本社オフィスを撤廃したソフトウェア開発会社の取組

取材日:2023/02/02

ソフトウェアの開発と運用を担う株式会社ソニックガーデン。創業10年余りの同社はコロナ禍前に本社オフィスを撤廃し、全従業員が全国各地からテレワークで「出社」して事業を行っています。先駆的な働き方を実現できた背景や狙いについてお話を伺いました。※本文内、敬称略。

お話を伺った人

  • 八角嘉紘さん

    八角嘉紘さん

    株式会社ソニックガーデン

    事業開発室/室長

生産性と成果追求から始まった働き方改革

創業時の2011年にはすでにテレワークを導入しています。当時は一般的な働き方ではなかったのですが、なぜ決断されたのでしょうか。

八角:創業する目前の2010年ごろだったと思いますが、5人いたメンバーの一人が「アイルランドを旅行しながら仕事をしたい」と言い出しました。会社を辞めるかという話にもなりましたが、5人しかいない創業メンバーなので一人でも欠けると大変です。実はソニックガーデンのルーツは2009年に大手企業内で発足した社内ベンチャーにあり、すでにクラウド化やペーパーレス化を進めていました。この環境ならば辞めなくても「外国にいながら働く」スタイルができるんじゃないかと。当時としてはチャレンジングな試みでしたが、これが最初のテレワークです。

これを機に拡大していくわけですね。

八角:1年ほどやってみた結果、スキルがあり信頼関係が築けるなら問題なく仕事ができるとわかりました。2011年に創業し採用活動も開始しましたが、今回の経験からスキルと信頼関係があれば住んでいる場所は関係ないと、勤務地不問で募集したのです。すると地方在住者の採用が増え、2014年ごろには東京都内の本社に出社して働く社員と、地方からテレワークで働く社員の割合が半々くらいになりました。

テレワークにしたおかげで、スキルがありエンジニアとして最前線の仕事をしたいけれど、さまざまな事情で地方にいないといけない人たちの需要に、うまくマッチできたとも言えます。現在も60人近い社員の半数は首都圏ですが、残りの半分は九州、四国、北陸などですね。

テレワークが会社としての働き方の軸に見えます。

八角:強調しておきたいのですが、当社は「テレワークありき」の会社ではありません。働きやすさから取り入れたのではなく、生産性をいかに向上させるか、どうすれば成果を生み出せる働き方につながるかを考え続けた結果、テレワークを選択したということに過ぎません。

例えば、社内ベンチャー時代、会社で作ったサービスをお客様に販売するために企業へ出向くことがありました。そして、そのあとにオフィスへ戻らないと処理できない業務もある状況に「無駄がないか」と言われれば、そうではないと思います。そのような生産的ではない働き方を変えたかったというのが原点です。

無駄を排除した結果が今の「働き方」につながったということでしょうか?

八角:そうですね。もちろん全員が一緒の空間で働いた方が聞きたいこともすぐ聞けるし、生産性が上がる点はあると思っています。ただ、物理的な制約が生産性を下げることもあります。また、何かしらの理由から地方で働いたり、家で働くことを選択したりする社員がいるわけです。そうなると物理的なオフィスへの出社を前提とした働き方は、必ずしも最適な手段とはならないケースもあると思います。

テレワーク導入当初は課題もあったのでしょうか?

八角:コミュニケーションをどう担保しようかという課題はありました。そこで、テレワークの社員とのコミュニケーション施策として、テレビ会議システムを常時つなぎっぱなしにしてみたこともあり、これはテレワーカーが1人や2人の時は効果的な方法でしたね。しかし、それ以上になると誰が誰に話しかけているかわからないうえに、小声での会話ができないので、「気が散る環境」になってしまった。その後、チャットツールも使ってみましたが、自分たちが望むコミュニケーションという意味では、うまくいきませんでした

バーチャルオフィスに「出社」する一体感

どのようなコミュニケーションを目指していたのですか?

八角:チャットは何かのプロジェクトを進めるには、非常に有効なツールです。しかし、私たちはメンバーがリアルタイムで同じ空間を共有しているという感覚を重視したかったんです。つまり「オフィス感」が欲しかった。そこで同じ時間、同じ空間を共有できる仕組みをデジタル空間につくったらどうかとなり、2014年、オリジナルのバーチャルオフィス「Remotty(リモティ)」を作りました。

Remottyの仕組みを教えてください。

八角:社員はログインによって「出社」します。PC画面にはバーチャルなオフィス内で、バーチャルな自席に着く自分の顔が映し出され、全員に共有されます。誰かとコミュニケーションを取りたいときには話しかけて顔を見ながら実際に会話できますし、テレビ会議へも移行できます。また、チャット機能もあり、個々人のつぶやきがタイムラインに流れます。「雑談」が聞こえてくるイメージです。

使い勝手や評判はいかがですか。

八角:当社でもバーチャルなオフィスとリアルなオフィスとではどちらがコミュニケーションを取りやすいか、社員にアンケートを取りました。中途採用の社員も多いので、かつて勤めたオフィスと比較しやすかったと思います。その結果、雑談や相談のしやすさは、リアルもバーチャルも変わらない結果になりました。挨拶などはリアルの方がやりやすい印象がありましたが、「変わらない」という結果には自分たちも驚きましたね。他の人の仕事の状況把握や情報の伝達という点では、リアルよりバーチャルにメリットを感じているようです。

Remotty誕生からわずか2年後の2016年、リアルなオフィスを撤廃し物理的に出社する場所がなくなりましたね。本当に大丈夫かといった不安や心配はありませんでしたか。

八角:一見大きな取り組みのように思われますが、不安もリスクもありませんでした。それは実態としてほとんど使う人がいなくなっていたからです。

テレビ電話つなぎっぱなしからRemottyに移行し、在宅勤務の人にとってはコミュニケーションがスムーズになりました。一方、オフィスに出社している人もRemottyにログインして仕事をしていました。働く場所がどこであれ、「自分のオフィスはRemotty」になったわけです。そうなると「家からRemottyにログインすればいいかな」という人が増え、リアルにオフィスに出社する人が徐々に減っていきました。最終的には取材対応や、家で集中できない時に使うくらいの頻度になっていたので、物理的なオフィスは撤廃しフルリモートに移行しました。

ライフスタイルを選ばない働き方が人材獲得にプラス

フルリモートになったメリットはどんなことでしょうか。

八角:人材採用の面では、明らかに良い影響がありました。当社は人材紹介サービスなどを利用していないので、採用窓口は自社サイトからの応募のみですが、それでも十分に人材が確保できた実績があります。最近はテレワークを取り入れる企業が増えたことから、ある意味で「競合が増えた」ことにはなりますが、それでもテレワークという働き方にメリットがあることは証明できたと言えるでしょう。住む場所や生活スタイルの変化に左右されることなく仕事ができるので離職率を下げる効果もあります。

一方、総務系のバックオフィス業務、あるいは営業をフルリモートで行うのは難しいのではと想像します。

八角:新たなシステム、サービスの導入や業務の改善で乗り越えてきました。例えば郵便物は中身を開封して知らせてもらう外注サービスを使っていますし、電話転送もRemottyへ通知される仕組みにしています。給与や経費は社会保険労務士の方に確認をお願いして、社内で確認する手間やコストを減らしています。また営業面では、当社はどんどん営業して新規開拓をおこなうのではなく、自社サイトにお問い合わせをいただいた企業さんの相談に乗るところから案件がスタートすることが多いんです。なので、難しさはあまりないですね。

オフラインで社員が交流する機会はまったくないのでしょうか。

八角:コロナ禍前の2019年ごろまでは、毎年1回家族会をやっていました。全社員と家族を呼ぶので百数十人規模になり、前回は箱根の宿泊施設を借り切って1泊2日で実施しました。今後は全社員とお客様が参加できるセミナーのようなイベントを考えています。

また、全社的な交流ではありませんが、人と人の関係で思い出に残るような取り組みを、会社がサポートするような制度もあります。
例えば、新卒社員を交えた食事会の費用を会社が補助してくれる「同じ釜飯申請」という制度や、家族旅行のほか、家族と少し特別な時間を過ごすための食事などに対する補助制度などです。

日頃、気持ちよく働けることを「家族に感謝」する家族会の様子。

成功のカギはセルフマネジメントができるか

フルリモートの働き方を成功させる秘訣は何でしょう。

八角:セルフマネジメントを身につけ、自律的に行動できる、成果を出せる人材をきちんと育てることでしょうか。当社では、育成を後押しする空間として、住居用のマンションと一戸建てをワークプレイスとして借りています。東京都内と岡山県にあり、取材や仕事、研修など社員が自由に使えます。テレワークの前提を崩してしまうような話ですが。

オフィスはなくしたのに、ワークプレイスは必要でしたか。

八角:当社も新卒や第二新卒の人材を採用するようになり、ビジネスパーソンとしての育成は、本当にテレワークだけでいいのか議論になりました。

最初にお話したようにテレワークを目的にしているわけではないので、ビジネスパーソンとしての素地を養う上では、ワークプレイスというリアルなオフィスに出社して、入社同期や同じプロジェクトに関わる先輩社員と一緒に働く経験もあったほうがいいのでは、という仮説がありました。もちろんセルフマネジメントができるタイミングが来たらフルリモートに移行してもらうこともありますし、実験的な取り組みなので、このやり方が正解かどうかはわかりません。

ただ、ワークプレイスは、テレビ会議に対応できる個室もありますし、新人育成の場としてだけではなく、社員が働く場所の一つの選択肢として活用されています。

バーチャルとリアルの両面に対応できる柔軟さが企業に求められているということでしょうか。

八角:今、ハイブリッドな働き方を導入したり、導入を検討したりしている企業は多いと思います。私も相談を受けることがありますが、どちらも運用しようとした結果、うまくいかないケースは非常に多いですね。この場合取り入れる考え方として、オンラインファースト(オンラインを先に考える)になっていないことがほとんどです。

当社では、ワークプレイスにいたとしても社員はみんなバーチャルオフィスに出社することにしています。その上で「ただし書き」のようなイメージになりますが、まだセルフマネジメントできていない新卒社員などに対しては、上司も含めてリアルな空間で一緒に働ける仕組みがあると、より望ましいという感じに使い分けることが必要ではないでしょうか。

最後にソニックガーデンでは、理想の働き方や組織と人の理想の関係についてどう考えていますか。

八角:ソニックガーデンはプログラマーの会社です。その目線で考えると、見える成果を求められますし、技術面で高みを目指さない人には合わない会社と言えるかもしれません。

今の働き方は、職人気質で、社員だれもが高い生産性を実現しようと考えている中で、そのための環境を突き詰めたらフルリモートだったという結果なんです。働き方だけを見ると、なんだか自由で緩いと言われてしまいそうですが、自分自身をうまくコントロールできる人材が集まった会社だからこそ、フルリモートがうまく稼働していると感じています。

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