DR(ディザスタリカバリ)とは?意味やBCPとの関係・事例について解説
DR(ディザスタリカバリ)とは、災害などで被害を受けたシステムを復旧することやそれらを予防するための体制であり、BCPの一環として様々な企業が取り組んでいる対策の1つです。本記事では、そんなDR(ディザスタリカバリ)について詳しく解説していきます。
目次
DR(ディザスタリカバリ)とは?
まずはDR(ディザスタリカバリ)の意味と必要性について解説します。
DR(ディザスタリカバリ)の意味
DRとは、Disaster Recovery(ディザスタリカバリ)の略語であり、災害復旧を意味する言葉です。具体的には何らかの災害によってシステムが予期せぬダメージを受けた際、迅速に復旧するための仕組みや体制を指します。
災害の対象に関しては、地震や津波などの自然災害に加えて、大規模停電やサイバー攻撃のほか、火災などの事故や事件も含まれます。
DR(ディザスタリカバリ)の必要性
DR(ディザスタリカバリ)が求められる背景には、ビジネスのグローバル化があります。インターネットの普及によって、オンラインショップやクラウドサービスなどが台頭したことで、ビジネスに国境の制限はなくなりました。
一方で、ビジネスがインターネット上で展開されるということは、災害やサイバー攻撃、サーバートラブルなどによるシステムダウンのリスクを常に抱えることになります。
DR(ディザスタリカバリ)対策を怠り、災害や事故が発生する度にシステムダウンを起こしていると、企業としての信頼性を疑われてしまうでしょう。特に日本は災害大国と呼ばれるほど、自然災害の多い国です。他国と比べ、災害の発生頻度が高いからこそ、事前の対策は欠かせません。
従って、企業が社会的責任を果たし、ビジネスを継続的に展開するためにも、DR(ディザスタリカバリ)対策は極めて重要といえます。
DR(ディザスタリカバリ)とBCPの関係
BCPとは、Business Continuity Planの略称で、事業継続計画と訳される言葉です。具体的には、緊急事態発生時に企業の損失を最小化し、事業の継続・復旧を図るため、事前に立てる計画を指します。
この計画には非常時はもちろん、平常時に講じておくべき対策も含まれているのが特徴です。そして、BCPには潜在的な脅威に対する予防策も含まれており、DR(ディザスタリカバリ)はその1項目になります。
近年は事業の基幹をシステムが担う傾向にあるため、システムに非常事態が発生した際、いかに迅速な対応ができるかは、サービスレベルを担保するうえでも重要といえるでしょう。
DR(ディザスタリカバリ)で重要な2つの指標
DR(ディザスタリカバリ)では、システム復旧においてRPO(目標復旧地点)とRTO(目標復旧時間)の2種類の指標があります。
RPO(目標復旧地点)
RPO(目標復旧地点)は、Recovery Point Objectiveの略称であり、システムをどこまで復旧するのかという目標地点を表す指標です。災害発生時よりも前を対象に、どの時点までのデータを保障・復旧するかを判断します。
具体的にはRPOが1日の場合、データ破損が発生する1日前までのデータを復旧します。RPOとRTOの関係においては、データの保管が重視される際は、RPOの目標値のほうが優先される傾向にあります。
RTO(目標復旧時間)
RTO(目標復旧時間)は、Recovery Time Objectiveの略称であり、システムをいつまでに復旧するかという目標時間を表す指標です。災害発生後を対象に、どのくらいの時間内でシステムを復旧させるかを判断します。
具体的にはRTOが5時間の場合、5時間以内のシステム復旧が求められます。RPOとRTOの関係においては、システム稼働が重視される際は、RTOの目標値のほうが優先される傾向にあります。
DR(ディザスタリカバリ)を構築する方法
DR(ディザスタリカバリ)におけるデータのバックアップ手段は、クラウドサービスとデータセンターの2種類あります。
クラウドサービスを利用する
1つ目はクラウドサービスを利用し、パブリッククラウドにデータをバックアップする方法です。クラウドサービスはインターネット環境があれば利用でき、必要に応じてリソースを追加できるなど、導入面とコスト面に優れています。
一方で、適切な管理には物理サーバと仮想サーバの両方の場所を把握する必要があることに加え、セキュリティ面はベンダーに依存する形になってしまうなど、管理手法やセキュリティ基準について検討する必要があります。
特に有事の際は、クラウドベンダー側に問い合わせが殺到するため、パブリッククラウドでのデータ保管にはデメリットもあることを念頭に入れておきましょう。
データセンターを利用する
2つ目はデータセンターを利用し、オフサイトの施設にデータをバックアップする方法です。データセンターは災害対策を施している施設が多く、レプリケーション(複製)によってバックアップシステムにデータをリアルタイムで複製できるなど、RPOとRTOのバランスを取りやすいメリットがあります。
一方で、データセンターは待機用のシステムが存在することになるため、運用コストの肥大化を招くリスクがあります。事業継続を目的にしているとはいえ、有事以外での利用機会がないシステムに対して、多大な費用を支払うのは難しい場合もあるでしょう。
そのため、事業活動の継続とデータの保管を考慮した際、システム単位でどのようなバックアップ手法を取るべきか検討することが重要です。
DR(ディザスタリカバリ)に最適なシステムの選び方
ここではDR(ディザスタリカバリ)においてシステムを選定する際、重要となる5つのポイントについて解説します。
- 導入・運用コスト
- 導入メリット
- DRサイトの構築の可否
- システムの機能性
- トライアル期間の有無
導入・運用コスト
DR(ディザスタリカバリ)対策は非常時の保険的な役割のため、それ自体がビジネスとして利益を生み出すものではありません。
加えて、本拠点の予備システムとして常時バックアップを行うホットスタンバイや、インフラ環境や設備は用意されているものの、即座に代替として使える状態ではないコールドスタンバイなど、運用方式によってもコストは異なります。
そのため、自社のサービスレベルを担保するうえで、システムに必要な機能を整理して、性能とコストのバランスを取るようにしましょう。
導入メリット
近年はオンプレミスからクラウド環境に完全移行する企業も増えていますが、クラウドサービスがオンプレミスよりも絶対的に優れているとは言い切れません。クラウドサービスにも少なからず以下のような不安要素が存在します。
- 利用費は適切な金額なのか
- 既存システムと連携できるのか
- ネットワークが安定しているのか
- どこまでの拡張性を有しているのか
- 自社のコンプライアンスに支障はないか
特にクラウドサービスでDR(ディザスタリカバリ)対策を実施する場合は、これらの不安要素をどれだけ払拭でき、自社にとってどれだけの導入メリットがあるかを確認することが重要です。
DRサイト構築の可否
DRサイトは、災害時などの非常事態でメインシステムがダウンした際、機能の全て、あるいは一部を代替するための施設・設備を指します。メインシステムと同時に被災しないように、遠隔地に構えるのが特徴です。
災害時もサービスを継続させるためには、遠隔地にある複数のクラスターをひとまとめにするマルチサイトクラスターや、レプリケーションの対応範囲など、自社のシステム環境に応じてどのようにDRサイトを構成するか検討することが重要です。
システムの機能性
どれだけ優れたシステムを導入しても、DR(ディザスタリカバリ)対策として適切に機能しなければ意味がありません。特に非常時は可及的速やかな対応が求められます。
この場合、システム導入で重視すべきポイントは、機能の豊富さよりも使い勝手です。システム稼働やデータ復旧を実行するうえで、利用者のリテラシーに適したシステムであるかどうかは、RTO(目標復旧時間)にも影響を及ぼします。
トライアル期間の有無
システムの使い勝手は、機能の概要や説明動画を見るだけでは分かりません。導入前は良いと感じていたシステムでも、実際に導入してみると連携が難しかったり、特定の機能が扱いにくかったりと、少なからず不満は出てくるでしょう。
この導入後の不満を最小化するには、トライアル期間の活用が有効です。この期間で実際にシステムを操作し、期待と現実のギャップを知ることで、導入すべきシステムの選定が進めやすくなります。
DR(ディザスタリカバリ)の設計・構築事例
ここではDR(ディザスタリカバリ)の設計・構築の実践例として、2社の事例をご紹介します。
キリン株式会社
飲料業界をけん引するキリン株式会社では、東京と大阪にそれぞれデータセンターを構えており、基幹システムなどのデータ同期をリアルタイムで実施しています。
そのうえで同社は、仮想デスクトップシステムのDR(ディザスタリカバリ)対策をどのように進めるかという点に頭を悩ませていました。既存のデータセンターにオンプレミス環境を構築しようにも、コストの肥大化が問題として挙げられていたのです。
そこで同社は打開策として、オンデマンドインスタンス(システムの利用時間単位で課金される仕組み)を採用するAWSのパブリッククラウドを活用し、仮想デスクトップのDR(ディザスタリカバリ)環境を構築しました。これによって同社は、億単位のコスト削減に成功しています。
AWSのメリットは、グローバル展開によるリージョン(データセンター所在地)の選択肢の多さです。リージョンが遠すぎると、ネットワークの遅延によってRTO(目標復旧時間)に支障をきたします。一方でリージョンが近すぎると、災害の影響を同時に受けてしまい意味がありません。その点において、クラウド市場をリードするAWSには確かな優位性があります。
また、AWCの利用にはセキュリティ観点での懸念があったものの、同社は専用のプライベートクラウドの活用と、格納データの選別を行い、セキュリティ問題の懸念を解消しています。
日本グッドイヤー株式会社
世界屈指のタイヤメーカーである日本グッドイヤー株式会社では、BCP対策の一環としてDR(ディザスタリカバリ)サイトの必要性を感じていたものの、既存データセンターの立地やコスト面が要求水準に達しておらず、導入に踏み切れずにいました。
そのうえで同社がDR(ディザスタリカバリ)サイトの構築先として選んだのが、キヤノンITソリューションズ株式会社の沖縄データセンターです。沖縄は立地的に首都圏との同時被災リスクが低いだけでなく、地震や停電のリスクも少ないというメリットがあります。
グローバルで利用しているシンガポールや、国内グループが利用する兵庫のデータセンターも、一時は候補に挙がりました。しかし、DR(ディザスタリカバリ)サイトとしての稼働可否や、設備のセキュリティ、運用体制の水準が決め手となり、最終的には沖縄データセンターが選ばれました。
沖縄でのDR(ディザスタリカバリ)サイトは、専用回線(1Gbpsベストエフォート)で安価に構築できたうえに、保守運用サービスの活用による駆けつけ不要な体制を整えることで、同社はコスト面と運用効率を両立しつつ、より強固なBCP対策を実現しています。
DR(ディザスタリカバリ)の重要性を押さえておこう
本記事では、BCP対策の一環として企業が取り組むDR(ディザスタリカバリ)について解説しました。
グローバル化による越境ビジネスが台頭し、世界各国でのサービス提供が可能になった現代において、事業活動の長期停止やデータの破損は、社会的信用の損失やブランドイメージの失墜につながるリスクがあります。
特に災害大国である日本を拠点に企業活動を行う場合、BCP対策の一環としてDR(ディザスタリカバリ)に取り組むことは、企業が持続的な価値提供を行ううえで重要です。万が一の事態が発生した際、可及的速やかにシステムを復旧し、サービス提供を再開するためにも、この機会にDR(ディザスタリカバリ)の構築を検討しましょう。
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