【解説】BCPの発動条件とは?基準となる災害レベルや発動フローについて

最終更新日時:2022/10/24

BCP対策

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事業を守るためにBCP対策を策定しても、発動する基準が明確でないと上手に運用できません。いざという時に活用できなければ、BCPを策定した意味が無くなってしまいます。本記事では、BCP発動条件の基準となる災害レベルや発動時のフローについて解説します。

BCPを発動する条件とは?

BCPの発動とは、あらかじめ作成したBCP対策を実行することを意味します。BCPは適切なタイミングで発動しなければいけません。発動のタイミングが遅すぎる場合、事業への影響度が増すために迅速な事業復旧が難しくなる可能性があるからです。

中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」には発動条件のポイントを以下のように解説しています。

BCPの発動基準を設定するにあたってのポイントは、あなたの会社の中核事業のボトルネックが何らかの影響を受け、かつ、それに対して早期の対応をしなければ、目標復旧時間内に中核事業を復旧させることができない場合を正しく把握する必要があるということです。

[引用:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」より]

つまり、「中核事業のボトルネックが影響を受けた」「目標復旧時間(RTO: Recovery Time Objective)内に中核事業を復旧するために迅速に発動する必要がある」という2点が、一般的なBCP発動条件といえるでしょう。

なお、ここでいう「ボトルネック」は、同指針において「事業の継続や業務復旧の際に、その部分に問題が発生すると全体の円滑な進行の妨げとなるような要素」とされています。

BCP発動の基準となる災害レベル

日本では毎年のように大雨や台風など、大規模な自然災害が発生しています。災害が発生した際、住民が正しい行動を取れるように、日本政府が「警戒レベル」を用いて現在の危険性を伝えます。

内閣府による「避難情報に関するガイドライン(令和3年5月改定、令和4年9月更新)」では、警戒レベルは以下の5段階に分かれています。

警戒レベル取るべき行動
レベル1災害情報に警戒する
レベル2避難に備えて行動を確認する
レベル3高齢者などが優先的に避難する
レベル4全員避難する
レベル5命を守れるように最善の行動を取る

レベル3では高齢者や障害のある人、移動に時間を要する人などが危険な場所から避難することが求められています。

さらに、レベル4以上になると災害が発生する可能性が高い状況となるので、「危険な場所からの全員避難」が必要になります。つまり、この状況下において、企業もBCP発動の準備をする必要があるといえるでしょう。

[出典:内閣府「防災情報のページ」]

[出典:内閣府(防災担当)「避難情報に関するガイドライン」]

[出典:政府広報オンライン「「警戒レベル4」で危険な場所から全員避難!5段階の「警戒レベル」を確認しましょう」]

BCP発動時のフロー【6step】

災害発生時においてBCPを発動した際のフローを解説します。具体的には、次の6stepで対応します。

  1. 対策本部を確保する
  2. 被害の状況を確認する
  3. 復旧活動を開始する
  4. 社員の支援を行う
  5. 顧客への対応を行う
  6. 財務対策を行う

各stepについて一つずつ確認していきましょう。

1.対策本部を確保する

最初にBCPの対策本部を確保します。緊急事態が発生した際の要です。また、BCPの対策本部以外に、以下のチームを編成しましょう。

  • 事務局
  • 情報収集チーム
  • 広報チーム

上記のチームを編成することで、緊急事態時でもスムーズに対応可能になります。BCPの対策本部を設置する場所は複数用意する必要があります。災害により本社が使用できなくなる可能性があるからです。

2.被害の状況を確認する

次に災害による被害の状況を確認します。

事務所内の確認では、オフィス内の重要書類が損傷していないか、事務所内の安全な場所に待避できるか、外に書類などを持ち出す必要があるか、情報システム(パソコンやソフトウェア)が使えるかなどを判断します。

また、交通機関の状況、電気・ガス・水道などのインフラの損傷、延焼火災やガス漏れなどの確認とともに、初期消火や住民の救出など、地域貢献活動の必要性の有無を検討します。

被害を受けている場合は、負傷者の手当てや避難活動の手伝いなどを行いましょう。また、事務所の周辺に住む社員がいれば、緊急事態時の出社の可否をあらかじめ確認しておくことが大切です。

さらに事業継続や早期復旧に際しては、自社の状況だけでなく、関連会社や取引先の状況も重要になるので、早期の確認が必要となります。

3.復旧活動を開始する

災害が落ち着き始めたら、被害の状況に応じて復旧活動を開始します。具体的な活動は、事務所に破損があれば修理を依頼し、経営に必要な資源が足りないのであれば調達します。

なお、災害直後は交通が混雑することが予想されるため、混雑状況に応じて最短で手元に届くように調整することが重要です。

4.社員の支援を行う

企業側は、被害を受けた社員とその家族への支援も行う必要があります。具体的には食料や仮住居などを提供します。また、被害が小さく活動可能な社員がいれば積極的に手伝ってもらいましょう。

5.顧客への対応を行う

事業を復旧する際、取引先への対応をできる限り早く行うことが必要です。それぞれの被害状況の共有や今後の取引について話し合います。

なお、連絡手段は電話やメールなどが基本となるものの、災害時はそれらが繋がりにくくなる可能性が高いため、代替手段も用意しておきましょう。いかなる状況でも事業を継続するには取引先が重要な存在になります。丁寧な対応を心がけることが大切です。

6.財務対策を行う

事業を復旧させるための資金を調達する必要があります。

資金を調達する方法には損害保険の請求や自治体からの支援金などがあります。被害の状況から予想される必要資金を明確にし、書類を作成して請求または申請をしましょう。また、資金が足りない場合は証券資産の売却なども手段の一つです。

BCP対策で大切な4つのフェーズ

BCP対策を講じる際には、各フェーズごとにポイントを押さえておくことが重要になります。ここではBCP対策で大切な、以下の4つのフェーズについて解説します。

  1. BCP発動フェーズ
  2. 業務再開フェーズ
  3. 業務回復フェーズ
  4. 全面復旧フェーズ

1.BCP発動フェーズ

災害が発生した場合の最初のフェーズになります。BCP発動フェーズでは以下のようなことを判断します。

  • 災害による被害状況はいかなるものか
  • 現場でどのような対応を取るか
  • 災害は業務にどのような影響を与えるか
  • BCP対策の基本方針はどうするか

このフェーズでは、確実な情報収集によって災害状況を確認し、迅速な判断のもとにBCP対策の基本方針を決定します。

2.業務再開フェーズ

BCPの基本方針が決定したら、業務再開に向けて動き出します。業務を再開するにあたって以下が必要になります。

  • 業務を行う場所
  • パソコンをはじめとする情報機器
  • 運転資金

また事業を進めるための代替手段への迅速な切り替えや人員などの経営資源の調整、必要に応じてBCPの基本方針の修正や見直しもポイントになります。

さらに、取引先に連絡をして取引を復旧させることも重要です。このフェーズで自社におけるもっとも重要な業務(中核事業)の再開を目指します。自社の業務再開と並行して、地域の復旧活動に参加することも大切になります。

3.業務回復フェーズ

業務を再開したら、災害発生前の状態まで回復させます。前のフェーズにおいて注力した基幹業務の再開に加えて、範囲を周辺業務にまで拡大させるフェーズです。リソースの確保や作業効率など、被災前の状況と照らし合わせながら行うことで、現状をチェックできます。

このフェーズでは、代替手段の適用や代替オフィス・施設での稼働などによって、現場の混乱や効率の低下が起こるケースが増えるといわれています。そのため、現場の状況を踏まえた経営判断やサポートが重要です。

4.全面復旧フェーズ

代替手段や代替オフィスなどから、通常運転へ切り替えるフェーズになります。完全に回復したと判断したら、次の災害発生に備えて、レポートや再発防止策などをまとめます。

また、今回の災害をもとにBCP対策を見直すことも重要です。将来的に、同じような緊急事態が発生した場合、被害をより小さくできるように改善していきましょう。

BCP対策の運用事例

頻発する自然災害などを受けて、企業規模や業種を問わず、各企業・団体はBCP対策を進めています。ここでは先行する以下の5つの運用事例を紹介します。

  • イオン株式会社(小売業)
  • 小熊建設株式会社(建設業)
  • 大草薬品株式会社(製造業)
  • 東京海上日動火災保険株式会社(保険業)
  • 岩砂病院・岩砂マタニティ(医療福祉)

イオン株式会社|小売業の事例

イオン株式会社は大型スーパーやドラッグストアなどの小売業を展開する会社です。小売業は災害が発生した際の実店舗への影響が大きい業種のため、より包括的なBCP対策が必要になります。

同社では具体的に、生活必需品の確保や被災者支援などを優先してBCP対策を行っています。実施しているBCP対策は下表のとおりです。

BCP対策内容
外部連携の強化エネルギー会社や病院、交通物流会社と連携して、災害時でも対応できるシステムを構築する
施設における安全・安心対策の強化店舗を安心安全な場として、一時避難所や救護スペースとして提供する
サプライチェーンの強化食品・日用品メーカーと連携して、スムーズな支援物資の提供を実現する
事業継続力向上に向けた訓練災害が発生した際にお客様や従業員を守れるような防災訓練を定期的に実施する
情報インフラの整備「安否確認システム」や「イオンBCM総合集約システム」を運用して、災害時でも連絡がスムーズに取れるようにする

小熊建設株式会社|建設業の事例

小熊建設株式会社は、建築一式請負工事やリフォーム工事、耐震補強工事、バリアフリー工事などを手がける会社です。

建設業は災害が発生した際に、住宅の修繕や復旧などで需要が高まることが予測できるでしょう。そのため、需要に対応するための、資材の確保や体制の整備などが必要になります。

同社は、東京都世田谷区に事務所を構えており、同区と災害時協力協定を結んでいることから、都内の公営住宅公共工事を最優先としてBCP対策を実施しています。

具体的なBCP対策は次のとおりです。

BCP対策内容
重要な情報のバックアップ常に情報を2台のHDDに保存して、重要な情報が抹消されないようにする
資機材の確保・管理素早く住居の修繕作業を行えるように、大量に必要になることが予想される資機材を確保・管理しておく
電力の確保燃料やバッテリー、工具の予備、発電機などを確保しておく
代替拠点の設置災害時でも車が混み合わない場所に代替拠点を設置する
体制の整備災害対策本部を設置し、社長が本部長を勤める
BCP訓練の実施年2回、BCP対策の訓練を行う

大草薬品株式会社|製造業の事例

大草薬品株式会社は漢方生薬などの製造・販売を行う会社です。製造業は店舗や工場が被害を受けると、事業の継続が難しくなります。そのため、災害が発生した際のシミュレーションを他の業種より入念に行わなければいけません。

具体的には、同社では従業員の命を優先しつつ、災害時に多くの人から必要とされる胃腸薬や便秘薬の製造に注力しています。大草薬品株式会社が策定しているBCP対策の内容は次のとおりです。

BCP対策内容
事業継続検討委員会の設置工場・ライフラインなどが停止した場合に素早く指示を出せるようにする
備品薬品等の保管方法の改善備品の転倒・落下を防止可能な方法で保管する
従業員の初動訓練避難通路の確保や初期消火などの訓練を実施する
避難計画の周知避難場所と避難方法の周知を徹底する
製造場所の破損対策製造工場の破損対策をする

東京海上日動火災保険株式会社|保険業の事例

東京海上日動火災保険株式会社は、損害保険業務の代行などを手がける会社です。保険業は、災害が発生した際に保険金の支払いをする必要があります。そのため、大きな被害を受けても事業を中断できない重要な責務があるといえるでしょう。

同社では、災害が発生した場合に、保険事故受付業務や保険金などを優先事業として定め、以下のようなBCP対策を実施しています。

BCP対策内容
組織・体制を整える本店災害対策本部を立ち上げて、BCP対策を実施できるようにする
緊急時の代替拠点を定める本店が機能しなくなった場合、多摩・新宿・横浜・大宮・幕張・立川の6つを代替拠点とする
緊急時に備えた機器・物資の整備代替拠点に災害時用の通信機器・物資を保管しておく
バックアップシステムの設定メインのシステムセンターが起動しなくなった場合、24時間後にバックアップシステムが稼働するように設定する
安否確認システムの導入安否確認システムを導入し、社員やその家族の安全を確認する
緊急時の応援要員の確保災害時でも業務ができるように応援要員の確保の準備をする
災害時を想定した訓練の実施災害時のマニュアルを作成・訓練を実施する

岩砂病院・岩砂マタニティ|医療福祉の事例

岐阜県岐阜市にある岩砂病院・岩砂マタニティは、出産・リハビリテーション・予防医療までを網羅する、地域医療を支える病院です。

災害時は患者が増加する可能性が高いため、医療福祉業は事業を継続することが強く求められます。そのため、スタッフの安全を確保しながらも、患者の対応を行う必要があるのです。

岩砂病院・岩砂マタニティは、妊婦の分娩や新生児の生命の維持を優先業務としながら、以下のようにBCP対策を実施しています。

BCP対策内容
業務復旧のミッション化目標復旧時間と目標復旧レベルを定義する
優先する業務の洗い出しスタッフで意見を出し合い、深夜帯の災害時に優先するべき業務を明確にする
ミッションシートを使った訓練具体的にどのスタッフが何をするかをミッションシートを用いて整理する
初動対応能力向上の訓練復旧時間を意識した教育・訓練を実施する

BCPの効果を発揮するには明確な発動条件の設定が重要

本記事ではBCPの発動条件や発動時のフロー、各フェーズごとのポイントなどについて解説しました。

BCPの効果を発揮するには、事前に明確な発動条件を設定し、共有することが重要です。本記事で紹介した内容や他社の事例などを参考にして理解を深め、有効性の高いBCPが策定できるように対策を進めましょう。

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ビズクロ編集部
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