世の中を変える、組織と個人が輝く新しい働き方 攻めと守りの苦労を乗り越え、事業を成功に導いた秘訣とは

取材日:2023/06/27

国内におけるクラウドソーシングサービスのパイオニアともいえる、株式会社mitoriz。クラウドソーシングという言葉さえ一般的ではなかった時代に、いち早くその可能性に目をつけ、数々の苦境を乗り越えながらも事業を成功へと導きました。「キャスト」、そして、社員の働き方まで向上した、その成長ストーリーを紐解き、斬新なアイデアが生まれる組織文化に迫ります。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 木名瀬 博さん

    木名瀬 博さん

    株式会社mitoriz

    代表取締役社長

この事例のポイント

  1. 創業当初の苦労を乗り越えたのは「なんでもやってみる精神」
  2. 得意×業務のマッチングで、質の高いアウトプットと働きがい両立

優秀なパート社員の可能性を信じて新たな事業モデルを創造

はじめに、御社のフィールドマーケティング事業の内容を教えてください。

木名瀬:パートタイマーではなく、登録者は個人事業主として契約し、自身の裁量で働くという「新しい働き方」を展開する事業です。

「クラウドソーシング」という言葉がまだ一般的ではなかった2004年、当社はそれをフィールドマーケティング事業という形でスタートさせました。

個人事業主として登録して働く皆さんを「キャストさん」と呼び、店頭販促やフィールドリサーチ、営業支援などの依頼内容を企業から当社が業務受託し、さらに、当社からキャストさんに業務委託として依頼しています。

企業にとっては、いわゆるアウトソーシングの一種になると思いますが、御社のサービスは、どのような特徴があるのでしょうか?

木名瀬:普通の委託事業とは異なり、当社が依頼企業と働きたい人の間に入ることで、サービスの品質管理をしっかり行う点が、大きな特徴です。

また、依頼企業とのやり取りは、全て当社が巻き取り、キャストさんが働きやすい環境を提供することで、キャストさんは、仕事に集中しつつ、安心して働けるという利点があります。

事業発案のきっかけはなんだったのでしょうか?

木名瀬:私自身、長らくアサヒビールに勤めていたのですが、その時の体験というか、経験がきっかけになっています。

当時は、酒類流通がいわゆる町の酒屋さんといった小売店に限られていたため、全国各地の小売店を回り、オーナーとコミュニケーションをとって、より良い販売環境づくり(ラウンダー業務)を行う、「マーケットスタッフ」と呼ばれるパート社員の女性たちが1500人以上いたんです。

彼女たちは、とても優秀で、経験や自分なりのノウハウを駆使して、売上に大きく貢献していました。

しかし、さまざまな要因から、人員の適正化をしなければならなくなってしまい...。

どのような背景があったのですか?

木名瀬:理由は、一つではありませんが、酒類の流通構造が大きく変わったこと、また、業務効率化の重要性が高まり、システム化が推進されたことなどが挙げられます。

そのような環境の変化を踏まえて、必要な人員を試算したところ、約半数の人員に絞る必要があるという結果が出たんです。その時、ラウンダー業務を行うマーケットスタッフさんを管理する立場にあった私には、当然、人員を見直し、組織の再構築を図る命が下ったのですが、正直、本当に苦しかったです。いきなり「辞めてください」なんて言えるものではありません。

それで、「わかりました。でも、個人個人を評価した上で、マーケットスタッフさんが納得できる形で進めさせてください」と、会社側にお願いしたんです。

なるほど。実際、どのように取り組まれたのですか?

木名瀬:それまで、マーケットスタッフさんの管理は、業務開始時に電話でその旨を報告、そして、1日の行動を簡単な日報で提出する。報酬は一律の時給で計算といった感じで、緻密な管理や評価は、あまりしていなかったんです。

ですから、まずは行動と成果をしっかりとマネジメントするようにしました。

さらに私自身が、高い成果をあげているマーケットスタッフさん、一人ひとりについて回り、その人たちの行動をじっくり観察し、行動特性として可視化。76ものチェック項目を作り、これをもとに生産性の算出や適切な評価ができる体制を整えたんです。

そのうえで、目標値を設定し、定められた期間、続けて目標をクリアできていないマーケットスタッフさんに関しては、今後について双方で話し合う機会を持つようにしました。

これまで電話1本と簡単な日報で済んでいた業務報告が、大きく変わったわけですから、その変化を理由に辞められた方もいました。

「辞める」という決断を聞く時の心苦しさは変わりませんが、それでも、会社からいきなり通達されるような辞め方よりは、納得度はあったのではないかなと思っています。

結果としては、人員の見直しができたということなのでしょうか?

木名瀬:そうですね...。ただその一方で、生産性や成果を測る仕組みづくりを進めたことで、マーケットスタッフさん達が、いかに生産性が高いかも客観的に把握することができたわけです。

一つの指標を例に挙げると、正社員とマーケットスタッフさんの生産性を調査したところ、マーケットスタッフさんの方が4倍も高いという事実がありました。

正社員の4倍とは、非常に高い生産性だったわけですね。

木名瀬:はい。その事実を知ってからは、マーケットスタッフさんがパート契約社員だからといって、現状の業務に必要な人員が限られているという理由で辞めさせてしまっていいのか?と、ますます葛藤するようになりました。

もちろん会社員としては、組織の指示に従うという選択をすべきでしょう。経営判断として、必要なことだったわけですから...。ただ、“私”としては、生産性の高いマーケットスタッフさん達が働けなくなってしまうことを見過ごせなかったわけです。

彼女・彼らの能力を活かし、これからも仕事を続けてもらう方法はないかと模索した中で辿り着いたのが、「フィールドアウトソーシング」という事業形態でした。

構想を練って、多くのメーカーと情報交換をしたところ、ニーズがあることがわかりました。当初はアサヒビールの子会社として事業会社化を検討しましたが、子会社としての事業化が難しい事情があり、アサヒビールの独立支援制度を利用して第1号事業として独立したという経緯です。

挫折を乗り越えた成功の秘訣は「まずはなんでもやってみる」

ニーズも把握した上で起業されているため、最初から順風満帆だったのでしょうか?

木名瀬:いいえ、創業当初は売上にかなり苦戦しました。

また、育児や介護といった事情を持つ女性にとっても、より良い働き方を提供したいと考えていたので、起業した際には、従来の時給制ではなく、新たな報酬制度として、訪問単価制の報酬の仕組みを導入し、「場所」「時間」「種類」「量」を自由に選択して、働けるようにしたんです。まさに、現在のクラウドソーシングの仕組みです。

当時、斬新とされたビジネスモデルだけでなく、新たな働き方の提供にも挑戦されたわけですね。

木名瀬:かつてないビジネスモデルと報酬の仕組みを携え、営業をスタートしたのですが、事業内容と雇用制度、両面の「常識」との違いに苦しめられることになりました(苦笑)。

我々はお客様の業務を切り出し、適したスキルを持つキャストさんに業務単位で発注することで、お客様にとって固定費や交通費などの削減を促しつつ、キャストさんは場所・時間を自由に選択して働けることが魅力だと考えていました。

しかし、いくら内容を説明しても、最後に「それで、時給はいくらなの?」と聞かれてしまう。旧来の「時給」ベースで仕事を考えるお客様を自分たちの土俵まで連れてくる、自分たちの事業モデルの理解を広める、それだけで5年ほどはかかったように思います。

5年もの間、思うようにはいかなかったのですね。どのように乗り切ったのでしょうか?

木名瀬:ひたすら営業です。それまでは、大企業に在籍していた自負もあり、やや高飛車になっていたのかもしれません。反省し、自分たちのやりたいことを実現するためにも「NO」と言わずにチャレンジする姿勢を持ちました。まずはなんでもやってみるというつもりで営業活動を行い、そこから体制を整えていく形で組織化していきました。

とはいえ、当初は手探りでした。社内体制が整っておらず社員に負荷がかかったり、お客様に迷惑をかけてしまったこともあります。ただ、紆余曲折を経て、組織体制が整うようになってからは、事業に対する評価に比例して、売上も右肩上がりに成長していきました。

関わる人々すべての働き方改革を常に時代先行で考える

攻めの売上と、守りの体制構築の両面を並行して進めていかれたのですね。その後、お客様や社会からの反応はどうでしたか?

木名瀬:社内の体制も整った2009年頃、幸いにもメディアに大きく取り上げられる機会をいただいたんです。

おかげで、キャスト登録への応募が急増し、一気に5000人近くの登録者が集まったことで、事業も急拡大していきました。

キャストが急増したことで、キャストの個々の能力を活かしたマッチングなども進められたそうですね。

木名瀬:会社が成長しキャストさんの人員が増加するにつれて、個々の能力や得意不得意の多様性も見えてきました。

そこで、より得意分野での活躍の機会を増やせるよう、新しい仕事の創出に着手しました。例えば、コミュニケーションが苦手な方には、店舗巡回や試飲・試食などの推奨販売ではなく、覆面調査といった役割、また、まだお子さんが小さく外出が難しい方には、データのチェックなどの在宅作業をといった具合です。

こうしたキャストさん一人ひとりの能力を最大限に活かすマッチングは、質の高いアウトプットと、やりがいや働きがいの創出、双方の両立につながっているのではと思います。

社会のニーズをいち早く察知し、事業化する秘訣

現在はどれくらいの事業規模になっているのでしょうか?

木名瀬:クライアントは350社超にまで増え、登録されているキャストさんは10万人を超えています。

また現在は、膨大な消費者データを活用したデジタルマーケティングソリューション事業も展開しているのですが、その一つであるレシートデータの収集では、レシートデータを投稿するアクティブユーザーが50万人程となっています。

そのほかにも、社会問題となっている廃棄ロスやフードロスの削減を目的として、販売が困難な在庫品を買取り、会員限定ECサイトで販売する「買っトク!Ponta」という事業を行っています。登録者はサービスのローンチから約半年ほどで2万人程となり、売上も順調に伸びています。

さまざまな事業を展開されているのですね。社会のニーズをキャッチして事業化していくその目利き力は、どのように養っているのでしょうか?

木名瀬:私の実家は酒屋を営んでいて、商売人の父の背中を見て育ったことが大きいかもしれません。

私が幼い頃、父がお店の自動販売機横に置いていたゴミ箱に捨てられていた空き缶をチェックしていたんです。何をしているのかと尋ねてみると「この中に捨てられている空き缶はお客さんが他所で買って飲んでいた飲み物だ。よく飲まれている商品をうちの自動販売機に入れれば売れるだろ」と。父なりのマーケティングですよね(笑)。そんな姿を見ていたので、人の動きや世の中の流れを常に意識するようになったのだと思います。

今、経営者として、組織づくりの上で大切にしていることはありますか?

木名瀬:リーダーの考え方として、次の3つを重要視しています。

1つ目は、「太陽のように熱を放つ」ことです。社員にもその熱を感じてもらい、それぞれが熱量高く仕事に取り組んで貰えるように心がけています。

2つ目は、「フォローミー」という考え方です。リーダーのタイプにもよるかと思いますが、私自身が高座から指揮を取るより、真っ先に先陣を切ることで、社員にも様々なチャレンジをしてもらいたいと考えています。

3つ目は、「ガイド役」になることです。事業を登山に例えたとして、知識や体力が劣る人たちや装備の整っていない人たちが集まることもあるでしょう。事業を成長させるにあたっては、そういった人=社員とパーティーを組んで、高い山を目指すことになります。

その途中で、もし誰かが降りたいと言うのであれば、押し付けることなく降りてもらうケースもあるかもしれない。しかし、登りたいという社員に対しては、その社員が登れるように手助けしながら、必ず自分の足で頂上まで登れるよう導くことが私の役目です。そして、頂上に到達した後、全員に達成感を得てもらい、新たな世界を見るために一緒に次のステージへ進んでいきたいと考えています。

この3つの考えは、常に大切にしています。

次に見据えるのは、地域活性につながる新たな挑戦

今後の展望を教えてください。

木名瀬:現在の事業を継続するのはもちろん、社会に貢献できるような取り組みにも挑戦していきたいと考えています。具体的には、少子高齢社会になり、地域の過疎化が進むなかで、地域コミュニティの維持の一助となるような取り組みです。

例えば、キャストさんが買い物に行ったり、ネットが使えない高齢者と一緒に談笑しながら、ECで買い物をするなど、地域の暮らしや生活を支えるお手伝いは、地域コミュニティの維持にもつながると思っています。

そのような、地域活性につながる新たな挑戦もどんどんしていきたいです。

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