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「全員DX」で描く、建設業の新たな未来像 データドリブン経営で業務の標準化を実現

取材日:2024/07/31

人手不足が深刻化する建設業界。そんな中、山形県の株式会社後藤組が「全員DX」を合言葉に業界に新風を吹き込もうとしています。現場からオフィスまで、あらゆる業務のデジタル化を推進する同社の取り組みに迫ります。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 笹原尚貴さん

    笹原尚貴さん

    株式会社後藤組

    経営管理部部長・DX担当

この事例のポイント

  1. 社内資格制度でDXスキル向上を後押し
  2. 若手でもベテラン社員並みの判断が可能に

深刻化する建設業界の人手不足

建設業界の人手不足の現状について教えてください。

笹原:国土交通省のデータを見ると、建設業の就業者数は1997年のピーク時の685万人から、2022年には479万人まで30%ほど減少しています。

一方で、災害復旧や災害対策などもあって、建設への投資は伸びている。需要に見合う人手の確保は年々困難になっている中で、当社のような、地方に拠点を置く中小企業は、まず「(応募の)母数」を獲得するのに苦労する状況でした。どうしても都心部の大手に人は集まりがちですから。

さらに現場では、50代以上のベテラン社員が多く、新卒入社の若手は少数派です。特に新卒採用では、建築や土木を専攻した学生は大手に流れてしまい、なかなか若手の採用が進みませんでした。

建設業界で人材が集まりにくい理由は何だと思われますか?

笹原:建設業界にある「3K(きつい・汚い・危険)」というイメージが根強く残っているのが一つの要因だと思います。

確かに、以前はそういった面もありました。例えば、私が入社した10年ほど前は、新卒社員が現場に泊まり込んで仕事をすることもありましたし...。日中は外で仕事をし、就業時間後に事務所に戻って書類整理をする。そんな働き方が普通だったんです。

社長の決断から始まる、全社一丸のDX推進

人材不足への対策として、DXに取り組むきっかけは何だったのでしょうか?

笹原:当社は、2013年頃から新卒採用に力を入れ始めたのですが、人材の確保だけでなく、省力化や労働環境の改善など、将来を見据えた「根本的な解決」が必要なのは明白でした。そこで、当社の社長(後藤茂之氏)が注目したのがDXです。

2019年6月に、社長の後藤が全社員に向けて「DXに取り組む」と発表したのですが、正直、当時はDXという言葉自体を知らない社員がほとんどでした。

その決断の背景には、創業家の4代目として「会社を潰したくない」という強い思いがあったと聞いています。また、2013年から本格的に力を入れ始めた新卒採用で、自分が採用した若手社員が長く働ける会社にしていかなければならないという責任も感じていたようです。

DXを推進するにあたり、最初にどのような取り組みをされたのでしょうか?

笹原:DX推進の最初の取り組みとして、20年以上使っていた古いシステムを一新しました。具体的には、Google Workspaceを導入して社内コミュニケーションツールを刷新。次に、顧客管理システムとして「kintone」を導入しました。

しかし、導入当初は社員からの不満の声が多かったですね。使い方がわからない、必要性を感じない、など。特に部門長や幹部クラスの方々は、長らく慣れたやり方があるわけですから、全く見向きもされないという厳しい状況でした。

その状況をどのように変えていったのでしょうか?

笹原:最初の半年ほどは、「kintone」で作成したアプリの使い方を各部門に説明して回りました。しかし、なかなか全社的な浸透には至らなかったですね。そこで方針を転換し、各事業部門のリーダーの下、全社員が「自分主体」でアプリを作る環境を整えました。

具体的には、まず全社で使う簡単な日報アプリを作成し、社長の指示のもとで全社員に使用を義務づけました。社長からの指示となれば、当然皆使わざるを得ません。これによって、まずは「使う」という習慣をつけることができました。そこから徐々に、他の業務も自分主体でデジタル化していきましたね。

3つの施策で「全員DX」を推進

DXスキル向上のための取り組みについて教えてください。

笹原:取り組みとしては、DXワークショップと大会、社内資格制度の3つがあります。DXワークショップは、社員のデジタルスキル向上を目的とした実践的な学習の場です。内容は、表計算ソフトの基本操作から始まり、「kintone」でのアプリ開発、さらには簡単なプログラミングを使ったデータ連携まで、段階的に高度な内容へと進化していきます。

当初は、私が一方的に説明するセミナースタイルでしたが、現在は、知識の定着を図るため、参加者が実際にアプリを作りながら学ぶ形式で開催しています。自由参加なので、スタート時は参加者ゼロの日もありましたね(苦笑)。

どうやって参加率を高めたのですか?

笹原:DXの取り組みは、社長肝いりの取り組みでしたから、各部門に社長から参加を促してもらいました。基本的には、現場主体で進めてはいましたが、推進のスピード感を高めたり 、DXの必要性を組織に浸透させる際は、いい意味でトップダウンによるメッセージを上手く活用したという感じです。

「大会」と「社内資格制度」についても教えていただけますでしょうか?

笹原:年1回、全社員をチームに分けて、自作のアプリをプレゼンするのが大会です。

現場で使うチェックリストのアプリや、顧客情報を分析できるダッシュボード、新卒採用のエントリーシートを電子化するシステムなど、実際に業務で活用されるアプリも大会を通して多く生まれています。

何でもいいから「まずは作ってみる」ことを定着させるのが目的でしたが、実効性もある取り組みになっていますね。

社内資格制度は、DXに関する知識やスキルを評価することを目的に設けました。現在、DXアソシエイト、DXスペシャリストの2段階があります。合格すると賞与や一時金が支給されるため、社員のモチベーションアップにも寄与しています。

試験では、架空の設定を用意し、それにもとづいたアプリやダッシュボードの作成を課題として出題。例えば、「こういう状況で困っているから、解決するためのアプリを作ってください」といった具合です。時間内に成果物を提出してもらい、あらかじめ設定した採点基準で評価します。

合格率はアソシエイトで約60〜70%、スペシャリストで10%程度とかなり難しいですね。現在、全社員の約80%がアソシエイトを取得しています。

資格を取得すると、資格手当も支給されるのですが、手当の額は、建設業界で最も一般的な国家資格である一級施工管理技士と同等の金額を設定しているんです。社長がそれだけDXに力を入れているんだ、というメッセージですね。

DX推進で業務効率アップ!残業時間21%削減を実現

そういった取り組みの成果はいかがでしょうか?

笹原:業務効率が大幅に向上しましたね。一人当たりの残業時間を21%削減することに成功しています。また、3年以内の離職率も改善しました。

さらに、少しずつデータドリブンな意思決定ができるようになってきました。例えば、営業活動でのチラシ配布エリアの選定なども、問い合わせにつながった確率など過去のデータを分析して決定するようになりました。

以前は「今日はなんとなくこのエリアに配ろう」といった感覚で判断していたんです。今ではどのエリアからどれくらい反応があったかというデータをもとに、選定できるようになっています。

また、マネジメントの面でも変化が見られています。例えば、部下の評価をする際に、明確なKPIを設定し、その達成度を数値で評価できるようになりました。透明性が高まり、部下にとっても何をすれば評価につながるのかが明確になりましたね。

今後、さらにDXを推進するうえでの課題はありますか?

笹原:はい、いくつかあります。まず、情報セキュリティの問題です。DXを進めれば進めるほど、デジタルデータの取り扱いに関するルールや、端末管理のルールなどを整備する必要があります。現在、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証の取得を目指して準備を進めているところです。

また、社内のガバナンス体制の整備も課題です。DXによって業務のやり方が大きく変わる中、それに対応した社内規定や管理体制の整備が追いついていない部分があります。これらについては、今、取締役会に提案を行っているところです。

全社員のDXリテラシー向上が鍵

5年後、10年後の建設業界をどのように描いていますか?

笹原:社長がよく言うのですが、今後の建設業界は二極化が進むだろうと。DXをうまく活用し、生産性を向上させた企業は大きく成長する一方で、従来のやり方を変えられない企業は淘汰されていくということです。我々は前者を目指し、常に進化し続けたいと考えています。

実際、山形県内でも人手不足による倒産が増えています。人材を確保できない企業は負のスパイラルに陥り、最終的には事業継続が困難になっていくでしょう。一方で、職場環境を改善し、新しい人材にも魅力的な会社となれば、そこに仕事が集中していくことになります。

御社としては、どのような未来を目指していますか?

笹原:我々が目指しているのは、誰でも最適な判断ができる組織です。もともとDXを目指した背景には、人手不足の解消だけでなく、「データ・ドリブン経営」を実現するという目標がありました。

データを活用することで、経験や勘に頼らない意思決定ができる組織が実現できれば、人手不足問題の解決にもつながると考えているからです。

また、業務の標準化も重要なテーマです。デジタル化を進めることで、業務のやり方が統一されれば、属人化することなく誰でも同じように仕事ができるようになります。

これは、将来的に会社を大きくしていくうえでも重要です。例えば、M&Aを考える際にも、業務が標準化されていないと難しいですからね。

今後の展望についてお聞かせください。

笹原:今後は、さらにデータ・ドリブン経営を推進していきたいと考えています。社内に蓄積されたデータを活用し、AIや機械学習を導入することで、より高度な意思決定を支援できるようにしていきたいですね。

具体的には、現場の経験豊富なベテラン社員の判断プロセスをデータ化し、AIに学習させることで、若手社員でもベテラン並みの判断ができるようになることを目指しています。

また、我々の取り組みを他社にも広げていきたいですね。建設業界全体のDXに貢献できればと思います。

実際、当社の取り組みに関心を持ってくださった企業様からの問い合わせが増えたことを受けて、当社のDXの状況を紹介する見学会を実施したのですが、昨年10月の見学会には、約120名の方にご参加いただきました。

最後に、建設業界でDXを推進したい企業へメッセージをお願いします。

笹原:大切なのは、全社員を巻き込むことです。トップダウンとボトムアップのバランスを取りながら、少しずつでも着実に進めていくことが重要です。そして、DXは目的ではなく手段だということを忘れないでいただきたいですね。より良い会社、より良い建設業界を作るための手段として、DXを活用していってほしいと思います。

特に重要なのは、一部の担当者や上層部だけがDXを推進するのではなく、現場で働く社員も含めて全員がある程度のリテラシーを持つことです。自分たちの行動データがどのように使われるのか、それがどのような技術的背景で実現されているのかを理解することで、DXの効果も大きく変わってきます。

注意点はありますか?

笹原:DXを進める際には、二重入力をなくすことを心がけてください。これは当社の社長がよく言うことですが、データ分析のためだけに別途データを入力するのではなく、日常業務の中で自然とデータが蓄積されていくような仕組みづくりが重要です。

建設業界は今、人手不足や高齢化、そして新たな技術革新への対応など、多くの課題を抱える中で、大きな転換点にあります。しかし、それらの課題こそが、業界を変革し、進化させるチャンスでもあると考えていますし、DXはその変革の大きな推進力になると確信しています。

私たちの取り組みが、建設業界全体の発展につながり、ひいては社会全体をより良いものにしていく。そんな大きな夢を持って、これからもDX推進に取り組んでいきたいと思います。

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