「人が辞めない会社」へ、改革成功の秘訣とは 働き方改革をいち早く導入、離職率改善など大きな成果

取材日:2023/02/03

理系に特化した人材サービスを展開する、株式会社RDサポート。テレワークやフリーアドレスといった働き方をいち早く取り入れ、離職率を大幅に改善するなど、大きな成果をあげています。成功の鍵となった進め方や、実際の社員の声などについて、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 須藤幸子さん

    須藤幸子さん

    株式会社RDサポート

    執行役員/管理部 マネージャー

  • 清水奈々子さん

    清水奈々子さん

    株式会社RDサポート

    管理部

この事例のポイント

  1. 「自分ごと」の意識づくりで「社員と共に走る」改革を推進
  2. 離職率を約20%低減させたワークライフバランスの向上

働き方改革を決意した、「負のサイクル」とは

御社で「働き方改革」を実行したきっかけはありますか?

須藤:わたしたちの会社では、2015年から働き方改革に取り組んでいます。当時はまだ働き方改革という言葉も世の中に浸透しておらず、一部の先進的な大企業だけのものというイメージが一般的でした。
そのようなご時世に働き方を変えようと決意した理由は、離職率がとても高いという問題があったためです。当時は、採用しては辞めるという負のサイクルが続いていました。その背景には、慢性化した長時間残業などの労働環境があったのですが、その根本的な原因が解消されていないために、人手不足を解消したくてもできない状況だったんです。

経営陣も「会社が変わらなければいけない」ということを強く感じていて、できることからやってみよう、まずは働き方を変えようと発起したのがきっかけの一つですね。

最初は、どのようなことから始めたのでしょうか?

須藤:みんなが不満を抱えていたのは明らかだったのですが、具体的な内容を探るためにまず、全員にアンケートを取ったんです。改善してほしい点や不安に思っている点について質問したところ、これでもかというぐらい不満が出て来て(苦笑)、何もないという人はほとんどいませんでした。
回答の中で最も多かったのは、職場環境に関する不満です。当時はよくある部署ごとの島形のレイアウトだったのですが、様々な理由からいつも同じ席なのはいやだといった意見をはじめ、環境に関する意見がとても多く寄せられました。
みんなの回答を見て、まずは職場環境を変えるのが大事だなと痛感しましたね。ただ、あまり費用をかけられなかったので、運用で変えられる部分から着手していこうと、まずはフリーアドレスに踏み切りました。

実際にやってみて、みんなの反応はどうでしたか?

須藤:いろいろなメンバーから感想を聞いたのですが、賛成8割、反対2割ぐらいでしょうか。必ず一定数の反対派がいるのは、どの施策でも同じですね。反対理由としては、私物置き場がないのは困るとか、使うたびに共有デスクを掃除するのが面倒といった意見をもらったのですが、ロッカーを用意するなどして対応しました。結果的にはみんながやって良かったと言ってくれるようになり、今ではすっかり定着しています。

ライトなスタートと研修の徹底、成功の鍵となった導入方法

テレワークも、コロナ禍の前から導入なさったそうですね。導入にあたって工夫した点などはありますか?

須藤:はい、テレワークは2017年から始めています。最初は管理部だけでスタートしたのですが、管理部以外の社員一人一人に理解を促すため、各事業部から1名ずつ、働き方改革に興味も持っている社員を募りました。その人たちをメンバーに加えて、テレワークやいろいろな働き方改革に関する考え方・内容を部署に落としこんでもらうという役割をお願いしたんです。

その人たちがテレワークを先行してやっているのを見て、テレワークどうなのと質問が来るようになったり、自分もやってみたいという声があがったり、興味を持つ人がだんだん出てくるようになりました。会社からお知らせするのではなく、いつも一緒に働いている同じ部署のメンバーたちから、メリットデメリットをダイレクトに伝えることができたのが、理解促進の後押しになったと思っています。

なるほど。知っている人から直接聞けるというのは大きいですね。ほかには、進め方にあたって意識したことなどはありますか?

須藤:進め方次第で良くも悪くもなるなと思っていたので、まずは管理部の独りよがりにならないように、焦らずゆっくり進めることに気を付けました。上からの業務命令として一斉にわっと始めるのではなく、いったんやってみよう、うまく行かなければ戻せばいいよねという、ライトな感じでみんなにやってもらうようにしたんです。 それから、テレワークに関するセミナーや研修に管理部のメンバーが参加して、その内容を参考に、社内でもテレワーク実施前に受けてもらう研修プログラムを作りました。

具体的には、どのようなことを研修で学んでもらうのですか?

須藤:主に、タイムマネジメントに関する研修です。テレワークは周りの目がない分、自分でしっかりとタイムマネジメントをする必要があります。タイムマネジメントができないと、だらだらと時間を無駄に使って、生産性が下がってしまったら、組織体制としては「失敗」です。 そうならないためにも、時間の管理や業務の優先順位づけができるように、テレワークを許可する前に必ず研修を受けてもらうようにしています。1日をどう組み立てるべきかを社員が理解するようになり、いい形でテレワークをスタートすることができました。
あわせて、テレワークをするときは予定をスケジューラーに入れてオープンにするようにしています。この時間はミーティング、この時間は作業と、記入してもらうんです。いつ何をやるのかが把握できるので、「テレワークしている社員の方がマネジメントしやすい」という上長もいますね(笑)。

大切なのは「自分ごと」として捉えてもらうための伝え方

反対意見がある中でも、改革を順調に進められたポイントはどこにあるとお思いですか?

須藤:「やらされている」という感覚にはなってほしくなかったので、コミュニケーションの部分は、非常に気を遣いましたね。言葉一つ、表現一つに細心の注意を払い、否定的な意見もしっかりと受け入れて対応する。そういった点が、社内の「自分たちの働く環境をよくするためなんだ」という意識づくりにつながったと感じています。
テレワークの導入といった働き方改革には、多くの場合、手順やシステムの変更などが伴いますが、そのような意識があったからこそ、そういった現場での運用面の改革、ルール策定は各部署で能動的に行ってくれました。
トップダウンや管理部門のみで「推し進める」のではなく、「社員と共に推進する」といった進め方は一つのポイントになったのではないかと思います。

サークル活動に「複」業制度…改革を支えたユニークな取り組み

フリーアドレスやテレワークの他には、どのような取り組みをなさっていますか?

清水:ひとつは、サークル活動の立ち上げです。コロナ禍により組織のテレワーク率が一気に上がり、少し落ちついた今でも出社率は低いままになっています。ただ、どうしてもコミュニケーションの問題が出てきます。チームメンバー同士はミーティングなど結構話をする機会があるのですが、チーム外のメンバーと話すきっかけがなかなかないという課題がありました。あわせて、当社はグループ会社も含めると東京や大坂、札幌など全国各地に拠点があり、そういった垣根を越えた交流を活性化するにはどうしたらいいかと考え、サークル活動を始めることにしました。

具体的には、どんなサークルがあるんでしょうか。

清水:音楽やゲーム、スポーツ観戦のサークルなど、現在7つのサークルが活動しています。 例えば音楽サークルは楽器が弾けるメンバーが集まっていて、一緒に演奏の練習をしているそうです。
それから、オンラインで活動を楽しんでいるサークルもあります。スポーツサークルは、昨年のワールドカップや年明けの箱根駅伝のとき、サークル専用のチャットにお互いの感想や感情を書き込みながら試合を楽しんだと聞きました。そんな風に、みんながそれぞれコミュニケーションの取り方を工夫して、主体的に楽しんでいますね。 サークル活動が、部署や担当業務を越えたコミュニケーションの機会となり、仲良くなったことで、業務に関することも質問したり話したりしやすくなったという声を聞いてます。コミュニケーション活性化のための一つの手段としては良かったのかなと思っています。

スポーツサークルがフィンランド発祥の投てき競技「モルック」を体験したときの様子。

業務上でもプラスの効果があったんですね。ほかにも何かありますか?

須藤:ほかには、新たに「複」業を認める制度も始めました。といっても本業以外に何をやってもいいというのではなく、ちょっとお金を稼ぎたいから副業しますというのは禁止にしています。自分のキャリアのためになるとか、あくまでキャリアパスの後押しになる仕事に限定しているんです。 なので、サブの仕事はだめという意味で、あえて一般的な「副業」ではなく、「複業」と呼ぶようにしています。 今はまだ複業している社員は3人だけなのですが、これからもっと増えてくるだろうと思っています。

働き方改革を受けて、実際に働く社員の声は

働き方改革を受けて、お二人自身が仕事や生活で変わったところはありますか?

須藤:私は10年以上この会社にいるので、働き方改革が始まる前と後の違いをすごく感じています。私は子どもが3人いるのですが、以前は常に時間を気にして、本当に余裕のない日々を送っていました。朝も準備しながら遅刻しないかはらはらしたり、会社にいても定時になったらダッシュしてお迎えにいったり。

今は、テレワークが選択でき、かつフレックスタイム制なので、「時間に追われる」という感覚は、本当に和らぎました。気持ちに余裕を持って仕事ができるようになったのがとても大きな変化ですね。
仕事の時間は仕事のことだけを考えられるので、集中力もあがった気がします。

清水:私は朝が苦手なのですが、フレックスタイム制により、毎朝、気持ちにゆとりを持って仕事をスタートできています。朝ゆっくりになった日はその分夜頑張るなど、自分のライフスタイルに合わせて仕事ができるのはすごくありがたいです。
それから、育児などと両立しながら仕事をする人が増えたことで、いずれ自分が同じ状況になったときの働き方をイメージできるようになりました。周囲の身近な人がそれぞれのやり方でバランスをとりながら仕事をしているので、男女関係なく、育児や介護などと両立しながら、多様な働き方ができるんだなと実感しています。

離職率は大幅改善、社内の各方面でプラスの効果が

社内に多様な働き方のロールモデルがたくさんいるのですね。働き方改革を始める前の課題だった、離職率などは変化があったのでしょうか?

須藤:はい、すごく改善されました。以前の離職率はだいたい25%と非常に高かったのですが、現在は5%程度にまで改善しています。

それと、採用の面でもプラスの効果が出ています。当社は中小企業なので知名度では大企業にかなわないところがあるのですが、特にワークライフバランスを考えて転職を希望している人に、そうした大手企業と肩を並べて併願してもらえるようになりました。
それから、内定の辞退率が下がったのもありますね。働き方改革が進んでテレワークが浸透した後は、内定を出すとほぼ受けてもらえるようになりました。

あと、マイデスクがあると、どうしても書類やモノを溜め込む社員がいるのですが、フリーアドレスになり、常に整然としたオフィスを保てるようになったのは、うれしい誤算でした(笑)以前はオフィスが雑然としていて、応募者に社内を見せるなんてできなかったので(苦笑)。働く環境を直接見てもらうことができるようになったのも大きいと思います。

業績や社員のアウトプットに、変化はあったのでしょうか。

須藤:最初は心配もあったのですが、テレワークを導入したからといって業績が下がることはありませんでしたし、むしろテレワークを取り入れたことで集中できる、成績が上がった社員も多数います。社員が時間を有効に使えるようになりましたし、ありがたいことに、働きやすい環境に対して感謝の気持ちをもって、しっかり業務でお返ししたいと頑張ってくれています。 社員からは、「今の環境が働きやすすぎて、他の会社で働けるか不安だ、もう転職できないかもしれない」なんていう、ちょっとうれしい声ももらっています。

最後に、将来の展望や、今後の目標がありましたらお願いいたします。

須藤:そうですね、個人的な意見になりますが、現在の働く環境が完成系だとは思っていないので、世の中の変化にあわせて、これからも柔軟にまた進化していかなければいけないのだろうなと思っています。例えば、今複業している社員はまだ3名しかいませんが、どんどん増えて、もしかしたら将来はうちが複業先という社員もいるかもしれません。ほかにも、週5日ではなく週3日勤務でも、結果を出している人は給与が変わらないなんていう制度ができているかもしれません。
みんながいきいきと仕事ができる環境があって、そして働く時間ではなく、能力や成果で判断するような会社になっていけばいいなと思っています。

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