“トリプルグッド”の秘訣は分業制とIT化 士業という枠にとらわれない組織改革で生産性を向上

取材日:2023/03/08

税理士や弁護士など幅広い士業のサービスをワンストップで提供しているトリプルグッドグループ。業界に先駆けてIT部門を立ち上げ徹底したIT化を推進。さらには業界でも珍しい、分業体制を構築するなど、売り手もよく、買い手もよく、社会にとってもよい、「三方よし(トリプルグッド)」を実現する革新的な組織づくりについてお話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 柴田志穂さん

    柴田志穂さん

    トリプルグッド株式会社

    執行役員

この事例のポイント

  1. 業務品質と働き方への満足度を両立した「IT化×分業制」
  2. 人材の即戦力を推進した「適性×分業制」

社内コミュニケーションの活性化でサービスの質を高める

働きやすい職場づくりという点で取り組まれていることはありますか?

柴田:まず当社は、社内コミュニケーションや人とのつながりを非常に大切にしています。

そこで、社内にバーカウンター付きのラウンジスペースがあり、もちろんお客様とのミーティングにも活用するスペースですが、社内の懇親会なども定期的に開催し、社内交流に役立てています。

毎年1回、ボジョレーヌーボーの解禁日に社員が集まってワインを飲むといったイベントもあり、これは、必ずその年の新入社員が企画に参加する慣わしになっています。

まるでホテルのラウンジのような空間は、ゲストとの打ち合わせだけでなく、社内コミュニケーションの活性化にも役立てられている。

ここまで“本格的”なラウンジスペースを設ける企業はなかなか珍しいですよね。福利厚生以外の意味もあるのでしょうか?

柴田:当社は士業の業界でも珍しく分業制を採用していて、決算書などの書類作成をおこなう部門と、顧客対応部門が分かれています。また税理士、弁護士、社会保険労務士や行政書士など多様な専門家が集結しています。

先ほどの社内コミュニケーションを重視する部分にもつながりますが、そのような組織体制でワンストップサービスを提供しようとすると、どうしても部署間や社員どうしの連携が必要になります。

ラウンジスペースを設置し、社員同士の気軽なコミュニケーションを活性化することで社内の連携がスムーズになり、結果的にサービスの品質を高めることができると考えています。

連携強化においては、「社内横断プロジェクト」もあるそうですね。詳しく教えてください。

柴田:社内横断プロジェクトは、部署の垣根を超えたチームによる様々なプロジェクトの推進です。

例えば、求人媒体の選定から求職者のサポートまでをおこなう、新卒採用のプロジェクトチーム。また、繁忙期の業務を見直す業界改善プロジェクトチームなどです。

プロジェクト自体は、会社全体に対する影響度を考慮して推進するか否かが検討され、チームメンバーは、社内の有志によって結成されます。新入社員が参加することもあり、やりがいの創出や課題発見力の向上など、育成の面でも貢献度の高い取り組みになっていると感じています。

そのほか働きやすさと生産性を向上するための制度はありますか?

柴田:福利厚生として、会社の近隣に住む社員の家賃負担をサポートする「ワークライフバランス手当」という制度があります。

本社が都心部にあるので、家賃を補助することで時間や労力のロスをなくすことが狙いです。利用者も多く、これまでの施策の中で一番好評だったかもしれません。また、計画的に仕事をしてほしいということで「NO残業デー」を設け、社員自ら残業しない日を設定しています。結果的に周りの目を気にして帰りにくい雰囲気が解消され、全体の残業時間を大幅に削減することができました。

士業の業界は、残業時間が多く、時期によっては休日出勤も頻繁に発生するなど、ハードワークな傾向にあるのですが、同業他社から当社に転職した社員の中には、当社の「ホワイトさ」に驚かれるケースも少なくありません。

適性×分業であらゆる人材の即戦力化を実現

人材育成についてはどのように取り組まれていますか?

柴田:新入社員でも1年で税務の担当者として独り立ちできるようなプログラムを組んでいて、専門知識、顧客対応やITスキルなどを学んでもらうほか、士業は資格試験と現場での実務が違ったりしますので、お客様にきちんと説明できるようロープレや口頭試験など、実践スキルの育成を重視しています。

業界未経験者の採用も増えていますが、当社は分業制により決算書などの書類作成チームと顧客対応チームが分かれているので、どちらの適性があるかということを見据えつつ、採用することもよくあります。

そのため適性や希望を考慮した採用と分業による人材配置といった一連の流れは、未経験者の即戦力化という面でも、成果が得られていると感じていますね。

ITチームの内製化でスピーディーに業務フローを改善

徹底した業務のIT化も、御社の生産性を支える鍵になっていますね。具体的には、どのようにIT化を進められたのでしょうか?

柴田:業界に先駆けて、社内にIT化を推進する専任のチームを設置しました。

具体的な進め方については、業務内容を洗い出してそれぞれにかかっている時間を測り、かかっている時間が多いものからIT化できる作業かどうかを検証する会議を定期的に開いています。IT部門の内製化により、ITツールの比較検討から導入して運用するまでがとてもスピーディーになりました。

IT化しにくい作業もあると思いますが、どのように対応していますか?

柴田:基本的に士業の業務はマニュアル化しやすいのですが、判断が分かれるような難しい案件はまだまだ人のスキルに頼っている面もあります。ただ顧客対応などもマニュアル化できる部分はしていて、例えば「こういう内容だったら上司に相談する」というように具体的なシーンを想定した対応策を用意しています。

IT化だけでなく、マニュアルによる業務の標準化を推進することで、クライアントのビジネスモデルを理解したアドバイスなど、より付加価値の高い業務に注力していければと思っています。

分業制だからこそできる柔軟な働き方で社員が定着

「働き方」の面で取り組まれていることはありますか?

柴田:働き方への希望は、できる限り社員の意見を聞いて、柔軟に対応するようにしています。

誰でもライフステージの中で、仕事に対する優先度は変わっていくと思います。それを踏まえて、会社としてはいかに長く働いてもらえるかということを考え、そのための環境を作ることが大事です。長く働いてもらえれば当然スキルが高くなりますし、結果的にお客様の満足度を上げることにもつながります。

社員さんからは働き方についてどのような意見があるのでしょうか?

柴田:例えば両親の介護や子供の送り迎えなど、プライベートの事情で出勤時間を調整してほしいという声があります。こうした要望は、なかなか言い出しにくいものだと思いますが、当社は毎月1回のペースで1on1の面談をしていて、ふだん言いにくいことでも言える体制を整えています。

産休や育休に関する制度利用は、100%希望が通りますし、子育てからの復帰についても社員の希望によって総合職、パートや内勤など復帰後の働き方が選べます。公私のバランスをとって社員の皆さんに長く当社で働いてもらいたいと考えています。

配属部署についても社員本人の意見が反映されるのでしょうか?

柴田:もちろん、個人の全ての意見が通るというわけではありませんが、適性と本人の意見が考慮されることは多々あります。例えば、顧客対応がうまくいかなかったら、バックオフィス部門へ異動したり、その逆もあります。

また、適性に応じたジョブチェンジに対しては、社内の雰囲気としてもマイナスイメージは少ないように感じます。ただ、入社時には適性試験をおこなっており、客観的なデータも加味したうえで配属部署が決定されるので、実はミスマッチが起きるケースはあま多くはないんです。

分業制が「ミスマッチの低さ」に役立っているということもあるのでしょうか?

柴田:まさに、そうですね。一般的に士業は、顧客対応と事務作業のスキルが両方必要となりますが、分業制であれば、どちらか一方のスキルに特化して働くことが可能になります。

採用面のメリットもありますし、長く働き続けるうえでも、本人が「得意分野」に注力できるのは大きい。仕事へのエンゲージメントを保ちやすくなりますし、その結果、当然なが、業務の高い質にもつながっています。

「360度評価」と「クレドカード」で人事評価の客観性を保つ

人事評価についての取り組みはいかがでしょうか?

柴田:毎年2回の人事評価のうち7割は、クライアントからの総報酬や契約解除率など数値化できる定量評価です。残りの3割は「360度評価」により、直属の上司だけではなく同僚、部下、さらには関わる他部署の社員から評価を受ける定性評価となります。

「360度評価」では何を評価基準とされていますか?

柴田:社員全員が持っている「クレドカード」に会社としての行動指針が記載されていますので、それが評価基準となります。

行動指針の一例を挙げると、お客様優先での行動、コンプライアンスの遵守、サービススピードへのこだわりなどがあります。それらを各部署の業務に当てはめて評価する仕組みです。クレドがなければ、上司に気に入られているだけで昇進できる可能性もありますが、会社の行動指針を評価基準とすることで客観性を保つことができます。

クレドを作ることでほかに良い影響はありましたか?

柴田:社内で共通言語をもてるようになったのが大きなメリットです。例えば「他責封印」という行動指針があり、誰かが人のせいにする発言をした際に「他責になってるよ」という会話ができます。

上司が部下に注意する時も、クレドがあるおかげで理解してもらいやすいようです。採用面でも「ミッション採用」を掲げてクレドに沿った人材を選んでいますので、社員の足並みがそろい会社としての方向性が定まりやすくなっていると感じています。

多様な価値観を尊重し、働きやすく働きがいのある職場へ

会社としてこれからのビジョンを教えてください。

柴田:「中小企業の100年経営で、日本を元気に!」をミッションとして掲げ、これからも引き続き中小企業の黒字化を支援していきます。

中小企業の経営者にとっては相談したい内容が税務のことか法務のことか分からないという場合も多いので、強みであるワンストップサービスの提供により「まずはトリプルグッドに相談してみよう」と思ってもらえる存在になりたいですね。

また、時代の変化にもうまく対応しなければなりません。最近ではユーチューバーやインスタグラマー向けにインボイス制度のセミナーを開催するなど、新たな取り組みも積極的におこなっています。

働き方についてはどのようなゴールを目指していますか?

柴田:多様性を尊重するためには、社員全員を一律で評価するのではなく、それぞれのライフステージや価値観を考慮して、会社と社員がお互いにWin-Winの関係性でいられるあり方を見い出し続けなければなりません。

そのためには業務を標準化して誰でも一定の成果を出せるような環境を整えたり、上司のコミュニケーション能力を伸ばしてチームの生産性を高めることも大事です。高い社員定着率を確保できている現在の施策も、必要に応じて見直しつつ、これからも働きやすく、働きがいのある会社を追求していきたいですね。

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