【製造業】サプライチェーン崩壊によるリスクと適切なBCP対策とは?

記事更新日:2022/09/30

BCP対策

稼働停止した工場・サプライチェーン崩壊のイメージ

製造業にとって生命線とも呼べるサプライチェーン。そのため事業を守るためだけでなく、企業としての信頼を失わないためにも、サプライチェーンにおけるBCP策定は必須と言えるでしょう。そこで本記事では、サプライチェーンを考慮したBCP対策について、必要な理由やBCP策定のポイントまでを詳しく解説します。

サプライチェーンとは?

サプライチェーンとは、商品や製品が、製造されて顧客(消費者)のもとに供給されるまでの一連の流れを指す言葉です。原材料や部品の調達から消費者の元に届くまでに発生する、さまざまな取引サイクルを鎖になぞらえ、サプライ(供給)チェーン(鎖)と呼ばれています。

農産物や水産物のような一次産品においても、供給されるまでには、なんらかの商流・物流が存在しており、機械製品や加工食品に限らず、身の回りにある商品・製品のほとんどは、このサプライチェーンによって消費者の手元に届けられているのです。

ここで、スマートフォンのサプライチェーンを例に考えてみましょう。スマートフォンの製造工程においては、まず、製造に必要な部品の調達から始まります。

スマートフォンは、パーツごとにサプライヤーが細かく分かれていることが一般的であるため、サプライヤーごとに半導体や液晶パネルなどの部品を調達し、パーツを組み立てます。

組み上がったパーツは、スマートフォン本体を製造する工場へと送られ、そこで納品されたパーツを組み立てて、スマートフォンが完成します。完成した製品は、各地の販売店へと配送され、実店舗またはオンラインショップにて販売・購入されることにより消費者の手元に渡ります。

このように、一つの製品が私たち消費者に届くまでの間には、さまざまな過程が発生し、そこには多くの企業が関わっているのです。

サプライチェーンを考慮したBCP対策が必要な理由

「事業継続計画」を指すBCPは、とりわけ自然災害の多い日本においては、重要度の高い取り組みとされています。2011年に発生した東日本大震災の関連倒産件数は、2021年までの10年間で1,979件に達しています。

しかし、その内訳を見てみると、工場や事務所が直接的な被害を被ったことが原因とする直接型の倒産件数は約1割程度の240件(12.1%)です。しかしその一方で、取引先や仕入れ先の被災が原因で倒産した間接型倒産の件数は1,739件(87.8%)と、いかに間接的な被災リスクが大きいかがわかります。

加えて、2020年よりグローバルサプライチェーンに大きな損害を与えている新型コロナウイルス感染症の存在も、間接的な被災リスクを顕著にした事象の一つです。

世界規模で感染が拡大する中、各国が次々と出入国の制限に踏み切ったことにより、人流・物流の双方が停止・不活性化してしまう事態となり、多くのサプライチェーンが途絶状態に陥ってしまいました。

このような間接的に事業継続が脅かされるリスクは、自然災害やパンデミックだけにとどまりません。

サーバー攻撃やシステム障害などの情報セキュリティ上のトラブルや、通信、電気、交通網などの外部インフラの停止などは、IT化が進む昨今において、事業継続に大きな影響を及ぼします。

また、サプライチェーンが国外に及ぶ場合では、各国における内紛や戦争、輸出入規制など政治リスクが関与するケースも忘れてはならないでしょう。

経済活動がグローバル化した現代では、BCP対策の対象が自社のみで完結することは難しく、事業に関わる様々な外部要因を含めて総合的に対策を練る必要性がますます高まっているのです。

[出典:株式会社東京商工リサーチ「“震災から10年” 「東日本大震災」関連倒産状況(2月28日現在)」]

サプライチェーン崩壊による企業へのリスク

サプライチェーンの中のどこか1ヶ所が、なんらかの理由で機能停止に陥ってしまったことによるリスクは、事業継続のみならず、企業の存続にも甚大な影響を与えることになります。

製造業であれば、ある部品を製造する一つのサプライヤーが被災し生産ラインがストップしてしまうことで、製品の製造がストップし、ビジネスチャンスを逃すリスクが発生します。

この場合、実際の販売が停止することによる直接的な機会ロスに加えて、新たな販路拡大の道が途絶されることによる間接的な機会ロスも被ることになるでしょう。

そして次に起こりうるリスクは、業績の悪化です。製品の生産ラインがストップし、販売ができなければ、売上を立てることは不可能です。

早期に生産ラインが復旧すれば売上の落ち込みも一時的なもので済みますが、長期化すればするほど顧客離れが進むことで、売上の回復はますます困難となり、業績は悪化の一途を辿るでしょう。

最後に、業績が著しく落ち込んだ場合は、事業縮小を余儀なくされる可能性が高くなります。当該事業が企業の売上の大部分を背負うコア事業であれば、事業縮小による企業収益へのダメージは相当なものになり、別事業での補填も困難を極めることが容易に予想できます。

このように、サプライチェーンの一部に生じた歪みにより、下流に位置する企業にも段階的に深刻な影響を及ぼすようになるのです。

サプライチェーンが途絶えた実際の事例

自動車メーカー大手のトヨタ自動車は、東日本大震災発生から3日後の3月14日、国内の自社及び車体製造を行うグループ企業全ての操業を停止することを決定しました。

当時、東北エリアにあった3つの生産拠点は、一部設備が破損した程度で、比較的軽度の被災状況にありました。しかし、約200拠点の仕入れ先への現地調査を進めるうちに、仕入れ先企業の被害の甚大さが明らかになっていったのです。

二次請け以降のサプライヤーを含む659拠点の仕入れ先が被害に遭い、部品・資材の供給網が途絶状態に陥りました。サプライヤーの被災によって、トヨタの車両製造に支障をきたす部品・資材の数は1,260品目に達し、その影響はグローバル生産車両の8割にまで及ぶと想定されていたのです。

このような状況下においては、仕入れ先の早期復旧と同時に、他工場への生産ラインの移管作業が急ピッチで進められました。欠品状態の1,260品目のうち、特に重要とされた500品目に対しては、他の仕入れ先での調達や代替品の開発、生産準備が進められた結果、同月下旬には宮城県の各拠点が稼働を開始。

そして、同年9月中旬には、海外を含む全ての生産拠点がほぼ正常稼働の状態にまで復旧しています。

この迅速な対応は、当時トヨタを含む自動車業界全体において、災害時のサプライチェーン途絶を想定したBCP対策がすでに取り組まれていた結果にほかなりません。しかし、ここでのBCP対策にも課題はありました。

当初はリスクヘッジの観点からピラミッド型のサプライチェーンであったのに対し、実際は、低コスト・効率化経営を重視するにつれ、下請けサプライヤーがスリム化された状態になっていました。

その結果、一つのサプライヤーが機能停止状態になった際、その穴を補填するサプライヤーの不在により、メーカー企業の事業そのものを一時停止する事態へと追い込まれてしまったのです。

そのため、平時からBCPの形骸化・陳腐化を防ぐための継続的な見直しが必要であることが明白となった事例であるとも言えるでしょう。

[出典:トヨタ自動車「文章で読む75年の歩み第3部第5章第5節第1項『東日本大震災の発生 全社対策本部の設置と被災地への緊急対応』」]
[出典:トヨタ自動車「文章で読む75年の歩み第3部第5章第5節第1項『東日本大震災の発生 生産復旧への取り組み』」]

サプライチェーンを維持するために製造業が行うべき対策

災害発生時におけるサプライチェーンの途絶による被害を最小限に抑えるため、製造業はどのような取り組みを進めればよいのでしょうか。

BCPの策定

製造業でのBCP策定において最も重要と考えられるポイントは、サプライチェーン全体を考慮した内容とすることです。先のトヨタの事例でも明らかなように、製造業においては、サプライチェーンの途絶が事業継続に大きな影響を及ぼします。

非常時においても根幹となる事業を継続することを目的に策定されるBCP(事業継続計画)は、主に「被害の最小化」と「早期復旧」の二つの観点を軸に構成されます。

サプライチェーンの一部であるという視点から、事業継続のために必要な行動と、それに伴う手順や手段等を、平時・非常時それぞれのシチュエーションごとに定めておきましょう。

サプライチェーンマネジメント(SCM)の導入

SCM(サプライチェーンマネジメント)は、BCPを実現可能な状態に保つBCM(事業継続マネジメント)に大きく関与する取り組みです。本来、SCMとは、モノ・お金・情報の流れを最適化するためにサプライチェーン全体を管理する手法を指します。

しかし、この「最適化」をどのベクトルに合わせて行うかで、製造業にとっては、非常時の事業継続の明暗を分ける大きなポイントとなります。

たとえば、トヨタの事例では、経営の効率化やコストパフォーマンス向上を追い求め、サプライチェーン構造を変えてしまっていたことが、奇しくも非常時における危機を招く結果となってしまったのです。

SCMの導入は、サプライチェーン全体が可視化され、最適なリソース配分が可能となり、さらには、サプライチェーン全体における脆弱性を検証する上でも非常に高い効果が期待できます。

特にSCMシステムによるマネジメントは、効率的な日々の業務遂行と並行して、サプライチェーンの盤石性強化にも大いに貢献してくれるでしょう。

調達先や生産拠点の分散

リスクの分散は、BCPにおける基本的な考え方の一つですが、製造業にとっては、特に重要なポイントとなります。

仕入れ先や生産拠点を1ヶ所に集中させてしまうと、災害や紛争、社会情勢などが原因で、その地域での操業が困難になった際、機能の移管先や代替策がなければ、事業継続は困難を極めるでしょう。

そのため、調達先や生産拠点は分散しておいた方が、どこか一つに綻びが生じても、スムーズに別拠点や他の取引先によるフォローが可能となり、事業に対する被害を最小限に抑えることができるのです。

さまざまなリスクが想定されるグローバル市場の中で事業を継続する上では、サプライチェーンのレジリエンス、つまり「柔軟に回復できる能力」が求められています。

ヒト・モノ・カネ・情報を計画的に分散配置し、平時より相互補完関係を構築しておくことで、非常時においても、慌てることなく機能移管や代替対応が可能となるでしょう。

サプライチェーンを考慮したBCP策定のポイント

ここからは、どのようにサプライチェーン全体を考慮した俯瞰的な視点をBCPに反映させていくかを4つのポイントごとに解説していきます。

これらのポイントは、解説する順に沿って進めていくことで、抜け漏れなく、しっかりとサプライチェーンに含まれる要因をBCPに反映させていくことができるので、参考にしてください。

自社の現状の把握

BCPの策定では、その過程で経営基盤の脆弱性が顕になります。

そのため、BCP策定ではあらかじめ「弱点」を攻撃された時にどのような影響が想定されるかを考え、具体策へと落とし込んでいくアプローチが一般的です。

サプライチェーンを俯瞰して現状を把握するためには、「機能」「地理」「地政学」の3つの観点で、各仕入れ先や関連企業の現状を洗い出していくとよいでしょう。

まず、機能的観点から、仕入れ先や関連企業がどのような機能を有し、どれほど重要性が高く、自社の依存度がどのくらいかなどを分析していきます。

次に、地理的観点から、各社の拠点の場所を確認し、津波や洪水などの災害リスクを含め、物流やインフラなどの要因を洗い出します。そこに地政学的な観点を加え、各拠点が抱える社会的・政治的・軍事的な要因を洗い出します。

この3点からサプライチェーン全体の現状を見ることで、自社だけでなく、サプライヤー間の関係性も可視化することができ、この後のリスクの想定プロセスにおいて役立つのです。

サプライチェーン崩壊時の被害状況を想定

自社を含むサプライチェーン全体の関係図ができあがったら、そこから自社の依存度が高い仕入れ先や拠点、または機能を列挙し、当該部分が機能不全に陥った場合の被害の範囲や程度を具体的に想定します。

依存度が高く、被害も深刻かつ広範囲に及ぶものは、サプライチェーンの「弱点」となり、欠けてしまうことにより、自社の経営に甚大な損害を及ぼす可能性があることを意味しています。

そのため、このような重要度の高いものに対しては、仕入れ先の分散や代替手段による生産ラインの維持、または、他拠点や同業他社への機能移管等、何層ものレイヤーでリスクヘッジを講じる必要があるのです。

代替手段の提案

次に、想定されるリスクに対して、どのような代替手段で対応が可能かを検討していきます。ここで注意すべきポイントは、「平時の収益性の保持」と「非常時の事業継続」の二つのバランスを念頭に置いて進めることです。

平時における経営戦略では、コストを抑え利益率を高めるために、削れる部分はとことん削る、効率とコスパ重視のサプライチェーン構築を求めてしまいがちです。

確かにスリムでコンパクトなサプライチェーンは、収益性向上にも貢献してくれることでしょう。しかし、サプライチェーンのスリム化は、非常時における事業停止というリスクと表裏一体であることを忘れてはなりません。

自然災害発生時など、広範囲な被害が想定される状況下では、急きょ代替手段を手配することは非常に難しいことが予想されます。加えて、非常時になって初めて代替品を使用したり、他拠点で製造したりすると、製品そのものの品質低下や、不慣れな作業による事故などの2次・3次災害が発生する可能性があるでしょう。

そのため、平時の収益性や効率をある程度保ちながらも、非常時の切り替えがスムーズに行えるような着地点を見つけることが、代替手段の検討時には重要なのです。

優先事業の決定

突然やってくる非常事態において、限られたリソースを最適な箇所に投入するためには、あらかじめ事業の優先順位を決めた上でBCPを策定しておく必要があります。

これまでに解説した3つのポイントを経て可視化されたリスクの大きさや波及効果の深刻さをふまえ、優先的に守る必要がある「中核事業」を決定しましょう。中核事業が決まることで、平時・非常時双方における対策をより具体的なレベルまで落とし込むことができます。

自社のみならずサプライチェーン全体を考慮したBCP対策となると、網羅すべき範囲が一気に広がるため、何から手をつけていいかわからなくなってしまうことも少なくありません。

その点においても、優先する事業を明確にしておくことで、各サプライヤーへの確認事項や共有事項をはじめとする各対策をブレなく的確に策定することが可能となるのです。

サプライチェーンや自社の事業を守るためにBCPを策定しよう

企業活動がグローバル化した昨今においては、BCPは自社内のみで完結するものではなくなりました。

さまざまな企業との相互関係の中で成り立っているビジネスにおいて、サプライチェーンの途絶は、上・中・下流すべてのラインに位置する企業にとって、存続を左右する深刻な事態を招きかねません。

そのような事態を防ぐためにも、サプライチェーン全体を考慮したBCPを策定し、自社のみならず、関係するサプライヤーの事業をも守るため、対策に取り組んでいきましょう。

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