専門企業が考える、企業にとってのオフィス オフィスは必要?全拠点を拡大移転した理由

取材日:2023/03/20

オフィスの仲介や内装デザインなどを行う、オフィスナビ株式会社。それぞれの企業にとって最適なオフィスとはどのような形なのか、事業として取り組んできた会社ならではの考え方について、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 服部早映子さん

    服部早映子さん

    オフィスナビ株式会社

    東京本社管理部/(人事・広報担当)課長

この事例のポイント

  1. 「テレワーク時代」に決断した全拠点拡大
  2. トレンドではない「自社の最適解」による働き方改革

改めて感じたオフィスの重要性、全拠点で拡大移転

全拠点のオフィスを移転したと伺いました。どのようなきっかけ、背景があったのでしょうか?

服部:当社は東京、大坂など全国の主要都市に6つの拠点があるのですが、2021年以降、全ての拠点を拡大移転しました。
新型コロナの感染拡大を受けて、一時期フルリモートにしたこともあったのですが、実際にフルリモートを経験したことで、場所としてのオフィスの重要性を改めて感じたんです。

ただこれはフルリモートがダメということではなく、オフィス出社を原則とするものでもありません。あくまで画一的な働き方を求めるものではなく、対面でのコミュニケーションの良さ、会うからこそ醸成されるチーム意識によるモチベーション向上などを改めて認識し、働き方の自由度を高める中で、より心地良く仕事に集中できるオフィスでありたい、という趣旨の移転と考えています。

お陰様で業績も良く、従業員の数が増えてきたこともあり、各拠点が手狭になったという背景もありますね。

新しいオフィスを作るにあたって意識した点などはありますか?

服部:それまでのオフィスは、1人1席の固定席と会議室がある程度で、特に内装などのデザインもこだわって作ったものではありませんでした。

移転と同じ時期に、社内にファシリティマネジメント事業部という内装をデザインする新部署ができて体制が整ったこともあり、新しいオフィスは仕事にもリフレッシュにも利用可能なフレキシブルなスペースを作るなど、こだわりを込めた内装にしています。

当社の事業はオフィスコンサルティングで、オフィスの移転についても具体的にサポートすることが多くあります。自社オフィスは、自分たちの働き方を向上させるためだけでなく、より良いオフィス環境をお客様にご提案するうえでの実験の場にもなっていますし、実際にお客様にご覧いただくことで、当社が提供可能なサービスを発信する場所にもなっています。

新しいオフィスづくりが、社員の働き方の改善だけではなく、事業にもプラスになっているんです。

全国6拠点の新オフィスは、部署を越えたコミュニケーションの活性化にも役立っている。※画像は東京本社オフィス

改めてオフィスの重要さを感じたとおっしゃっていましたが、具体的に、どのような点でオフィスが必要だと感じたのでしょうか?

服部:オフィスコンサルティングとして、オフィスの仲介や内装デザインなどをするにあたり、特に営業職は現地でお客様を案内することがとても多いんです。現地で何があったか、上手くいったのか問題があったのか、リモートでそれぞれの家に戻ってしまうと、共有にもひと手間かかってしまう。オフィスという同じ場所に戻ってくることで、その場にいる人にパッと報告し「生きた情報共有」ができます。

また他にも、オンライン会議だとそこに参加している人にしか情報共有できないので、なかなかスピーディーにプロジェクトが動かないこともありました。

リアルなオフィスだと、なんとなく耳に入った話が有益な情報源になったり、そこからノウハウの共有が始まったりして、プラスの効果が出ることがあると思うんです。

自然発生的に生まれるコミュニケーションが活発になるんですね。

服部:そうですね。実際に顔を合わせて、ナレッジを共有したりお互いの状況を把握したりする場所として、一堂に集まれるオフィスがやっぱり必要だと感じ、全ての拠点で拡大したという経緯になります。

現在は、出社とテレワークを併用しているんですね。

服部:はい。週1日ないし2日程度、原則としてテレワークが可能です。実施判断は各チームや個人に委ねられているので、ほとんど出社している人もいますし、週2日ほどリモートで仕事をしている人もいます。最近はコロナも少し落ち着いてきていることもあり、出社率は高いと思います。

それぞれの業務や職種にあわせて、より適した場所で仕事をしている感じですね。

ナレッジ共有の「仕組み」は、社員の声を受け改善

ナレッジやスキルを共有するために、制度や仕組みとして整備しているものはありますか?

服部:一つは「ベンチマーク研修」といって、他の拠点で活躍しているメンバーに同行して、業務を学べる制度があります。環境の異なるメンバーの仕事ぶりから新鮮な学びを得て、パフォーマンスを向上させることが目的です。

例えば営業職だったら、他拠点で成果を出している売上ナンバーワンの担当者に同行して、トップセールスのやり方を直接見て学ぶことが可能です。周囲のメンバーだけでなく、他拠点を含めた全社の成功体験や失敗体験から学んだ方が成長も早くなると考えています。また、職種によっては拠点をまたいで一緒に仕事をすることもあるため、実際に会って話しをすることで、その後の業務が円滑にすすむという利点も考えられます。

オンラインでのナレッジ共有として、何か取り組んでいるものはあるでしょうか。

服部:はい。グループチャットを使ったナレッジ共有も盛んです。オフィスに関するニュースや働き方のトレンドなど、業務に関係する最新情報をピックアップしたものを投稿したり、パソコンのショートカットのようなライフハック的な業務効率化に関する小ワザを投稿したり、それぞれ他の社員に伝えたい情報を共有して役立てています。

それから「契約レポートチャット」といって、契約に関する成功事例や具体的な工夫などを共有するグループチャットもあります。

それぞれのお客様との契約は、一件一件全部ストーリーが違い、同じ案件が一つとしてないんです。お客様の業種、特徴、ご要望内容、トラブルや成約に結びつけることができたポイント、お客様に響いたフレーズなど、それぞれの項目を実際に契約した営業担当者がGoogle フォームに打ち込むと、契約レポートチャットに自動投稿される仕組みになっています。

利用している社員からは、どのような声がありますか?

服部:例えば、入社して間もない社員からは、いろいろな先輩の契約事例を見て、資料作りやセールストークの参考になったという声をよく聞きます。それから、事前にトラブルが防止できたり、過去の事例を参考に先回りして違う視点から物件を提案できたり、具体的にお客様との契約に役立った事例もありますね。

また、社員の声を受けて、共有の方法も少しずつブラッシュアップしています。

以前は、契約内容をEexcelなどに一度保存して、そのファイルをチャットに共有していたのですが、ファイルを開くというひと手間があることで閲覧率が低かったんです。もっと簡単に閲覧できるようにしてほしいという声を受けて、Googleフォームから自動投稿される形に変更しました。

当社は、自分が得た情報をみんなに共有するという文化がそもそもあったんです。オンライン・オフラインに関わらず、業務にプラスになる情報を周囲に伝えられるよう、社員も一緒になって仕組みを作り上げています。

「家族より大事な仕事なし」の考え方を反映した人気制度

他には、御社の中で浸透している文化や、働き方に対する考え方のようなものはありますか?

服部:代表が常々言っているのは「家族より大事な仕事なし」という言葉です。会社説明会で代表が直接学生の皆さんにお話しするほか、社内でも機会があるごとにこのフレーズを出しているので、社員にも考え方が浸透しています。そのため、抵抗なく家庭の事情で早退したり休んだりできて、周囲も当たり前のこととしてサポートする土壌が培われていると思います。

また、家族と過ごせる時間を作ってリフレッシュするという考え方を反映した「ワーケーション制度」という制度も新たにできました。

具体的に、どのような制度なのでしょうか?

服部:好きな場所で最大5日間のワーケーションができ、国内で年間上限10万円、海外で年間上限20万円まで宿泊費や交通費を会社に負担してもらえる制度です。

ワーケーション中は、1日最低3時間仕事をすれば通常勤務とみなされるため、家族同伴の旅行先で仕事をする社員もいれば、社員同士で仕事をしつつ旅行を楽しむ社員もいます。

リモートワークが可能になったからこそ実現した制度で、多様な働き方を提案している当社としても、新しいチャレンジではありますね。 ーー組織としては負担面など、思い切った制度にも思えます。社員の皆さんの反応はいかがですか? 服部:2021年からスタートした制度なのですが、初年度にも関わらず対象者の9割以上が利用しました。

私もこの制度を使ってワーケーションをしたのですが、来年はどこに行こうかな、と楽しみのひとつにもなっています。社内でもおすすめの場所について情報交換するなど、ワーケーションをきっかけにした会話も生まれているようです。次の楽しみがあることでまた仕事を頑張れる、というエネルギーの源にもなっていますね。

確かに、組織として1人10〜20万円を補助することは小さな負担とは言い切れませんが、ワーケーションによってリフレッシュして仕事に望めることによる生産性やモチベーションなど、それ以上のポジティブなメリットにつながっていると考えています。

最適な働き方、オフィスのあり方は、正に“三社三様”

オンラインとオフラインを場面によって使い分け、それぞれの良い点を活かしているんですね。改めて御社の考えるオフィスとは、どういう場所になるんでしょうか。

服部:会社の大事な考えや普段みんなが考えていることを共有できる場所でしょうか。カルチャーを肌で感じられる場所と言っても良いかもしれません。

ただ、オフィスさえあれば会社の考え方をしっかり浸透させることがすぐにできると考えているわけではありません。当社では「NAVism(ナビズム)」といって、会社の理念や大事にしてる価値基準、代表の思いをまとめた冊子を作っています。去年、そうした考え方をより深めるために「NAVism研修」という研修を初めて実施しました。全国6拠点のメンバーをシャッフルして8人程度のグループに分け、NAVIsmの考え方を普段の業務にどう落とし込むのかを一日半ぐらいかけて議論したんです。

理念の落とし込みについては、今後もいろいろと試行錯誤しながら続けていく必要があると思っています。

新型コロナも落ち着いてきて、改めて多くの企業が働き方やオフィスのあり方を模索していると思います。オフィスについて事業として取り組んでこられた御社として、伝えたいメッセージなどはありますか?

服部:そうですね。出社が良いのかリモートが良いのか、それともハイブリッドかなどいろいろと言われていますが、どの企業も真剣に「自社の最適解」を模索していらっしゃると思います。私たちはオフィスのあり方や働き方をお客様に提案する側ですが、全ての企業に当てはめられる画一的な正解はないと思っています。

お客様の業種や会社の成長フェーズ、それから従業員の人数や代表の考え方など、置かれている状況はさまざまです。

世間のトレンドがどうかではなく、自分たちの会社にとって何がベストなのか、どういう会社を目指していくのか、そういった観点でお客様にも考えていただければと思いますし、私たちもそれぞれの企業に寄り添って、より良い提案を追求していきたいなと思います。

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