にはどうしてもアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)などもありますから、そういう意味で生成AIの方がよりフラットにチェックできるというわけですね。

生成AIを活用するうえで意識されているポイントなどはありますか?

佐藤:プロンプトを打つ際に情報入力手段としてコピペをかなり活用していますね。たとえばイベントの挨拶文を生成AIで制作するとして、そのイベントの概要情報をコピペして、前提情報として打ち込んでから制作のプロンプトを打つようなイメージです。

やはり生成AIはハルシネーション(生成AIが事実ではない回答をする現象)がありますから、前提情報を与えない場合、ここのリスクがかなり高くなります。その点コピペで前提情報を与えたうえで文書を生成すれば、前提情報の範囲内でしか返ってこないのでハルシネーションが起こりづらくなるんです。

あとはプロンプト自体を考えてもらうこともありますね。プロンプトを最初から覚えたり、考えたりするのって結構面倒くさいので、まずは「こういう指示を出したいから、適したプロンプトを作ってください」といった形でプロンプトを打って。そこで返ってきたプロンプトのひな型を参考に、情報をブラッシュアップさせていくと効率的に活用できますよ。

自治体業務の多様化や繁忙がzevo開発の背景に

そもそもなぜzevoを開発しようと考えたのか経緯や背景について教えてください

佐藤:いま自治体はものすごく忙しくなっているんですよね。人口減少や少子高齢化の波もあって、地域の婚活支援や出生対策にはじまり、空き家対策などもあります。また、政府の施策も昔に比べてより幅広くなっていますので、自治体が支えている分野は昔より確実に拡大していると感じています。しかしながら、業務が増えればそれだけ職員の負担も増えるんですよ。

日々新しい業務が増えるなかで職員の残業も増え、目に見える形で本当に余裕がなくなってきて。そういった現状を打破するためにデジタルを使っていかなければならないという想いは持っていたんです。その矢先、生成AIのユーザーが1億人を超えたという報道を見て、ぜひ自治体の分野でも活用したいと思ったのがきっかけですね。

加えて、私たちの仕事では文書が重要なツールになります。そういった意味で生成AIとは非常に親和性が高いと感じたという点も大きかったです。

開発プロジェクトはどのように立ち上げられたのでしょうか?

佐藤:以前からふるさと納税のシステム開発でご一緒させていただいたシフトプラスさんと「生成AIの活用」について協議したのがスタートです。

シフトプラスさんはLGWAN-ASPサービスを提供されているので、比較的スムーズにプロジェクトは立ち上がりました。

なるべく早く「自治体にも生成AIを活用する」というメッセージ性を打ち出すために、開発に関してはデジタルならではのスピード感を重視しましたね。実際、開発期間は2か月程度と、かなりスピーディに進めてもらいました。

開発後すぐに、1か月間無償の実証を他の自治体に展開しまして、360ほどの自治体に使ってもらいました。実運用としては現状70以上の自治体が導入している状況です。

使いやすい仕組みを如何にして作り上げるかに苦心

開発プロジェクトにおいて御庁はどのような役割を担っていたのでしょうか?

佐藤:主に使いやすい仕組みを作るためのアドバイスを行ってきました。zevoは開発前から、都城市だけでなく他の自治体への横展開をすごく意識していたので、全ての自治体にとって使いやすいものを作るためにどうすべきか考えたんです。

これには私自身の失敗体験も活かされています。昔すごくいい仕組みを作ったものの、都城市の仕様に寄せ過ぎてしまった結果、横展開ができなかったんです。当然事業の継続性もなく、事業者さんが撤退してしまいました。

こういったプロジェクトを成功させるには、いろんな自治体で使いやすい仕組みを作ることで、事業者さんにも利益を上げてもらい、さらによいものを作ってもらうという好循環を生み出す必要があります。そういった観点に立って、シフトプラスさんに情報提供やアドバイスを行いました。

生成AIを複数から選択できるようにしたのもそのアドバイスが元になっていますし、横展開を促す仕組みとして、プロンプト共有ができる機能も付けたのもその一環です。

開発プロジェクトから導入まで特に問題もなく進んだのですか?

佐藤:そんなことはありません(笑)。生成AIに限らずですが、やはり新しいものに対する恐怖や抵抗感みたいなところは誰しもが持っているものです。なのでzevoの開発や実証段階で、「生成AIは危険じゃないのか」みたいなご指摘は外部から数多く頂きました。

特にセキュリティ面への不安を訴える声は強かったです。先ほどもお伝えしたように我々自治体は業務の特性上住民の方の個人情報を多く扱いますから、こういった情報が外部に漏れるんじゃないかみたいな不安は大きかったように思います。

なのでAPI連携や機微情報の検出機能などの構想を練ったり、セキュリティに対処するためのガイドラインを整備したりする必要があって、そのあたりへの対応が一番大変でしたね。

活用推進のカギは“あえて触らせない”こと

zevoの活用を推進するにあたり、どのような活動をされたのか教えてください。

佐藤:あえてほとんど庁内広報をしなかったところが推進戦略の肝です。zevoの実証段階の初期は、利用できる生成AIがGPT3.5だったのですが、我々自身も使ってみて「生成される文章のクオリティ的に、正直これは厳しいな」という風に感じたんです。人は一回使ってダメだと判断すると、戻ってくるのに時間がかかるので、この段階ではあえて大々的な広報などはせず、なんなら使わせないように意識していました。

途中でGPT4.0にアップデートされ、実用にも耐えうると判断したタイミングで、庁内広報を開始しました。とはいえゴリ押しするのではなく、タイミングを見計らいながら要所要所でアピールする形に留めました。やはり人の心理として「やれ」といわれるとやりたくなくなると思うので。

議会のタイミングで答弁書の作成に使えることをPRしたり、年度末や年度当初であれば挨拶文が作れることをPRしたり、時機に応じた提案をしていくことで、少しずつはまっていったような感覚がありましたね。

推進中、現場の職員からネガティブな意見などは出てこなかったのでしょうか?

佐藤:特に初期のGPT3.5の時は期待値を高く持って使った人からは「意外と使えないな」みたいな声は出てきました。そういった声に対して説明していたのは、「私たちがいくら自己研鑽を積んでも来年能力が倍になることはないけど、生成AIは何倍もの成長が期待できる」という点です。モデルのアップデートごとにお知らせするので、都度活用しながら判断してください、という風にお話していました。

生成AIはあくまで業務効率化における手段です。なので必要じゃないところで無理に使う必要はなくて、使って便利だと思うところで使ってもらえれば十分なんです。そういう意味でも、絶対に使ってもらうみたいな姿勢にならないように心がけていましたね。

他の自治体への活用推進についてはどのような取り組みをされているのでしょうか。

佐藤:総務省の地域情報化アドバイザー制度などを活用して自治体に呼んで頂く場合には、基本的にセミナースタイルではなく、ワークショップを開催しています。生成AIはやっぱり手を動かしてもらうことが一番重要なんです。実際に手を動かして「生成AIでこういうことができる」というのを体験してもらうと、デジタルが苦手な人であっても、ついつい取り込まれてしまうような魅力があるんですよ。

特に管理職に向けたワークショップは有効でした。管理職は文章を作成する場面が多いことは勿論、普段から部下に指示を出していますが、これはまさにプロンプトを打っているようなものですから。普段はデジタルの研修に積極的ではない人が多いのですが、ワークショップの内容が刺さるのか、嬉々とした表情で帰っていかれますね。

管理職が生成AIの利便性を理解すると、その方々が管掌する部内で「生成AIに任せていい業務」の視点がどんどん広がっていくんです。

そもそも上司が作った文書に部下が「この文章はいまいちなんで生成AI使った方がいいですよ」とはいえないですからね(笑)。やはり上司から部下に浸透していくような流れで落とし込みたいと考えて活動しています。

あと自治体において導入時に予算が大きな障壁になっていることも多いのですが、財政課の責任者の方を巻き込んでワークショップなどを実施することで、円滑に進むケースもありますね。財政課の仕事も生成AIを使うことで効率化できるという点を、実際に体感してもらうことで、予算上の課題をクリアしやすいのではないかと思います。

生成AIの活用で圧倒的に業務時間が削減できている

zevoの導入で生成AIが活用できるようになって、どのような効果を得られましたか?

佐藤:業務における削減時間は算出が難しく数値として追えていないのですが、肌感として圧倒的に削減できているとは感じています。たとえば計画資料などは何百ページもあるので、これまで整合チェックをするのに何時間もかかっていました。ですが生成AIを活用できるようになったことで、圧倒的に早くできるようになったんですよ。

あとは業務効率に意識がいきがちですが、業務品質も確実に高まっていると感じています。わかりやすいところでいえば、文書の質は本当に高まっていますね。

たとえば文書などを作成する際、制度や事情に精通している人が作成すると、どうしてもわかりにくくなってしまうという課題がありました。ここを「万人が理解しやすい文書」になるよう、生成AIにチェックしてもらうんです。よく「お役所言葉」などと言われたりもしますが、我々にとっては共通言語である表現が、一般的ではないことも多々あります。そういった気づきになるので、大変便利ですね。

あとは炎上リスクなども生成AIのチェックを挟むことで抑えることができるので、将来発生していたかもしれない炎上への対応工数も削減できたという見方もできます。これは非常に大きなコスト削減に繋がっているのではないかと感じていますね。

実際現場からは「今はもう生成AIがないと仕事ができない」という声も挙がっているくらいです。

実運用を通じて見えてきた課題などはあるのでしょうか?

佐藤:基本的には想定以上の成果を挙げられています。ただRAG機能*については、そこまで万能ではないなと感じていますね。

多くの自治体においてRAG機能への期待値が高く「議会答弁を読み込ませれば、議会答弁を作ってくれる」みたいなことをイメージしている方もいらっしゃるのですが、これはうまくいかないケースが多いように感じます。

RAG機能は確かに組織に最適化した独自AIを構築するうえで役立つ機能ですが、まだまだ人の手による補完が必要であるというのは、今回の運用で改めて気付きました。

たとえばマニュアルを読み込ませるにしても、そもそもマニュアル自体に穴がある場合もあるので、QAで補完しながら、FAQ形式のファイルも一緒に読み込ませるなどの工夫が求められます。

なのでRAG機能については、「想定よりも範囲を狭くして運用しないと実用レベルには達しない」ことを理解したうえで活用する、という姿勢が現状では必要になるでしょう。

※RAG(Retrieval-Augmented Generation)機能 組織で保有する独自情報を生成AIに読み込ませることで、回答精度の向上を図る機能

生成AIを含めたデジタルは目的ではなく業務改革のための手段

現在の導入状況をふまえて、今後の生成AI活用の展望について教えてください。

佐藤:今は生成AIの画面を開いて、プロンプトを打ち込んでという風に、いわばこちら側が意識して使っている状態です。ですが今後は生成AIが裏側で働いてくれるような仕組みを構築することが重要になると思っていまして。

都城市では庁内のデータを分析するためにBIツールを導入しているのですが、グラフが多すぎて、どの課題に対してどのグラフを見るべきかがわからないことがあります。なので現在、BIツールに課題を入力するとロジックツリーを作って、カテゴライズしてくれるみたいな流れを、生成AIが裏側でやってくれる仕組みを検証しているんです。

こういった仕組みのように、業務の裏側で自動的に生成AIが手助けしてくれる、意識せずに生成AIが動いているみたいな状況を構築することが次のステージだと考えています。

生成AI活用も含め、今後自治体はどのように業務改革を進めていくべきとお考えですか?

佐藤:私は自治体が忙しいという前提で、働き方を変えていくことが地域のためになると信じていまして。そういう意味で、生成AIに限らずいろいろな技術をキャッチアップしながら、業務効率を高めていくことが重要になると思っています。

特に地方においては自治体が民間企業よりも先にデジタルを活用して、地域を引っ張っていくくらいの姿勢が求められると考えています。実際都城市でも地域の民間企業から、生成AIの活用の仕方やセキュリティリスクへの対応などについて問い合わせを頂いているんです。

こうした問い合わせにもしっかりと対応し、地域を巻き込みながら率先垂範でデジタル化を進めることで、自治体だけでなく地域企業のデジタル化を促進できると考えています。

あとはデジタル化ばかりに囚われるのではなく、そもそも不要な業務を捨てるといった視点も必要ではないでしょうか。実態に合わない規則を変えたり、無駄な業務プロセスをなくしたりすることは、デジタル化と同等のインパクトがあるはずです。

すでに効率よく仕事ができている組織なら、無理してデジタル化なんてする必要はないんです。生成AIを含めたデジタルはあくまで手段であって目的ではない。自治体に限らずですが、業務改革に取り組む場合はこの点を間違えないようにすべきではないでしょうか。

最後に生成AIの活用などで悩まれている企業向けに何かアドバイスはありますか?

佐藤:生成AIの導入に限らずデジタル化を進めていく場合、高度なITスキルを持った人材が必要じゃないかと考える人も多いです。確かにそういった側面が全くないわけではありませんが、業務改革という文脈でいえば、「業務をよりよく変えよう」という強い気持ちを持った人材の方が重要だと思います。

ITスキルは外部リソースを活用すれば何とかなりますが、「業務変革を推進しよう、実現しよう」という強いマインドは外部から借りることはできません。また、デジタル化は一朝一夕で完結できる取り組みではないので、持続性のある熱量を持ってやり遂げることのできる人材は、社内に求められるでしょうね。

IT人材が不足しているからといって、業務改革を諦める必要はないんです。

マインド変革に取り組んで変革人材を養成するという方向に舵を取ることができれば、人材が不足している自治体や企業でも、生成AIの導入や利活用を軸にした業務改革を十分に実現できるのではないかと思います。

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