採用から育成まで「全社員」がコミット 100人超の即戦力化実現、「全員参加型」の人材戦略

取材日:2023/03/07

AIなどのテクノロジーを活用した複数のプロダクトを展開する株式会社FLUX。2018年に創業したスタートアップながら、わずか5年あまりで従業員数が160人ほどの組織に成長しました。その秘訣は全社員が関わる意識を持った人材採用や育成、目標管理の仕組みにありました。急拡大を実現できた背景と成長戦略について詳しくお話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 鷲田 諒さん

    鷲田 諒さん

    株式会社FLUX

    社長室 人事部/部長

この事例のポイント

  1. 2年間で120人増の実現に貢献したリファラル採用
  2. 早期離職と入社後のギャップを防ぐオンボーディング

「会社の成長には不可欠」、リファラル採用の意義浸透

正社員数を2年間で100人以上増やしたと聞きました。

鷲田:私が入社した2021年2月、正社員数は20人ほどでした。それから2年ほど経ち、現在正社員数は140人を超えているため、正社員ベースだと120人増えたことになります。入社直後に、当社はシリーズAで10億円の資金調達をさせていただきましたが、これを契機に採用は一気にアクセルを踏むフェーズに入りました。

当社はアドテク事業からスタートしたのですが、事業の多角化を検討し始めたことも、採用が必要との判断につながった一つの理由でした。資金調達のタイミングを皮切りに事業を多角的に展開していったため、そういった背景も大きかったと感じています。

新卒採用ではなく、中途採用が中心でしたか?

鷲田:はい。一部のインターン生を除いて、ほぼ全員が中途採用です。

また、入社者は、採用フェーズにおいてグラデーションがあるのが特徴的です。採用に注力し始めた最初の1年間では、比較的多くアソシエイト層を採用し、次の1年では、中間管理職やマネージャー層の割合が大きくなっていきました。

2年間で採用した120人のうち半分がビジネスサイドのメンバーで、残りの3割がエンジニアやデザイナー、2割がコーポレートメンバーらといった分布になっています。

どのような施策がポイントとなり、これだけの人数を短期間で採用できたのでしょうか?

鷲田:優先度をつけて、重要度の高い施策からどんどんと始めていきました。エージェント様からご紹介いただいたり、媒体を活用して自分たちでスカウトを打つ、いわゆるダイレクトリクルーティングにも力を入れてきました。ただ、強いてポイントになった施策をあげるのであれば、リファラル採用が鍵になったと考えています。

リファラル採用は社員が知人や友人を紹介する採用手法ですね。具体的には、どのようにおこなわれているのでしょうか。

鷲田:基本的に社員であれば誰でも、部署や役職に関わらず推薦することができます。また、候補となる方にアプローチする際の会食代を補助するといった制度も整えました。

採用は人事だけではできません。全社が一丸となり、共に会社を創っていく意識がないと、若いフェーズにおいて組織が急成長することは難しいです。実際に、FLUXでは直近2年間の内定承諾割合において、3割以上をリファラル採用が占めており、正に全社で組織づくりをしてこれたと感じています。

リファラルの基準は「一緒に働きたいかどうか」

リファラル採用に注力しつつも、苦戦する企業は少なくありません。御社の「3人に1人はリファラル採用」を実現したポイントはどこにあると考えていますか?

鷲田:最も大切なポイントは、ポジションや役職に限らず、全社員における「採用」の重要度が高いということに関する認識を全社で揃えたことです。その上で、経営メンバーや事業部長には積極的にアクションしていただきつつ、メンバーを巻き込むようなアクションも実施していただきました。

リファラル採用をお願いした際に、失敗しがちな典型的なパターンは、転職しそうな知人・友人を探し始めてしまうことです。考えていただければ共感いただけるかと思いますが、基本的に転職活動をしている知人・友人が周りに何人も同時にいるケースなんてまずありませんよね。

そこで私は「転職活動をしている人を探す必要は全くありません。自分が一緒に働きたいかどうかに重きをおいて、リストアップやカジュアル面談のお誘いをしてください」とお願いしています。人事としては、その方のスキルセットももちろんですが、FLUXの社員のみなさんが一緒に働きたいと思っている方かどうかが最も重要だと考えています。これは当社の採用基準において、Valueフィットを最重要視していることも大きく関係しています。

また、紹介した友人が選考に落ちたら気まずいといった心理的なハードルもあります。しかし、リファラル経由だからといって、採用基準を甘くすることはありません。判断するのは人事やリクルーターの役割です。そのため、社員にはあくまでFLUXと候補者の縁を繋いでもらうことまでを役割とし、不採用となった場合には、率直にアンマッチだった点も展開することで選考を通して、候補者の皆さんにとって良い体験をつくることを心がけています。

多くの社員が「伴走」するオンボーディング、離職抑制にも貢献

入社後は、会社の文化や価値観、経営方針を学び業務に生かしていくための取り組みとしてオンボーディングが重要になると思います。どのように設計や運用を行っていますか。

鷲田:当社のオンボーディングは入社前から、入社3カ月後までを基本的なスコープとしておこなわれます。

入社日までは労務手続きや法務関係、システム案内といった所定の案内にとどめ、なるべく入社前の負担が大きくはならないように配慮しています。一方、入社後は、人事部主導で丸一日ほどの入社式を皮切りに、配属先の部署にて、目的を明確にしたうえで、新入社員と担当するトレーナーとの間で齟齬が生じないよう注意しながら、オンボーディングを進めていきます。

また、新入社員の早期自走を目指すための「チェックイン」という制度もあります。新メンバーが日々どんな業務をどのような順番でおこなったかを振り返り、今やるべきことの順位付けを習慣化してもらえるよう、トレーナーがサポートする取り組みです。

さらに、組織の理解を深めることを目的とし、行動指針であるValueについて、具体的にどのような行動や考え方が当てはまるのか、当てはまらないのかを、ケーススタディで学ぶ勉強会もオンボーディングに取り入れています。

オンボーディングをスムーズに進めるコツはありますか。

鷲田:会社全体としてオンボーディングの重要性を非常に強く認識していることが重要だと思っています。

人事として、採用することはゴールではありません。あくまで、人事のゴールは採用したメンバーが活躍し、事業成長に貢献し、さらには一人ひとりが爆速で成長していくことです。そういった想いからオンボーディングを多くの社員とゼロから作り上げてきました。

コーポレート部門だけではなく事業部も巻き込み、少しずつアップデートしながら作り上げてきたことが、オンボーディングを大切にする雰囲気づくりにつながっているかもしれません。

オンボーディングがうまく機能していると実感することはありますか。

鷲田:正直に言えば、分かりません。ただ、実際に入社してくださったほとんどのメンバーが早期退職せず、事業にコミットしていただけていることを考えれば、機能している側面はあると感じています。

一般的に早期離職に至る最大の理由は、採用時と入社後のギャップが大きいと考えているので、オンボーディングをはじめとした入社後体験が、入社前のイメージを大きく下回れば離職につながりますし、逆に上回れば、ロイヤリティが向上します。

離職が少ないのは、新しく入社するメンバーの期待値を、しっかり越えることができているからという仮説を持っており、その調整という観点でもオンボーディングが大きな役割を果たしていると感じています。当社のオンボーディングは決まったプログラムを提供しているのではなく、一人ひとりに向けて内容を調整していることもギャップの生じにくさにつながっていると思います。

これだけオンボーディングに力を入れているわけですから、逆に採用した人材の成果や会社への貢献度がシビアに問われますね。

鷲田:社員を採用することがゴールではないので、採用した人が活躍しないと本質的には意味がありません。

オンボーディングは新しい社員やトレーナーをはじめ、メンターにあたる社員や上長ら、多くの社員が時間を割いてプログラムを作っています。そこまで注力しても結果を出してもらえなかったら組織として失敗です。

採用やオンボーディングといった要素が事業成長という結果に繋がるかどうかが大切です。だからこそ、うまくバリューを出していただけない場合には、採用やオンボーディングのどこに問題があったのかを徹底的にフィードバックし合える環境をつくっています。

FLUXはテレワークと出社を組み合わせたハイブリッド勤務ですね。テレワークで直接会わない中でオンボーディングに支障ありませんか。

鷲田:できるだけ支障が出ないように、各メンバーに合わせたオンボーディングのプログラムに調整しています。エンジニアとデザイナーは完全テレワークを認めています。一方、他のポジションは部署によって異なりますが、テレワークに最低週2日の出社を組み合わせるハイブリッド勤務を選択している人がほとんどですね。

ただ、テレワークなのに週5日出社したから何か罰則を受けるわけではないですし、部署やその人の事情でハイブリッドから完全テレワークに切り替えることもあり得ます。オンボーディングも同様の考え方で、最もパフォーマンスを発揮できる形にしてもらっています。

例えば最初の1カ月はコミュニケーションを深めやすいように、週2日ではなく希望があれば週4日の出社に調整するなど、柔軟に対応するようにしています。

働きがいを左右する、OKRと4つのカルチャー

新メンバーがオンボーディングによって自走できるようになったら、本人と組織の成長を促す目標管理が必要となります。FLUXはOKR(Objectives and Key Results)を導入していますね。

鷲田:当社はクォーター制の概念を採用していますので、3カ月ごとに各部署がOKRを作成します。部長は作成責任を担うと同時に、部長同士のミーティングで他部署のOKRの内容が適当かを議論し、そこで出た意見やアイデアを吸い上げ、次の3カ月に向けたOKRに反映させます。

OKRによる目標管理はFLUXに合っていますか。

鷲田:合っていると思います。OKRが事業推進の軸になっていると言えるからです。

OKRは、3カ月という短いスパンで目標設定と仮説検証を繰り返します。半年や1年という長い時間軸を設定する目標管理方法に比べ、目標設定から振り返りや改善までの回転が早いのが特徴です。

また、OKRで立てる目標は、難易度の高さにも気をつけ、達成できる目標ではなく、手を伸ばせば届きそうで届かないレベル感の少しストレッチした目標を設定しています。振り返りと改善サイクルの速さ、そして、目標設定の仕方が組織のパフォーマンス向上と事業の急成長を支えていると考えています。

スピード感を持ってOKRを回し、新メンバーが自走できる仕組みに全員がコミットするFLUXは、社員の成長を促しやすい環境にあるかと思います。これは社員の働きがいにもつながっているのではないでしょうか。

鷲田:そうであれば、非常に良い状態ということになりますね。FLUXには、「Growth Driven」、「Professionalism」、「Flexibility」、「Learning」と呼ばれる4つのカルチャーがあります。

カルチャーの定義を私は、FLUX社員の共通項と説明しています。どこの会社でも「この会社っぽい人」がいると思いますが、当社の場合はこの4要素を持つ人が「FLUXっぽい人」になるということになります。

その中でも代表的なものを強いてあげるとすれば、「Growth Driven」です。FLUXは圧倒的に成長したい意欲のある人にはやりがいのある会社です。逆に、働くうえでの目的の一つとして、ここに重きを置かない人には、正直カルチャーが合わないと感じられてしまうかもしれません。それ自体は良い悪いということではなく、実際、当社は成長意欲の高い人が多く、会社と人の相性のようなものだと思います。

「Professionalism」も同様で、オーナーシップを持ってコミットできる人にはやりがいのある会社となり、一方でファミリー感や楽しく働くことに重きを置いている方からすると、FLUXとの相性が良くない可能性が高いということになります。

これらのカルチャーに共感いただける人に対しては、FLUXは間違いなくやりがいのある会社だと言い切れます。

成長という結果を出すための労働環境や働きやすさを担保するために意識されていることはありますか。

鷲田:人事としては、「ヒト」という大切な経営資源を最大限活用して、事業を伸ばすことを大切にしています。

「働きやすい会社を作りたいです」と口にしたことは一度もありません。それはどういうことかといえば、例えば福利厚生が充実して休みもたくさん取れて、給料が高かったとしてもFLUXの事業が全く伸びず一人ひとりにとっての成長機会がなければ、当社に社員は残らないと思うからです。結果的に、働きやすい会社をつくっていけたらとは考えていますが、それはあくまで目的ではなく、一つの手段に近いと思っています。

もちろん働きやすさを無視しているわけではありません。大手企業から入社した人の中には、スタートアップに対して、休日もなく深夜もずっとPCに通知が来るようなブラックな世界観を想像していた人も多いようです。ただ当社も、当然ながら労働基準法に基づく労使協定を結んでいますし、PCのログを記録したり月間の労働時間が一定を超えると労務との面談が組まれるなど、会社として法令遵守と社員のケアを徹底しています。

大手に比べればまだまだな部分もありますが、社員からは「いい意味でスタートアップのイメージと違った」と言われることも多く、毎月実施している社員アンケートの中では「柔軟な働き方ができる」の項目で、高い数値を維持しています。結果として働きやすいと思ってもらえる人が増えてきている感覚はあります。

「FLUX出身なら間違いない」が採用・育成の究極

カルチャーをベースにして、これからFLUXはどういう会社になっていくのでしょう。

鷲田:CEOの永井もよく言っていますが、優秀な人材がさらに集まり、顧客の本質的な課題にアプローチし続けられる会社でありたいですね。最終的には社外へどんどんとFLUXマフィアのような感じで、多く輩出できる組織になれたら理想的です。

もちろん会社として事業をおこなっているので、大きな実績を出していくことは重要なのですが、多角的な事業展開を進める中では、必然的に、さまざまな業務に優れた能力を持つ社員が育っていくはずです。その人たちが他社や他業種へ移ったときに「FLUX出身なら優秀だよね」と言ってもらえる会社になれるよう、中長期的に組織づくりを進めたいと思っています。

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