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町の加工屋がソリューションプロバイダーへ 仲間まわしのデジタル化が町工場にもたらしたもの

取材日:2024/11/12

大田区同士の町工場が協力し、一つの製品を作る伝統文化”仲間まわし”。今回はこの仲間まわしのデジタル化において、中心的な役割を担ったI-OTA合同会社の代表である國廣さんと株式会社テクノアの佐々木さんに、デジタル化の経緯や取り組み内容、効果などをお伺いしました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 國廣愛彦さん

    國廣愛彦さん

    I-OTA合同会社

    代表社員

  • 佐々木靜さん

    佐々木靜さん

    株式会社テクノア

    プラットフォーム事業部

この事例のポイント

  1. 仲間まわしのデジタル化によって各町工場の技術力や対応力が向上
  2. 仲間同士の連携や顧客とのコミュニケーションも円滑に

仲間まわしは大田区町工場の伝統文化

仲間まわしとは、そもそもどういった取り組みなのか教えてください。

國廣:大田区の町工場は加工屋が多く、それぞれ専業特化していました。たとえば「切る」だけの工場や「曲げる」だけを担当する工場みたいな感じです。そのため当然一つの町工場では全工程を担当できないので、昔から一つのパーツを作るにしても、複数の町工場で連携しながら対応していたんです。これを仲間まわしと呼んでいました。こういった背景もあって大田区の町工場同士の交流は結構昔から盛んでした。

そんななかお客様のニーズが変わってきた背景があって。これまでは図面があって部品加工をお願いされることが中心でしたが、今ではアイデア段階での相談も増えてきて、量産などの工程までワンストップで対応してほしいというニーズが多いんです。

スタートアップベンチャーだとアイデアはあるけど、モノづくりの方法がわからないとか、大手企業でも人材不足や設計者の技量が落ちてきているとか、こういった背景があって提案型かつワンストップのモノづくりニーズが本当に増えていたんです。

こういったニーズへの対応は、町工場一社では正直難しい。だから大田区では仲間まわしという文化を積極的に活用しながら、顧客のニーズに応えてきたわけです。

デジタル化前の仲間まわしはどのように取り組まれていたのでしょうか?

國廣:もう本当にアナログです。コロナより少し前までは、設計ツールから出図された図面に補足を手書きして、FAX送信が当たり前でした。加えて、電話で「何個作れますか?納期はいつです。」みたいなことをやってましたね。

多少デジタル化が進んで、たとえば「図面をPDFで送ります」といっても、「いやいや、FAXで送ってくれよ」っていう職人さんたちが結構いるんです。

この状況は大田区の町工場だけに限らず、やっぱりモノづくりをしている中小製造業者では、まだまだFAXや電話でやり取りしているところが多いと思います。そもそもパソコンがない工場も多いので、アナログにやらざるをえなかったという部分もありますね。

業務効率と営業面の課題がデジタル化の背景に

デジタル化する前に抱えていた課題について教えてください。

國廣:これまで仲間まわしで見積もりや相談をするにしても、たとえば4社が関わるようなプロジェクトの場合、プロジェクトをメインで仕切る工場の担当者が、1社1社それぞれに顔を出して打ち合わせしないといけませんでした。そもそも大田区の町工場の多くは5人以下の小さな企業で、社長も手を動かして実際のモノづくりに関わる職人です。人手が潤沢ではないなかで、打ち合わせに足を運ぶのは大きな負担になっていたのは間違いありません。

あと大きなところでいうと、お客様との契約には図面の保管義務があって、どんどん図面が増えていってしまう部分も問題でした。たとえば十年後に設備メンテナンスのために図面が必要になった際、関わった町工場のどこにどの図面があるのかを探すだけで1日作業になります。こういった小さなことが積み重なり、業務の負荷が高まっていたわけです。

他にも従来の仲間まわしは営業面まではカバーできていなくて、どうしても待ちの姿勢になっていたところも課題として強く感じていましたね。

営業面をカバーできないというのは、やはり人手不足から生じる課題だったのですか?

國廣:はい。先ほどもお伝えしたように、大田区の町工場は5人以下の会社も多いので、正直営業活動までは手が回りません。なので積極的に案件を取りに行くということはできていませんでした。

そうはいっても既存のお客様だけで食べていけるかというとなかなか難しいのも現実で。自分たちなりに「どうやったら集客できるだろう?」と考えながら、加工技術を売りにしたメルマガを各社で発信する取り組みなどをしていました。

しかしこうした取り組みもいわば一方通行で、運が良ければヒットするくらいですし、営業の仕組みとしてしっかり機能していたかというと、正直そこまでではなかったと思います。

大田区の実証から始まった仲間まわしのデジタル化プロジェクト

仲間まわしのデジタル化プロジェクトはどのように始まったのでしょうか?

國廣:実は町工場からの発信ではなく、大田区の実証実験から始まりました。2016年から2017年にかけて、大田区が今のアナログの仲間まわしを、ITを活用してより円滑にするための実証実験をしていたんです。そのなかで後にI-OTAの立ち上げメンバーとなる、私と他2名でヒアリングを受け、「アナログの町工場には、どんなITツールが必要なのか、どういうIT化の方向性であれば浸透するのか」といった議論を重ねました。

その議論のなかで、改めてツール導入やデジタル化だけが、我々が生き残る道なのかを考えたときに「それだけじゃないよね」となりまして。単に町工場間のコミュニケーションをデジタル化するだけではなく、お客様との接点にもなりえて、提案型のモノづくりやワンストップサービスを幅広く提供できる形を模索したんです。

そこで2018年にコンソーシアム(共同事業体)としてI-OTA合同会社を立ち上げ、自分たちに合った仲間まわしのデジタル化を実現すべく、ITツールの開発に乗り出しました。

そこで開発されたのが「プラッとものづくり」なのでしょうか?

國廣:そうですね。はじめ大田区との打ち合わせのなかでは、さまざまな方向性がありまして、たとえば見積もりの電子化などが出ていました。しかし我々の意向としては、ワンストップサービスへの対応を軸にしていた部分もあったので、その部分に特化しつつもシンプルなシステムがいいのではと考えまして。そのタイミングでテクノアさんと出会いました。

モノづくりの技術が集約されている大田区に興味を持ってくれたテクノアさんが、私たちの要望や意向をくみ取って形にしてくれたのが、「プラッとものづくり」です。

プラッとものづくりには、登録した町工場同士でのコミュニケーションは勿論、複数の町工場でグループを組んで、共同しながら案件を取りに行くことができる機能があります。お客様側も図面のない段階、つまりアイデア段階での相談ができる仕組みになっているので、オンラインを通じたワンストップ型の案件獲得にも繋げられていますね。

プラッとものづくりと従来のビジネスモデルの違いとは?

「プラッとものづくり」の開発において重視されたポイントはありますか?

佐々木:私どもは中小製造業者様向けに生産管理ソフトなどを提供させていただく過程で、お客様の工場に入り込んで、ソフトの使い方をお教えするインストラクター業も行っています。そのため、モノづくり自体の経験こそありませんが、製造業における事務作業で発生するタスクやプロセスの部分は、ある程度把握していました。

そういった経験をベースにしつつも、実際に國廣社長や現場の皆様のお声を一つ一つ拾いながら、「製造業ならではの使いやすさとは何か」という点を考えたんです。

たとえばユーザーインターフェース(操作画面など)や、実装する項目は、よくあるマッチングプラットフォームではなく、“モノづくりに特化”した必要項目をより意識して開発しました。

國廣:私たちからは、仲間まわしの効率化を実現しつつ、ワンストップでサービスを取るという点を軸にしていたので、町工場だけでなく、発注者側のインターフェース・機能もシンプルに活用できるようにしてほしいとお伝えしていましたね。発注者側の操作性が悪ければ、案件が入ってくる前にそもそも離脱してしまうので。

その他、プラっとものづくりによる仲間まわしのデジタル化を実現するうえで、意識したポイントはあるのでしょうか?

佐々木:仲間まわしをデジタル上で再現するうえで、グループを作ることでどう差別化できるのかを伝える点には苦心しました。たとえば、お客様から相談が来て、代表となる企業が受注を取って、協力会社に振るだけだと普通の製造業におけるビジネスモデルと何ら変わりません。

そこで仲間まわしのグループを作る意義について、I-OTA様と徹底的に議論させていただいて、やっぱり営業力や技術力も一緒になって高めていくというのが重要だという結論に至りました。

そのため、プラッとものづくりにおけるグループでは、案件ごとにリーダーとなる企業、システム上ではハブ企業と呼んでいるのですが、このハブ企業が変わるようにしています。

こうすることで案件内容に応じて、各工場の強みを最大限生かしながら、参画企業すべてがハブ企業としてお客様とのやり取りや上流工程を経験するチャンスが得られ、参画企業の成長にも寄与できるというわけです。

「プラッとものづくり」は、仲間とお客様と繋がる架け橋

実際にプラッとものづくりによって仲間まわしのデジタル化が実現されて、どのような効果や成果がありましたか?

國廣:プラッとものづくりによって、大田区の町工場同士による仲間まわしの規模が一気に広がりました。これまでは近隣の数社程度での仲間まわしが標準的でしたが、プラッとものづくりに登録することで、一気に100社近い協力会社が得られるわけです。

アナログに100社と仲間まわしの連携をするのは現実的ではありません。しかしデジタル化によって、コミュニケーションが取りやすくなったり、情報をデータでやり取りできるようになったりしたことで、これが可能になったというのは非常に大きな成果です。

あとは営業面での効果も大きいですね。プラッとものづくりが、いわば大田区の町工場全体の営業窓口として機能するわけですから。各社が単独で営業活動に取り組めなくても、自分たちに適した案件が入れば、プラッとものづくりを通じてその案件を取りに行くことができるんです。

その他の成果や効果としてはどのようなものがありますか?

國廣:単独で事業を営んでいては確実に出会えなかったお客様との接点が得られたというのも、町工場にとっては大きな収穫だと思います。同じグループに参加している仲間企業が持つお客様とのコネクションを、自社にも繋げられる機会が得られるわけです。こうして築かれた仲間企業との人脈、お客様との人脈は、事業を存続していく上での大きな財産となります。

あともう一つ大きな成果としては、これまで無償で提供していた技術相談などを有償化できたことも挙げられますね。これまでは町工場一社での対応だったので情報の付加価値も限られていましたが、プラッとものづくりでは、案件に対して多くの企業が知恵を出し合って提案をします。そのため相談の段階から付加価値の高い情報を提供できており、有償化してもお客様には納得して受け入れてもらえています。

単なるDXではなく、町工場の「生き残る道」となる取組に

プラッとものづくりを利用した仲間まわしのデジタル化における成功事例を教えてください。

國廣:直近でいえば、スタートアップ企業のSJOYさんの相談から装置開発に携わったプロジェクトです。その装置は洋服専用の自動圧縮機だったのですが、金属の切削加工専門の町工場が中心となって、7〜8社の企業を巻き込みプロジェクトを進めました。

何も絵がないところから要件定義や仕様決めを2社の町工場が対応し、設計書に落とす過程も連携企業が対応しました。SJOYさんへのヒアリングをしつつ、実際に具現化(設計)するにあたってのアドバイスなども行い、最終的に予算に応じた最適な形まで持っていくことができまして。これまで加工しかしてこなかった町工場が、ゼロからのモノづくりに携われて、試作品の完成まで手掛けられたのは大きな成果です。

実際に対応した町工場の人からも「自信がついた」という声をもらい、こういった経験を積めることは町工場の存続にとって非常に重要ですし、まさに仲間まわしのデジタル化を始めた目的に適っている事例ではないかと思いますね。

今後の課題は参画企業の増加と対応できるニーズの拡大

プラッとものづくりによる仲間まわしには、現状どれくらいの企業が参画しておられるのでしょうか?

國廣:現状85社が登録しています。ただプラッとものづくりには参加していないものの、何かあれば協力するといってくれている企業を合わせると、大体100社くらいになっています。

登録企業は、大田区周辺の企業が大半を占めてはいますが、連携している企業の輪としては、北海道から九州まで全国に広がっています。たとえば小ロット多品種の製造・加工であれば大田区の町工場でもコストを抑えて対応できますが、量産になってくると地方で対応する方がコストメリットがあるので、そういった兼ね合いで連携するようになりました。

地方の企業さんは、地域柄もあって工場の規模が大きく、手がける範囲も広範囲です。そのためシンプルな加工だけを行う企業より、ワンストップサービス提供のためのリソースを持っている可能性も高いんです。大田区の町工場は、作業場のスペースの制約もあるため、大きな設備を何台も入れるといったことはできませんが、地方はこれができる。

そういった背景もあり、仲間づくりのリソースを増やすために大田区以外の企業の参加を募っている状況ですね。

参画する企業を増やしていくことが今後の課題ということですね?

國廣:そうですね。これからも顧客ニーズの多様化、高度化は、さらに進むでしょう。

我々も「仲間」が増えたことで、デジタル化前と比べて確実に対応できるニーズは増えています。ただ、それでも「アイデアを形にしていく」というニーズに幅広く対応するには、今のリソースでは全然足りていないという実感もあるんです。

そこで、私としてはハブ企業を担える仲間をもっと集めていくことが重要だと考えています。

参画企業を増やしていくことが今の喫緊の課題ですし、仲間まわしにおけるI-OTAの大きな役割の一つと考えています。参画企業が増えることで対応できるニーズが拡大し、お客様が増えて、より多くの町工場の稼ぐ力が高まっていくといった流れを生み出したいですね。

参画企業を増やすために具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?

國廣:今回のようなメディアへの露出もありますが、展示会などにも取り組んでいますね。たとえばテクノアさんが出展される展示会に同席させていただいて、I-OTAの仲間まわしの取り組みについて来場者にお伝えしています。

こうした取り組みはお客様を掴むためという側面もありますが、それ以上に協業できる企業を募るという面を重視して、地道に取り組んでいます。実際に、展示会でのアピールを通じて、当初の50社から現在の85社(2024年11月時点)まで登録社数を拡大することができました。

ただ参画する企業側にとってのメリット、つまり案件や成長の機会がある状況を作ることもI-OTAの大きな役割だと思っています。参加しても売り上げや成長に繋がるなどのメリットがなければ、結局離れていってしまうので。だからこそ案件獲得にも力を入れ、なおかつよい事例などがあれば積極的にPRし、加工屋がソリューションプロバイダーにまで成長できるみたいなストーリーを感じてもらえるように努力しています。

中小企業のデジタル化にとってITリテラシーがカギに

仲間まわしに限らず、中小製造業者がデジタル化を進めるうえでのポイントや注意点はあるのでしょうか?

國廣:今回はテクノアさんが親身になって寄り添いながら開発や導入などを進めてくれたので、障壁やつまづきは感じませんでしたが、私たち自身にもう少しITリテラシーがあれば、もっとスムーズだったんじゃないかと思いますね。

たとえば、テクノアさんと打ち合せするなかで、ITリテラシーがあれば他のツールなどを引き合いに出して参考にしてもらったり、使い手側の具体的なアイデアを出したりできたと思うんです。ですが結局作ってもらったものでしか判断できなかったので、テクノアさんには苦労をかけたんじゃないかと。

製造業に限った話ではないですが、中小企業がデジタル化に取り組むなら、ある程度社内のITリテラシーを高めたうえで、自社の要望を精度高く伝えられる状態にしておくことは重要だと思いますね。

佐々木:私は現在、テクノアに所属しながら、I-OTA事務局の業務にも携わっているのですが、その目的がまさに國廣社長が仰ったところなんです。製造業の皆さんはITの専門家ではないので、デジタル化できる業務に気づくきっかけがないんですよね。

だからこそ私が中に入り込んで、I-OTA様がどのように業務をされているのかを観察しながら、デジタル化した方がいい業務やプロセスを見つけては、仕様にするということをやらせていただいています。

そういう意味では、専門的な知識を持った人間に外部からアドバイザーとして来てもらい、業務のデジタル化の見極めを共に考えるのも一つではないかと思っています。

メイドインジャパンで世界と戦えるようにすることが目標

仲間まわしデジタル化において、今後どのような展望をお持ちでしょうか?

國廣:I-OTAと同じような取り組みをしようと思っているグループの参加を募っています。 世の中にはモノづくりを対象としたマッチングサイトは数多くありますが、それぞれ個別に登録しているので、発注者側としてどの製造業者が自社のニーズに応えられるのかがわかりにくく、選ぶことの負荷自体がとても高いんです。

一方I-OTAはそこを取りまとめて、お客様に最適なソリューションを提供できる町工場を繋げる役割を担っていて。そういった役割を持ったグループが他の地域にも増えれば、モノづくりをしたいお客様の負荷はものすごく減ります。

さらにそういったグループ同士が連携することで、より幅広いニーズにも対応できるようになりますし、なにより日本における発注の在り方、構造自体を変えることができると思っています。

日本全国に同様の活動が広がれば、日本全体の技術力も高まりそうですね。

國廣:そうですね。中小製造業者が生き残るには、技術力を高めること、そしてお客様の話から根本的なニーズを聞き出したり、そこから形にしたりできるコミュニケーション能力を培わなければなりません。

I-OTAのようなグループが広がれば、これまで加工しかしてこなかった町工場が、幅広い開発案件に携われる機会も増えて、日本の製造業の技術力やコミュニケーション力は確実に底上げされると信じています。

私たちはしっかりと仲間まわしやプラッとものづくりの仲間を募りながら、各地で連携して、どんどんモノづくりに寄与することで「メイドインジャパンの復活」に繋げたいと考えていて。日本全体で連携して、モノづくりで世界と戦えるようにすること。ここを本気で実現するために、これからも仲間まわしの輪を広げていきたいと考えています。

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