BCMとは?BCP・BCMSとの違いや策定の手順・具体的な実施例を解説

最終更新日時:2022/09/30

BCP対策

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BCMやBCPなど、緊急事態時において事業を継続させるための施策は複数あります。それぞれ似た意味で使用されるので、混同してしまう方も少なくありません。本記事では、BCMについてBCPやBCMSとの違いから、策定の手順や具体的な実施例までを徹底解説します。

BCM(事業継続マネジメント)とは?

BCMは「Business Continuity Management」の頭文字で、日本語では「事業継続マネジメント」と訳されます。テロ攻撃や自然災害などの緊急事態が起こった場合でも、被害を最小限に抑えながら、事業を継続させるためのマネジメントのことです。

また、BCMは緊急事態の際に使用するツールの選択やマニュアルの作成なども含み、事業継続計画の導入・運用・改善までの包括的・全体的なマネジメント施策を指します。

BCMに関係する規格

企業や自治体における「事業継続」に関する、法令やガイドラインは数多く存在します。中でも、BCMに関しては、以下の2つが代表的な規格といえます。

  • ISO 22301(国際規格)
  • BS 25999(英国規格)

「ISO 22301」は、緊急事態の際、企業の早期復活や事業継続が可能なBCMシステムを構築している場合に認定されます。ISO 22301の認定を得るには、テロ攻撃や感染症などの企業の事業継続を妨げるものに対して、適切な施策を講じている必要があります。

ISO 22301は、事業継続マネジメントシステム(BCMS)に関する国際規格です。

地震・洪水・台風などの自然災害をはじめ、システムトラブル・感染症の流行・停電・火災といった事業継続に対する潜在的な脅威に備えて、効率的かつ効果的な対策を行うための包括的な枠組みを示しています。

[引用:一般財団法人日本品質保証機構「ISO 22301(事業継続)」より]

一方、「BS 25999」は英国規格協会(BSI)が発行している同国の国家規格です。多くの企業の意見を取り入れて作られたガイドラインであるため、実効性や信頼性において高い評価を得ています。Part1(実践規範)とPart2(認証用規格)の二部構成となっており、前出のISO 22301はBS 25999をもとに作成されています。

BCMを策定する重要性

災害や感染症の拡大、サイバーテロなどの緊急事態によって事業が停止してしまうと、自社の特定業務にとどまらず、他の事業や子会社、さらには取引先にも多大な影響を与えてしまいます。

自社のサプライチェーンを構成する複数の企業の営業がストップしてしまうことで、取引先の経営が傾いたり、廃業につながるリスクも考えられます。また、ユーザーへの商品・サービスの供給が止まることで、消費者からの信頼を失う可能性もあります。

BCMに取り組み、緊急事態時でも事業が停止しないことを明確に示すことで消費者や取引先からの信頼維持につなげられます。平時から緊急時を想定して事業継続計画を定めたり、運用・改善を行い、定着を図ることは、自社のステークホルダー全体の信頼を得るためにも重要なのです。

BCPやBCMSとの違い

BCMと似た言葉に「BCP」と「BCMS」があります。それぞれの違いについて、簡単に解説していきます。

BCP(事業継続計画)

BCPとは、「Business Continuity Plan」の頭文字で、「事業継続計画」を指します。BCMが事業を継続するための「マネジメント」であるのに対して、BCPは事業継続を実現するための「計画」そのものを指します。

つまりBCMは、BCPを活用して災害時などに適切に運用できるように、平常時から自社で運用・改善・定着を図る全般的な施策といえます。

BCMS(事業継続マネジメントシステム)

BCMSとは、「Business Continuity Management System」の頭文字で、「事業継続マネジメントシステム」のことです。BCMSは、BCPやBCMの検証や改善などを組織的に行っていく仕組みを指します。

BCMSを整備することで、事業継続計画の導入から改善、維持までの工程を適切に実行できるようになります。結果、社会情勢や企業環境の変化にも対応でき、緊急事態時の迅速な事業の復旧・継続につなげられるのです。

BCMを策定する手順【6step】

BCMは、以下の6つの手順で策定します。

  1. 基本的な方針を決める
  2. リスクや被害を予測する
  3. 具体的な対策を構築する
  4. 対策を踏まえて計画を練る
  5. 緊急時に備え訓練を実施する
  6. 見直しと改善を行う

1.基本的な方針を決める

最初に、BCMの基本的な方針を決めます。方針を決める際、災害時に何が自社にとって重要な事項となるのかを明確にする必要があります。

例えば、以下の項目について検討しましょう。

  • 経営方針
  • 事業戦略
  • ステークホルダーとの関係性
  • 自社の特性
  • 周囲の環境 など

企業や業種によって「人命」「消費者への商品・サービスの提供」「周辺地域の復旧・復興」など優先すべきことが異なるので、優先順位を付けておくことも大切です。

2.リスクや被害を予測する

BCMを策定するにあたって、自社の事業継続を脅かすリスクや被害の予測を立てることも必要になります。緊急事態が発生した際に、企業に影響を及ぼすと考えられる項目は次の通りです。

  • 売上・利益
  • 顧客
  • 従業員の働き方・健康
  • 消費者・取引先からの信頼 など

この工程で重要なのは自社にとっての中核事業を洗い出すことです。災害時などに、優先的にリソースを投入し、速やかに復旧・再開する必要のある事業を明確にし、復旧に要する時間や、どのレベルまでの復旧を目指すかなど、定量的な数値目標を定める必要があります。

3.具体的な対策を構築する

基本的な方針やリスク・被害の予測、中核事業など、必要な情報が揃ったら具体的な対策を考えます。

例えば、地震や水害などで膨大なデータを喪失すると、事業に甚大な影響が出る場合にはクラウドの活用や遠隔地におけるバックアップ体制の構築などが重要になります。また、停電による電力の損失が事業に大きなインパクトを与える場合には、予備電源の確保が優先的な対策となるでしょう。

災害状況や社会情勢によっては、「自社の利益を最優先にすべき」や「顧客の信頼が第一」といったように優先事項の柔軟な変更が迫られる場合があります。そのため、対策を考える際には、さまざまなケースを想定しておきましょう。

4.対策を踏まえて計画を練る

具体的な対策を構築したら、計画を練ります。計画を練る際には、以下の4つのステップで行いましょう。

  1. BCP(事業継続計画):緊急事態が発生した際の対応策をマニュアル化しておく
  2. 事前対策計画:データのバックアップや拠点の確保など、普段から行える緊急事態時の対策を計画する
  3. 訓練計画:BCPの実施に向けた訓練を計画する
  4. 更新計画:企業環境の変化に伴って計画を更新する

5.緊急時に備え訓練を実施する

「4.対策を踏まえて計画を練る」の訓練計画にあたるフェーズです。計画を立てただけでは実際に緊急事態が起きたときに、速やかな対応ができない可能性があります。そのため、計画に実効性を持たせるためにも、定期的に訓練を実施することが大切です。

訓練を行うことで、担当者の理解が促進され、有事の際に適切な行動に移れるようになります。また災害時に使用するツール・システムの操作方法や、関係部署との連携強化のための良い機会にもなるでしょう。

6.見直しと改善を行う

計画策定と訓練を繰り返し、計画の見直しと改善・修正を行うことが大切です。実際に従業員が計画を実行した中で感じた問題点や課題点、ツール操作の不明点、指揮系統の曖昧な点、計画の漏れや抜けなどを見つけ、修正を加えて精度を上げていくことが重要になります。

見直しを行う過程で、社会環境や関係企業・消費者などの状況が変化する場合もあるでしょう。その時には、都度改善して計画に微修正を加えていく必要も出てきます。そうしたサイクルを回すことで、最適化されたBCMを作成できるようになります。

BCMの実施例を紹介

最後にBCMの実施例として、以下3つの企業・団体の事例を紹介します。

  • 大成ファインケミカル株式会社
  • 株式会社生出
  • 公益財団法人岡山県産業振興財団

大成ファインケミカル株式会社

アクリル樹脂を主体とした合成樹脂の設計・開発、製造、販売を手がける大成ファインケミカル株式会社は2009年頃からBCP作成の必要性を感じていました。しかし経営陣による理念先行型の考え方が現場に浸透せず、取り組みをなかなか進められずにいました。

転機となったのは2011年3月11日の東日本大震災です。震災前の3月7日に、在庫のドラム缶の飛び出しを防ぐ耐震ラックを設置したことで、従業員の命が助かったという出来事がありました。

この経験から改めてBCM作成を決意し、民間コンサルティング会社からの指導を受け、BCPを新たに策定しました。現在では、耐震構造の本社管理棟の建設、倉庫の分散、在庫確保、大型自家発電機の設置、電源喪失時用の緊急停止設備の導入、情報関連の外部データセンターへの委託などを実施しています。

株式会社生出

包装資材・緩衝材の設計などを行う株式会社生出(おいずる)は、2009年に発生した新型インフルエンザパンデミックをきっかけに、BCPの作成に着手しました。

同社のBCMに関する取り組みについて、当初は従業員はあまり興味を示しませんでした。しかし、コピー機の移動防止やガラス飛散防止など、目に見える活動を進めていくうちに、徐々に従業員の意識を変化させることに成功しました。

同社ではBCMの具体的な取り組みとして、「災害を想定した机上訓練」「対策手順書の見直し」「定期的な活動報告会議」などを実施しています。

このような取り組みは2011年6月から開始しており、2012年6月には「BS 25999」を取得しています。またBCMへ取り組むことで、仕入れ先との連携強化にもつながり、安定受注にも寄与しています。

公益財団法人岡山県産業振興財団

公益財団法人岡山県産業振興財団は、岡山県に所在する企業に対して、BCP・BCM策定を支援する機関です。岡山県は災害が比較的少ない地域であるため、住民に防災の意識を持ってもらうことが困難でした。

しかし2011年3月の震災を機にBCPへの関心が高まり、2012年度から多くの中小企業に対してBCP策定の支援を行うようになりました。また、2013年度にはBCP=災害時の対応計画という位置付けから、BCP=経営戦略と位置付けを変更して、取り組みを発展させました。

このような取り組みが評価され、BCAOアワード(特定非営利活動法人事業継続推進機構主催)において、2012年に大賞、2013年度に特別賞、2014年度に優秀実践賞・特別賞、2015年度に特別賞を受賞しています。

BCMとは緊急時の被害を抑え事業を継続する上で重要な計画

本記事では、BCMについて、BCP・BCMSとの違い、策定の手順、具体的な実施例を解説しました。BCMは緊急時の被害を抑えて、事業を継続するために重要な施策となります。ぜひ、本記事を参考にして、BCMに取り組みましょう。

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