英断ではなく必然のリモート×フルフレックス 社員のライフスタイルに合わせた働き方を実現する秘訣

取材日:2023/05/10

法人向けのAI/DXプロダクト、AI/DXソリューション、個人向けのAI/DXリスキリングの提供を通じて、デジタル変革伴走型支援事業を展開している株式会社アイデミーでは、テレワークとコアタイムなしのフルフレックス制度の導入により、社員それぞれが個々のライフスタイルに合った働き方を実践しています。極めて自由度の高い働き方を実現するに至った背景や運用面でのポイントをお聞きしました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 吉田成志さん

    吉田成志さん

    株式会社アイデミー

    コーポレート本部/人事部 部長

  • 高野いづみさん

    高野いづみさん

    株式会社アイデミー

    事業本部/BizDev&Premium事業部 広報・事業開発グループ 広報担当

この事例のポイント

  1. リモート×フルフレックスで実現する高自由度の働き方
  2. 積極的投資によるコミュニケーション活性化
  3. 管理職による率先取得で男性の育休を推進

メンバーそれぞれが、主体的により良い働き方を追求

現在の自由度の高い働き方は、いつ頃からどのようにして構築されてきたのでしょうか?

高野:以前は、オフィス出社を前提とした10時から17時のコアタイム制を設けていました。10時からの全社会議には必ず参加するといったルールはありましたが、いわゆる定時はありませんでした。

ただ、テレワークを一切禁止していたということはなく、最高気温が36℃以上の猛暑日は在宅勤務を許可するなど、柔軟な働き方を認める風土は当時からあったと思います。なので、夏場は、朝起きたらまず天気予報をチェックするというメンバーもいましたね(笑)。

当時のコアタイム制には課題もあったのでしょうか?

高野:当社は個人向けと法人向けのサービスがあり、それぞれに業務時間帯が異なります。個人向けサービスの問い合わせでは、夜間対応も含まれるためコアタイムの概念にズレが生じてきました。10時には必ずオフィスにいなければならないというコアタイム制から考えると、自然と一部の社員は長時間拘束されてしまうのです。

この問題については、夜間対応を伴う社員のみコアタイムを13時から16時に変更することで対応しました。

そして2020年2月、コロナをきっかけに全社的にテレワークを導入。2パターンのコアタイムに加えて、出社と在宅勤務が入り混じり、勤務体系がさらに複雑になってしまいました。自分にはどの制度が適用されるのかわからないという社員も出るなど、現場が混乱してしまったんです。

そこで検討を重ね、最終的にコアタイムを撤廃するという決断に至りました。

社内の反応はいかがでしたか?

高野:時間の制約がなくなったことに対するポジティブな反応もありましたが、コアタイムを撤廃して間もない頃は、本当にこれまでと同等、あるいは、それ以上のパフォーマンスを発揮できるのだろうかと不安に感じていた社員もいたと思います。

実は、私自身も解放感というよりはむしろ戸惑いを感じていました。

たとえば、ミーティングの時間はいつが適切なのか、急なミーティングが必要になった場合に、担当者が不在だったらどのように対応すれば良いのか、といったことに不安を感じた社員も一定数いたと思います。

どのように改善していったのですか?

高野:紆余曲折ありましたが、いろいろなオンラインツールを活用することで改善していきました。その中で、特にチャットツールやGoogleカレンダーによる勤務状況の見える化は重要な役割を果たしたと思います。

カレンダーは、決まった予定のほか、集中して作業したい時間帯は「作業のためミーティングNG」、「私用のため離席」といった予定も入れるようにし、スムーズなコミュニケーションに役立てています。

このような運用に関しては、会社からも最低限のルールを提示しましたが、メンバー自身がより良い働き方を模索する中で、自然発生的に文化になっていった部分が大きいですね。それぞれが、フルフレックスでいかに生産性や効率を上げていくかを主体的に実践した結果だと思います。

優秀な人材の採用とキャリアの再構築をサポート

業績も社員数も右肩上がりに伸びています。柔軟性の高い働き方を導入して良かった点を教えてください。

吉田:人材確保の間口が広がった点は、実感としてあります。働く場所や時間が自由になったことで、子育てや介護といった事情や居住地などから、働くことを諦めてしまったり、希望する仕事を諦めてしまったりする優秀な人材は少なくありません。

そのような方々にもジョインしていただけるようになったのは、大きな成果だと思います。実際に、日中仕事をして、中抜けで子供のお迎えなど家庭の用事を済ませて、夜の時間帯に仕事に戻る、といった働き方をしている社員もいます。

当社には、エンタープライズ企業の顧客も多いのですが、そのような取引先はミドル世代の管理職の方も多く、当社としてもベテランのセールスパーソンに担当してもらうことでコミュニケーションが円滑に図れるケースもあります。働き方の柔軟性を高めることで、様々な人材に集まっていただけるようになったのは、事業にとってもプラスになっていますね。

そのほかはいかがですか?

吉田:働く場所を選ばないため、居住地によることなく優秀な人材が採用できるのもメリットです。また、原則テレワークとなったことで、地方に移住したり、家庭の事情で実家に戻ったりする社員もいるなど、さまざまな働き方の提供が、長く働き続ける環境にもつながっていると感じています。

コアレスにしたことで、新たに発生した課題もあるのでしょうか?

吉田:オフィスに出勤し、定時で働いていると、お昼の時間も決まっていますし、周りの雰囲気から働くリズムも整いやすいのですが、リモートかつフレックスでは、全て自己管理しなければなりません。

もちろん会社として勤怠管理はしていますが、働き過ぎてしまうことのないよう繰り返し伝えています。特に、残業時間や深夜労働については週次で役員に共有し、過重労働になりそうな場合は、本人、上司、管掌役員にまで注意喚起する運用を徹底しています。

社員のコミュニケーション活性化に対して積極的に投資

コミュニケーションで気をつけられていること、などはありますか?

高野:たとえば、テキストコミュニケーションは、可視化された情報として残るというメリットの反面、相手の感情が見えないことから、些細な誤解が生まれやすいデメリットもあります。

そのため私個人としては、なるべく感情が伝わるようなコミュニケーションを心がけています。また、誰かの何気ない投稿にも積極的に返信したり、絵文字などでリアクションを示したりするなど、みんなで気軽に反応しようとする姿勢は社内全体で持っていると感じますね。

コミュニケーションを活性化させるための取り組みについて教えてください。

吉田:コミュニケーションの活性化には積極的に投資しています。 たとえば、新しく入社したメンバーとランチする場合、入社から1か月間はランチ代を補助したりなどですね。テレワークを導入しているとはいえ、やはりオフラインでの交流にも良いところはあるので、出社に対するメリット付けをする施策として意識しています。

また、懇親会や同好会の費用補助も行っていて、形骸化することなく多くの社員に利用されていることからもコミュニケーションの活性化に役立っているといえると思います。

どのような同好会があるのですか?

吉田:ゴルフ部やジャグリング部などの趣味のほか、みんなで温泉に行ったりと、いろいろな同好会があって活動は盛んです。

フットサル部もあり、入社したばかりの社員から役員まで、所属や役職の垣根をこえたメンバーが一緒になってプレーしています。先日は大会にもエントリーするなど、楽しそうな写真が同好会の活動報告として共有されていました。

「エジソンより失敗しよう」文化で挑戦を促進

最近、御社の3つのバリューに「Top Speed」が、新たに加わったとお聞きしました。

高野:そうですね。もともと「Client First(すべてはお客様のために)」、「Scientific Mindset(科学者たれ)」、「One Aidemy(信頼と尊敬)」という3つのバリューがあって、2022年6月に「Top Speed(爆速、その先の成長)」が加わりました。

バリューに加える前から、スピード感を持って動けているメンバーは多くいましたし、暗黙の価値観にはなっていたのですが、曖昧にするのではなくしっかり明文化しようと。

吉田:議論を始めてから、それこそトップスピードでバリューに加えました。

たとえば、当社では、人事評価は半期ごとに行うのですが、3か月程度経過して、その目標を追いかける意義がないと判断したら軌道修正するように人事側で推奨しています。

スピード感をもって対応していきたいという1つの事例です。

「Scientific Mindset」はユニークですよね。

吉田:「Scientific Mindset」は「事実やデータに対して素直に向き合いながら、常に挑戦しよう」というメッセージが込められています。

高野:事実に基づいた正確な判断力や知識・能力の維持向上に努める姿など、科学者の基本姿勢をリスペクトする風潮は職種を問わずアイデミーの根幹に流れていると思います。「Scientific Mindset」というバリューに共感している人は多いですね。

吉田:もちろん、事業としてやみくもな挑戦を許すということではありませんが、社会を前進させるという意思のもと、一定の事実に基づいた挑戦であれば、どれだけ失敗しても諦めずにトライし続けようということです。

失敗を恐れるな、ということですね。

高野:失敗歓迎は、社長の石川(聡彦氏)も個人のポリシーとして掲げていて、「エジソンよりも失敗し続けよう」と以前から言っています。

ちなみに、入社した際には、提出するプロフィールの中に「今までの失敗」を書く欄があって、入社したタイミングで自分の大きな失敗を冗談交えてさらけ出せるのでコミュニケーションを取るきっかけにもなっていますね。

挑戦を賞賛し、たとえ失敗したとしても、その経験を活かすプロセスを大切にする文化は確かにあると思います。

自由度の高い働き方の鍵を握るのは中間管理職

他社が御社と同じような働き方を実現したいと思った際に気をつけるべきポイントを教えてください。

吉田:中間管理職の立ち振る舞いが非常に大事だと思います。

制度を活用した柔軟性の高い働き方は社員に認められた権利ではありますが、もちろん企業としては事業成長を維持できる組織づくりをしなければなりません。業務上、必要なマネジメントはしっかりと中間管理職がリーダーシップを発揮することが重要です。

秘訣はありますか。

高野:中間管理職だけでなく、メンバークラスの社員もですが、遠慮しすぎないことも大事ですね。

たとえば、カレンダーにブロックが入っているからという理由で諦めてしまうと仕事が滞ってしまい、組織の成長スピードにも影響が出てくると考えています。そういう場合は、一度相談してみたり、急を要する事案であれば、予定を開けてもらうように働きかけることも必要になってくるのでしょう。

相手に気を遣いすぎたり遠慮しすぎたりせずに、プロジェクトを前進させるという共通認識を持つことだと思います。

社員のキャリア開発を推進する柔軟な働き方を実現

次に男性の育児休暇についても教えてください。

吉田:男性の育児休暇は、ご家庭での判断で取得を希望しない社員もいるので、該当者から見ると半数以上が男性育児休暇を取得している状況です。

ただ、希望した場合は、もちろん必ず取得できますし、男女を問わずですが、育休が取りにくい雰囲気や環境は全くありません。要因としては、男性の管理職が率先して育休を取得しているのが大きいと思います。育児休暇を取得していなくても、カレンダーに「育児のためのブロック」が入っている男性社員も多いですし、夕方、子供のお迎えに行くと伝えて業務を一旦離席する社員もいたり。男性社員も子育てとのバランスを取りながら働くことが当たり前な風土ができていると思います。

管理職による率先した休暇取得は、実務の上で大変な面も多いのではないですか?

吉田:「管理職が抜けたまま」だと、確かにきついです。

ただ、当社の場合は柔軟に組織変更をしつつ、臨機応変に対応できていると思います。休暇取得の実績も豊富なので、一時的にキャリアが途切れてしまうことに対して不安に感じている社員もいませんね。

キャリアブレイクについては、ライフステージの影響を受けやすい女性社員においても不安はあるかと思います。その点は、いかがですか?

高野:あくまで私が感じていることですが、キャリアに対する考えを最大限尊重してくれる会社だと思っています。

たとえば、お子さんがまだ小さい中で入社した女性が現在、執行役員を務めているように、管理職を目指すことも可能です。一方で、上を目指すというよりは、ライフスタイルとのバランスを取りながら働きたいという考えを持っている社員もいますし、自分に合った働き方で、長く働けるイメージは持ちやすいですね。

最後に、今後の組織づくりで重視していきたいポイントを教えてください。

高野:コミュニケーション強化に関しては、まだまだ改善の余地があると感じているので、これからも新しい仕組みや施策の導入を含め注力し続けたいと思っています。

吉田:そのほか、多様な働き方を実現する一方で、組織としての一体感を高めることも重要です。

そのためにはオンライン・オフラインを問わず、できる限り交流の場を維持していきたいですね。インナーコミュニケーション施策は、これからさらに大事になってくると思うので、社内のメンバーと議論を重ねて丁寧に扱っていきたいです。

次に読みたいおすすめ事例

ビズクロ編集部
「ビズクロ」は、経営改善を実現する総合支援メディアです。ユーザーの皆さまにとって有意義なビジネスの情報やコンテンツの発信を継続的におこなっていきます。