情報Web化、シニア世代に定着させた秘訣とは マンション管理員向け社内報をWeb化、成功に導いた工夫とは

取材日:2023/04/17

マンション管理事業などを手がける、大和ライフネクスト株式会社。紙で発行していたマンション管理員向けの社内報をWeb化し、業務の品質向上などを実現しています。Web化を成功させた工夫などについて、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 金坂将史さん

    金坂将史さん

    大和ライフネクスト株式会社

    経営企画室

  • 剱持くるみさん

    剱持くるみさん

    大和ライフネクスト株式会社

    マンション事業本部事業推進部企画統括課

この事例のポイント

  1. 紙の限界を感じ部署の社内報をWeb化、マニュアルも移行
  2. きめ細やかな対応と工夫で、シニア世代にスマホ閲覧を定着
  3. 読者ニーズなどWeb化で得られた気づきを生かした改善策

届けたいニュース掲載に2か月、紙の限界を感じWeb化へ

社内広報誌を紙媒体からWeb化したと伺いました。まずは社内広報誌の役割や概要を教えていただけますか?

剱持:当社は分譲マンションなどの不動産管理事業を行っており、今回Web化したのは、マンションの管理員業務に携わっている社員に向けた広報誌です。「社内報アプリ」という名称で、役員や支社長からのメッセージや、例えば清掃の工夫といった管理員業務に役立つ情報、社内外の表彰など、いろいろな情報をテキストや写真、動画で伝えています。

Web化の背景にある、「紙媒体の課題」には、どのようなものがあったのでしょうか。

剱持:まず一つ、ニュースのリアルタイム性です。伝えたいニュースが、実際に読者の目に届くまでのタイムラグが大きな課題でした。

例えば、対外的なアワード受賞や社内の表彰に関するニュースなど、うれしい出来事はすぐにでも大体的に知らせたいのですが、紙の場合、制作から印刷まで多くの工程があり、掲載できるのは通常で2ヶ月後、頑張っても1ヶ月後に載せれるかどうか…といった状態でした。タイムリーに情報を配信できないことに、大きなストレスを感じていました。

それから、紙面だとどうしてもスペースに限りがあり、伝えきれない内容がある点も課題でした。あまりに分厚いものを作っても、印刷代が高くなりますし、読んでもらえない懸念があります。泣く泣く掲載を見送る情報もたくさんあり、どうにかしなければと考えていました。

実際にWeb化するにあたって、社内でどのように合意形成をすすめたのでしょうか?

金坂:全社社内広報を担当する私と、当時、事業部広報のチームリーダーを務めていた社員が中心となって、まず社内の提案制度に申請したんです。最初に提案したときは、今の形でもある、マンション事業本部として発行する事業部の広報誌だけではなく、全社の広報誌含めた全ての社内報をアプリ化しようという内容でした。

ちょうど、管理員向けに会社からスマートフォン(以下、スマホ)の貸与が始まり、全員に行き渡ったタイミングだったんです。あわせて、それまでタイムカードで打刻していた勤務管理をスマホに移行していた時期だったので、時期的にもちょうどよいと思い、提案に踏み切りました。

結果はどうだったんでしょうか。

金坂:実は、この提案制度への申請は通らなかったんです。当時、全社の社内報や事業部ごとの広報は月1回まとめて郵送していたんですが、こちらから紙で送る、プッシュ型の情報提供を全てなくすことはリスクもあるのではないかとフィードバックがありました。Webは自分から進んで見にいく必要があるものですし、必須の情報を全て行き届かせるのは難しい面もあるのではないか、という意見です。

その後は、どうやって進められたのですか。

金坂:全社一斉のWeb化は承認されませんでしたが、だったら、まずは特定の事業部に限ったスモールスタートならどうか、と再提案しました(笑)。その結果、現在の形であるマンション事業本部の広報誌で始めてみようという話になりました。

マンション事業本部は、売上構成や人員構成でいくと全社の6割以上を占めている部署です。そこでうまくいけば、今後Web化の拡大にもつながるヒントが得られるのではないかという考えです。

しかし、当社の管理員はシニア世代がほとんどなので、場合によってはスマホの操作にハードルが出てしまいます。そこのところのケアをしっかりしてほしい、という条件付きで、最終的にはスタートの承認を得ることができました。

課題だらけのスタートも、あの手この手で工夫を重ね対応

実際に社内報アプリをスタートしてみて、問題などはなかったのでしょうか。

剱持:開始直後はIDとパスワードの入力につまづく方が多くいらっしゃって...いろいろと苦労がありました。パスワードを忘れたというケースや、大文字小文字、数字の1と小文字のl(エル)や大文字のI(アイ)を誤って入力してしまったケースなど、いろいろな問い合わせが押し寄せたんです。

管理員の数およそ4000人に対して、当時は社内報アプリの担当が4人しかいなかったので、電話を含めた対応に忙殺されたことを覚えています。

問い合わせ対応で工夫した点などはありますか?

金坂:すべての問い合わせに電話で対応していると、我々はもちろん管理員の日常業務に支障が出てしまうので、問い合わせフォームの窓口を設置して、そこで内容を整理した後に、必要に応じてこちらから電話をかけるという体制にしました。

マンションの管理員業務は巡回や清掃など、作業時間が決まっている業務が多く、要件を整理した上で都合の良い時間にコミュニケーションを取り、対応が途中で途切れないように気をつけました。

そもそも必要ないと思ってアクセスしてもらえない、閲覧してもらえない、という問題はなかったのでしょうか?

剱持:もちろん、そうした読者にいかに読んでもらうか、という対応も必要でした。そこでまずは、接触頻度を上げてもらえるよう、いろいろなルートでアクセスできる導線を作ったんです。

例えば、月に1回、事業部から紙の配布物が郵送される仕組みがあるのですが、そこに社内報アプリのログインを促すお知らせを入れたり、別の媒体にQRコードを掲載したり、あの手この手で誘導しました。

もう一つ大きかったのは、業務に役立つ情報や仕事に直接関係する必読情報を、少しずつですが社内報アプリにシフトさせたことですね。マニュアルをWeb化するなど、必然的に社内報アプリを読むような状態にしていったことで、結果として、より多くの方に必要な情報を届けることができるようになりました。

それでも、「社内報アプリ」がある程度定着したなと感じられるようになるまで、スタートしてからおよそ1年ぐらいの期間がかかったと思います。

うれしい反応が寄せられ、9割がアクセスするまでに成長

スタート当初と比べて、閲覧数などはどのぐらい変化していますか?

剱持:最初のころに出した記事は、閲覧数が300、400程度でしたが、一番PVの多い記事では5000を超えるものもあります。今では、8〜9割ぐらいの人が定期的にアクセスしてもらえるようになりました。

実際の「社内報アプリ」の画面。社内のニュースや業務に役立つ情報まで、多様な情報をタイムリーに共有する場となっている。

すごい成長ですね。管理員の方から届いた声や、反応などは何かありますか。

剱持:こちらとしては、スマホで見ることに対する抵抗があるのではないかと心配していたのですが、意外と好意的な反応が多かったんです。白黒ではなくカラーになったことや、写真が大きくなったこと、動画も見られるなどの変化をとても喜んでくれて、紙よりも断然こっちの方がいい!という声や、とうとうこの時代が来ましたね、といった前向きな意見がたくさん寄せられました。紙よりも今の形の方が良いという反応が圧倒的に多かったので、結果としてはみんなにとってハッピーな改善だったんだなと思うことができました。

それから、読者からのうれしい声だけではなく、社内の他の部署など情報を発信する側からも、こういう情報を管理員に届けたいから、社内報アプリに載せてほしいという相談がたくさん来るようになりました。

たくさんの反応があるので、こちらとしてもやりがいがありますね。

紙媒体の課題であった、ニュースを伝えるまでのタイムラグについてはいかがですか。

剱持:Webの場合、仕組みとしては内容の承認含めて、翌日に掲載することも可能です。おめでたい出来事など大きなニュースがすぐに流せるようになったのは、やはり大きいなと感じますね。

それから、Web化をしてはじめて気が付いたことなのですが、そもそも紙で発行していた時は、正確な効果測定ができていなかったんです。もちろん、こちらとしては読まれているという大前提で作っていますが、本当に読まれているのかどうかや、情報に対する満足度は測れていませんでした。役に立っているはずだ、という一方的な思いで届けていたなと、今になって感じます。

Web化したことで、意外とこの記事に見られているなとか、こういう記事にいいねがたくさんつくんだなとか、皆さんの反応がわかるのは面白いですね。

今現在、チェックしている数値などはありますか?

剱持:記事が配信されてから1週間ぐらいが閲覧のピークなので、配信の翌週に閲覧数といいね数をチェックしています。それから、閲覧数のわりにいいね数が多い記事にも着目していて、読み手は少なくても読んだ人の反応が良い、いいね率が高い記事も制作の参考になりますね。

Web化で得られた気づき、経験が大きな財産に

Web化したことで、新たに気がついた読者ニーズ、情報の需要などあるでしょうか。

金坂:例えば管理員業務をやるうえで欠かせない個人情報の取り扱いに関する知識や事例など、実際の業務に関係する情報が非常に多く読まれていますね。紙で発行しているときは、業務の合間に読めるような、箸休め的な楽しい記事の方が読まれているだろうと思っていたのですが、意外な結果でした。

剱持:想像していたよりも、業務に関する重要な情報源として社内報を活用してくれているんだな、と感じましたね。他にも、清掃のポイントを動画で紹介するなど、すぐに業務に役立てることができるTipsを紹介した記事も人気です。特に動画は、「わかりやすい」と、利便性の上でも喜ばれています。

それから、意外と評判が良かったのが、震災を想定した安否報告訓練の結果を紹介した記事です。大きな地震などが発生した際に、自分自身にけががないか、大丈夫かを報告する訓練があるのですが、支社ごとの回答率などを載せた記事がよく読まれていました。訓練などを行っても、その結果やフィードバックは、これまでどこにも開示されていなかったので、自分たちが参加した結果がどうだったのか、みんな実は知りたいんだな、という気づきになりました。

情報共有のWeb化が進まないという課題を抱えている企業様に向けて、進める上でのポイントや定着させるための工夫など、アドバイスできる点は何かあるでしょうか。

金坂:社内報に限らず、何かを変えることすべてに共通して言えることだと思うのですが、「変わったから見てね」だと誰も見てはくれません。新しく変わったことで何かしらの利益があるというのを、ユーザーの行動設計の中にどう入れるかが大切なのではないでしょうか。

例えば、業務効率化のツール導入なども同じかもしれません。導入したい側にとって効率があがる、管理がしやすくなる、というだけだと、ユーザー側にはメリットが見えないため、利用してもらうのは難しいですよね。

当社の社内報Web化においても、作る側の工数やコストが削減できるというだけではなく、動画も見られる、大事なニュースがすぐ届く、分厚いマニュアルを持ち歩かなくてもよくなるなど、ユーザー目線に立って、使う側のメリットを訴求していった結果が、今に至っているのだと思います。

今回の取り組みが、組織や事業にとってもたらした成果というと、どのような点があげられるでしょうか。

金坂:一番はやはりマンションの管理員業務に必要な情報を、動画なども使いながらよりタイムリーに届けることができるようになり、業務の品質向上につながっているという点です。また副産物として、「管理員がスマホをつかえる」という成功体験が現場のDX化の一つの指標になり、積極的に推進されはじめた分岐点になったようにも思えます。

一方、今回の社内報アプリ導入が成功したからといって、すぐに全ての広報誌をWeb化することはありません。全社社内報は手元に必ず配布される紙媒体の良さを活かし、インタビュー記事を中心としたしっかりと時間を作って読んでもらう媒体という位置付けに今期からリニューアルしました。

今後も伝えなければいけない情報によって、最適な共有方法を選択し、ベストな形で従業員に届けることを組織の枠を越えながら模索していきたいと思っています。

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