独自の仕掛け続々で、社員を“自社ファン化” 人的資本経営に舵を切り、旧態依然の老舗企業を改革

取材日:2023/07/26

1933年創業の株式会社島田電機製作所は、ホテルやオフィスビルに設置されるエレベーターの押しボタンや表示灯などの製造・販売事業を手掛けています。職人中心の町工場から脱却を図るために実施した数々の取り組みについてお話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 島田正孝さん

    島田正孝さん

    株式会社島田電機製作所

    代表取締役社長

この事例のポイント

  1. エンタメ性あるイベントで自主性を促し、社員を自社のファンに
  2. 30以上の施策、取り組みで「社員のための組織」を実現

「こんな会社で働きたくない」という想いから改革に着手

社員が働きたくなる環境づくりのために様々な取り組みを行っています。当時はどのような課題があったのでしょうか。

島田:働く上でのルールが整備されておらず、人事考課の基準も不透明でした。いわゆる旧態依然とした町工場で、会社組織としての適切なマネジメントがされていない状況です。

新卒採用は行っていなかったのですが、そもそも若い方たちが働きたいと思えるような職場ではなかったですし、人材を育てられるような会社でもなかった。

加えて、業績も低迷しており、賞与も出せませんでしたし、管理職の手当をカットせざるを得ない状況が続いていました。社員の定着率こそ悪くはなかったのですが、会社へのエンゲージメントが高い、仕事が楽しいなど、ポジティブな理由で離職が防げていたわけではなかったと思います。

そのような中、働き方改革を行ったのですね。何から着手したのでしょうか。

島田:まずは、ビジョン・ミッションといった会社の理念を策定し、社内共有するためにカルチャーブックを作りました。この理念は、今でも年1回、関連する10問の穴埋め問題を出題して、理解度を確認しつつ、社員に楽しんでもらいながら認識を深めてもらっています。

また、社員を会社のファンにするための取り組みにも着手しました。正直、これは私が入社して間もない頃「こんな会社で働きたくない」と思ったことが影響しています。

当時は年功序列だったり、発言力のある社員によって作られた暗黙のルールに縛られているような組織風土があって、決して風通しの良い職場とは言えなかった。そこで、私が代表に就任した際に、社員には絶対に同じように感じて欲しくないと思い、力を入れました。

数々の仕掛けで社員や取引先の満足度を高める

自社を好きになる、会社のファンになる、といった仕掛けにはどのようなものがあるのでしょうか。

島田:全部で30以上の仕組みや施策があります。例えば、毎月テーマを設定して社員を表彰するMVP社員表彰は、売上や営業成績といった成果だけが対象ではありません。

社内カフェ&バーの「利用回数No.1」や「ここぞというときにいいことを言う島田人」など、「行動」が表彰されることもあります。また、MVPの賞金は、サイコロを振って決定。目の出方によっては、ボーナスチャンスもあるなど、堅苦しい表彰式ではなく、意外さを盛り込んだエンタメ性のある仕掛けをしています。

社員全員で楽しめる取り組みですね。カフェ&バーはどのような意図で設置したのでしょうか。

島田:コミュニケーションを活性化することを目的に設置しました。ビールサーバーやワインセラーもあるなど、本物のバーさながらに、様々な銘柄のお酒が揃っています。

社員同士の交流はもちろんですが、取引先など、当社に来訪してくださったお客さんとのカジュアルなコミュニケーションのほか、今では新卒採用の面接で訪れた学生のみなさんと使うこともあります。お酒を飲みながらざっくばらんに話せるので、相手との距離がぐっと近くなる実感がありますね。

ちなみに、MVP社員授賞式で「カフェ&バー利用回数No.1」を表彰したのは、それだけ、たくさんのコミュニケーションを取った人という意味での表彰です(笑)。

「ボタンちゃんBar」と名付けられた社内のカフェ&バーは、社内外の交流を深める場として活用されている。

そのほかの取り組みについても教えてください。

島田:会社の想いを込めた「ボタンを押せば」という社歌を作りました。作曲経験のあった私の兄が曲を作り、私が作詞をしたのですが、自社レーベルを立ち上げ、社員、全員参加でレコーディングするなど、かなりの本気度で取り組んでいます(笑)。

そのほか、エレベーターのボタンを製造している当社ならではの仕掛けとしては、出退勤時に押す「やる気ボタン」がありますね。

ボタンには、社員ごとに「自分らしく挑戦!」といった異なるやる気フレーズが書かれているので、出退勤状況が把握できるだけでなく、仕事への一つの“スイッチ”のような役割になっています。

現在進行中の取り組みもあり、従来の作業着のイメージを覆すような「カッコいいユニフォーム」を大手アパレルと共同制作中ですし、デジタル演出のプロ集団と「押す」をテーマにした遊べる空間のプロデュースといった企画も進んでいます。

会社や働くことを楽しめる仕掛けの取り組みが、社外にも広がりつつあるのですね。

島田:そうですね。社員のファン化を一つの目的として色々な取り組みを進めてきましたが、もちろん社外の方にも当社のファンになって欲しいという想いはあります。

例えば、個人や団体、取引先を対象とした工場見学会は、「1000個あるボタンが押し放題」など楽しめることが話題となって、今では予約開始1分で参加枠がいっぱいになるほど人気です。取引先の方とは、そのあとカフェバーで一緒に飲むこともあるのですが、とても満足してお帰りいただけています。

また、見学会でアテンドする社員は、普段は社外の方と接する機会が少ない技術職の社員にも参画してもらうなど、様々な部署から集めています。これは自社を語る機会があることで、会社や仕事へのエンゲージメントを高めてもらうこと、会社全体の取り組みを自分ごとにしてもらうことなどが目的ですね。

採用面にも仕掛けはあるのでしょうか。

島田:服装は自由で、会社へのラブレターを持ってきてもらうようにしています。また、質問が書かれた紙が入ったガチャガチャを回してもらい、出た内容について答えてもらうようなことも行っています。

ガチャガチャに入っている質問は「自分のキャッチコピーを発表してください」や「今の自分に満足していますか?」といった、履歴書には記載されないような内容です。

当社は、スキルセットよりもカルチャーフィットを重視しています。そのため、様々な質問を投げかけ、「なぜ」を繰り返しながら、その人自身の考え方を深掘りしていきます。例えば、応募者の志望動機が会社の雰囲気がよいから働きたいということであれば、なぜ雰囲気がよい会社で働きたいのかについてもヒアリングする感じですね。

過去には、「当社に足りないところを指摘してください」といった、少々トリッキーな質問をしたこともあり、こういった定型的ではない面接は、就職活動を行っている学生にとっても、自分を見つめ直すきっかけにもなってくれるのではないかと考えています。

トレンドや面白さ、ゲーム性を取り入れて主体的な参加を促進

様々な取り組みを行っていますが、仕掛けをつくる際に意識していることはありますか。

島田:重視しているのは「トレンド・ユニークさ・ゲーム性」です。会社が決めたことだからやらないといけないのではなく、主体的に楽しんでもらえるように意識しています。そのためには、社員を巻き込む必要がありますが、そこで必要なのが、この3つの要素です。

また、常に「大きな改革」を目指す必要はありません。たくさんの小さな施策を積み重ねていくことも大切です。それぞれの取り組みがつながりをもつことで相乗効果が生まれ、徐々に社員が働きたくなる環境が作られ、社内に気持ちよく働くマインドが広がっていく、これは、数多くの施策や仕掛けを実践してきた当社として、実感している部分でもあります。

これまでの取り組みの数々は、全て島田代表が考えているのですか。

島田:私のアイデアが起点になることが、ほとんどです。ただ、これまでの施策や取り組みは、実行して終りではなく、常にブラッシュアップしているので、変化に応じて生まれた仕組みなどもあります。

自分らしい成長を応援する人事制度を構築

続いて、人事制度の取り組みについて教えてください。

島田:働き方というかキャリアパスにも通ずるのですが、大きく3つの働き方を定義しています。

具体的には、コアワーク、エンワーク、デベワークという3つがあり、技術力を軸に働きたい人はコアワーク。軸が開発力の場合はデベワーク、人間力を軸に働きたい人はエンワークを選択します。それぞれ、自分の特性や目指すキャリアに合わせて働き方が選べるのですが、コツコツタイプはコアワークを選択するケースが多いですね。

「3つのタイプ」のうち自分はどのタイプなのかは、みなさんユニフォームにバッヂをつけて、共有しているそうですね。

島田:働き方や仕事への価値観は、人それぞれです。コツコツ着実に仕事をこなしたい人もいれば、たくさんの刺激の中で、常に新しいものに触れていたい、という人もいるでしょう。

自分のタイプの共有は、そういった相手の価値観を知り、受け入れる一つの材料として、コミュニケーションや人間関係の円滑化に一役買っていますね。

さらに、業務レベル別の10段階の等級も明確に設定されています。業務レベルは、「単独での業務貢献」、「他者に教えられる」、「人財育成が育成できる」など言語化されているため、自分が今、どの等級なのかが把握でき、今後はどこを目指したいのか、自分自身で高い解像度で目標を持てるようにしています。

主体性を大切にしているんですね。

島田:そうですね。主体性をもって働いてもらうため、「イキイキ働く」と「ワクワク生きる」をテーマに社員の成長を応援する制度も設けています。

例えば「イキイキ働く」では、業務に直結するスキルの習得を会社で支援するほか、「ワクワク生きる」では、自分らしさを磨くための趣味や習い事にかかる費用を会社が負担します。

このような人事制度を設けた理由を教えてください。

島田:従来のようなピラミッド型の組織ではなく、個々の社員が主体的に行動する組織を目指したいと考えました。10等級の役割を設けたのも、自分の業務だけをやるのではなく、どの領域で組織に貢献するかに目を向けてもらいたいと思ったからです。社員ひとり一人のらしさを認めて引き出すことを考えた結果ですね。

人事マネジメントのポイントを教えてください。

島田:社員を会社に合わせるのではなく、どうすればフィットするのかを考えることだと思います。そのためには上司が部下の良さや持ち味を理解することが重要です。

どれだけ部下と向き合えるかにかかっているので難しさも感じていますし、マネジメントにおいては、今も課題はありますが、お互いを理解して認め合うことを優先しながら組織をつくっていきたいですね。

人的資本経営で下請けからの脱却を目指す

改革を行ってどのような変化がありましたか。

島田:売上は代表に就任した当時の倍以上になりました。新規顧客が急増したわけではない中で、このような結果が出せた理由の一つは、働き方改革を実施し、それらを対外的にも発信してきたコーポレートPRによるブランディングが一定の成果を見せたからだと考えています。

つまり、取引先や顧客にも会社の良さが伝わり、顧客との関係性がより強固なものになることで、不毛な価格競争に巻き込まれることがなくなったのです。

また、採用面でも成果が出ています。当社は人材紹介会社に採用をサポートしてもらっているのですが、近年は、当社のHPを通じた直接応募の件数が増えました。以前まではなかった地方から応募していただくケースもあるなど、当社への共感度が高い人材獲得の間口が広がったと感じていますね。

事業面における今後の展望を教えてください。

島田:1つは下請けからの脱却です。これまでは依頼を受けてオーダーメードで押しボタンや表示灯を製造する受注型でしたが、専門メーカーとして自社製品をつくって、顧客に提案していきたいと考えています。

そして、社員には一生働くに値する会社をつくると伝えています。もちろん企業活動を継続する上では売上も重要ですが、数値目標のみを重視することなく、社員が働き続けたいと思える会社にするためにできることは、どんどん着手し、早期に実現したいですね。

今後、どのような組織を目指したいですか。

島田:マネジメント層による管理が不要になるような組織を目指したいですね。社員がそれぞれの役割にもとづいて主体的に行動できるようになることを理想としています。

製造業なので細かく作業分担して生産性を上げるという考え方もあるかもしれませんが、社員のモチベーションが上がるとは思えません。

生産性ではなく社員ひとり一人のパフォーマンスを高める。結果として組織のパフォーマンスも高められると考えています。そのためにも、働きたくなる環境づくりに投資し続けていきたいですね。

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