テレワークでBCP対策!災害時の事業継続に有効な理由と導入方法について

最終更新日時:2022/09/24

BCP対策

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BCP(事業継続計画)の策定は、災害時の対策として企業が取り組むべき重要な施策です。最近ではインターネットをはじめ、各種ITツール・システムの普及によりテレワークを導入する企業が増えています。同時に、テレワークを活用したBCP対策も注目を集めています。そこで本記事では、テレワークで行えるBCP対策が災害時の事業継続に有効な理由と、具体的な導入方法などを解説します。

テレワークとBCPの関係について

総務省の調査によると、2019年から2020年の1年間で、企業におけるテレワークの導入率は大幅に向上し、2020年の時点でテレワークを導入済みの企業は全体の47.5%に達しました(調査対象6,017企業)。

加えて、テレワークを導入した目的として、「非常時における事業継続」を理由にあげた企業が最も多く、約7割にのぼります。この調査からもわかるように、今改めてBCP対策におけるテレワークの有効性が注目を集めています。

[出典:総務省「令和2年通信利用動向調査の結果」]

テレワークとは?

テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用した、場所や時間を選ばない柔軟な働き方のことを指します。テレワークは「テレ(Tele)=離れたところ」と「ワーク(Work)=働く」を合わせた造語で、その勤務形態は様々です。

主な形態としては、「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」があげられます。それぞれの特徴は次の通りです。

<在宅勤務>

自宅を就業場所とした働き方

<モバイルワーク>

移動中の飛行機や新幹線、外出先のカフェやホテルなどを就業場所とした働き方

<サテライトオフィス勤務>

勤務先が指定する遠隔地のオフィスや民間業者が運営するコーワーキングスペースを就業場所とした働き方

その他にも、休暇と仕事(この場合の勤務形態はモバイルワーク型)を兼ねてリゾート地などに滞在しながら働く「ワーケーション」を取り入れる企業も増えつつあります。

テレワークは、能力があるにもかかわらず家庭の事情や居住地を理由に、希望の働き方ができなかった人に対し、就労機会を与えることができるというメリットがあります。

ワークライフバランスを保ちながら、その能力を発揮できる仕事に就く機会が増えることで、企業にとっては優秀な人材に出会えるチャンスが増えるという、win-winな関係を築くことができるのです。

BCPとは?

BCPとは「Business Continuity Plan」の略で、日本語で「事業継続計画」を意味します。

企業が自然災害やサイバー攻撃などの緊急事態に遭遇した際に、被る損害を最小限に抑え、事業継続のために早期復旧を図るための戦略を記した計画です。

BCPを防災対策と捉える傾向もあるようですが、BCP の目的はあくまで「事業継続」にあります。BCPは、社内外双方に向けて、様々なメリットをもたらします。

まず対社内においては、BCPの策定過程において、現時点での経営や体制における課題に対し客観的な評価を下すことができます。脆弱性を洗い出し、改善策を策定し日々講じていくことで、非常時においても事業継続が可能な経営基盤を構築することができるのです。

一方、対社外においては、顧客やステークホルダーに対し、企業がどのようなリスクに直面しても、安定して事業を継続できる強固な経営基盤を、BCPによって示すことができます。

BCPを策定することで、信頼を獲得し、顧客ロイヤルティの向上へとつながり、企業価値向上に貢献するのです。

テレワークによるBCP対策が災害時の事業継続に有効な理由

近年改めて BCP 対策の必要性が叫ばれるようになった背景には、大きく2つの要因が考えられます。一つ目は「気候変動による自然災害のリスク」で、もう一つは「感染症によるリスク」です。

なぜ、テレワークの導入が、自然災害や感染症のリスクに対するBCP対策として効果があると考えられるのか、その理由をみていきましょう。

自然災害発生時の対策として有効である理由

自然災害が発生した際に考えられる最も大きなリスクは、人的資源が大幅に不足するというという点です。災害発生時には、交通機関の停止や外出による被災リスク回避を理由に、多くの場合従業員は自宅待機となります。

しかし、従業員が出社できないことで、生産ラインや通常業務がストップしてしまえば、事業が停止してしまう可能性が高まります。テレワークの導入を実現させるためには、従業員がオフィスに物理的に出勤しなくても、通常通り事業が継続される体制を構築する必要があります。

「従業員の就業場所」と「事業遂行の可否」の因果関係を断つことで、自然災害が発生した場合でも平常時と変わらず、事業を継続することができるのです。

感染症拡大時の対策として有効である理由

新型コロナウイルスの感染拡大を抑える対策として、全国各地で取り入れられた施策が、人流の抑制です。

ウイルスが蔓延する主な過程として、接触感染や飛沫感染、空気感染があり、人流を抑制し、人と人とが接触する機会を減らすことで、感染拡大が抑えられるためです。

この視点からみると、オフィスに出社して働くことには、通勤中やオフィス内外で不特定多数の人との接触は免れないため、感染症が拡大するリスクと同時に、従業員が罹患してしまうリスクがあります。

自宅などの限られた人との接触しかない環境で働くことができれば、このようなリスクは限りなく低減されます。従業員の健康が確保され、就業場所にかかわらず事業を継続できるテレワークは感染症に対するBCP対策としても、大きな効果が期待できるのです。

BCP対策としてテレワークを導入する方法

ここでは、BCP 対策の一環としてのテレワーク導入をスムーズに進めていく方法を、順を追って解説していきます。具体的なフローは次の通りです。

  1. 導入目的を明確にする
  2. 担当者によるチームを編成する
  3. 現状を把握する
  4. 社内のルールを作る
  5. 導入環境を整える
  6. 実際に導入し運用する
  7. 効果を分析し改善を行う
  8. BCP対策として活用する

1.導入目的を明確にする

まずはじめに、なぜテレワークを導入するのかということを明確に定義しなければなりません。

BCP という視点からテレワークの導入を捉えると、従来の「ワークライフバランス」や「働き方の多様化」などのイメージとは異なる側面が見えてきます。

テレワークがもたらす効果は実に多様であるため、企業にとっても導入理由は様々です。そのため、何を目的にテレワークを導入するのかを明確に定めていなければ、肝心の非常持での対処法がうやむやに策定されてしまうことになってしまいます。

例えばテレワークの導入に際して、新たなツールを利用するケースも多いかと思いますが、目的が不明確な場合、望む効果を生み出さない不必要なツールを導入してしまう可能性があります。

この段階では、導入目的の確認と同時に、企業の経営方針やBCP対策としての全体的な方針も明確にしておく必要があります。そのため、ここではテレワークの導入に関する基本方針を含むガイドラインを一度策定しておくとよいでしょう。

2.担当者によるチームを編成する

導入目的と基本方針が明確になったら、次はプロジェクトチームを編成します。 テレワークの導入は、ある特定の部署内だけで完結する施策ではありません。労務管理や人事評価に関係する人事部や、ICT環境の整備に携わる情報システム部、経営企画部など、全社横断型で対応策を練っていく必要があります。

そのため、各部門から担当者を選出し、まずは担当者間で方針や目的を共有し、そこで培われた共通認識をもって、全社へと展開していくという流れで進めていきます。そうすることで、各部門が互いに協力し合いながら、効率よくテレワークの導入を進めていくことができるのです。

3.現状を把握する

次の段階では、最初に定めた基本方針と目的をベースに、現状把握と課題の洗い出しを進めていきます。

テレワークの導入に際し、多くの企業が導入後に課題を感じる、適正な労務管理や人事評価に関わる部分については、念入りに現状把握を進めることが重要です。そして、個人に貸与されているパソコンをはじめ、業務ごとに必要な機器やICTツールの整備状況も確認が必要です。

また、ICT機器の設定状況やネットワークの脆弱性など、情報セキュリティ上のリスクに関わる要因についてもしっかりと現状を調べておきましょう。

4.社内のルールを作る

課題の洗い出しが完了したら、該当する制度や規律、または業務フローなどを見直し社内ルールとして展開する準備に入ります。

まず、就業規則や勤怠管理、安全衛生に関わる制度や規則の見直しからはじめましょう。働き方がテレワークであっても、企業は変わらず、労務関連法令は遵守しなければなりません。

一方で、テレワークによる「隠れ残業」が問題視されているなど、適正な労務管理はテレワーク導入における大きな課題です。社内規則や制度の改訂は、関連法令と整合性があることが大前提であるため、改訂案の段階から細かく労務管理部門と連携し、確認しながら改訂作業を進めることが重要になります。

社内ルールの変更が完了したら、社内での教育や啓発活動を進めていきましょう。そうすることでテレワークの導入に対して、全従業員各々が理解を深め、意欲的に取り組むようになるでしょう。

結果、積極的な意見交換や質問により、ルールの現実性や実効性が高まることが期待できます。

5.導入環境を整える

この段階で最も注力すべきことは、ICT環境の整備です。自宅などのオフィス以外の場所でも、オフィスに出勤しているのと変わらない業務を遂行するためには、ICT環境の整備が不可欠であるためです。

「3. 現状を把握する」で行ったリサーチと課題の洗い出しをもとに、必要なツールの導入やネットワークの設定、社内イントラの見直し・整備などを進めていきます。

特に、社外秘の機密情報や個人情報の扱いに関しては厳密なルール設定を行い、個人の外付HDDやUSBなどにコピーができないよう設定しておくことで、情報漏えいのリスクも低減できます。加えて、業務に使用するドキュメントなどは、閲覧や編集の履歴と作業者の名前とが残るように設定することも必要です。

6.実際に導入し運用する

この段階では、各部門において数名でテレワーク勤務を試験的に実施し、現時点での導入体制に対する評価を行います。試験期間は、3ヵ月以上を目安とし、生産性やコストを測る量的評価と、従業員のモチベーションや顧客からの評価などを測る質的評価の2つの視点で評価します。

評価は、テレワークを実施した本人だけでなく、上司や同僚、所属するチームなど、複数の視点から行い、導入による効果や課題を把握しましょう。

7.効果を分析し改善を行う

次に、試験運用により顕在化した効果や課題から、当初に定めた目的が達成されているか、もしされていないならその理由はなぜなのかを掘り下げて分析していきます。

そして、必要箇所に修正を加え、再び運用するといったPDCAサイクルを回しながら、ブラッシュアップしていきます。この際、テレワークの「成功」と「失敗」を判断する具体的な指標を定めておき、その指標をもとにPDCAを回すことで、導入後の定期的な効果測定が可能となり、テレワークの定着を促すでしょう。

8.BCP対策として活用する

平常時におけるテレワークへの移行がスムーズに完了したら、本格的に稼働を開始し、BCP対策として効果がでているかも確認していきます。

就業規則や労務管理ルールは、非常事態においてもそのまま適応可能なのか、それとも特例を定める必要があるのかなど、BCPの視点から改めて見直しながら、定着を推進していきましょう。

BCP対策としてテレワークを導入する時に気を付けるポイント

テレワークの導入は、BCP対策や働き方改革などの様々な点において、多くのメリットが考えられる施策です。しかし、導入によりマイナス効果が生まれる可能性もゼロではありません。

例えば、セキュリティ対策、適切な労務管理、従業員が就業環境を構築する際の費用負担など、テレワークならではの注意点や課題に対して、企業側が対策を講じる必要があります。

さらに、テレワークを導入すれば、ただちにBCP対策になるというわけではない点も理解しておきましょう。BCPは、有事の際に影響範囲を最小化し、早急に事業活動を再開するための計画です。有効性のあるBCPを策定するためには、事業への影響度が大きい中核事業を特定し、対処するための優先順位を付ける必要があります。

その上で、事業継続または早期の復旧が必須となる中核業務と、テレワークを導入できる業務が一致している必要があります。また業務の一致と同時に、対策を行う業務に対して、テレワークを導入できる社員数が十分に確保できているかも、事前に確認しておきましょう。

テレワークによるBCP対策の導入事例

ここからは、すでにテレワークを導入済みの企業における取り組み事例をみていきましょう。

ドコモ・システムズ株式会社

NTTドコモの基幹システムの開発などを行うドコモ・システムズ(現:エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社、2022年7月1日付けで統合)では、「働き方改革」の取り組みの一環としてテレワークを導入しました。

どのデバイスからもアクセスできる仮想デスクトップやオンライン会議、ビジネスチャットツールを導入し、全体の8割を超える従業員がテレワークを利用する企業風土を醸成しています。

地震や感染症を想定し、BCP対策としても活用しており、これまでに自然災害により交通機関が遮断されたり、感染症が蔓延したりした際にテレワーク勤務を発動しています。

ヤマトシステム開発株式会社

物流大手のヤマトホールディングス傘下のヤマトシステム開発は、従業員の生産性とワークライフバランスの向上、災害時の事業継続の3つを目的とし、テレワークを導入しました。

同社では、安否確認システムを使った訓練を定期的に実施したり、テレワーク月間を設け、いつ何時緊急事態が発生しても迅速に対応できるよう日頃からこまめにBCP対策としてテレワークを活用しています。

日本電気株式会社

大手電機メーカーの日本電気(NEC)では、働き方改革の取り組みの一環としてテレワークをおよそ30年前から導入しています。

東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う「テレワーク・デイズ」への対応も開催の3年前から段階的に社内の整備を進めた上で、本番にのぞみました。

また、全従業員が緊急時の安否確認や情報共有用のスマホアプリを使用しており、災害発生時にはそのアプリで各自テレワーク実施の判断ができる体制が整えられています。

ありがとうファーム株式会社

障がいや難病を抱えた人々の就労を支援する就労継続支援A型事業所の、ありがとうファームでは、利用者たちがアート作品の作成を行う「アート部門」にテレワークを導入しています。

利用者が施設に通うことが前提に運営されており、利用者とケアやサポートをする職員とが物理的に離れて働くことは事実上不可能であるとされる中で、テレワークでも問題なく働ける環境を構築しました。

非常時においては、気分や体調の変化がいつも以上に激しくなる可能性が高いからこそ、在宅で働くことで心身ともに安定・安全に勤務でき、収入も上がるという新たな視点での就業支援スタイルとして確立しています。

TRIPORT株式会社

人事労務や助成金などに関する「お悩み解決サイト」を運営するTRIPORTでは、平常時・非常時関係なく、インターネット環境さえあれば、全従業員がどこでも仕事ができる環境を整備しています。

基本とする働き方がテレワークであるため、災害時も特別なことをしなくとも事業継続に支障がない状態が保たれており、災害発生時のBCP対策はチャットツールによる安否確認程度となっています。

テレワークはBCP対策として有効な取り組み

テレワークは、従業員本人の安全確保はもちろん、交通機関の停止や工場・オフィスの損壊など、どのような事象が起ころうとも、多くの場合問題なく業務を進めることができる働き方です。

ICT技術の進化が著しい昨今においても、非常時に人間の介入は不要という状況にはまだ至っていません。事業の継続には従業員の力が必要になります。

そのため、企業の根幹を支える人的資源の安全を確保できるテレワークは、様々なリスクに対するBCP対策として、高い効果を発揮することが期待されているのです。

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ビズクロ編集部
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