利益を伸ばし、成長を続ける「性格のいい会社」 「嘘つき」の言葉、全員退社…第二の創業で取り組んだこととは

取材日:2024/02/20

個人を起点とした転職・キャリア支援などを行う、株式会社ミライフ 。「性格のいい会社」というカルチャーを掲げ、働きやすい環境を整え成長を続けています。取り組みの背景にある考え方や目指す姿について、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 佐藤雄佑さん

    佐藤雄佑さん

    株式会社ミライフ

    代表取締役

この事例のポイント

  1. 心理的安全性はゴールではなく、会社を強くするスタート
  2. 仕事で必要なことを言い合える関係性が結果につながる
  3. 「顧客起点」を第一にした上で、働きやすい環境整備を

高い心理的安全性が「性格のいい会社」の土台となる

御社がカルチャーとして掲げている「性格のいい会社」について、詳しく教えていただけますか?

佐藤:性格がいいというのは、多様な働き方ができて、そのうえでやりがいある仕事ができる会社です。その理想の実現に向けて、いろいろな取り組みを行っています。ミライフを立ち上げる前、僕は人事領域で、採用や組織作りなどの仕事に長く携わってきました。その経験から、これからの時代を生き抜く、強い会社になるためには、採用が一つ大きなポイントだと思うようになりました。

いい人材を採用できなければ、会社は生き延びることができません。いい人材を採用できる会社になるために必要なのは、お給料を上げることでもなく、役職をたくさんつけることでもなく、突き詰めると「性格のいい会社」になることだという結論に至ったんです。

具体的には、どのようなことを実施しているのでしょうか。

佐藤:例えば、心理的安全性の向上につながる、いろいろな取り組みを行っています。当社に入社してまず最初にやる仕事は、1人30分間の、全員との1on1なんです。時間はかかりますが、直接話をしたことがない人、自分のことをよく知らない人に囲まれて仕事をするよりは、30分でも、最初に1対1で直接話をした方が、お互いを知ることができ、仕事をしやすい環境になるのではないかと思っています。

それから、「イフモク」といって、もし(if)チーム全体の目標を達成したら、みんなで豪華なご飯を食べに行くという制度もあります。1人2万円が支給されるのですが、僕が好きなのは、大型スパに行くコースです。みんなでマッサージを受けてお風呂に入り、昼間からお酒を飲むんです(笑)。

チームがぐっと親しくなるような、こうした共通体験を作ることにも、かなりこだわって取り組んでいます。

共に働く仲間がどういう人間で何を考えているのか、お互い理解してから仕事にのぞめるようにしているんですね。

佐藤:そうですね。それから、半年に1回、「ミチロックフェスティバル」という合宿もしています。この合宿では、それまで半年間を振り返り、そして次の半年間に向けた理想を描いて、1人5分ほどのプレゼンテーションをするんです。

聞く側は、プレゼンの感想を一人ひとりフィードバックシートに書いて、プレゼンターに直接手渡します。仕事のことだけではなく、家族やプライベートのことまで本音を吐き出す場にもなっているので、時には聞いている人が泣いているなんてこともありますね。

お互いをよく知っているというベースがあることで、本音で話をして、意見を言い合える場を作れていると感じます。

自分を知り、共に働く仲間の理想の未来を知る機会となる「ミチロックフェスティバル」

「本音で意見し合える」。その高い心理的安全性は、組織づくりや事業をすすめる上でどのようなプラスがあるとお考えでしょうか。

佐藤:実は、これまで心理的安全性を高めることを特に意識してきたわけではないんです。

ただ、お互いが理解し、必要な意見を言い合える環境は、仕事での良い結果につながると実感はしています。

組織づくりのフレームワークの一つに「成功循環モデル」があります。関係の質を高めることで、前向きな意見を出し合える組織になり、そして組織の思考の質が高まる。さらに行動の質、結果の質の向上につながり、良いサイクルが回っていくという考え方です。

僕はこの考え方に沿って会社員時代から組織づくりに取り組んでいて、自分の中ではこのモデルにおける関係の質と思考の質が良くなった状態が、結果として、心理的安全性が高い環境につながったといえるのかなと思っています。

ただし、注意が必要なのは、心理的安全性を高めることは、スタートであってゴールではないという点です。先ほどの循環モデルでいくと、関係の質が高まり意見が言い合えることで、そこで決めたことや目標に対して当事者としてやり切れる、行動できるようになるんです。そして、最後はしっかりと結果を出すことにつながります。

心理的安全性を高めれば、結果を出せるし、お客様の期待に応えられる。そうすると儲かるし、儲かればみんなの給料も上げられる。心理的安全性はあくまで結果を出す強い組織とするための土台であり、みんなが仲良しの会社を作ることが目的になってしまわないように気を付けています。

「嘘つき」の言葉、全員退社…トップとして痛感したこととは

御社がこうした組織作りに取り組むようになった背景には、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

佐藤:もともといい会社を作りたいという理想を掲げ、組織作りをしてきてはいたのですが、言うべきことを言える環境を強く意識するようになったきっかけとしては、僕以外の社員が全員辞めてしまうという過去の経験の影響が大きいですね。

会社を立ち上げて4期目の時のことですが、当時の僕は、ビジョンを掲げて、業績や目標はいいからお客さんの方を向いて仕事をしようとずっと言い続けていました。しかし、会社を潰さないためには、売上も必要です。そして現実に売上を上げる、仕事で成果を出すためには、コツコツ営業したり、アポを取ったり、地道なことが必要です。しかも個人起点でその人のキャリアをサポートするという私たちの仕事は難易度が高く、簡単ではありません。中には結果を出せない人も出てきます。

会社としては売上を出さないといけない。でもメンバーには数字を追わなくていいと言い、ビジョンを語っている……そのときに僕がどうしたかと言うと、自分1人で何人分も仕事をして売上を出していたんです。メンバーからすると、自分は思うように成果を出せていない一方で、売上は気にしなくていいと言っているのに、代表はバリバリ働いて結果を出しているという状況...。今振り返ると、仲は良いものの、言うべきことをお互いに言い合えてなかったのかなと思います。メンバーに必要なことをしっかりと伝え、一緒にがんばるべきだったのかもしれません。

ある人には「スケさん(佐藤氏)は嘘つきです」とも言われました。結果として、僕が伝えたかったことが伝わっていなかった状況で、僕以外の全員が会社を去っていきました。

この時に、ただ仲が良いだけではなく、仕事で必要なことは言い合える関係性、結果を出せる強い会社にしていくことが必要だと痛感しました。そして、いわば「第二の創業」として、今のような組織づくりに取り組んできたんです。

判断基準は「顧客起点」、こだわりは「短期を追わない」

さまざまな取り組みを考える上で、どのような内容にするべきか、判断の基準としているのはどのような点ですか?

佐藤:一番の判断基準は「顧客起点」です。いくら僕らが楽しかろうが、働きやすかろうが、お客様に価値を提供できない会社になってしまったら意味がありません。

僕らが働く上で大切にしている自社のカルチャーは、あくまで手段やプロセスの道標であって、目標はお客様の期待に応える仕事をすることです。お客様に「ミライフと出会ってよかった」と思ってもらえることをするための会社なので、判断軸を顧客起点にするというのは、ずっと変わらずに続けています。

これだけ働きやすい制度やカルチャーを大事にしつつ、企業として成長できているのは、そういう点も関係しているのかもしれないですね。

佐藤:「(社員に数字ばかりを追わせない)ミライフはそんなやり方で売上出せるんですか、大丈夫なんですか」とよく聞かれるのですが、現在のところ、創業以来9期目となる現在まで、連続して売上を伸ばすことができています。

なぜこれが出来ているかと言う一番の理由は、僕は「短期を追わない」ことだと思っています。イノベーションを起こして結果を出すためには、どうしても時間が必要になります。短期の数字にとらわれすぎると、中長期で見た成果が出せなくなってしまうんです。中長期視点で事業を行うという点に関しては創業時からこだわっていて、短期の結果に対していろいろと言われないよう、絶対に資金調達をしないと決めて経営をしています。

自分たちが売り上げた資金を使って、自分たちで新しい事業をすすめていくというやり方で、コツコツとですが、個性を守りながらちょっとずつ会社として成長できているのかなと思います。

目指すは人材業界のゲームチェンジャー、ミライフの展望とは

将来に向けて、会社をどのようにしていくのか、展望などはありますか。

佐藤:社内の制度や組織作りに関しては、状況に応じて柔軟に変化させていきたいと考えています。

例えば、ミライフはずっと個人目標をたてずにやってきたのですが、9期から個人目標を新たに取り入れました。目標がない状況だと、まだできる、もっとできると、際限なく仕事をしている人もいます。一方で、当社でも多様な人材が増えてきて、例えば子育てしながら仕事をしている人などは、限られた時間の中でここまではがんばろうという線があった方が仕事がしやすいんです。

また、これまでは全部僕が見るという前提で、個人目標を設定せずに評価をしていたので、徐々にメンバーが増える中で人数の壁の問題も出てくると考えました。人数が増えてきた時に、詳細に全員の仕事内容を把握できていないと、評価に対する納得感が得られなくなってしまいます。そうしたいろいろな事情を考慮して、これまでやってこなかった個人目標を当社でも取り入れることに決めました。

目標制度に限らず、実は現在も、人事制度は毎年ちょっとずつ変更しているんです。どんどん新しい人が入ってくるので、その人がいない前提で作られたルールによって、その新しい個性がつぶされないように、ルールを変えていく必要があると感じています。

それから、人数が増えてくることで、例えばバックオフィスなど新しい役割を担う人が出てきたり、それぞれの仕事内容が変化したりしてきます。そうすると、等級、評価、報酬をフェアにするためには、どうしても細かな見直しが必要になってくるんです。そこがフェアになっていないと、社員同士が摩擦を感じ、それが火種となってコンフリクトが起き始めます。そうならないように、半年前、1年前にこの先起きそうなコンフリクトに対して先手を打つようにしています。

人材マネジメントにおいて、先手を打つというのはなかなかできることではないと思うのですが、組織の中で、どういったところを注意して見られているのでしょうか。

佐藤:制度作りの観点でいうと、納得感ですね。この人はあまり仕事をしていないのに給与高いなとか、評価がいいのはなぜだと感じてしまうと、仕事をがんばっても無駄だという意識が芽生えてしまいます。そうしたストレスなく働けるように、みんなが嫌だなと思うことを常に察知するように意識しています。

恐らく、長年人事にまつわる仕事をしてきたので、そこの感覚は人よりもあるのだと思います。人事制度に関しては、自分でもかなり細かく気を配り、繊細に仕事をしていると思っています。

事業に関して、今後目指すところはありますか。

佐藤:目指しているのは、「人材業界のゲームチェンジャーになる」ということです。 人材紹介のビジネスは、採用したい企業が発注して、エージェントはその企業の希望に沿った人を探し、採用が決まると売り上げがでる仕組みです。基本的には企業起点になりがちです。

個人のお客様からは、今すぐ転職したいわけでもないのにものすごい数の企業を紹介されたり、とりあえず受けてみましょうと半ば強引に面接をすすめられたりしたという声をよく聞くことがあります。そういうエージェントに対して嫌な印象を持つ人もすごく多いんですね。

ミライフは、100%個人起点のエージェントです。個人の方を向いて、その人のキャリアや仕事以外を含めた人生を考えながら一緒に伴走するスタイルをとっています。すぐに転職したいわけではないという方に対しては、時間をかけて伴走し、その人にとって良い選択を一緒に考えるやり方です。

これからは労働人口が減って人の重要性がどんどん高まり、採用できない会社はやってけない時代になってきます。そう考えると、本当に採用したい人に会えるエージェントでないと、企業のお客様に対しても価値を出すことができないと考えたんです。

このやり方は、すごく時間も手間もかかります。もっと簡単に儲ける方法があるよなと自分でも感じることもあるのですが、それでも、本来目指すべき理想の形だと思うんです。

100%個人起点で、個人のキャリアを支援する僕らのやり方が業界のスタンダード、当たり前にしていくことが、「人材業界のゲームチェンジャーになる」という、目指すところですね。

大変でもあるべき姿だからこそ、あえてそこにチャレンジしていくんですね。

佐藤:そうですね。ミライフに良い社員が集まることで、このやり方でもビジネスとして成立し会社の利益を出すことができて、お客様にも良い価値を提供し、そして社員も高いお給料を得られる、そんな世界を実現したいと思っています。そして、会社としても少しずつ成長し、人材業界や社会にインパクトを与える仕事をしていきたいですね。

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