BCP(事業継続計画)とは?初心者でもわかる策定の重要性と手順について
災害時などの不測の事態でも事業の継続性を確保するために必要とされているBCP。日本でも策定が急がれているBCPですが、そもそもBCPとは一体どのような対策なのでしょうか。本記事では、そんなBCPについて、BCPの意味から策定の手順まで詳しく解説していきます。
目次
BCP(事業継続計画)とは?
BCP(事業継続計画)について、意味をはじめ、策定状況や防災計画との違いまでを解説します。
BCPの意味
BCPは「Business Continuity Planning」の頭文字をとったもので、事業継続計画を意味します。
災害やテロなどの緊急事態に遭遇した際、事業における損害を最小限にとどめ、中枢業務の継続や早期復旧を実現するために各企業で立てられる事業計画のことです。
現在、BCPの策定が義務付けられているわけではありませんが、東日本大震災などの大規模な地震を経験してきた日本では、BCPを策定する企業が増えつつあります。
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BCPの策定状況
内閣府の調査によると、令和3年度(2021年)時点では大企業の70.8%、中堅企業の40.2%がBCPを策定していることが分かっています。
策定中の企業も合わせると、大企業は85.1%、中堅企業は51.9%と、多くの企業がBCPの策定を進めています。
ただ、企業規模が小さくなるほど策定率が下がり、中堅企業のなかにはBCPを策定する予定がないと回答した企業(11.8%)も一定程度存在するのが全体でみられる傾向です。
[出典:内閣府「令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査]
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BCPと防災計画の違い
BCPと混同されやすいものに「防災計画」が挙げられます。2つの大きな違いは、対策の対象です。
BCPが自然災害やテロ・感染症の蔓延など、さまざまなリスクに備える一方で、防災計画における対策の対象は、大雨や地震などの自然災害のみです。
また、BCPは事業を継続させるために策定されるため、自社だけの問題ではありません。そのため、普段取引している企業と共同で対策を検討する場合があります。
その反面、防災計画は自然災害で現物資産が失われないような対策を立てるため、自社のみで検討されます。
このように、BCPと防災計画は重複する部分もありますが、対策の対象が異なり、防災計画では対策できないリスクがあることを知っておきましょう。
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BCP策定の重要性
そもそも日本は、地震や台風といった自然災害が多い国です。そのため、大規模な被害を受けた際、対策がなければ倒産や事業縮小を余儀なくされてしまいます。
また、企業規模が小さくなるほど、経営基盤が脆弱になる傾向があるため、中小企業は緊急事態への対策を講じなければ、廃業のリスクが高まるばかりです。
そして、緊急事態時に事業が途切れても、BCPによって事業の早期復旧を実現できれば、顧客の信用を維持できる点も、BCP策定の重要性のひとつとして挙げられます。
緊急事態時でも顧客や市場からの信用を維持できれば、その後の事業拡大や企業価値の向上も期待できるでしょう。
▷【担当者向け】BCP策定の具体的な手順と策定例をわかりやすく徹底解説
BCPを策定する目的
BCP策定の目的は、緊急事態に遭遇した場合でも事業を維持・早期復旧させることです。
BCPでは、あらゆる緊急事態に備えた対策や対応をあらかじめ計画するため、緊急事態時でも慌てることなく正しい行動をとれるでしょう。
緊急事態時でも事業を維持・早期復旧できるということは、倒産や事業縮小のリスクを軽減させることにもつながります。
▷【解説】BCP対策に有効なITツール・システムとは?
BCPを策定するメリット
BCP策定のメリットを3つ紹介します。
企業の信頼性向上
BCP策定によって、企業の信頼性を向上できます。緊急事態時に事業を継続・早期復旧できない場合、会社だけでなく取引先にも影響が出ます。
そのため、緊急事態時への対策をしていない企業は取引先として選ばれにくいでしょう。
しかし、BCP策定を策定することで、緊急事態時でも事業を継続・早期復旧できることをアピールできます。
リスクマネジメントを実践する姿勢を示すことで、顧客や株主からの信頼性を高められます。結果として、取引先や出資先として選ばれやすくなるでしょう。
災害時の対応の迅速化
さまざまなリスクに備えた対策や対応を練るBCPを策定しておけば、災害が起こった場合でも迅速な対応が可能です。
災害が起こった際、迅速かつ最適な行動をとれないと、被害は大きくなっていくでしょう。災害の発生は突発的に起こるもので、予測できるものではありません。
しかし、BCPが策定されていれば、日頃から各社員も緊急事態に対する危機意識が働きます。そのため、災害時の対応が迅速化し、災害による被害を最小限にとどめられるのです。
事業継続性の確保
緊急事態時に事業を継続・早期復旧できなかった場合、その期間で顧客が離れたり、取引先や株主からの信用を失ったりする可能性が高まります。
しかし、BCPを策定しておくことで緊急事態時でも事業を継続・早期復旧できるため、顧客離れや信用損失を最小限にとどめられるでしょう。
また、競合他社が事業再開までに時間がかかっている場合、市場におけるシェア拡大も期待できます。
このように、BCP策定による事業の継続・早期復旧は、緊急事態時の事業継続性だけでなく、その後の事業継続性確保にもつながっていきます。
▷【解説】BCP策定を実施するメリット・デメリットとは?
BCPを策定するデメリット
BCP策定のデメリットを2つ紹介します。
BCPが機能しない可能性がある
株式会社NTTデータ経営研究所の調査によると、コロナ禍においてBCPを発動できた企業は約2割でした。
原因としては、BCPを大雨や地震などの自然災害発生時の対策と認識している企業が多く、パンデミックを予想したBCPではなかったことが挙げられます。
このように、あらゆるリスクへの対策を講じるBCPでも、そもそも予測できていない事態に陥れば、BCPは機能しないのです。
[出典:株式会社NTTデータ経営研究所「企業の事業継続に係る意識調査(第6回)」]
BCPに対応できる体制の構築が必要
BCP策定時には、あらゆるリスクを想定し、それに対する対策を講じます。対策を実践するためには資金の確保や人材などの社内体制を整備することが必要です。
社内体制とかけ離れたBCPを策定しても、実行できないもしくは対応が遅くなる可能性があります。
例えば、普段テレワークを一切行っていないのに、「災害時はテレワークに切り替える」と対策していても、いざ災害が発生したとき円滑にテレワークへの切り替えはできないでしょう。
そのため、普段から中枢業務の一部でテレワークを実施したり、テレワークに切り替えた際の業務方法をマニュアル化したりするなど、事前にBCPの発動へ備えなければなりません。
このように、BCP策定時は現在の社内体制で実行可能なBCPを検討するか、BCPを実行できる体制を構築することが大切です。
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BCPを策定する方法・全手順
BCPを策定する方法について、順を追って解説します。
基本方針の決定
まず、BCPをなぜ策定するのか、方針を固めましょう。
- 社員の命を守るため
- 信用を維持するため
- 損失を最小限にとどめるため
上記のように、BCP策定にはさまざまな目的が挙げられますが、自社が最も重要視するものは何かを明確化させます。その際、自社の経営理念や事業方針などを振り返ることが大切です。
また、BCPの基本方針が明確であれば、BCP実行時も各社員はその目的に沿った判断や行動ができます。そのため、BCP策定時は必ず基本方針の決定・確認を行いましょう。
必要な体制の構築
BCPが機能できるような体制を構築しましょう。BCPを実行する体制が整っていなければ、BCPが機能せず、緊急事態時への対応が遅れてしまうかもしれません。
そのため、誰が先頭に立ってBCPを実行するのか、各対策に必要な人材や資金などのリソースはどれくらいかなど、BCPの実行を具体的に想定し、体制を整えていくことが大切です。
さらに人的・資金的なリソースの確保や事業の代替手段まで検討しておくとよいでしょう。
また、取引先や協力を依頼したい企業があれば、連携をとり、緊急事態時の連絡手段や担当者などの体制づくりまでが必要不可欠です。
優先事業の選定
企業を継続させるために優先しなければならない事業が何かを明確化しましょう。
- 売上が大きい事業
- ステークホルダーに影響が出る事業
- 信用を維持するために重要な事業
上記のような視点から、自社にとって最も重要な事業を絞り込みます。BCP策定のはじめに決定した基本方針と照らし合わせることでも、自社の進むべき方向性がみえてくるでしょう。
例えば、基本方針が「損失を最小限にとどめること」だった場合、信用を維持するための事業より、売上が大きい事業を優先したほうがよいといえます。このように、基本方針や重要視する部分を照らし合わせながら、優先事業を選定しましょう。
被害状況の想定
どのような被害が起こるのか、その規模はどの程度なのかなど、被害状況を想定しましょう。
どのような被害が自社のリスクとなりうるのか、具体的な被害が想定できていなければ、対策も曖昧なものになってしまいます。
- 地震による現物資産の倒壊
- サイバーテロによる情報漏洩
- 感染症の蔓延による通勤不可
上記のように、何が起こって自社がどのような被害を被るのかを具体的に洗い出しましょう。
想定されるリスクであればすべて洗い出さなければなりません。順序としては、起こりうるリスクを書き出したうえで、各リスクで想定される被害を書き出していくことがおすすめです。
例えば、リスクには「自然災害(地震・台風・洪水など)・事故・テロ・感染症の蔓延」などが挙げられます。
そして、「地震による被害は何か」「台風による被害は何か」とひとつずつ検討していきます。このように、起こりうるリスクに抜け漏れがないよう被害を洗い出していくことが大切です。
▷BCP対策の基本となるリスク一覧とリスクマップの活用方法について
BCPの策定
基本方針の決定から被害状況の想定までが終わったら、最終的なBCP策定に進みます。
まず決めるのは、BCP発動のタイミングです。企業にどのような被害が出たときなのか、緊急事態の規模がどの程度拡大したときなのか、BCPが必要となるタイミングを具体的に決めましょう。
BCP発動の基準を設けておくことで、緊急事態発生時にBCPを発動するか迷ったり、焦って発動したりすることを回避できます。
次に決めるのは、実行における各担当者です。BCPの指揮者、取引先や協力企業との連絡担当者、各社員への対応担当者など、BCPの実行に必要な担当者を誰にするのかを決めていきましょう。個人単位だけでなく、部署やチーム単位で担当者を振り分けることも可能です。
緊急事態下であることからリーダーシップが強い人材を充てるなど、最適な人材を見極めましょう。そして、決定した情報をテキスト化し、各担当者に具体的な説明や依頼を行えば、BCP策定は完了です。
▷自治体に必要なBCP(業務継続計画)とは?策定状況や取り組み事例を紹介
BCPを運用していく際のポイントとは?
BCPを運用していく際のポイントは2つあります。
見直しや改善を繰り返し行う
BCPは見直しや改善を繰り返し行っていくうえで、精度が高まっていきます。社会の状況に応じて新たなリスクが発生することも考えられます。
そのため、一度BCPを策定したからといって満足せず、現在の社会環境下でBCPが機能するのかを評価し、必要に応じて改善しなければなりません。
「半年に1回」「年に1回」など、見直し・改善のタイミングをあらかじめ決めておくことで、BCPが古く機能しなくなっていたという事態を回避できるでしょう。
▷【解説】BCPの発動条件とは?基準となる災害レベルや発動フローについて
社内への周知や社員教育を実施する
BCP策定後は、全社的に共有することが大切です。社員がBCPを把握していなければ、いざBCPが発動したときも社員はとるべき行動が分からず、BCPが機能しない可能性があります。
そのため、BCP策定後は共有だけでなく、BCPの活用方法やBCP発動時の行動に関する研修などを実施し、BCPがいつ発動しても全社員が対応できるよう教育まで進めることが重要です。
BCPを策定して企業としての信頼性を向上させよう
日本は台風や地震が起こりやすく、近年のコロナ流行によって、BCP策定を進める企業が増えつつあります。
BCPを策定しあらゆるリスクに備え、事業が倒産や縮小に追い込まれることがないよう、事前に対策を講じることが大切です。
企業としても緊急事態時に備えることで、損失を最小限にとどめ、信頼性の維持にもつながるでしょう。
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