社員も会社も成長する、最適な評価制度とは 成長意欲を「より高度な仕事」へと導く評価制度を実践

取材日:2023/02/16

中小企業を対象に税務会計事業を行う、中央会計株式会社。社員の成長を支援し、生産性を高めようと、2020年ごろから評価制度の改革に取り組んでいます。新しい制度の中身や、導入してわかった課題、今後の展望などについてお話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 辛島政勇さん

    辛島政勇さん

    中央会計株式会社/税理士法人中央会計

    税理士法人中央会計代表税理士

  • 澤和樹さん

    澤和樹さん

    中央会計株式会社

    マネージャー

この事例のポイント

  1. 社員の納得度を仕事への意欲へとつなぐ評価設計
  2. キャリアパスの選択肢を提示、長くやりがいが続く職場づくり

会社の目指す成長から評価軸を作りこみ、刷新した評価制度

御社が取り入れている評価制度について、概要を教えていただけますか。

澤:当社では、複数の評価軸で多角的に社員を評価する仕組みを取り入れています。

まずひとつは、「成果評価」といって、月次顧問料や新規契約数、顧問報酬の増額幅などに対して、定量的に評価するものです。

それから二つめが「価値評価」。例えばうちの会社ではお客様企業に対して月次で決算を行って、その数値をもとに資金繰りや事業予測などのアドバイスもしているのですが、そうしたサービスの実施状況などをみて、お客様に価値を提供できているかどうかを評価しています。

三つめが「マネージャー評価」といって、プロセス評価に近いものですね。マネージャーとチームメンバー間の1on1で成長イメージに沿った目標を設定し、そこに至るためにとるべき行動内容を設定するんです。そこでコミットした行動ができたかどうかを評価しています。 それぞれの目標に対して、半年ごとに評価をする仕組みです。

今のような評価制度を導入した背景、きっかけなどはあったのでしょうか。

澤:以前は、給与もボーナスも査定基準が不透明でした。この人はよくやってくれているから、これぐらいにしておこうとか、年次が上がっているから昇給しようといった感じで、ある意味経営者の感覚や主観によって決まっていました。

しかも、当社はその当時、全社員の給与がフルオープンで、誰がいくらもらっているのかわかるようになっていたんです。経営陣だけではなく、隣に座っている同僚の給与もわかってしまう。目の前にいる人の額をみて、なんで自分はあの人より低いんだろうと社員が疑問に思っても、それに対する説明材料もないですし、納得できる理由は示してもらえません。社員の間に、なんとなくモヤモヤとした不平不満がたまっていました。

そこで、評価への納得度や社員のモチベーションを上げるためにも、評価制度を整える必要があると感じたんです。

評価制度を刷新するにあたって、意識した点などはありますか?

辛島:まず大事にしたのは、社員の「評価される仕事」と組織の成長との親和性が見える制度にする、という点です。

会社は、お客様に価値を提供して対価を得ています。会社が成長するためには、その提供する価値をより良くし、大きくしていく必要があります。しかし、その成長を個人の裁量に任せていても当然ばらつきはありますし、積み上げていくのは簡単ではありません。お客様に提供する価値を1年1年伸ばしていくにはどうしたらよいか、ずっと課題を感じていました。

そこで、会社として「今年はここまで提供価値を伸ばしたい」というものを評価の基準に落とし込み、価値評価という制度に組み込むことで、全体の底上げにつなげられればと考えたんです。それから、より大きな価値を提供していくためには社員の成長が不可欠です。成長に向けた行動も評価に反映できるよう、マネージャーによってプロセスを評価する成長支援の仕組みも作りました。

まず、会社としての目的があり、そこにあわせて制度設計をしていった感じですね。

やってみてわかった「ズレ」、定期的な見直しで改善をはかる

新しい制度をスタートするにあたり、社員からの反応などはあったでしょうか。

澤:スタート時に資料を作って説明会を開いたのですが、その時点では特に大きな反応はありませんでした。多分みんなよくわかっていなかったのだと思います。こんな風に評価しますと言われても、結果が出るのは半年後の評価時期なので、具体的にどうなるかイメージもつかなかったのではないでしょうか。

これはマネジメント側の反省点なのですが、新しい制度での評価が、実際にどんな結果になるのか、しっかりとシュミレーションできていませんでした。そのため、半年たった初めての評価の際は、想定外の評価も出て来てしまい、伝え方に迷ったケースもありました。

例えば、どんなケースがありましたか?

辛島:細かいところでいくと、例えば価値評価は、お客様にどんな価値が与えられたか、つまり価値の本質に対して評価するものなんですが、月次報告書の資料をいくつ渡したとか、これだけのミーティングをしたとか、手段が目的化されてしまい、評価軸が機能していない問題が発生しました。

資料の内容や質はさておき、お渡ししただけで評価がつく形になっていたため、お客様が価値を感じていなくても評価されてしまうようなケースです。本来はお客様に提供する価値を上げていくための評価制度なのに、それでは意味がありません。

それから、マネージャー評価についても、いろいろと課題がありました。この評価では、メンバーとマネージャー間でプロセスにコミットして目標設定するのですが、マネージャーによって目標の内容や難易度、進捗管理にばらつきが出てしまったんです。誰が上長かによってレベル差が出てしまうと、会社として目指す、全体の底上げにブレーキがかかってしまいます。

想定外のいろいろな課題が出てきたんですね。

辛島:うですね。実際にやってみて始めてわかったことではあるので、いずれもその後見直しをして、制度をブラッシュアップしています。

価値評価については、単に資料を出したかどうかではなく、提供した価値に応じて評価できるように、評価軸を調整しました。またマネージャー評価についても、目標設定時に、全員の目標を役員とマネージャーが見て、すり合わせる場を設けています。メンバーとマネージャーがコミットする前に、まず上層部で、一人ひとりの目指すゴールとそこに向けたプロセスについておかしなところや偏りがないかチェックをするんです。

今後も、またやってみて違うな、というところが出てきたら都度改善をして、柔軟に対応するようにしていこうと思っています。

「ただ管理するよりも楽しい」、マネージャーの役割とは

特に成長支援の点では、どのような目標を設定し、いかに進捗管理するか、マネージャーの力量も問われてきますね。

辛島:そうですね。目標設定は本当に難しく、高いマネジメントスキルが求められます。 そのため、外部の専門家に入ってもらい、目標設定や1on1などに関するマネージャー研修も行っています。評価制度を新しくしたことで、マネージャーに求める役割も明確になり、それぞれのマネジメントスキルもアップしました。

マネージャーに求めることは多岐にわたります。メンバーとの信頼関係を築くことから始まり、その人がやりたいことを把握し、将来目指す具体的な理想像を描き、それと現状の差を整理する。そして、その理想像に至るには何が必要かを考え、そこに向けた行動を設定し、メンバーとコミットし、進捗管理まで必要になります。責任は大きいですが、メンバーの成長に直接関われる分、ただ管理するよりもずっと楽しくやりがいもあるはずです。

澤:今の評価制度になって、改めてコミュニケーションの大切さを実感しています。将来どんな仕事をしたい、こういう人になりたいというものを人それぞれ持っていますし、あるいは仕事に対しては今のままで、ワークライフバランスを取りたいという人もいます。そうした話しを聞いたり相談したりしてもらえるようになるには、コミュニケーションの量がやはり必要だなと感じていますね。

業務の特性上、1人で仕事を完結することもできるので、以前の環境で言えば、お客様とのコミュニケーションについて考えることはあるものの、社内の関わり方を深く考えることはあまりなかったんです。

私自身、どちらかというと周囲とのコミュニケーションは少ない方でした。しかし現在は、マネージャーとしてメンバーとのコミュニケーションは、質・量ともに気をつけています。

月1回の1on1で仕事の状況や悩みなどについて深く話しをするのはもちろん、それ以外にも日常のちょっとした時に声をかけたり、チャットで会話をしたりといったことを大事にするようになりました。

メンバーの成長支援をするためには、より密にコミュニケーションをとって、相手のことを知ることが不可欠だなと改めて感じています。

今現在、社員をどう評価するか、迷っている企業もあると思います。評価制度設計などについて、経験者としてのアドバイスはありますか?

辛島:僕らの仕組みもまだ胸を張って完璧と言えるような制度ではありません。今でも細かな修正を繰り返していますし、迷うことはたくさんあります。

やってみて初めてわかることも多いと思うので、課題が生じたら都度見直せる体制があればよいのではないでしょうか。大切なのは、何のための評価制度なのか、目的、目指すところに常に立ち返ることだと思っています。

やりがいをもち働き続ける、具体的な将来像を社員に示したい

御社が考える組織と人材である社員との理想的な繋がり方、会社としての今後の展望などはございますか。

辛島:今後の展望としては、やりがいをもって長く働くイメージを持ってもらえる会社にしたいと思っています。税務会計という業種は、下手をすると新人のころから40代50代まで同じ仕事をずっと続けると思われがちで、キャリアパスへの期待値を上げにくい部分があります。

でも実際は、お客様の会社をよりよくするためにできることは多岐に渡ります。成長意欲のある人がやる気を失ってしまわないよう、将来にわたってやりがいある仕事ができるという、具体的な将来像や選択肢をみえるようにしたいと思っています。

具体的な取り組みがありましたらご紹介いただけますか。

辛島:当社では、今、中小企業支援という枠組みを広くとらえ、新たにやりたいこと、事業化できそうなことを、チームを作って研究し、サービス化に向けて取り組んでいます。

税務会計という仕事は、テクノロジーの進歩についていかないと、将来的にリスクがある業種でもあります。自動化がどんどん進み、税務会計という作業だけで考えると、人間がやることはほとんどなくなってしまうかもしれません。

ただ、中小企業のお客様を支援するという意味では、税務会計に留まらず提供できるサービスはまだまだたくさんあるはずです。

やってみたい仕事に自主的に取り組んで、それを実際のサービスにしていくことで、社員に仕事のやりがいを感じてもらうこともできるし、そのサービスの責任者だったり、子会社化したときの社長だったり、将来目指してもらう具体的なポジションもできればと思っています。

数字がわかるという税務会計の強み、スキルとかけ合わせれば、中小企業のお客様に提供できるサービスはまだまだあるはずです。社員がやりがいを持って働き、そして会社も成長していく、そんな姿が理想ですね。

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