自治体に必要なBCP(業務継続計画)とは?策定状況や取り組み事例を紹介

記事更新日:2022/10/18

BCP対策

市役所と公民館・自治体のBCP

大規模災害などの不測の事態に備えるのが、BCPです。災害の多い日本において地域の復旧・復興の主体となる地方自治体には、どのようなBCP策定が求められているのでしょうか。本記事では自治体に必要なBCPについてや、近年の策定状況・取り組み事例を紹介します。

自治体BCPの必要性

自治体は、地域の生活や経済を担う中枢としての機能を担っています。そのため、災害発生時には損害を最小限に抑えながら早期復旧を図り、業務を継続させることが重要です。

県庁や市役所の機能が停止してしまうと、被災地域の復旧・復興はもちろんのこと、外部への支援要求が円滑にできず、災害の2次・3次災害を招く可能性が高くなるでしょう。

そのような事態を未然に回避するためにも、各自治体は地域の地理的条件や要因を踏まえたBCPの策定が求められます。

「市町村のための業務継続計画作成ガイド」等の提供

内閣府では、自治体における実行性の高いBCPの策定推進を目的とし、『市町村のための業務継続計画作成ガイド(以下、ガイド)』を提供しています。

本ガイドの特徴は、対策すべき重要事項に関する計画書のテンプレートと記入例を用意し、作成担当者の作業負担の軽減を図っている点です。

加えて内閣府は、東日本大震災を含む過去の災害から得た教訓や各自治体の事例を掲載した『大規模災害発生時における地方公共団体の業務継続の手引き(以下、手引き)』を提供しています。

ほかにも、水害や降雪被害への対応ガイド、外部からの応援受入体制の構築に関するガイドが存在します。ガイドと手引きを活用しながら策定を進めていくことで、それぞれの自治体に適した実効性の高いBCPの策定が可能となるでしょう。

自治体に必要なBCPとは?

近年、自然災害に加え、感染症蔓延に対するBCPの必要性が高まっています。自然災害の発生リスクが高い日本においては、これまで災害を想定したBCPが主流でした。

しかし、近年の新型コロナウイルスの流行を受け、自治体の事業継続に多大なる影響を及ぼす感染症への対策は不可欠となっています。

災害・感染症それぞれのBCPの違いは?

災害と感染症では想定されるリスクが異なるため、それぞれの特性・違いを理解したうえでBCP策定を進めていく必要があります。たとえば、災害BCPでは、損害箇所の早期復旧を図り、業務をすみやかに再開させることが基本的な行動・判断指針です。

一方で感染症BCPにおいては、建物や設備などに対する物理的な損害は発生しないものの、従業員をはじめとする人的リソースへの健康被害が、業務継続に支障をきたします。そのため、感染リスクを抑えながらも、優先すべき業務にリソースを投入し、業務を継続させることが基本的な行動・判断指針となります。

自治体が策定すべきBCPの6つの要素とは?

『市町村のための業務継続計画作成ガイド』では、自治体の規模にかかわらず、BCPに最低限定めておくべき要素を6つに絞り、平時・非常時双方における対策や行動計画の策定を勧めています。

ここからは、BCPの中核となる6つの要素について、それぞれ解説していきます。

首長不在時の代行順位・職員の参集体制

災害が発生した際、首長の不在や対策本部メンバーの不足により対策本部が設置できない、機能しないという状態は避けなければなりません。

そのため、首長不在時に災害が発生した場合を想定して、あらかじめ代行順位を定めておき、平時・非常時の双方において、重要な意思決定に支障が生じない体制構築が重要です。

加えて、対策本部メンバーを含み、業務遂行に必要な人数の整理が必要です。代行者や対策本部メンバーは、誰もが被災するリスクがあることを考慮して人選しましょう。具体的には、各拠点に代行者を置く、業務遂行や意思決定に必要なスキルや資格、経験をもとに人選するといったようにです。

また、人事異動や組織編成によって空白のポジションが生まれないよう、定期的に体制を見直すことも大切なポイントです。

本庁舎が使用不可能な場合の代替庁舎の特定

地震による本庁舎の損壊や、その他の理由で建物が使用不可となるケースでは、業務遂行を維持できる代替拠点が必要です。代替拠点の選定に関しては、あらかじめいくつかの拠点を候補リストとして列挙しておき、損害状況や業務内容に応じて適切な拠点に移れるようにしておきましょう。

ただ拠点だけをピックアップするのではなく、各拠点の電源、通信環境、システム、備蓄品、事務機器の状況を一覧にまとめておくことで、業務に必要な機能を有する拠点をすみやかに決定できます。

非常用電気・職員のための水・食料等の確保

昨今のDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進により、自治体業務のIT化が進んでいます。それにともない、災害発生時の電源確保の重要度は増しています。

停電を想定し、非常用電源や発電機の準備を検討しておくのと同時に、業務遂行に必要な電力量の試算や、発電用の燃料の保管先なども考えていく必要があるでしょう。

ほかにも、災害対策本部のメンバーや優先業務にあたる職員用に、水や食料などの備蓄品を数日分用意することも念頭に置く必要があります。

さまざまな通信手段の確保

業務に必要なシステムを稼働させ、滞りなく業務を遂行するうえで、通信手段の確保は欠かせません。関係各所との連絡にも通信機能が必要であるため、通信手段は2重、3重のレイヤーで確保し、どのような状況下でも通信機能の断絶を回避しなければなりません。

そのためにも、代替拠点を含む各執務場所、また本庁舎内の部署ごとの非常用回線の設置・使用状況、業務遂行に必要な回線数を洗い出し、増設や使用訓練を平時より計画的に進めておくことが大切です。

行政に関わる重要データのバックアップ

データのバックアップは、電源と通信手段の確保とセットで対策を練っておきましょう。被災者の救援や支援、避難場所への救援物資の手配など様々なシーンにおいて行政データが必要となるため、平時から重要データのバックアップ管理が重要です。

バックアップ管理では、まず災害時に必要とされるデータを洗い出していきます。その後、各データのバックアップ状況を確認し、定期的なメンテナンス体制を構築していきましょう。

また、バックアップデータの保管場所についても考慮が必要です。同時被災のリスクを避けるために、一方は関東地方、一方は関西地方といったようにバックアップ先を離れた場所に設置しておくと、広範囲の災害にも対応できます。

非常時の優先業務の特定・役割分担

自治体が担う業務は多岐にわたるため、災害発生時に優先する業務をあらかじめ決めておき、各業務に必要なリソースを考慮したBCPを策定しておくことが大切です。

具体的には、災害発生時に優先する業務を「発災直後」「3日以内」「1週間以内」といったように区分していきます。その後、ひと目で優先順位と担当者がわかる一覧を作成しておけば、非常時でもスムーズな対応が可能です。

初めてBCPを策定する場合、優先業務の選定に迷う可能性があります。その場合は、他の自治体の先行事例を参考にしてみるとよいでしょう。

自治体のBCP策定状況は?

平成23年に発生した東日本大震災により、BCPの重要性を改めて確認した自治体も多いでしょう。

国を挙げて策定を推進してきた結果、各自治体は現在どのような策定状況にあるのでしょうか。ここからはBCPにまつわる自治体の現状を解説していきます。

97.2%の市町村が策定済み

総務省消防庁が令和3年に実施した「地方公共団体におけるBCP策定状況に関する調査」によると、BCP策定済みと回答した自治体数は前年(令和2年)より49団体増加の1,693団体となり、策定率は97.2%に達しました。

未策定の団体は全国で残り48団体となり、うち14団体に関しては令和3年度内に「策定が完了予定」と回答しています。全国の地方公共団体のBCP策定率は、近い将来100%に達することでしょう。

[出典:総務省消防庁「地方公共団体における業務継続計画策定状況の調査結果」]

6つの要素を満たしているのはわずか35.2%

策定率が100%に近づく一方で、BCPに定めるべき6つの要素については、まだ対応が追いついていない自治体も数多く存在します。「6つの要素すべてを網羅したBCPを策定済み」と回答した市町村は、全1,693団体中596団体と、3割程度です。

また、全市町村の2割近くが「6つの要素のうち、BCPで網羅している要素が3つ以下である」と回答していることから、策定率の高さに反して、各市町村で品質に差があることが判明しました。

また、市町村ごとの策定状況を見ていくと、BCP策定後の社内訓練や見直し、社員研修については未実施率が高い傾向にあります。今後は各自治体におけるBCPの品質を底上げすると同時に、BCPの形骸化防止に取り組んでいく必要があるでしょう。

[出典:総務省消防庁「地方公共団体における業務継続計画策定状況の調査結果」]

大規模災害を経験している自治体の策定率は高い

過去に大規模な被災経験がある地域の自治体では、BCP策定率が高い傾向です。たとえば、北海道は全国最多の179市町村を抱える地域ですが、100%のBCP策定率を誇ります。

この数字は、北海道が地震、台風、豪雪、竜巻、水害など様々な自然災害に直面したことで、自治体機能を維持することの必要性を強く感じていることの表れといえるでしょう。

同様に、阪神淡路大震災で甚大な被害を受けたした兵庫県においても、策定率は100%です。実際に災害を経験した地域のBCPには、身をもって得た教訓が反映されているため、参考となる点が多分に見受けられます。

災害経験のない自治体は、他の地方自治体の先行事例を参考にして現実性の高いBCP策定を目指しましょう。

[出典:総務省消防庁「地方公共団体における業務継続計画策定状況の調査結果」]

全国自治体のBCP策定事例

ここからは、全国の自治体のBCP策定事例をチェックしていきましょう。

首長不在時代行順位・職員参集について|徳島県

徳島県では、南海トラフ巨大地震を想定し、災害発生時における意思決定や、指示命令系統機能の維持のため、管理職の代行者を代行順位2位まで定めています。

代行者を定めておくだけでなく、平時より意思決定権を持つ人物が不在の場合は、すみやかに代行者が決定権を持てる体制を整え、実際に運用している点が評価すべきポイントです。

また、職員の安否確認と参集においては、「すだちくんメール」という安否・参集状況確認ツールを用いた行動計画を、災害発生後から時系列で明記しています。

職員からの報告を誰が受け、誰に報告するのか、そして、被災状況や参集状況をふまえて、誰が対応策を判断し、指示命令を出すのかといった情報伝達のフローチャートは、他の地域でも活用できるアイデアです。

[出典:徳島県「徳島県業務継続計画〈南海トラフ巨大地震編〉」]

本庁舎が使用不可能な場合の代替庁舎の特定|兵庫県

兵庫県明石市の本庁舎は旧耐震基準で建設されていることから、BCPでは庁舎が地震で損壊し、機能不全となった時のことを想定して策定されています。

本庁舎が使用不可となった場合は、すみやかに代替拠点に機能を移し、業務を継続させなければなりません。代替拠点には複数の候補地がリスト化されている一方で、復旧・復興・業務継続の中核となる災害対策本部は、防災無線設備が整っている消防局防災センターに設置することが定められています。

本庁舎が機能不全に陥っても防災センターで業務を継続できるように、非常用回線の冗長化を図り、周到に代替拠点の準備を進めている状況です。

[出典:兵庫県明石市「明石市事業継続計画(BCP)第2.2版」]

非常用電気・職員のための水・食料等の確保|新潟県

新潟県では、昭和39年の新潟地震と平成16年の中越地震の経験から、電気や水道、通信といったライフラインの断絶による影響を重く受け止め、BCP策定に取り組んできました。そのなかでも、災害発生時における電力の確保と供給体制構築への取り組みは、特筆すべき点といえます。

本庁舎には、最大74時間燃料不要で稼働可能な自家発電設備が備えられており、3日分の電力確保が可能です。加えて、東北電力株式会社、新潟県石油商業協同組合、石油連盟それぞれと協定を締結し、発電用燃料の供給や電源車によるバックアップ体制も整えています。

また、上下水道・工業用水道事業者との緊急連絡網を構築することに加え、食料などの物資供給においても複数の業者と協定を締結するなど、関係各所との間で強固な連携体制を築いている状況です。

[出典:新潟県「新潟県業務継続計画 自然災害等・本庁舎版」】

さまざまな通信手段の確保|山形県

山形県では、県内の活断層を震源とする最大震度7程度の地震発生を想定し、災害発生時の行政サービスの迅速な再開と継続を目的にBCPを策定しています。同県のBCPは「通信手段の確保・復旧」に関する項目が、各対策や行動計画に盛り込まれている点が大きな特徴です。

県庁を中心に県内の総合支庁、市町村、消防本部、防災関係機関などの間で防災行政通信ネットワークを整備し、業務システムやイントラなどの基幹ネットワークに特化したBCPも別途策定しています。

また、サーバーなどの重要なネットワーク機器は、災害発生時においても非常用発電機を使用し、連続で最大74時間稼働可能です。燃料供給に関する協定も、各所と締結しています。非常時においても通信手段を絶やさぬよう、幾層にもリスクヘッジの体制が構築されている点は、参考にしておきたいポイントです。

[出典:山形県「山形県庁舎業務継続計画(地震災害編)」]

行政に関わる重要データのバックアップ|鳥取県

平成12年に震度6レベルの地震に見舞われた経験がある鳥取県米子市を中心とする鳥取県西部圏域では、地震による津波や火災を想定したBCPを策定しています。同BCPでは、業務継続のためのバックアップ体制を紙ベースのデータを前提に構築している点が特徴です。

災害発生時の優先業務に必要なデータは、平時より紙媒体で管理し、保管場所を明確に定めています。また、同時被災リスク回避のために、別棟にも併せて重要書類を保管するという対策を講じています。

紙ベースで業務が実施されている現場の実態に合わせた対策を講じることで、BCPの実効性を高めている事例といえるでしょう。

[出典:鳥取県西部広域行政管理組合事務局「鳥取県西部広域行政管理組合BCP(業務継続計画)【地震・津波編】」]

非常時の優先業務の特定・役割分担|京都府

京都府では、大規模地震の発生を想定し、府民の生命を守ることを最優先としたBCPを策定しています。災害発生時の優先業務を以下の2つの分類に定義し、それに準じて各対策や行動計画が定められています。

1)応急対策業務

  • 地域防災計画内で定められた応急対策に加え、被災状況に応じた緊急性の高い業務

2)重要継続業務

  • 府民生活に密着する行政サービスや、府庁の機能を維持するための基幹的な業務

重要継続業務に関しては、府民生活や社会への影響度分析により、災害発生時における継続の必要性が高いと判断された業務から優先順位がつけられます。

また、京都府では災害発生時から時系列のフェーズを設定し、各フェーズで発生する業務に対し、再開目標時間と主担当を定めた一覧を作成しています。いつ、どこで、誰が、何を、いつまでに実施するかを可視化する手法は、非常時に誰が確認しても、適宜必要な行動が取れる方法として有効です。

[出典:京都府「京都府庁地震業務継続マニュアル(全庁版)」]

感染症におけるBCP策定事例|長野県

長野県上田市のBCPは、平成25年に施行された「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を市内版に落とし込んだBCPです。同市のBCPの特徴は、国から一般市民までを階層ごとに区分し、感染状況ごとに定められた実施事項と役割に紐づけている点です。

いつ、だれが、何を実施し、どのような役割を果たすべきかが明確化された同市のBCPは、具体性や一貫性に欠けやすい感染症BCPにおいて、手本となる事例といえます。

[出典:長野県上田市「上田市新型インフルエンザ等対策行動計画」]

自治体の積極的なBCP策定が地域を守る

災害などの様々なリスクから地域を守るためには、行政基盤と災害レジリエンスを強化することが必要です。その双方の強化に対し、BCPは高い効果を発揮します。ただし、各自治体の実態に適したBCPは、一朝一夕で完成するものではありません。

脆弱性の洗い出しと改善、業務停止に陥らない仕組みづくり、万が一業務が停止してしまった際の早期復旧計画といったように、平時に起こせるアクションはたくさんあります。

現状を多角的・客観的に分析し、能動的にBCP策定に取り組むことで、強い行政基盤を構築していきましょう。

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