社員が社員の賞与額を決める大胆戦略 独自の評価制度「3C制度」による組織づくりとは

取材日:2023/06/12

膨大・複雑なデータから必要な情報を的確に探し出す検索テクノロジーを基にしたシステム開発を手がけるフォルシア株式会社は、10年以上前から社員の相互評価によって賞与額を決める「3C制度」を導入しています。この制度は会社にどのような影響を与えているのでしょうか。制度の中心となる「社員主体」の組織づくりの効果や、システムを取り巻く風土についてお話を伺いました。※本文中、敬称略

お話を伺った人

  • 大口翔子さん

    大口翔子さん

    フォルシア株式会社

    人事・総務部

  • 中川幸希さん

    中川幸希さん

    フォルシア株式会社

    旅行プラットフォーム部/ディレクション担当

  • 伊藤明日香さん

    伊藤明日香さん

    フォルシア株式会社

    経営企画室

この事例のポイント

  1. 3C制度が「努力は必ず誰かが見ている」企業風土を生んだ
  2. 情報共有やアウトプットへの意識アップ、社員主体で組織改善

「縁の下の力持ち」を見過ごさない3C制度

御社の取り組みで目を引くのは、何と言っても、社員が自分以外の社員の賞与額を決める3C制度です。どのような制度なのでしょうか。

大口:年度の成果が見える12月ごろ、3C制度の対象となる自分以外の社員の氏名が記載されたシートが配られ、彼らが受け取るべき賞与額を記入します。

この際、仮の金額として1人当たり100万円が示されます。つまり、評価対象の社員が10人いれば、賞与額の「原資」は1000万円になり、それぞれの社員にその「原資」を割り振っていくことになります。ただし、そこで記入する金額が実際の支給額となるわけではなく、あくまで原資に対する割合を示すものなので、例えば120万円と記入した場合、それはその社員を基準より20%高く評価したいということになります。

評価は3つの観点、Contribution(収益への貢献度)、Commitment(業務に対する貢献度、責任感)、Consistency(会社への安定的関与)からおこないます。

対象は全社員ですか。

大口:現在の社員数は130人ほどですが、そのうち約80人が対象です。在籍期間が異なる人を同じ基準で評価するのは公平ではないとの考えから、評価の対象となる期間(1年間フルに)在籍していることが対象条件となっています。そのため、入社1年に満たないキャリア入社社員のほか、新卒社員もその観点から3Cでの評価の対象外となります。

3C制度による最終的な賞与額は役員が決めるのでしょうか。

中川:社員による3C評価をもとに、特定の「計算式」にかけて賞与額が決定します。

役員による最終チェックもおこなわれますが、そこで“神の一手”によって、賞与額が大きく変わってしまうようなことはありません。

恣意的な評価によって、不公平さが生じるようなリスクはないのでしょうか。

中川:そうですね。人間ですから感情を完全に排除することは難しいと思います。

ただ昨年、社長と話をしたときに、評価には人間関係も影響することを前提にして組まれている計算式だと。だから、それによる歪みを防ぐ仕組みも含まれていて、公正な評価につながっていると教えてもらいました。

極端な評価を排除する仕組みの一例としては、AさんがBさんを極端に低く評価しても、そもそもAさん自身の周囲からの評価が低ければ、Aさんの他人に対する評価はあまり重視されず、その影響は少なくなるようになっている、などです。

好き嫌いなどの人間関係の要素も最終的には排除されて正当な評価になるということですか。とんでもなく優れた計算式ですね。

伊藤:役員の一人が作った仕組みなのですが、どういったロジックが組まれているのかは私たちも存じ上げません。いわば「秘伝のタレ」のようなものかと(笑)。

賞与額や制度に対する不満の声はありませんか。

中川:人間なのであるとは思いますが、納得はしていると思います。各社員の賞与額は公開されていないため、誰が誰をどのように評価したかを知ることはありません。

役員のみが全社員の評価を把握し、部室長は、自分の部下が他部署を含めた全社員からどのように評価されているのかを把握することができます。そのほか、自分がどのように評価されたかについては、役員または部室長から評価の傾向という形でフィードバックを得ることができます。

3C制度はみなさんや組織にとって良い取り組みと感じていますか。それともやりにくいですか。

伊藤:私は中途入社で、2022年に初めて3Cによる評価を経験しましたが、本当に難しいと感じました。業績に対して立役者となった人はわかりますが、「縁の下の力持ち」は自分で一生懸命探さないとわからないのです。部署や職種が違えば、誰がどんなことをしているか細部まではわかりません。それが難しい点でもありますが、一方で情報を得るための努力を促すという意味では非常に有意義な制度だと思います。

自分たちが「知らない、分からない」と適当な評価を始めてしまったら、システムの意味がなくなってしまいます。制度を良くするのも悪くするのもすべては自分たち次第だという点が面白く、やりがいも感じています。

また、3C制度がきっかけとなり、多くの方に当社に興味を持っていただけた側面もあります。会社の認知度を上げるためのトリガーになっていると思います。

大口:私自身、普段一緒に仕事をしないエンジニアからの評価についてフィードバックをもらったことがあります。

とても驚きましたが、この制度を通じてエンジニアと自分の間に、同じ組織の仲間としてのつながりを実感しました。職種を超えたつながりが生まれ、誰かが必ず見ていてくれると感じられる文化は、仕事へのエンゲージメント向上にもつながると感じています。

伊藤:もし3C制度がなく、上長から評価されるだけの会社だったら、違う部署の人や誰がどの案件を獲得したかなど、そこまで理解しようとするモチベーションが湧かなかったと思います。そこまで取り組まなくても、自分の仕事は成り立ってしまうからです。その意味では、コミュニケーションを促進する、情報を発信する、また受け取る努力をする文化が醸成されている点は、組織にとってもプラスだと思います。

中川:僕も評価のメリットに関して同様の意見ですが、評価自体に関しては、自分自身の評価基準を持つことが重要だと実感しました。

会社から提示されている基準は、先の3つのCの「評価軸」だけなんです。詳細のルールがない中、自分で評価基準を持たなければならない点は、率直に難しさを感じますね。ただ、一人ひとりで評価基準は違うはずなのに、蓋を開けてみると、各々が納得できる評価になっているのは面白いなと思います。

情報発信の努力が、褒め合う文化につながる

「縁の下の力持ち」を知るためには個々の努力だけではなく、お互いを理解するための仕掛けや機会を設定していますか。

伊藤:毎週水曜日の午前中に1時間、朝ブリ(朝のブリーフィング)と呼ばれる全社ミーティングがおこなわれます。そこで各部門の責任者が、誰がどの案件に関与してどのように頑張っているかを紹介しています。

また、「今週のヒーロー」という企画があり、投稿フォームから事前に頑張った人を推薦し、朝ブリで発表する機会があるのです。例えば営業で大きな案件を受注した人が「契約面を法務のメンバーがサポートしてくれた」といった情報を共有する機会になっています。

褒め合う文化が会社のカルチャーとして根付いている点も3C制度と連動していますね。

伊藤:そうですね。評価する機会は、周囲への新たな視点や、組織全体への広い視野にもつながっていると思います。

そもそも妬むとか足を引っ張ってやろうといったことはないですし(笑)、当社はミッションに「フェアネス」を掲げているので、評価制度だけでなく、その精神に共感するメンバーが集まっているからこその文化だと思います。

テレワークも導入されているそうですが、コミュニケーションや3C制度のような、他人を理解する必要がある局面で、工夫が必要になることはないのでしょうか。

伊藤:そうですね。相互理解を促す取り組みとしては、まずはお互いの人となりを知るためのオンライン雑談会を行っています。

ただその一方で、自分からオンラインで働きたいと希望している人に対して過度なサポートをするのも少し違うかなと思います。オフラインでもオンラインでも、自分自身で情報を収集する努力は必要です。厳しく聞こえるかもしれませんが、それが適切だと考えています。

意思疎通の課題への取り組み、「sense5」

3Cと並んで、もう一つ特徴的な制度に「sense5」というものがありますね。

伊藤:役員と経営課題を一緒に考える、社長直轄の組織です。

以前、インナーコミュニケーションに関する課題を経営層から提起されてワーキンググループが発足したのですが、結果として、そこで議論した内容と経営陣の思惑にズレが生じてしまったんです。

そこで、私自身が前職の会社で社員と社長が経営課題を一緒に考えるジュニアボード制度に関わっていたこともあり、当社でも取り入れたいと提案して「sense5」が始まりました。

メンバーは、社長が選んでいるのでしょうか。

伊藤:ある程度会社やビジネスのあり方について意見を発信できるレベルに達した社員5〜6人を社長が選抜しています。任期は1年間。2022年度が第1期です。

具体的にはどのようなことを行いましたか。

中川:私は1期のメンバーに入っていました。最初は経営層と現場の意思疎通に関して問題が発生していないか、という点から議論を始めました。

社長の考えが現場まで伝わっているか、現場になかなか浸透していないのではないか、という問題提起です。

後半になると社員が会社に対して日頃疑問に思っていることを、一つ一つ解消していく機会になりました。例えば3C制度に関して、最終的には役員の裁量によって金額が恣意的に調整されているのではないかとの憶測があり、これに対しては社長からはっきりと「行われていない」との説明がなされました。

伊藤:扱っていたテーマは、リーダーの役割や行動指針があまり浸透していないという問題、そして在宅勤務と出社とのハイブリッドな環境下でチーム力を上げるにはどうするか、などですね。

「sense5」の効果はどのように感じていますか。

中川:当社のコミュニケーションは正常だと思っていたのですが、実は「詰まり」があると気づきました。修正すべき課題を認識できたことは、「sense5」として活動した意義があったと感じています。

また、会社のある方針について現場から大きな反発があり、そのときに「sense5」がトップの意向を説明して、誤解を解きました。実は経営層から現場に届くまでにかなりの情報が脱落していたことがわかったのです。

大口:何か疑問に思ったり、おかしいと思ったことを上層部に伝えたいと思っても、なかなか言いづらいものですよね。そのようなときに伝えられる一つのルートになっていればいいと思います。

「社員主体」で議論を尽くす職場を創りたい

3C制度や「sense5」から見えるのは、「社員主体」の考え方です。

伊藤:当社は、トップダウンである日いきなり会社が変わるようなことはなく、経営層から頭ごなしに「これをやりなさい」といった指示が出されることもありません。あくまで経営層は私たちが提案したものに対して、最終的な経営判断を下すという立ち位置を取ってくれているので、会社を作り上げていくのは社員自身という意識は常にあると思います。

中川:そもそも3C制度自体が、会社からの社員への信頼度の表れとも言える制度だと思います。その信頼が、自分の言動への責任と主体性の創出にもつながっているのではないでしょうか。

他の企業が「社員主体」の組織を作りたいと考えた場合、どのような点に気をつけると良いと思いますか。

大口:社員が自主的に考えることをやめない、という意識だと思います。誰かが代わりに行動してくれる、誰かが問題を解決してくれると考える社員が多いとしたら、マインドチェンジが必要になります。

中川:制度面で言えば、性悪説を前提とした制度では、主体性は生まれないと思います。

組織として、もちろん統制しなくていけない側面もあるので難しいところですが、「人間は基本的に悪いから、このような制度を作らなければ動かない」と考えて作られた制度では、実際にはその逆になってしまうと思います。

最後に、現場で活躍されているみなさんの視点から、今後フォルシアをどのような組織にしていきたいと思いますか。

伊藤:私たちは相手を気遣いつつバランスを取って人間関係を築いています。これは良いことです。相手を思いやる優しさがあるわけですから。

しかし、事業のスピードを上げようと思えば、優しさが邪魔になることもあります。だからこそ、お互いの意見を戦わせる場面がもっとあっても良いと思っています。また個人的には、例えば今後、経営層が思い切った決断をするようなことがあった時には、「社長が何を言っても社員がついていく」、そのくらい強固な信頼関係で結ばれた組織を作るための架け橋になりたいと考えています。

大口:当社の社員の多くの人はどこか似た雰囲気を持っていて、穏やかで、優しさにあふれていると感じています。それが褒め合う文化を育む土壌になっていますが、何か問題が起きたときの厳しさは失わないよう注意したいですね。優しいだけではなく、時には、耳の痛いことも率直に伝え、高め合っていける組織にできたらと思います。

中川:組織としては、自分で意思決定できる人が増えれば増えるほど、強いチームになっていくはずです。組織全体の理念の解像度を高めていくとともに、そういった人材を育成していき一回り大きな組織を目指していきたいですね。

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ビズクロ編集部
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