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課題意識を持つ有志による社内変革プロジェクト 大規模赤字の中立ち上がった有志企画、成功のポイントとは

取材日:2023/05/08

石油やガス、医薬、産業設備など、世界各地のプラント設計や建設を手がける千代田化工建設株式会社。大きな赤字を計上し離職者が増える中、会社を変革しようと立ち上がった有志の活動について、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 武田真樹さん

    武田真樹さん

    千代田化工建設株式会社

    ライフサイエンス事業部 兼 バリューイノベーション推進部

  • 五十畑優太さん

    五十畑優太さん

    千代田化工建設株式会社

    ライフサイエンスプロジェクト部ON13チーム

  • 角田伸弘さん

    角田伸弘さん

    千代田化工建設株式会社

    O&M-Xソリューション事業部ChASプロジェクトセクション 兼 人事部人財開発セクション

  • 松井瑛尚さん

    松井瑛尚さん

    千代田化工建設株式会社

    機械設計部静止機器セクション

この事例のポイント

  1. 社内変革を目指し立ち上がった、有志によるプロジェクト
  2. 社内ラジオ、プロジェクトマネジメント変革など次々に提案
  3. 思いを持った社員による自主的な改善、成功のポイントとは

自分たちで会社を変える、有志による企画「DIGLAB(ディグラボ)」

御社で立ち上がった社内変革の取り組みについて、概要や活動内容などを教えてください。

武田:正式名称を「次世代DIGGING LAB.」、通称「DIGLAB(ディグラボ)」といって、会社をより良く変えていきたいと考える社内有志による取り組みです。

名称の由来は、組織変革や改善に対して、主体的に行動できる“人財”を「ディグ」する(掘り起こす)という趣旨から付けられています。

社内の課題について解決策をメンバーが議論し、解決に向けたアイディアを経営層に提案するというプロジェクトで、2020年10月に約40名でスタートしました。3〜4か月間を1つの期として活動していて、現在、第4期の開始に向けて準備をしています。

どのようなきっかけで発足したのでしょうか。

武田:DIGLABができる以前、同じように会社の課題解決を目指して経営層に提言する、「未来創造室」というユニットがありました。これが、DIGLABのいわゆる前身のような存在です。

きっかけとなったのは、当時、中堅社員向けに実施された、会社の将来について考える人事研修です。そこで集まったメンバーの一部が、せっかくの議論を研修だけで終わらせるのはもったいないと、定期的に集まって研修で出たアイディアを膨らませていました。その後、経営層の座談会などの企画を実際に行い、2012年に未来創造室という名称で組織化されました。

未来創造室としてその後もいろいろな活動を続けていたのですが、2018年に当社が経営危機に陥り、まず何よりも経営を立て直すのが先だという雰囲気になり、徐々に活動が縮小し、開店休業状態となっていました。

赤字で離職者増加、このままではダメだという思いが行動に

その後、どういう経緯でDIGLABにつながったのですか?

武田:未来創造室として表立った活動はしていないものの、現状への課題を感じていたメンバー間での意識共有だけは続けていました。

併せて、その頃はちょうど、大企業の若手・中堅社員を中心とした約50の企業内有志団体が集う実践コミュニティである「ONE JAPAN」に加盟して様々な活動を行っていたのですが、私や当社のメンバー数人が、当時立ち上ったばかりの大企業挑戦者支援プログラム(CHANGE by ONE JAPAN)を受講していたんです。

その中で、社内を変えるためのアイディアや方法を学び、最も熱心だったメンバーを中心に、DIGLABの企画・運営を当社の経営層に提案しました。無事に会社の了承を得て、活動をスタートした、という経緯です。

「このままではダメだ」という意識があったとのことですが、具体的にはどのような課題感を持っていたんでしょうか。

武田:特に大きな赤字が出て経営が苦しくなって以降、離職者も増えていきました。

毎週のように、先輩や同僚たちが退職の挨拶に来て、それまで一緒に働いていた仲間が会社を離れていってしまう。当然、やるせない思いでいっぱいです。

私の場合は、この会社の良さや価値を残っている社員に改めて見つめ直してほしいと感じたことが、行動の源泉となりました。人によって、抱いている課題観や取り組みたいテーマは様々でしたが、会社を良くしたいという思いは同じだったと思います。

DIGLABは普段、どのような形で活動しているのでしょうか。

松井:4人から5人で一つのチームをつくり、チームごとに検討していきたいテーマを設定します。そして、毎年夏からその年の年末までの数か月間にわたり、テーマに沿って調査や社内外のヒアリングを行い、最終的に実現したいこと、会社側に協力して欲しいことを、社長含む経営層に向けて提案するまでが一区切りの流れです。

会社の業務に位置付けられているものではなく有志による活動なので、特に会社側から目標を設けられたり、給与の対象となったりしているわけではありません。そのため、昼休みや勤務が終わったあとの時間を使って活動している人が多いようです。会社をより良く変えていきたいという思いを持つ人たちが、自らの意思で活動するというのが大きな特徴です。

社内ラジオ、退職者との交流会など、次々と提案が実現

DIGLABの提案で、実現に至った企画などはありますか。

五十畑:私のチームでは、主に組織内の横断的なコミュニケーション強化などの目的で「社内ラジオ」を提案し、現在、実際に、収録と生放送の2パターンで社内放送を行っています。

それぞれ放送はどのような内容なのでしょうか。

五十畑:生放送のラジオでは、役員、管理職の方にゲストとして出演いただき、生い立ちやこれまで会社でやってきたことなどを、パーソナリティとの会話形式で話してもらいました。パーソナリティも社内の人間が務めたのですが、“生放送”なので、緊張して手が震えていましたね(笑)。

一方、収録ラジオは、チームメンバーでDIGLAB創設メンバーの一人が中東のカタールの現場におり、現場と本社のつながりを強くし、大型プロジェクトについてもっと関心を持ってもらおうという想いから現場ラジオを発足。現地で働く楽しさなどを研修に来ている新入社員から、若手のフレッシュな視点で伝えてもらう企画になっています。現在も、このラジオの放送は継続しており、今後もカタールの様子を伝える予定です。

放送してみて、社内から反応などはありましたか?

五十畑:ありがたいことに多くの人が関心を持ってくれて、たくさんの感想をもらいました。

お昼休みの生放送は、打ち合わせや外出で聴取できなかった人たちから、ぜひ聞きたいという意見も寄せられたため、放送後にも録音を聞けるようにしました。

特に若手社員が多く聞いてくれている点も、会社への関心の高さが見えてうれしかったですね。

いろいろな現場で働く皆さんの声を直接届けられるというのは、素敵な取り組みですね。ほかにも何か実施している企画はありますか?

角田:同じくコミュニケーションに関係する、アルムナイ・ネットワークという退職者と会社、現役社員、また、退職者同士をつなぐ取り組みを企画中です。私も武田と同じく退職者が多いことを課題に感じていたので、「同じ釜の飯を食った仲」といいますか、一度仲間として一緒に働いた人たちとのつながり、会社の垣根を超えたよい関係性が築けたらいいのでは、という発想から生まれた企画です。

まだ詳細は検討中なのですが、退職者と現役社員がオンライン交流サイトやオフラインの交流会で継続的につながって、お互いにプラスになる取り組みができればと思っています。

退職した方と交流してつながりを持つことで、会社にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?

角田:会社として分かりやすいメリットでいうと、退職者の再入社による採用コストの削減です。ただし、その点を第一目的としているわけではありません。

当社での目的は、退職者による意見を組織改善につなげたり、退職者と現役社員の双方の新たなつながりや事業におけるアイデアの起点になったりと、有益な情報共有の場となることだと考えています。

これまでに一度オンラインで交流会を実施したのですが、外から当社がどう見えているのかをフランクな雰囲気で聞けたり、当社で学んだことが外でも役に立っているという話が聞けました。今後も続けていくことにより、現役社員が会社に対して誇りを感じるようになったり、前向きになれる情報を共有していきたいと考えています。

ありがとうございます。いろいろな企画があるんですね。

武田:コミュニケーション活性化だけではなく、例えばプロジェクトマネジメントを改革する取り組みなど、より事業に近いものもたくさんあります。掲げるテーマは特に限定せず、参加者が感じている課題についてそれぞれが工夫をこらし、これまでに働き方やコミュニケーションの改善施策、新規事業などが提案されています。

「有志活動」を熱量高く続け、成功させるポイントとは?

DIGLABの設立当時は、まだ赤字からの回復途中だったかと思います。こうした有志活動よりも経営再建が先だ、事業に直結することに労力を割くべきだという声はなかったのでしょうか。

武田:もちろん一部にはあったのですが、社員の上に立つ役員が、DIGLABのような活動の必要性を理解してくれたことが大きな力になったと思います。

同じ失敗を繰り返さないための活動の重要性や組織を変えていく必要性を社内外にポジティブな発信をしてくれたんです。上の立場の人たちが前向きなメッセージを出してくれたことが、活動の大きな後押しになりました。

もうひとつ、実際に活動を社内に浸透させていくためには、ミドルマネジメントの理解をいかに得るか、という点も大きなポイントになってきます。どの部署も忙しくたくさん仕事を抱えているので、本業にも還元できるテーマをうまく設定するなど、DIGLABがプラスと感じてもらえる工夫をすることも、社内の理解を得る上で大切な要素かなと感じています。

DIGLABのように、社員が自主的に改善に向けて動く取り組みは、やりたいけれども人が集まらなかったり、作っても形骸化させてしまう企業も多いのではないかと思います。成功させるポイントは何かあるのでしょうか。

武田:まずひとつは、参加者の門戸を広げすぎない、という点を意識しています。前身の未来創造室のときは、誰でもどうぞという形で広く浅く参加者を募っていたのですが、参加者の熱量に差が出てしまったり、運営メンバーの一部にだけ活動が集中したり、というマイナスの面もありました。

そこで、有識者からのアドバイスもあり、DIGLABでは、まずは人数を絞ってアクティブに活動できる人たちだけでスタートしています。とはいえ、黙って待っていても思いのあるメンバーが次々集まってくれた訳ではなく、こちらから見て課題意識があるなと感じる社員に私たちから声をかけたというのが実情です。それでも、結果として40人もの人数でスタートを切ることができ、実績を積むことで二期、三期とすそ野が広がっているのを感じますね。

参加者に求める条件や基準のようなものはあるのでしょうか?

武田:「参加プレーヤーの⼼得10箇条」というのがありまして、例えば「必ず前向きに議論する姿勢を持って臨む」、「⾃らのアイデアに対して有⾔実⾏を⼼掛ける」、「つねにDOER(⾏動者)としてどう動くべきかを考えて活動する」といったものを掲げています。お伝えしたように、あくまで有志による活動なので、自分事として行動できるという点は大事にしています。

経験が大きな財産に 参加者を増やし活動自体も進化を

最後に、DIGLABの今後の展望、将来に向けてやってみたいことなどありましたら教えていただけますか。

松井:これまでの3年間の積み重ねもあり、経営層においては、DIGLABの活動に対する理解が深まっていると感じています。今後はさらに、自分たちと同じ一般社員やミドルマネジメントにDIGLABをもっと浸透させていきたいですね。先ほど武田からもあったように、特にミドルマネジメントからの賛同は活動を成功させる鍵となります。

仮にDIGLABの企画や学んだノウハウを自部署に持ち込んでも、直属の上司であるミドルマネジメントがDIGLABに懐疑的だと、十分な効果を得ることは難しいものです。しかし、ミドルマネジメントが積極的にDIGLABの活動を自部署に取り込んでくれれば、その効果を会社により深く浸透させることが期待できます。ミドルマネジメントをどんどん巻き込んで、DIGLAB発の企画をたくさん定着させていけるとうれしいですね。

社員の方たちに浸透させるために、計画している施策などはありますか?

松井:一つ検討してるのは、小規模イベントの開催です。現在のDIGLABのプログラムは、夏から年末にかけて非常に長い期間にわたります。その期間で通した活動ができないために参加を今まで遠慮していた社員がたくさんいたんです。第四期となる今年度は、小規模な講演会など、1日や半日で終わるプログラムを用意して、参加者を広げていけないかと検討しています。

私自身、入社してすぐにDIGLABに参加し、他部署の社員と人間関係が築けたほか、自分の課題意識を言語化して、解決に向け議論するという得難い経験をすることができ、DIGLABの経験が、自分自身の成長にもつながっていることを実感しています。

ぜひ多くの社員に参加してもらい、会社を一緒に変革していきたいと思っています。


【千代田化工建設株式会社の受賞・入賞歴】
心理的安全性アワード2022シルバーリング 受賞
HRアワード2022企業人事部門 入賞
キャリアオーナーシップ経営アワード2023優秀賞&審査員奨励賞 受賞

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ビズクロ編集部
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