建設業における販売管理とは?目的や管理のフロー・帳票について解説
業種や業界にかかわらず必要となる販売管理ですが、建設業においては、具体的にどのような業務が発生するのでしょうか。本記事では、建設業における販売管理とは何か、その目的や管理フローを建設業の販売管理に必要な帳票とあわせて解説します。
目次
建設業における販売管理とは?
建設業では、プロジェクトの開始から完了まで長い期間がかかり、多くの「ヒト・モノ・カネ」が動きます。建設プロジェクトの提案から契約締結、そして工事完了までの一連の流れの中で、それらを集約して管理するのが、建設業における販売管理です。
具体的には、受注管理、出荷管理、仕入管理、在庫管理、請求管理を中心に行い、コスト管理のほか、施工管理などの業務を担うこともあるでしょう。建設業は、多くの関連業者や複雑な業務プロセスが絡むため、商品の流れを管理する販売管理は、迅速かつ正確な情報管理と連携を効率よく行うことが重要となります。
建設業の販売管理の目的
建設業の販売管理は、顧客満足度を向上させ、業績を最大化することを目的としています。また、適切な販売管理を行うことで、完成工事原価を的確に算出することができます。ここでは販売管理の目的を具体的に解説します。
収支・費用を管理するため
建設業の販売管理の大きな目的の1つに「収支と費用の管理」があります。
「何にいくらかかっているか」「いくら利益がでているか」を把握しなければ、キャッシュフローの健全性や業績の安定化は図れません。また、予想収益と実際の収益を定期的に比較することで、差異や原因を早期に把握し、不必要な経費の削減や、より効果的な投資など、対策を講じることができます。
顧客満足度の向上を図るため
販売管理で行う受注・出荷・請求などの管理業務は、いずれも顧客との重要な接点となる業務です。そのため、これらの業務が適切かつスピーディーに処理されることで信頼度を高めたり、顧客満足度を向上させることも可能です。
建設プロジェクトでは、一つの資材の発注ミスや在庫切れが、プロジェクト全体に深刻な影響を及ぼしてしまうことも珍しくありません。品質も含め、予定通りに「モノ」の流れを管理し、施工を計画通りに進められる基盤をつくる販売管理は、顧客との信頼関係の土台となる業務でもあるのです。
完成工事原価を算出するため
建築工事や土木工事などのプロジェクトでは、材料費、人件費、施工管理費などを含む完成までにかかるすべての費用を合計した完成工事原価を算出しなければなりません。
建設プロジェクトは大規模で高額なものが多く、完成工事原価の算出は、予算を適切に管理して予算超過を防ぐとともに、収益予測による利益の最大化を図る上でも重要なデータとなります。
また、建設業許可申請を行うためには、建設業法に定める様式に従って「完成工事原価報告書」を作成しなければなりません。
[出典:国土交通省「建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類」]
「完成工事原価報告書」は下記4つの項目の工事原価を、合算して報告します。
- 労務費
- 材料費
- 外注費
- 経費
完成工事原価報告書は、さほど複雑な内容の書類ではなく、会計期間ごとに作成される製造原価報告書の内容を抜粋して作ることができますが、法人の建設業者においては、作成が義務付けられている点を認識しておく必要があります。
建設業の販売管理の流れ
建設業の販売管理には、特定の手順があります。ここからは、その流れについて詳しく説明します。
受注管理
受注管理は、顧客からの依頼や注文を受け、契約の締結までのプロセスを管理する販売管理の最初のステップです。
具体的には、主に以下3つの業務を行います。
- 見積り
- 契約(契約条件の調整、契約の締結)
- 受注
資材や人件費等の費用を算出して「見積り書」を作成し、顧客と条件や金額を調整して、合意の上で契約を締結します。締結に必要な書類の作成、締結後の伝票や帳簿などの作成もあわせて行います。
出荷管理(工事管理)
建設業における出荷管理とは、建設現場に必要な資材や機材、部品などを適切なタイミングで、適切な量を現場に届けるための管理業務を指し、「工事管理」と呼ばれることもあります。
必要な資材の種類、量、納期を把握し、適切なタイミングで現場に届くよう発注と出荷のスケジュールを業者と調整します。出荷された資材の品質管理も行うなど、プロジェクト実施時の中核となる業務です。
請求管理
請求管理では、工事の進行状況を定期的に確認し、状況に応じて請求額の計算や請求書の作成を行います。請求書には、工事内容、工事期間、請求額などの詳細が記載されるため、顧客ごとに異なる請求額、支払い条件の管理のほか、未収金の追跡までを含む業務です。適切な請求管理をすることで企業のキャッシュフローの健全性が保たれます。
在庫管理
在庫管理は、工事現場で必要となる資材を過不足がないように管理する業務です。出荷管理と併せて行われることが多いでしょう。
過剰な在庫は資金繰りの負担となりますが、一方で資材の不足は工事の遅延を引き起こすリスクがあります。そのため在庫管理では、需要の予測やリアルタイムの在庫情報の収集・分析を行い、発注量やタイミングの調整、保管場所の最適化を図ります。
進行中の各現場の在庫管理だけではなく、自社全体の在庫を効率的に管理することで仕入れのコストも最適化できるなど、在庫管理は建設業の業務効率化と収益に直結する大切な業務とされています。
仕入管理
仕入管理は、建設業における材料や機材の購入を適切にコントロールする業務です。
具体的には、適切な仕入れ先の選定、必要量の計算、価格交渉、発注タイミングの調整などが含まれ、品質チェックや納期の管理も行います。適切な仕入管理を行うことで、無駄な在庫を抑えつつ、必要な材料を予定通りに確保することが可能となり、工事の進行を円滑に進める上での基盤を築くことができます。
建設業の販売管理に必要な帳票
建設業の販売管理の際に発生する帳票についても確認しておきましょう。
見積り書
見積り書は、顧客に提案する工事の内容やコストを提示する基本的な帳票です。工事の詳細な内容と費用など、おもに次の4つの項目の詳細を記載します。
- 見積額
- 納期
- 工事の明細、仕様
- 支払い条件
見積り書は、顧客との契約の前提となるものであり、双方の条件を明確にする重要な書類です。追加工事などの変更がない限りは、見積書をもとに請求書が作成されるため、記載内容の抜け漏れや誤りがないよう、チェックを徹底した上で発行しましょう。
注文書
注文書は、顧客との間で契約が成立した際に、その内容を明確にするために作成される帳票です。
注文書には、契約者の情報、工事内容、金額、その他、契約に関する特約事項や契約違反時のペナルティなど、双方が合意した内容が記載されます。注文書は法的な効力を持つため、契約後に工事内容や工事期間などが変更になった場合も、その変更内容を明確にするために再度、注文書を作成します。
納品書
納品書は、基本的に工事が完了したタイミングで作成します。
発行する義務はありませんが、請求書を作成する際の根拠となること、また、税務や会計の記録としても使用されるため、発行するのが慣例とされています。納品書には、完了した工事内容の詳細などが記載され、顧客は納品された工事の詳細を納品書にて確認し、必要に応じて後で参照することができます。
建設業の販売管理の課題
建設業は、一つのプロジェクトに関わる業者が複数あり、実施途中に変更が発生することも多いことから、販売管理も複雑になりがちです。
ここからは、建設業の販売管理におけるよくある課題をいくつか見ていきましょう。
人為的ミスが発生する
建設業の販売管理において、特に問題になることが多いのは販売原価の計算ミスです。「完成工事原価報告書」への記載ミスなどがあった場合は、企業全体のコンプライアンス問題に発展してしまうこともあるでしょう。
そのほか、見積り書や注文書、請求書などの帳票作成や受発注業務も、すべて人の目と手で行っている場合、ヒューマンエラーを完全に排除することは難しいのが現実です。
こうしたミスが、工事の遅延やコスト増、さらには顧客との信頼関係の損失を招くことがないよう、自動化による手作業の低減、チェック体制の強化などの対策により人為的ミスを予防しなければなりません。
承認フローに遅れが出る
承認フローの遅延も建設業の販売管理で頻発する課題の一つです。
上長による帳票のチェックと承認に時間がかかり、その遅れによって「顧客との交渉の機会を逃してしまう」「資材の発注が遅れてしまう」、さらには「施工スケジュールに支障をきたしてしまう」といったことが起こる可能性があります。
承認フローの遅延は、結果として工事の納期遅れや追加コストを発生させるリスクを高めます。効率的な承認フローの確立や、デジタルツールの導入によるフローの自動化など、適切な対策が求められます。
管理コストがかかる
建設業の販売管理は業務量が多く複雑なため、管理コストが高い、という課題もあります。
特に、すべての管理を紙面で行う場合、人的リソースを含むあらゆるコストが高くなります。例えば、印刷費用、保管するための費用、紛失や再発行の手間、管理者の確保、などが挙げられます。この課題を解決するためには、デジタル化の推進が必要です。
▷販売管理の業務フローについて|必要な書類や販売管理システムを利用するメリット
建設業における販売管理の課題を解決する方法
建設業における販売管理の課題を解決するには、販売管理システムの導入が有効な手段となるでしょう。販売管理システムを導入するメリットには次のようなものがあります。
- 帳票をシステム上で発行・管理できる
- 原価計算や予算実績管理、損益分析などが自動化できる
- 販売管理に関連する情報が一元化され、情報共有しやすくなる
- 紙の書類などの保管コストを削減できる
- データの改ざんリスクが下がる
- 文書の紛失などによる情報漏洩が防げる
上記の通り、販売管理業務のシステム化は、効率化と安全面でメリットが多いといえるでしょう。なかには、ワークフロー機能を備えたシステムもあるため、活用することで承認フローの効率化も見込めます。
ただし、システム導入には、導入・運用コストを要するほか、システムを定着させるまでの期間は研修が必要になるなどの負担も発生します。費用対効果は、導入によるメリットとデメリットを照らし合わせながら、慎重に見極めるようにしましょう。
▷【2023年最新】おすすめの販売管理システム16選比較|メリットや機能・選び方を解説
システムを活用し建設業の販売管理の課題を解決しよう
建設業の販売管理は、多くの業者が関係することから煩雑なうえ、コンプライアンス面でもさまざまな配慮や徹底が求められる特徴があります。
よくある課題の解決や大幅に業務を効率化するには、販売管理システムの導入がおすすめです。システム化は、ミスの削減や情報管理の強化、承認フローの自動化など、数多くのメリットをもたらします。
ぜひシステムの導入により、効率的な業務運営を実現しましょう。
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