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リモートワーク時代に再考するオフィスの在り方 “出社したくなるオフィス”が社員のエンゲージメントを向上

取材日:2023/09/29

空間の総合プロデュースを手掛ける株式会社乃村工藝社では、大規模なオフィス改革に取り組み、そのユニークなオフィスは社外からも注目を浴びています。今回は、出社したくなるオフィスづくりの秘訣、そして、オフィス改革がもたらした変化を教えていただきました。
※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 加藤悟郎さん

    加藤悟郎さん

    株式会社乃村工藝社

    乃村工藝社グループ拠点集約プロジェクト プロジェクトリーダー(当時)/ フェアウッド・プロジェクト リーダー 経営企画本部 経営企画統括部 経営企画部/部長

  • 中川 南さん

    中川 南さん

    株式会社乃村工藝社

    乃村工藝社グループ拠点集約プロジェクト プロジェクトマネジャー(当時)/ 経営企画本部 事業管理統括部 事業戦略部/主任

この事例のポイント

  1. 偶発的なコミュニケーションを促進するRESET SPACE
  2. ボトムアップでオフィス改革を進め、オフィスを実験の場へ

ニューノーマル時代にふさわしいオフィスを模索

御社はユニークなオフィスづくりで注目を浴びていますね。どのような経緯で現在のオフィスができたのでしょうか。

加藤:当社では働き方改革の一貫として、2016年から、在宅勤務制度やフレックス勤務、シェアオフィスの拡充などを進めていました。その流れのなか、2018年に本社ビルの休憩スペースを充実させようという話が出たのです。そこで、まずは本社ビルにコミュニケーションスペース「RESET SPACE」を作りました。

さらに2019年、本社隣のビルにテナントの空きが出たことを機に、今まで都内に点在していたグループ会社を集約することになりました。そこでグループ会社の連携強化や事業シナジーの活性化などを目的とした「グループ会社拠点集約プロジェクト」が発足し、社員のボトムアップによって、ニューノーマル時代にふさわしいオフィス創造がスタートしました。

偶発的なコミュニケーションを起こす「RESET SPACE」

まずは2018年に本社にできたRESET SPACEについて詳しく教えてください。

加藤:RESET SPACEは「何をしてもいい場所」をコンセプトにしています。もともとは自動販売機とテーブルがあっただけの空間でしたが、「体を動かす」「会話する」「くつろぐ」「集中する」「飲食する」という5つのゾーンを設定しました。仕事も、休憩も、コミュニケーションもできる、まさに何をしても良い場所です。

仕事だけでなく、ココロやカラダ、さまざまな“リセット”ができるRESET SPACE

RESET SPACEはどなたが発案したのでしょうか?

加藤:当初は会社主導のもと全社リニューアルの社内コンペが行われていたのですが、さまざまな要因から、現在のRESET SPACEがある本社4階の400㎡の執務室・休憩所をリニューアルする計画に絞って実行することなりました。

ちょうどこれからのオフィスの在り方について考えていたタイミングの中で、私が責任者となり、中川をはじめ、横のつながりで協力してくれた約20〜30人のメンバーによってプロジェクトを推進しました。

RESET SPACEは、どのような効果を期待して作られたのでしょうか?

加藤:RESET SPACEによって、社員間の偶発的なコミュニケーションを起こしたいと思っていました。 普段、自分の業務と直接関わりのない人と話す機会は少ないものです。しかし、普段話さない人との何気ない会話によって新しい発見が得られることは、誰しもあるのではないでしょうか。そしてそれはクリエイティビティにもつながります。利用用途を限定せず、“何となく”人が集まってくるような場所を作ることで、自然とコミュニケーションを促しています。

RESET SPACEができたことで社内に新鮮味が生まれ、社員は積極的に利用してくれましたね。RESET SPACEを起点にさまざまなイベントも打ち出され、コロナ禍前には年間100件以上のイベントが実施されました。

「何をしてもいい」からこそ人が集い、ポジティブなエネルギーが集約される場に

新オフィスのコンセプトは「健康・実験・ブランド」

続いて、グループ会社拠点集約プロジェクトについて教えてください。

加藤:グループ会社拠点集約プロジェクトでは、新オフィスの7フロアを中心に、オフィスの大規模なリニューアルを行いました。コンセプトは「健康・実験・ブランド」です。
「健康」は、社員のwell-being向上を意図しています。健康的な食の提供を通じて体の健康をサポートするほか、コミュニケーションの活性化によって心の健康も維持できるオフィスを目指しています。

次に「実験」には、オフィスを「アイディアを実験できる場」にしたいという思いが込められています。私たちの仕事は基本的にクライアントワークであり、失敗は許されません。すると、「アイディアはあるけど失敗したらまずい………」「納期やコストを考えると難しい………」などと、アイディアを自由に実行できないことがよくあるものです。しかし自社オフィスであれば、「どうなるか分からないけど、とりあえずやってみよう!」と思う存分挑戦できます。イノベーションを促進するためにも、「実験」は特に大事にしているポイントです。

そして3つ目の「ブランド」は、発信力の向上を目的にしています。今まで当社は、外向きに会社を発信することがなく、あくまで“黒子”として在りました。しかし、もっと社会的な認知度を上げていきたいという機運もあり、「ブランド」をオフィスの機能として位置付けました。実際にオフィスをリニューアルしてから、他社の方に興味を持っていただいたり、取材を受けたりする機会が増え、オフィスが会社のブランディングになったと感じています。

グループ会社集約プロジェクトは2019年に発足したと伺いましたが、翌年の2020年には新型コロナウイルスが流行し、テレワークが普及しました。社会的にオフィスの在り方が変化するなか、御社のオフィスリニューアル計画にも影響はありましたか?

中川:おっしゃる通り、新型コロナウイルスの拡大を受けて、途中でプロジェクトの見直しを行いました。

グループ拠点集約プロジェクトに着手した2019年は、大々的にプロジェクトを計画していました。しかしオフィス設計を進めていたタイミングで新型コロナウイルスが流行し、当社も出社から在宅ワークがメインの働き方へ。さらに会社側からコストを縮小したいという話もあり、プランを考え直す必要がありました。

社員の健康をどう考えるべきか、そもそも会社に来る意味とは何かー。社員アンケートにより現場社員から出た意見を企画やデザインにも反映して進めつつ、苦悩しながら議論を重ねました。

当時は、新型コロナウイルス収束後の働き方がまったく見えない状況でしたが、予測不可能だからこそ、オフィスを実験場として、さまざまなことに挑戦したいというコンセプトが固まっていきました。実際のオフィスにおいても、キャスター付きのインテリアや折りたたみ式の壁を導入するなど、可変性を持たせた空間づくりを意識しています。

またコロナ禍は出社ができなかったため、コミュニケーションが恋しいという声も強かったですね。改めてコミュニケーションスペースの必要性を感じ、新オフィスに「RESET SPACE_2」がつくられました。

たくさんのフェアウッドが使われ、ふんわりと木の香りが漂うRESET SPACE_2

“乃村工藝社らしさ”を詰め込んだRESET SPACE_2

RESET SPACE_2にはどのような特徴があるのでしょうか。

加藤:RESET SPACE_2は、“Unique Park”をコンセプトに、誰でも使える公園をイメージした空間にしています。

大きな特徴としては、「実験」の一つとして、フェアウッド100%のコミュニケーションスペースを実現しました。当社は非住宅の公共空間を作ることが多いのですが、これまで非住宅業界では国産木材があまり使用されてきませんでした。サステナブルの機運が高まるなか、オフィス空間におけるフェアウッドの新たな使い方を示すことは、大きな実験でした。

またRESET SPACE_2には、RESET SPACEを設計した時の経験も活かされています。RESET SPACEでは、人流解析システムを使用し、社員の動きを分析していました。

その結果、多くの人が自動販売機を目的地に歩いていることが分かったのです。そこで、RESET SPACE_2では自動販売機を空間の中央に配置し、偶発的なコミュニケーションのさらなる促進を目指しています。

人流解析データをもとにした「空間の仕掛け」でコミュニケーションを促進

新オフィスには、ユニークな社員を数珠繋ぎ式に紹介する「ユニーク・ピーポー・セレクション」や「ぬいぐるみテレカンブース」などユニークな空間がたくさんありますよね。こちらはどのような発想から生まれたのでしょうか。

中川:当社では、常日頃「こういうのあったら面白くない?」「これは乃村工藝社っぽいよね」という会話が、デザイナーを中心にメンバー間で何百回と交わされています。きっかけは社員のひらめきでも、話し合っていくうちに、”乃村工藝社らしさ”として解像度があがり、形になっていく、そういったイノベーションが日常的に巻き起こる会社だと思っています。

さらに“乃村工藝社っぽい”とは何かを言語化すると、「多様性」ではないかと感じており、それをベースにアイディアが生まれることが多いですね。

たとえば「ユニーク・ピーポー・セレクション」は、「ユニークな人がたくさんいるのに、互いによく知らない」という声がきっかけで、グループ会社の社員が企画しました。ユニークピーポーに選ばれた人はRESET SPACE_2の専用ブースで仕事をすることがあるのですが、通りすがりの人とのコミュニケーションをきっかけに相互理解を深めています。

「自分よりもユニークな人」を数珠つなぎで紹介するユニーク・ピーポー・セレクション

約100名の視点で「働き方と空間」両方の多様性を確立

グループ会社拠点集約プロジェクトはどのように進められたのでしょうか?

加藤:グループ拠点集約プロジェクトでは、グループ会社の社員も含め、約100人ほどの社員を巻き込んだ一大プロジェクトとなりました。空間づくりを行う人間だけでなく、事業所管理を担当する総務メンバーや、発信活動を担当する広報メンバー、健康的な食の提供を考えるためのチームなど、多様なメンバーが参加してくれました。

中川:特にグループ会社拠点集約プロジェクトでは、入社1〜2年目のメンバーも意図的に仲間に加えてアイディアを募りました。皆、とても楽しそうに活動してくれた印象を受けています。プロジェクト終了後、若手社員にアンケートをしたところ、「社内の人脈が広がった」「先輩の仕事が参考になった」「会社のことを自分事として考えるようになった」という声も多数もらいました。

また若手社員に限らず、RESET SPACEの構築を経験した社員が、今ではワークスペースデザイナーとして外部セミナーで登壇したりしています。ボトムアップでの社内プロジェクトは、人材育成の良い機会になったと感じています。

ボトムアップでこれほど大規模なプロジェクトが行われていることが大変印象的です。御社は元々ボトムアップの社風があったのでしょうか。

加藤:当社では「空間創造によって人々に『歓びと感動』を届ける」というミッションを掲げており、一人ひとりのクリエィティビティで空間の可能性を切り拓くことを大切にしています。

特にコアメンバーが熱量を持ってミッションに向かって取り組んでいるため、その姿勢が派生した結果、ボトムアップの社風が培われたのかもしれませんね。

オフィス空間が社員のエンゲージメント向上に寄与

新オフィスに対する社員の方の反応はいかがですか?

中川:RESET SPACEもRESET SPACE_2も、非常に多くの社員に利用してもらっており、好評です。RESET SPACE_2について、どのような有効性があったかをアンケートしたところ、「気持ちにポジティブな変化がある」「仕事に対して集中しやすい」「コミュニケーションが取りやすい」「社外の人に紹介したくなる」などの回答を得られました。

利用者として私個人の感想を言わせてもらうと、働く場所の選択肢が広がったことが非常に良かったと感じています。たとえば、より集中したい時には、自分のデスクを離れてRESET SPACEに行って作業するなど、社内で自分の仕事場が選べるのはとてもうれしいですね。

また私は経営企画本部に所属しているのですが、社員の働く様子を知りたいときにはRESET SPACEに行きます。社員の空気感を肌で感じられるので、施策の方向性を考えるうえでも役に立っています。

2つのRESET SPACEは、乃村工藝社らしい創造力が生まれるきっかけにもなっている

一連のオフィスリニューアルを通じて、組織や事業にはどのような効果がありましたか?

中川:特にRESET SPACE_2においては、グループ会社社員の92%が利用しているという結果が出ました。本社社員も含め、多くの社員が利用してくれていることは、事業シナジー活性化の面からも大変有意義なことと思っています。

また外部のお客様のアテンド実績をみると、これまで来社いただいた会社数は累計600社超、訪問者数は約3000人と、こちらも非常に多くの方にご来社いただいています。お客様と一緒にRESET SPACEでプロジェクトの展示やイベントを行うこともあり、会社の活性化に大きな効果があったと感じています。

テレワークが普及した現代において、「オフィス」へ投資をすることのメリットは何だと思いますか?

加藤:業種柄、多少力は入っているかもしれませんが、正直私たちからすると、特別オフィスに投資をしているという感覚はありません。これからの時代、オンラインコミュニケーションも間違いなく必要です。

しかしながら「オフィスがある意味」は丁寧に考えてきました。なぜわざわざオフィスに来るのかというと、やはりコミュニケーションのため。そのために、さまざまな工夫を凝らしてきました。

そして、これほどにオフィスの意義を追求している理由は、社員のエンゲージメントが何より大切だからです。社員が「ここで働きたい」「ここにいたい」と思ってもらえるような会社にしたいと考えています。

「わざわざ行く場所」ではなく「行きたくなる場所」へと変化したオフィス

中川:RESET SPACEができてから約半年後、社員に対して働きがい調査をしました。その結果、「働く場所が選べる」「リラックスして休憩できる」「新しい学びがある」などの項目でポイントが上昇し、社員のエンゲージメントも確実に向上していることが分かりました。オフィスづくりに力を入れた効果が出ているのではないかと思います。

オフィスは、1人じゃないと思えるための場所

御社では現在もテレワークの活用を継続しているそうですが、今日もオフィスは大変にぎわっていますね!社員が出社したくなるオフィスを実現できた秘訣は何でしょうか?

加藤:オフィスをリニューアルするにあたり、コミュニケーション活性化に向けた仕組みを多数取り入れてきました。しかしながら、人とコミュニケーションするのが好きな人もいれば、当然そうでない人もいます。したがって、RESET SPACEにおいても「コミュニケーションのための場所」などと用途を限定していません。仕事をしてもいい、ご飯を食べてもいい、会話をしてもいいというように、さまざまな選択肢があったことが、多くの社員に活用してもらえた理由なのではないかと思います。

またオフィスリニューアル後も、本社の固定席は残していますし、2020年に開設したオフィスには、それまでの出社率から算出した十分なスペースをクリエイター席として確保しています。自分の居場所を残しつつ、プラスアルファで働く場所の選択肢を増やしたことが、成功の要因ではないでしょうか。

最後に、お2人が考える理想のオフィス像を教えてください。

加藤:今回はリアルのオフィス空間を作りましたが、これからはリアルとオンラインの間を折り持つような空間の設えも必要となるでしょう。オンラインでもリアルでも熱量を共有できるようなオフィスにできたらいいなと思っています。

また、社員に選択肢を用意することが大切だと思っているので、個々が活躍できるスタイルを許容し、それを実現できるオフィスが理想ですね。

中川:私は、オフィスは単に仕事をする場ではなく、「1人じゃないと思えるための場所」だと思っています。もちろんテレワークでの働き方が合う人や業界もあると思います。しかし当社の場合は、基本的に1人ではできない仕事をしていることもあり、人と接することが好きな人が多くいます。「オフィスに行けば仲間がいる」と確認できることは、オフィスの大きな役割ではないかと思っています。

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