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実践してみてわかる、自社にあった働き方とは テレワークは本当に必要?目的を考え見えた形

取材日:2023/03/15

経営や労務のコンサルティングを通じ、テレワークの導入をはじめとした、多様な人材が活躍できる社内制度構築などの働きやすい環境づくりをサポートするTRIPORTグループ。 2014年に「テレワーク実施率100%」で創業後、現在もテレワーク中心の働き方を実践しながら成長を続ける秘訣について、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 森 彩子さん

    森 彩子さん

    TRIPORT株式会社

    事業推進部/人材戦略室/マネージャー

この事例のポイント

  1. ワークスタイルの多様化で「眠る優秀な人材」を発掘
  2. 無理なく効率的なテレワークを支える3つの要素

創業当初からテレワーク導入、採用面でもプラスを実感

まず最初に、御社の事業内容についてご説明をお願いいたします。

森:当社は、TRIPORTグループとして「TRIPORT株式会社」と「TRIPORT社会保険労務士法人」の2つの法人があり、経営や労務のコンサルティング、助成金の申請やテレワーク導入のサポートなどをおこなっています。2014年に創業し、本社は東京にありますが、北海道から沖縄まで、約40名の社員がテレワークを活用しつつ働いています。

コロナ以前の創業当初から皆さんテレワークで仕事をしていると伺いましたが、そもそもどのような目的で導入したのでしょうか?

森:創業当時は、固定費や移動費の削減、それから生産性の向上といったメリットを考えてテレワークを取り入れていました。もともと3名でスタートした会社で、全員ITリテラシーの高いメンバーだったので、当時はまだ働き方として一般的ではなかったテレワークに対して抵抗がなかったという側面もありますね。

それが、新たに社員を増やし会社が成長する中で、テレワークを続ける意味も変化していきました。当時は知名度も資金力もなく、良い人材を集めたくても、なかなか来てはくれません。

そこでテレワークという柔軟な働き方をアピールすることで、子育てや介護などで仕事がしたくてもできない人たちなど、社会に眠っている優秀な人材に来てもらおうと考えたんです。

実際に、テレワークによる採用面でのプラスはありましたか?

森:はい。テレワーク制度を全面に打ち出した募集要綱とそうではないもの2パターンを比較した場合、前者の方がより多くの方に応募いただけました。

テレワークを希望する理由は、ご家庭の事情により時間や場所の制約がある方ばかりではありません。自己実現のため、あるいは、キャリアを磨くための時間を確保したいなど、それぞれの理想の人生を実現するために希望される方も多くいらっしゃいます。そういった方々を含め「間口が広がる」ことで、より優秀な人材を集めやすくなったと実感しています。

無理のないテレワークのために整えた、「3つの要素」

テレワークを進めるために、整備した制度などはありますか?

森:テレワークに必要なものとして大きく3つの要素を考え、それぞれ制度を整備しています。

まず1つ目はバーチャルオフィスや電子契約などの「インフラ整備」、2つ目が理想の働き方を実現するために必要となる社内の「制度整備」、例えば、勤務時間の自由度を向上させた「勤務時間の柔軟性」などです。そして3つ目が異なる部署の人同士がオフラインで交流する施策など、「コミュニケーションの活性化」です。

ただ、これらの施策は、最初から全て整っていたわけではなく、実際にテレワークをしながら必要に応じて段々と整えていったものです。

インフラ整備について例をあげると、経営陣をはじめ、毎日出社するメンバーがいなくなったタイミングで導入した郵送物の転送サービスがあるのですが、転送のタイムラグが問題になりました。そこで、サービス事業者に相談して、必要に応じて転送前に中身をいち早く確認でき、かつ、適切なメンバーに転送できるような仕組みに改善してもらったことがあります。

制度や施策については、まずはやってみよう、それで問題があったらつぶしていこう、という考え方でサイクルを回しながら工夫を重ねています。

テレワークをしながら出てきた課題に対して、解決策を探していったんですね。

森:そうですね。ほかには、商談のやり方もテレワークにあわせて変化しています。最初はお客様との商談は全て対面でやっていたのですが、まず初回の商談をオフラインでやって、2回目以降をオンラインにするなど、いろいろと試しながらオンラインでできる範囲を広げていきました。

制度に関してもいきなり全体でスタートするのではなく、小規模に始めて、課題に対応しながら少しずつ広げていくことで、大きな混乱なく浸透させることができたのかなと思っています。

「交流の場」を求める声が上がったコミュニケーションの課題

テレワークをするにあたって、特に解決が難しいと感じた課題、苦労した問題などはありますか?

森:一番の課題はコミュニケーションです。コミュニケーションの活性化は、現在も制度や施策など、試行錯誤している最中ですね。

現在の制度としては、あえて雑談やざっくばらんな会話が生まれるような取り組みをおこなっています。

一例ですが、オンライン、オフライン問わず、メンバー同士で飲み会等を実施した人に手当を支給する「せんべろコミュニケーション制度」や、北海道から九州・沖縄まで全国に点在するメンバーたちが集まり、直接対面でコミュニケーションを取ることができる「全体出社」や「エリア別出社」などがあります。

当社では入社した直後から全員がテレワークで仕事をしているため、意識して会う場を設けないと、一度も顔を合わせたことがない人ばかりになってしまう。そのような状況では、人間関係を築くのが難しい面もあり、孤立感にもつながりかねません。

組織の横のつながりを生むためにも、会社の制度としてコミュニケーションの場づくりは必要だと思っています。

社員の方からは、どのような反応がありますか?

森:社員からは、具体的な改善策や、もっとコミュニケーションをとりたいというたくさんの意見が寄せられていて、これは社員同士で交流するメリットをみんなも感じている証だと思っています。

オンライン上のコミュニケーションは、業務上の連絡や議事に沿ったミーティングなどはスムーズですが、リアルでのコミュニケーションと比較すると自然発生的な雑談はどうしても発生しづらいんです。

しかし、雑談も時には仕事に必要で、一見関係のない話の中に解決のヒントがあったり、相手の背景がわかって仕事がすすめやすくなったりすることがあります。そのため、こうしたコミュニケーション活性化の制度は、まずは社員同士の人間関係を築いてもらうことを目的にしています。

会社規模の拡大にあわせ、評価制度を見直し

現在、ほかに新たに検討している制度などはありますか?

森:現在取り組んでいるのが、評価制度の見直しです。会社が目指す方向に沿った、全体の目標達成につながる成果を評価できるように制度を日々、ブラッシュアップしています。

具体的にどのような方法で評価の見直しをされているのでしょうか?

森:まず、会社が社会に対し提供したい理想のサービス(付加価値)を明確にして、それを実現するためにはどういう社員が理想なのか、「理想の社員像」を言語化することに取り組みました。

その理想に対して自分は今どれぐらいできているか社員がエビデンスを持って示し、それを評価する仕組みを整えていっています。

また、一人ひとりが「理想の社員像」に近づいていくために必要なこととして、会社全体の中長期の目標から逆算して、部署や個人の目標を立てるようにしています。

具体的には、まず会社全体の中長期目標や事業戦略から、今年1年の会社の概念的な目標と定量的な目標を定めます。会社全体の目標を達成するために、今度は、各部署の責任者が部署目標を「見える化」し、最後に、部署目標を達成するために個々人がどのような目標を達成すべきか、一人ひとりが上長と相談しながら目標を定めるといった流れです。

目標管理手法の1つである「OKR(Objectives and Key Results)」と「MBO(Management By Objectives)」をミックスしたような制度になっていて、会社全体の目標から、部署、個人へと落とし込むことで、一人一人の目標達成が部署の目標達成に、部署の目標達成が会社の目標達成にそれぞれ貢献する仕組みを目指すものです。

目標管理や評価制度を新しくする背景としては、どのような状況があったのでしょうか?

森:会社の規模が大きくなり人数も増えたことから、一人一人に対する理念の落とし込みや、会社がどこを目指しているのか浸透させることが簡単ではなくなってきました。そのため、みんなが同じ方向を向いて仕事ができるよう、制度を変える必要性を感じたことがきっかけです。

ただ、現時点では、評価制度を設ける背景や目的を社員一人ひとりに浸透させたり、評価者の意識をすり合わせたりしている最中なので、まだまだ実運用に向けた準備段階のフェーズです。

会社の規模が大きくなるにつれて、人事評価に限らず、いろいろな制度を整えていく必要は感じているので、知恵を出し合っていければと思っています。

オンラインとオフライン、業務によって使い分けが必要

もう一点、2022年に、新たにサテライトオフィスを開設したと伺いました。これはどのような目的で作ったのでしょうか?

森:意思決定の「速度」と「頻度」、それに「確度」を上げるためです。

人数が増えていくにつれて、意思決定のスピードが創業時より落ちているという課題がありました。

振り返ってみると、創業時は意思決定者(経営層)同士はリアルに会うことも多く、例えば意思決定者同士、膝を突き合わせて仕事をし、その場でばばっと話して何かを決めることが多かったんです。

現在、組織の規模が徐々に大きくなり、中間管理職の立場のメンバーも増えてきて意思決定者の人数も増えてきました。そのため、主に意思決定をする必要がある経営層や管理職向けのオフィスとして、サテライトオフィスを新設しました。

オンラインではなく直接会って意思決定をする場を作ったことで、スピードも頻度も確度も、全て上がっているのを実感しています。

意思決定をするとき以外に、テレワークよりも実際に会った方が良いと感じる場面はありますか?

森:いくつかあるんですが、例えばブレストなど、複数人で議論をしたいときです。サテライトオフィスではホワイトボードに図や文字を書いて議論をしますが、パソコンでいちいちソフトを立ち上げて図を作るよりも、人によっては手書きの方が早いですね。

それから、ちょっとした相談は、やはりリアルの方が気軽です。相手の様子がわからない分、もうちょっと整理してから聞こうとか、オンラインでは重く感じがちというか、「そういえばあの件だけど…」と思い付きでポンと話しかけづらいですよね。

バーチャルオフィスも使用していますが、リアルの気軽さを完全に再現するのは難しい面もあると思います。

それでもテレワークを続ける背景には、オフィス勤務とテレワーク、それぞれの良さがあると判断しているんですね。

森:そうですね。もちろん、オフィス勤務の方がコミュニケーションの面でスムーズなこともありますが、何よりテレワークは、育児や介護との両立だったり、決められた時間・決められた場所で働くことが難しい人、働きたくても働けないような人が、働くチャンスを得られる働き方です。

当社では働くママ・パパが6割以上を占めていますが、例えば、突然子供の保育園から呼び出されても、中抜けをしてお迎えに行った後、自宅に戻ってきてまたお仕事を再開できる。家庭だけでなく、仕事も諦めずキャリアを積めるという点は、テレワークの良さですね。

ほかにも、移動時間を削減できる点やワークライフバランスが実現しやすい点などテレワークのメリットはたくさんあります。業務内容や目的にあわせて、それぞれの良いところを取り入れるのがベターなのかなと思います。

テレワークになぜ取り組むのか、目的の明確化が必要

テレワーク導入を検討している企業に対して、うまくいくための秘訣やアドバイスなどはありますか?

森:当社でもまだまだ試行錯誤している最中なのですが、強いて言うなら、まずは、テレワークになぜ取り組むのか、それぞれの企業にとっての目的やメリットを確認することが必要かなと思います。

テレワーク自体が目的になってしまっては本末転倒です。テレワーク導入に関する課題がある場合も、それでも推進だけのメリットがあるかどうか、判断しながら対応すると良いのではないでしょうか。

あとは、テレワーク導入が必要と判断したら、小さい規模から実際にやってみることも大切だと思います。経験することで、業務ごとの生産性や、社員同士のコミュニケーションなど、テレワークによる変化を体感して、課題を洗い出すことができるはずです。

御社の場合、皆さんが実際に体験することで、お客様へのサービス提供の際にプラスになっている面もあるでしょうか。

森:はい。「ショールーム型経営」と呼んでいるんですが、例えばテレワークを実践している当社の取り組みを見せることで、お客様にもより具体的にイメージしていただく形をとっているんです。自分たちの会社をショールームとして、自社実践に基づいて提案するというイメージですね。

先ほどお伝えしたように、当社で提供しているサービスは、テレワークの活用をはじめ、それに限らず、お客様の企業において社員の方たちがより働きやすい環境の構築、労務関係の整備・効率化を推進するためのサポート、助成金活用のコーディネートです。

それぞれの企業に合った働き方の多様化を支える仕組みづくりを支援することは、多様な人材が活躍できる社会の構築にも貢献できると考えていますが、このような提案は、理論だけで進めても机上の空論になる懸念もありますし、お客様目線で具体的な効果までコミットするのが難しくなってしまいます。

そうではなく、自分たちが経験しているからこそ、担当者が熱量を持って良い提案をすることができるんです。例えば、ある制度を入れたら社員にとってどんなプラスがあるのか、「私はこうやって活用しています」と自分の体験としてお話することができます。ショールーム型経営は、当社としては大きな強みになっています。

最後に、御社の働き方について、今後の展望を教えてください。

森:社会や会社規模の変化にあわせて、これからもいろいろな制度を新設したり見直したりしていくことが必要だと思っています。テレワークひとつとっても、まだまだ課題がありますし、やってみて実際に対面の方が良いと判断できればオフラインに切り替えるなど、柔軟な対応が必要です。ひとつひとつ検証して効果を見極めながら、より良い働き方を作っていければと思っています。

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