人が集い意欲が生まれる理由はミッションに ベースアップや年金制度の充実で社員に安心感を与える

取材日:2023/03/27

確定給付企業年金制度の1つ、福祉はぐくみ企業年金基金の導入推進業務をおこなう株式会社ベター・プレイス。社員数が倍増する中でも、ミッションへの高い共感度を維持し、事業成長を続ける取り組みについて、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 白石令子さん

    白石令子さん

    株式会社ベター・プレイス

    執行役員 管理/経営企画部 ゼネラルマネージャー

この事例のポイント

  1. ミッションを「自分ごと」とすることで生まれる強固な一体感
  2. 研修や福利厚生の充実による高いワーク・エンゲージメント

社員数倍増による弊害をなくすため取り組みを実施

ここ数年で御社の社員数は約30人から約60人へと倍増し、勢いを感じます。人手不足が叫ばれるなか、安定して人材を確保できている理由を教えてください。

白石:当社のミッションへの共感が背景にあると思います。

当社の創業者である森本(新士氏)は、自身が幼少期にお金に苦労した経験があり、同じような辛い思いをする子どもを少しでも減らしたいという思いから創業に至りました。創業後、お金の不安を少しでも解消し、特に子育て世代のご家庭が安心して暮らせる社会をつくりたいと、確定給付企業年金制度の1つである「福祉はぐくみ企業年金基金(以下、はぐくみ基金)」を、当社を母体として設立し、現在はその導入推進業務を受託しています。

そうした背景を含め、ミッションの「ビジネスを通じて、子育て世代と子どもたちが希望を持てる社会をつくる。」に共感し、サービスの社会貢献性に意義を感じてくださる方が、非常に多いためだと考えています。

社員数の増加による弊害は生じていませんか?

白石:以前は、全社的に社員が一体となって仕事に取り組んでいましたが、社員数が増え、部署内での結束が強まるにしたがって、徐々に部分最適に陥りがちになり、このままでは組織がタコつぼ化してしまうといった兆しはありましたね。

そこで今年1月に、外部の研修機関に依頼し、全体最適視点の浸透とコミュニケーションの活性化を目的に研修を実施しました。研修のテーマは主体性です。役職や部署を超えてランダムに選定したメンバーグループによるワーク形式の研修だったので、普段の業務では話す機会の少ない社員同士の良いコミュニケーションの機会になったと思います。

若手から経験豊富なマネジメント層まで、レイヤーに関係なく、同一のプログラムだったので、マネジメント層からは「研修内容が物足りなかった」といった意見もあり、改善の余地はありますが、就業時間内に会社負担で研修を行うことに対して、「会社が社員を大切にしている」というメッセージを受け取ってくれた社員もいました。

役職や部署をまたいだコミュニケーションが生まれるきっかけになったのですね。

白石:コミュニケーションに関して言うと、以前は経営層と社員の距離が近かったのですが、段々と距離が生まれていると感じる場面もあります。距離を縮めるため、同じく今年から始めた取り組みとして、(代表の)森本と社員の1on1もあります。

効果はいかがですか?

白石:社員からは「日頃抱えていた疑問を質問できた」「要望を伝えられた」と好意的な反応がありましたね。森本も、もともと社員との積極的なコミュニケーションを好むタイプなので(笑)、直接社員から意見が聞ける機会をとても喜んでいます。社員一人につき年2回は1on1を行えるように、今後も続けていく予定です。

2022年からは男性育休取得率100%を実現

御社は「子育て世代と子どもたちが希望を持てる社会」をミッションに掲げていますが、社員の子育てへの支援内容を教えてください。

白石:2022年から、希望すれば誰でも育休を取得できるように体制を整えた結果、女性社員だけではなく男性社員も育休を取得するようになりました。2022年からこれまで、男性社員の育休取得率は100%です。

育休取得率を高めるために、何か施策を行ったのでしょうか?

白石:正直なところ、会社としては特別な取り組みを行ったわけではありません。ありがたいことに、当社のミッションに共感して入社した社員は子育てへの感度が非常に高く、とても協力的であることが、大きな理由になっていると思います。

社員が育休を希望すれば、業務の調整や仕事の分担の見直しを積極的に行う社風が自然と生まれた結果、取りやすい環境が出来上がったのでしょう。

ただ、各部署の様子を見ると、業務の可視化が進んでいる部署ほど産休や育休の準備がスムーズです。ですから、普段から社員一人ひとりが担当業務をマニュアル化したりシステムに都度入力して共有したりするなど、仕事の属人化を防ぐのが大事だと考えています。

明確にミッションを打ち出すことで、同じ価値観を持つ社員が集まっているのですね。

白石:そうですね。ミッションの浸透は、問題解決の際に全員が同じ軸で判断できるというメリットもあります。上司もマネジメントがしやすくなっていますし、ミッションへの共感度を高めるために大きなリソースを割く必要がないので、余計なコストもかかりません(笑)。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を機にテレワークを導入

他に導入している制度を教えてください。

白石:最近、子育て中の社員が一番喜んでくれた制度は、テレワークとフレックスタイム制の導入です。これは新型コロナウイルス感染症の感染拡大をきっかけに開始しました。

当社は事業の特性上、紙ベースの書類が多く、以前は出社が基本でした。

しかし、緊急事態宣言を受け、2020年3月にテレワークを導入して総務部を中心に業務を洗い出し、クラウドでも対応できる業務はすべてクラウド上に移行させました。もともと社員はノートパソコンを使っていたため、当社のシステムに自宅からアクセスできるようにし、Chatworkの導入で会社にいなくても連絡できる体制を構築しました。

取引先とのやりとりは、いかがですか?

白石:当社のお客様は中小企業や福祉業界が中心です。以前は介護施設や保育施設を訪問していましたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、立ち入りができなくなりました。そのため、オンラインでの説明会に変更するなど、ここはある意味、強制的にデジタル化が進みましたね。

介護施設や保育施設はシフト制を採用しているケースが多いため、もともと説明会のために職員に集まってもらうのが難しい業界だったんです。オンラインであれば、説明会の時間帯を複数設けることができるので、むしろ喜んでいただけました。

ただ、オンライン会議・クラウド申請に慣れていらっしゃらないお客様も多かったため、オンライン会議の開始方法の説明や、説明会内で申請の操作手順も説明するなど、丁寧なサポートは必要でした。開始当初は、「はぐくみ基金の説明会で初めてオンライン会議を体験できました!」や「思ったよりきちんとスマホから申請してくれるものですね!」といったお声もいただきました。

かなりスムーズに進んだようですね。

白石:そうですね。それでも、役所へのオンラインでの提出が認められてない分野に関しては、まだ紙の書類を扱う必要があるため、出社しなければならない社員もいます。ですから、部署によってテレワーク率に差が生じるという課題は残っていますね。

とはいえ、当社は子育て中の社員が多いので「保育園にお迎えに行けるようになった」といった好意的な声がたくさん聞かれました。

週に1回オンラインでコミュニケーションランチを開催

フレックスタイム制導入の背景を教えてください。

白石:新型コロナウイルス感染症への感染リスクを低減させるために、時差出勤を始めたのがきっかけです。当時は非常時の対応として、就業規則を整える前に開始したため、上司の裁量に頼った運用になっていました。その後、社員からの制度化への要望が多く、採用力強化にもつながるため、2022年10月から正式に制度化しています。

テレワークやフレックスタイム制で、社員同士のコミュニケーションの機会は減りませんでしたか?

白石:コミュニケーションの希薄化は感じましたね。そこで、部署ごとに行う懇親会の費用を会社が補助する施策を導入するとともに、週に1回、オンラインでコミュニケーションランチを行うようにしました。

コミュニケーションランチは、当初は新入社員の歓迎会を兼ねて行うなど盛り上がっていたのですが、回数を重ねるうちにマンネリ化が進み……。最近では「好きなドラマ」などあえてカジュアルなテーマを決めて、社員の意外な一面が見えるような工夫をしながら開催しています。

お客様の喜びの声が社員のワーク・エンゲージメントを高める

社員の仕事への意欲を引き出すために、力を入れていることはありますか?

白石:実は、当社の社員ははぐくみ基金に魅力を感じている人が多いんです。「自信を持ってお客様にお勧めできるサービスだ」と語る社員も多く、サービスの有用性や社会貢献性に対する確固たる自信が仕事への意欲につながっていると思います。

具体的に、どのような点に魅力を感じているのか、教えてください。

白石:日本の年金制度では、会社役員や従業員は国民年金もしくは厚生年金に加入していますよね。企業によっては、さらに確定給付企業年金や企業型確定拠出年金を設け、従業員の老後の安心につなげています。

しかし、中小企業はコスト面や煩雑な事務手続きの負担から、年金制度や退職金制度を用意できていないところも多くあります。保育や介護などの福祉業界も同様です。そうした中小企業や福祉業界でも導入しやすいのが、はぐくみ基金なのです。

なぜ導入しやすいのでしょうか?

白石:従業員の給与の一部を前払い退職金として設計し、積み立てるため、実質的に事業者側の持ち出しがないことから、導入時のハードルが非常に低い点が挙げられると思います。

また、従業員にとっても、開始や継続への敷居の低さが魅力の1つです。資産形成や投資は、口座開設を面倒だと感じたり、知識不足を理由に行動に移せなかったりする方も多くいらっしゃいます。当サービスの場合、スマホで当社システムにアクセスし掛け金を選ぶだけで、給与から掛け金が引かれるため、口座開設の手間がかかりませんし、運用は基金側が担うため自分で行う必要がなく、元本も保証されます。

企業型確定拠出年金は60歳になるまで受け取れない制度ですが、はぐくみ基金は退職時や休職時にも受給できるため、急にまとまったお金が必要になった場合でも対応できるという点も安心です。

さまざまなメリットがありますね。

白石:さらに、税金や社会保険料の負担軽減にもつながるため、導入した事業者はコスト削減も期待できます。コストが減った分、スタッフの賃上げを実現したり、女性特有のがん検診を会社負担で受けられる制度を設けたりと、さらに従業員に喜んでもらえる制度を創出した事業者もあります。

「はぐくみ基金」導入を、人材確保につなげた企業もあるそうですね。

白石:はい。訪問介護サービスを行っている事業者様の事例で、はぐくみ基金導入後に、複数名のパートさんが正社員になってくれたというお話がありました。

医療・福祉業界の中でも、特に介護業界は、他業界の大企業などと福利厚生面を比べられると、どうしても厳しい部分があり、それが人材確保の障壁となることも珍しくはありません。そういった背景のなか、少しでもお金の安心を確保できる点が、そのような実績につながったのだと思います。

コロナ禍で福祉業界は大きな痛手を受けたと思います。御社のサービスを導入した、そのほかの事業者からは、どんな反応がありましたか?

白石:介護業界全体としては、感染を心配した利用者が利用を控えたため収入が減ったという声がありました。また、従業員の精神的な負担が増える中で、従業員の頑張りに何か報いたいという思いや危機感もお聞きしていました。そのため、経営が厳しいなか、コストがかかる施策がとれずにいた介護事業者には特に喜んでもらえました。

こうした事例は、当社のバックオフィス部門にも積極的に共有しています。バックオフィス業務を担う社員は、普段なかなかお客様の声を直接聞く機会がないため、彼らのワーク・エンゲージメント向上にもつながっています。

インフレによる生活圧迫を鑑み5%のベースアップを実現

子育てと仕事の両立以外に、社員の生活に配慮した施策はありますか?

白石:2022年10月の定期昇給と2023年4月のベースアップとを合わせて、合計5%の賃上げを実現しました。インフレで社員の生活が圧迫されるなか、給与額が現状維持だと実質の賃下げになってしまいます。インフレに見合う分のベースアップをしたいという経営者の思いから行いました。

賃上げを実現したくても原資がないと悩む中小企業もいるなかで、すごいですね。

白石:幸い業績面で予算達成ができているので、実現できました。

お客様や株主はもちろん大切ですが、まず社員の幸せを第一に考えて実現することは、引いてはお客様へのサービスを向上させ、事業成長にもつながると思っています。

社員が安定した生活を送れるように仕組みを整えるのも、企業の責任の1つととらえていらっしゃるようにお見受けします。

白石:社員には当社で長く安心して働いてほしい。心からそう思っています。そのため、社員が金銭面の不安を払拭できるように、はぐくみ基金と企業型確定拠出年金制度も用意しています。はぐくみ基金への加入は任意ですが、社員の加入率は100パーセント。いかに自分たちが扱うサービスを信頼しているかが伝わってきますね。

とはいえ、今の世の中は転職が当たり前。もっと自分に合った仕事ややりたい仕事があれば、当社から転職する社員も出てくるでしょう。ですから当社としては、どの会社でも働けるようなスキルを社員には身に着けてほしいです。

人への投資に力を入れる狙いを教えてください。

白石:当然、企業としては、投資に対する事業へのメリットも見据えなければなりませんので、それに見合ったリターンが得られるという部分も欠かせません。

当社の事業は、はぐくみ基金を各事業者に合わせてカスタマイズして導入するので、事業にはコンサルティング業に近い領域も含まれています。人が資本なので、社員に投資し社員が成長すれば、会社の生産性にも反映されます。会社と社員、双方にとってWin-Winであるということだと思います。

中小企業が、御社のように人的資本経営を行う場合は、どのように進めればよいと思いますか?

白石:スモールスタートから始めるのがいいと思います。経営者の思いと従業員のニーズをすり合わせ、そのうえでコストがあまりかからず、かつ会社をより良くできる取り組みから始めれば、きっとうまくいくのではないかと思います。

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