多様な人材活用へ「働き方」に向き合い続ける ブランクからの復帰やワーママなど誰もが活躍できる組織づくり

取材日:2023/05/29

Webコンテンツ制作事業などを展開する株式会社ノヴィータ。「働き方」に特化したオウンドメディア「ラシク」を運営するなど、「働き方」に対して向き合い続けてきました。今回は、ブランクや家庭の事情に関係なく誰もが活躍できる組織作りについて詳しくお聞きします。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 三好怜子さん

    三好怜子さん

    株式会社ノヴィータ

    代表取締役社長

  • 松浦理恵さん

    松浦理恵さん

    株式会社ノヴィータ

    女性のキャリア支援サービス「CAREER MARK」担当

この事例のポイント

  1. 働き方に特化したメディア運営が、自社の働き方改善の後押しに
  2. 離職期間は関係なし、スキルと意欲で誰もが活躍できる体制構築

ワ―ママの働き方への課題感から始めたメディア「LAXIC」

はじめに、御社の事業内容を教えてください。

三好:私たちはインターネットを活用してクライアントの課題解決をサポートする企業です。具体的には、Webコンテンツ制作事業と人材紹介事業の2軸を主力として展開しています。

近年は課題解決の幅を社会まで拡大し、女性のキャリア支援や地方での雇用創出といった新規事業の立ち上げも行っており、現在当社が運営する働き方に関する情報発信Webメディア「ラシク」もその一環です。

「ラシク」の前身は、働くママ向けのメディアである「LAXIC」だったとお聞きしました。

三好: 2015年に開始したLAXICは、働きながら子育てをしているママさん、いわゆる「ワーママ」向けの情報サイトとしてスタートしました。

正直に申し上げると、LAXICは私自身の情報収集にもなっていました。当時の私は結婚2年目を迎え、徐々に自分のライフイベントのことも視野に入れ始めていた時期。一方、周りのワーママは家庭と仕事との両立に大変苦労しており、やむを得ず退職してしまう方も大勢いました。

社会的にも待機児童などが問題視され、女性の働き方に注目が集まり始めていた時期でもありましたね。ワーママのロールモデルは多くなく、漠然と「自分もこのままでは仕事と育児の両立が厳しいのでは」と感じていました。

そこで、当社としてもワ―ママの働き方を学びながら、世の中にさまざまなロールモデルを発信したいという思いを込めてLAXICが誕生したのです。

三好さんは社長就任後に妊娠、出産をご経験されたとお聞きしました。当時のご経験を教えていただけますか?

三好:出産後3カ月で職場復帰したのですが、仕事と育児の両立は話で聞いていた以上に大変でしたね。当時、社内にママさん社員はいたのですが定着せず、入社してから出産をしたのは私が初めて。自分自身の情報を社員に開示しながら、体当たりでワーママとしての働き方を模索していました。

たとえば子連れ出社に挑戦したのですが、まだ世間的にも一般的ではありませんでしたので社員の反応を参考にしながら改良を重ね、今後の制度化も見据えながら試行錯誤。ママである一方、経営者でもあるので、私自身の働き方で社員のモチベーションを下げないようにするためにはどうしたらよいのかも日々意識していましたね。

まだまだ子育て世代の働き方に対する体制が整っていない企業も多いと思います。

三好:LAXICの取材のなかでも「仕事と家庭を両立できるのは男性の経営者だけ」というお話を聞くことがありました。要は、社会的な性差もある中で、そのポジションでなければ、働き方の融通なんて利かせられないということです。機運としては高まってる一方、企業の対応が追い付いていないことを実感しました。

また女性が出産後にキャリアダウンを余儀なくされる「マミートラック」に乗せられてしまったという声を聞くこともよくあります。もちろん、会社側は家庭の状況を配慮してのことだと思うのですが、本人が「頑張りたい」と意思表示をした際に、どのような判断を下すのかが問われていると思います。

特に近年は、企業側で柔軟な対応ができなければ、人材が流出する可能性が高くなっていると感じています。最終的には企業の存続自体が危うくなるでしょう。今までと同じ働き方や対応では通用しないということを、企業側が危機感を持って考えるべきタイミングが来ていると思います。

働く全ての人へのメディアにリブランディング

2023年にLAXICがリブランディングされて、現在の「ラシク」になっています 。どのように変化したのでしょうか?

三好:ラシクはワーママに限らず、あらゆる方の「働き方」を企業側に提案するメディアになっています。LAXICではターゲットをワーママに絞っていましたが、働きにくさを感じているのはワーママだけではありません。傷病や介護などとの両立もそのひとつで、両立に苦労されている方がいらっしゃるのを見聞きします。性別や年齢、既婚未婚関係なく、誰しもライフステージの変化は起こりますし、バックグラウンドもさまざまです。全ての人が自分らしく働ける社会になってほしいという思いを込めてリブランディングをしました。

企業にとって一番の財産は働く「人」。そして働く人たちの可能性を広げられるかどうかが、これからの時代に企業が存続できるポイントだと思っています。当社の事例や他社の取り組みを参考にしていただき、働き方の選択肢を増やすきっかけにしてほしいと思っています。

ブランクがある人材が会社に多様性をもたらす

御社では、元々ブランクがあった方々が活躍されているそうですね。

三好:そうですね。しかし、ブランクがある方を採用しようと特別決めていたわけではありません。応募してくれた方が偶然ブランクがあったというだけなのですが、10年専業主婦をしていた方、配偶者の転勤などの事情で離職せざるを得なかった方などが活躍しています。松浦もその一人です。

松浦:私は新卒で外資系のメーカーに入社し、7年ほど勤務していました。しかし第一子を出産し育児休暇を取得し始めた矢先、夫の海外転勤に帯同することに。育児休暇の期間を合わせると9年もの間、仕事をしていなかったブランク期間がありました。

日本に帰国後は転職活動に苦戦しましたね。三好とは元々知り合いだったこともあり、ご縁があって2020年から当社で働いています。現在は駐在妻の再就職を支援する「CAREER MARK(キャリアマーク)」というサービスの運営を担当しています。

長期間のブランクを経ての再就職について、どのような点が大変だと感じましたか?

松浦:海外に滞在中は新たに生活を立ち上げたり、異文化の中で過ごしたりするなど貴重な体験を経験し、人間的に成長した実感がありました。ですので、帰国後は海外での経験を活かし、今まで以上に仕事に挑もうと期待を抱いてました。

しかし、いざ転職活動をしてみると、長いブランクがあることを理由に不採用になることがしばしば。勤務時間や稼働時間が合わずに見送りになることもありました。自分のスキルとは関係のない物理的な条件で採用の可否が決められてしまうことにショックを感じましたね。また、ブランクがあることで前職で培った経験やスキルまでもがそぎ落とされてしまったような感覚さえ覚えました。

日本においてブランク期間が採用に影響してしまう傾向はまだ根強いと思います。多様な人材が活躍するために、企業側はどのような意識を持つべきでしょうか?

三好:ワーママや駐在妻の方に限らず、「ブランクがある」というだけの理由で採用の可否を決めないでほしいと思います。

以前企業様に対してアンケートをとったことがあるのですが、ブランクがある人材を受け入れたことのある企業の多くは、その後も同様の人材を受け入れているという結果が出ました。それだけ組織に必要な存在だったということです。

「過去にブランクのある人材を採用して失敗した」という理由から採用に踏み切れない企業様もあるかもしれません。しかしその人の能力とブランクは関係ありません。多様な人材がいることで、会社にとっても新しい可能性が生まれることもあります。ぜひ採用の選択肢の一つとして捉えてほしいですね。

ブランクはゼロからのスタートじゃない

ブランクを経て仕事に復帰された方々と働いてみて、どのような印象をお持ちですか?

三好:たとえば松浦のような駐在妻の方の場合、日本ほど整っていない環境で生活されてきているので、柔軟性が高いと感じており、そのスキルが仕事でも活きています。また会社勤めの経験がなかった方も、元々持っている努力家な姿勢で、何も不都合なく業務をしていただいています。むしろ想像以上の成果が出ていますね。人手不足の解消にもつながるため、当社としてのメリットは多いです。

ちなみに、ブランクから復帰された社員の方は、現在どのような仕事をしているのでしょうか?

三好:ブランクを経て入社された方の多くは新規事業の運営や、会社運営を支える経営企画室で活躍してくれています。

新規事業を既存社員に兼任させようとすると、そもそも役割が異なるため負担が大きくなります。また事業として成功するかは分かりませんので、新規事業のためにフルタイムで働ける人材を雇うのもリスクです。

そこで、短時間勤務を希望する方にお任せして、事業が拡大するタイミングで人材を投入したり勤務時間を伸ばしたりという形を取っています。

松浦:働く者としても、時間が限られているからこそ最大限のパフォーマンスを発揮したいですし、会社にコミットするという意識を持って引き続き取り組んでいけたらと思っています。そして、そういう意識を持った人で構成される組織は非常に強くなると思います。

ブランクがあることで、再就職に不安を感じている方は多いと思います。求職者側にも何かアドバイスはありますか?

松浦:以前、当社の会長に「何年ものブランクがあったとしても、皆さん1〜2年で取り戻している」という言葉をかけていただいたことが今でも印象に残っています。ブランクは決してキャリアアップの妨げにならないということをお伝えしたいですね。

CAREER MARKで駐在妻の方と接していても、皆さん非常に優秀な方が多いと感じています。元々大企業で働いていた方や、管理職のご経験など、一定のスキルをお持ちで、さらに駐在帯同を経て適応力や新たに学び直す力を身に着けた方が大勢いるのです。そういった経験を積んでこられた方が、ブランクを理由に埋もれてしまうのは、社会全体の損失ですし、非常にもったいないと思います。

ブランクがあっても「ゼロからのスタート」ではありません。これまでの経験をどのように活かしていけるかをアピールすることが大切だと思います。

三好:求職者側も企業側も、「ブランク」に対してマイナスな思い込みを強く抱いているように感じます。「ブランク」という言葉のままにせず、すなわちその期間で得られた経験とスキルを棚卸して言語化することで、アピールになりえます。CAREER MARKではこの重要性と具体的な言語化のやり方をお伝えしていますので、どうか自分を卑下しすぎないでほしいと思います。

そして適切にマッチングするためにはお互いに見極めの時間を持つことが必要です。当社では昨年「リターンシップ」を活用した再就職支援のサービスを立ち上げました。学生のインターンシップと同じように、一度離職した方に就労機会を提供し、企業と候補者とのミスマッチを防ぐ取り組みです。企業側には、じっくりとその人の“中身”を見て判断してほしいですね。

働き方は20種類以上!個人のニーズに合わせて働き方を構築

松浦さんにお伺いします。実際に御社で働いてみていかがですか?

松浦:こんなに柔軟に働けるのかと驚きました。特にボランティアとして関わっていた時、同じグループの中に当社でパート社員として働いていたメンバーがいました。その方の働き方は週に2〜3日、1日2~3時間ほどの勤務です。それでいて仕事が成り立っていることが本当に驚きでした。

柔軟な働き方を採用しているのですね。

三好:当社には20種類以上の働き方があります。勤務時間や稼働日数まで人それぞれ。いきなりフルタイムではなく、まずは短い時間から試してみるなど、その人の状況に応じて、段階的に話し合って勤務時間を決めています。このやり方が私たちにとっては一番良かったと感じています。

松浦:私もボランティアスタッフとして参画して以降は、業務委託、パート社員を経て正社員になりました。

三好:短い時間でも受け入れてくれるなら「働きたい」と望んでいる方は実は結構多いです。CAREER MARKにて他社にご紹介した方の事例では、月20時間で3年間働いた方もいます。選択肢があることによって、さまざまな事情を抱えた方々がやりがいを持って働ける職場になると思っています。

柔軟な働き方をしながら生産性を維持するためにはどうしたらよいのでしょうか?

三好:組織が大きくなればなるほど、社内の状況が把握しにくくなりがちだと思いますので、見える化が大切だと思います。

当社の場合は稼働管理はもちろん、朝会や月次報告会、その他コミュニケーションやアンケートの機会を頻繁に設けるなど、業務の進捗や社員の状況を細かに把握する体制を整えています。そのおかげか、テレワーク導入後も生産性が維持できていますし、より効率化をはかるための検討もできていますね。

会社と社員、双方にとってサステナブルな働き方を目指す

多様な働き方を認めると管理工数やコストが増えるという課題はありませんか?

三好:短時間で働く人を多く雇うよりも、フルコミットできる人材だけの少数精鋭で仕事をする方がいいという考え方もありますよね。以前の当社もそうでした。

どちらが良い悪いではないのですが、当社の場合は、今までの働き方で事業が長く続けられるとは思えなかったから舵を切ったと言えます。

以前は基本的に、業務は1人1担当。自分が休んだら仕事が止まってしまいます。私自身、自分の結婚式のために1週間業務を止めたこともありました。今思うと、それを許してくれた取引先には感謝しかありませんが、契約破棄になる可能性も当然ありますよね。会社にとってはリスクになります。

会社の持続性を考えた際に、働き方の見直しが必要と判断し、1人1担当からチーム制にするなど働き方を切り替えていきました。移行期には売上が下がった時期もありましたが、思い切って切り替えて良かったと感じています。

これからどのような組織を目指していきたいですか?

三好:私が日頃目標にしているのは「やりたいことで飯が食える組織」です。やりたい事業を続けつつ業績も上げていく。当たり前のことかもしれませんが、簡単なことではありません。さらにそれが働きやすい環境下で実現できたなら、非常にうれしいことだと思います。

現在の働き方は完成形ではなく、ゴールはまだまだ先にあります。現在働いているメンバー、そして今後入ってくるメンバーたちが、それぞれ生き生きと働ける環境を整え続けていきたいと思っています。

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