当事者意識を尊重し育まれた組織の一体感 業界や社会を良くするために「All as one」を目指す

取材日:2023/05/09

美容・ヘルスケア・介護業界の雇用や活躍を支援する株式会社リジョブは、2014年にM&Aを実施。2度のソーシャルビジョン策定を経て一枚岩の組織づくりを実現した取り組みと今後の展望を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 窪田みどりさん

    窪田みどりさん

    株式会社リジョブ

    CHO

  • 上妻潤己さん

    上妻潤己さん

    株式会社リジョブ

    コーポレート推進UNIT/HR 新卒チームリーダー

この事例のポイント

  1. 新たな代表が会社を愛してくれたことがM&Aの希望に
  2. 事業をビジョンマップに落とし込み社内外の理解促進を実現
  3. 責任範囲や意志決定のシェアが社員の成長につながる

新代表が全社員面談で見つけた価値をソーシャルビジョンに

御社は2014年9月のM&Aによりじげんの連結子会社になりました。当時の状況を教えてください。

窪田:事業と組織の未来を考え、当時の経営陣がM&Aを決断したと聞いています。このような発表は、当然ながら社内においても本当に“突然”なので、驚きのあまり泣き出す社員がいる一方、新たな環境での会社の成長を期待する社員もおり、受け止め方は人それぞれでした。

M&Aは失敗するケースも多くあります。一方、御社はM&A後も社員数が増え新規事業を次々と手掛け、うまくいったように見えますが、いかがでしたか?

窪田:大変なこともたくさんありました(笑)。

ただ、組織づくりにおいては、新たに社長に就任した鈴木(一平氏)の人間性が大きかったと思います。鈴木は社員一人ひとりと面談をして話を聞いて……といったことを地道に行ってくれて。面談で鈴木の組織や社員への思いを感じ、一緒に頑張っていこうと思えたメンバーは多かったと思います。

新体制になって新しいソーシャルビジョンはいつ頃策定されたのでしょうか?

窪田:決まったのは2014年12月末です。鈴木は全社員への面談で社員の方向性や大切にしている価値、当社のサービスの価値をヒアリングし、市場や世の中の動きを踏まえて、「日本が誇る技術とサービスを世界の人々に広め、心の豊かさあふれる社会を創る」をソーシャルビジョンとして打ち出しました。

当時の美容業界はインバウンド消費が盛んで、リクルートライフスタイルの調査(2014年8月25日~9月3日実施)によると、訪日外国人旅行者の半数が美容関連サロンを体験しているといったデータも出ていました。しかし、日本の美容サービスが、海外から高い評価を得ている一方、日本は少子高齢化が進み、やりがいがありながらもハードワークの美容業界には、労働力が集まりにくくなっていたのです。

私たちの仕事は単に企業とユーザーのマッチングではなく、マッチングで美容・ヘルスケア業界に就職する人を増やし、日本の誇れる技術やサービスやおもてなしの心を世界に広めることで、心豊かな社会を創ろうという想いがソーシャルビジョンには込められています。

策定を機に取り組まれた事業はありますか?

窪田:CSV推進事業「咲くらプロジェクト」と介護求人メディア「リジョブ介護(現:リジョブケア)」を始めました。

前者は、フィリピンで現地パートナーNPO法人と協力し、貧困地域の方々を対象としたセラピスト養成講座を開講し、経済的自立を支援しています。

後者は、鈴木との面談で「介護事業をやりたい」と提案した当時新卒2年目だった社員の声を元に生まれました。美容業界と同じく介護業界もハードワークで、少子高齢化による人材不足の影響が非常に大きい業界です。少子高齢化の日本が直面している課題を、私たちが持つリソースで乗り切るために開始しました。

こうしたプロジェクトが始まり、社員の間にもわくわくした雰囲気が漂い始めました。

創業時からの強み「当事者意識」「チーム力」を重視

M&Aの課題として、買収した側・買収された側のカルチャーの違いによる社内の一体感の欠如が挙げられます。その点はいかがでしたか?

窪田:当社は、創業時から社員一人ひとりの当事者意識が強い会社でした。実際、鈴木が面談後に驚いた点として、「リジョブを主語に語るメンバーが多いこと」「チーム力」を挙げています。

ほとんどの社員が、面談で自分の話よりも「リジョブのサービスの良さ」「リジョブの未来像」を語る様子を目の当たりにして、その当事者意識こそリジョブの価値だと鈴木は感銘を受け、カルチャーとして残す必要を実感したそうです。

そして「チーム力」は、当社のビジネスモデルとも直結しています。私たちの根幹事業である「求人メディア事業」で携わる主なお客様は個人オーナーや中小企業であり、その多くは資金が潤沢ではありません。そこでお客様に「リーズナブルで質の高いサービス」を提供するためにも、「分業によるチーム制」を取ってきました。この分業制を、創業時からの強みである「チーム力」が支えてきたのです。

M&A前から続くカルチャーを尊重しようと決められたのですね。そのカルチャーを残すために、どのように取り組まれましたか?

窪田:当時からリーダーやマネージャーを務め、会社創りに意欲を持っていた若い世代と、じげんグループから出向してきた社員が一緒にコーポレート・アイデンティティ作成を行いました。

2~3ヶ月かけて議論を行いまとめた案を、鈴木がさらに言語化。そして、生まれたのが、私たちが「REJOB STYLE」と呼び、大切にする5つのカルチャーです。これらは、「リジョブ」「じげん」という壁を取っ払い、新体制を担う新たなメンバーで数か月にも及ぶすり合わせを重ね、創り上げました。

<REJOB STYLE>
・7倍速×1.01法則
・全力コミット×純粋マインド
・両刃の剣×最後の砦
・キャプテンシップ×ユニオンシップ
・価値向上×利他離己

双方の「良い所」を融合しながらカルチャーを作られたのですね。そのようなご自身の経験から、M&A後に一枚岩の組織をつくるうえで大事なポイントは何だと思いますか?

窪田:実際に経験してみて、「M&A時に経営者がグループ傘下に入る会社を愛せるか」は、とても大切だと感じました。もし鈴木が「買い手側の利益」だけを見る経営者だったのであれば、みんなも心を開かなかったと思いますし、そうすると事業推進にも様々な不具合が出てくるはずです。

鈴木がリジョブのメンバーを好きになってくれたこと、そして、リジョブの価値も重視してくれたことは、非常に大きかったと思います。

全社員が親近感を持てるようビジョンをリニューアル

2020年にソーシャルビジョンとコーポレートロゴを一新されました。経緯を教えてください。

窪田:事業が拡大し多様化していく中で、旧ビジョンの想いを継承しながらも、働いている人たちがより当事者意識を持てる内容に刷新したいと思うようになりました。また、事業やプロジェクトの方向性を日本から世界だけでなく、「日本⇔世界」という双方向のベクトルに進化させたことも関係しています。

具体的には、創業10周年を機に、人と人との「結び目」というキーワードを取り入れた「人と人との結び目を世界中で増やし、心の豊かさあふれる社会を創る」というソーシャルビジョンに変更しました。同時に太陽と右肩上がりの山並みで「連なりと成長」を表現したコーポレートロゴにリニューアルしたのです。

人と人との「結び目」とは何を指していますか?

窪田:はい。当社が大切にしている数字に採用数と応募数があります。採用数はユーザーが就職できた数であり、応募数は企業側にとっては自社に寄せられた希望の数です。

当社の事業価値は、まさにこの採用数と応募数が結びつくことでできる「結び目」にあり、その言葉が入った新たなソーシャルビジョンは、アルバイトを含めメンバーにとって納得感のあるものになっていると思います。

その他に、御社が重視している価値を対外的に伝える取り組みはありますか?

窪田:ビジョンマップの作成です。

先ほどお話した「咲くらプロジェクト」は、社外からは貧困問題を解決するためのボランティア活動として捉えられがちですが、当社はボランティアではなく、持続可能な形を目指した、CSV推進プロジェクトとして考えています。

今すぐ収益が上がるようなビジネスモデルではないかもしれませんが、取り組み自体の価値を共有すること、また、上記のような当社の考え方を伝えていく必要性を感じ、ビジョンマップの作成を開始しました。

ビジョンマップには、リジョブが目指すビジネスとコミュニティの両輪で「経済性と人とのつながりを包括した価値提供」のソーシャルモデルが可視化されている。

御社のビジョンマップは、主に「ソーシャルビジネス」と「ソーシャルコミュニティ」の2つの領域が軸になっていますね。それぞれの特徴を教えてください。

上妻:「ソーシャルビジネス」は、求人メディアなど収益に結びついている事業です。収益に結びつく事業は、それ自体に持続可能性があるということ。つまり関わる企業やユーザーに継続的にサービスを提供でき、就職などを実現することで豊かさも広げていけます。資金がある大企業だけでなく「中小企業」「個人オーナー」に持続可能な発展を可能にしたいと、業界の採用単価を従来の約1/3~1/2に削減したビジネスモデルを展開しています。

一方、「ソーシャルコミュニティ」は、経済的な価値だけでははかれない、心の豊かさの種蒔きにつながるコミュニティ創りを推進するものです。こちらは人とのつながりに価値を置いており、当社とご縁があった社会問題に取り組んでいます。

窪田:「ソーシャルコミュニティ」の1つである「TsuBoMi project」では遊休農地を当社が借りて、そこで田植えや稲刈り体験、ひとり親家庭への寄付といった活動を通じてコミュニティづくりを進めています。

また、「過疎地域での雇用創出」を目的に神奈川県真鶴町に開設した真鶴サテライトオフィスでは、地元の人の雇用を促進し地方創生を実現するべく取り組んでいまが、どちらもクライアントや経営陣の知り合いなど、人とのご縁から誕生したプロジェクトです。

上妻:当社が目指しているのは、「心の豊かさあふれる社会づくり」です。ビジネスだけではなく、ビジネスとコミュニティの両輪によって実現できると考え、どちらにも価値を置いていることを伝えるため、ビジョンマップには両方を載せました。

ビジョンマップを作成するうえで苦労した点はありましたか?

上妻:私は作成メンバーの一人でしたが、「ソーシャルコミュニティ」領域のプロジェクトをどのように総称すればよいのか、頭を悩ませました。ただ、議論を通じ、世の中を良くするためにビジネスだけではなくコミュニティづくりも大事だと学びました。そこから、「ソーシャルコミュニティ」と名付けたのです。同時に、「ソーシャルコミュニティ」の各プロジェクトの成り立ちを思い起こす過程は、当社がご縁を大事にしている会社だと再確認するきっかけにもなりましたね。

ビジョンマップの完成により、当社の事業が可視化され、各事業のつながりも明確になりました。社員の理解促進にもつながりましたし、新卒者向けの就職説明会でも当社が目指す社会や事業を説明しやすくなりました。

変化に立ち向かうために経営者マインドを持つよう呼びかける

新型コロナウイルス感染症の流行は御社の経営にどのように影響を与えましたか?

窪田:美容業界への影響は大きかったです。先が見えないなか、当社はメンバーに対し、自分自身から会社全体、社会全体へと意識を広げる経営者マインドを持つよう呼びかけました。

それまではコーポレート・アイデンティティを策定したメンバーなど、経営に関心を持つ若手を経営幹部候補として育成し、彼らには経営者マインドの重要性を伝えてきました。

しかし、世の中の変化が激しさを増す状況では、全てにおいてマネージャーの判断や意思決定を待っていては、事業スピードを鈍化させてしまうケースも発生します。一人ひとりが全体を見て判断できる必要性を感じ、まずはマネージャーにアナウンスしました。

もともと、「自分という範囲を超えて、誰かの為を想える人材」を採用していたので、このタイミングで「全体性」の考え方をより明確にしたいと思いました。今ではマネージャーがいなくともメンバー間で意思決定する範囲が広がるなど、現場に少しずつ変化が生まれています。

現在、御社が目指している組織について、お考えをお聞かせください。

窪田:目指しているのは、one teamと言えるような球体型組織です。ピラミッド型組織のようにトップから一般社員まで各階層に分かれ、社員はいずれかの階層に所属している組織ではなく、本人、部署、会社、業界、社会が一体となっている状態をイメージしていただくといいかもしれません。「I」ではなく「We」で考え、その範囲を社内だけではなく、社会にまで広げていく。そして、すべてはひとつにつながっているという「All as one」の精神のもと、自分たちだけではなく社会もとらえられたらいいなと思います。また、この組織づくりの根底には、「LOVE&POWER」という考え方も影響しています。

「LOVE&POWER」とは、具体的にどんな考え方ですか?

窪田:この考え方は、南アフリカのアパルトヘイトを始め世界各国の課題の解決に尽力したアダム・カヘンの著書で紹介されている、未来を共創するために必要な「Power and Love」の概念が元になっています。

当社は社会問題の解決を目指していますが、それは社会や自分以外の誰かへの愛があるからです。ただし、愛だけでは足りません。現状を変える覚悟や、そのために自分自身を成長させようとするPowerも求められます。「LOVE&POWER」の両方があって初めて解決を目指せるのです。

愛が及ぶ範囲とPowerで改革する範囲が個人や身近な人を超え社会まで広がっている状態を示すのが、まさに目指す組織です。

仕事に追われていると、どうしても近視眼的な考え方になり、部分最適に陥ってしまいがちです。この組織を実現する方法はありますか?

窪田:方法の1つとして挙げられるのは、責任範囲や意志決定、その背景のシェアだと考えています。今までは、トップやマネージャーが抱える苦悩を他のメンバーが知るチャンスがありませんでした。しかし、トップやマネージャーが自ら担う責任やそれに伴う苦悩をシェアすることで、メンバーは経営層やマネジメント層を理解できますし、場合によっては手助けできるかもしれません。ともに担うことで、他者への愛の範囲も、自分が力を発揮できる範囲も広がっていくのです。

上妻:私自身、シェアの大切さを実感する場面がありました。私はM&A後に入社しており、当時の大変さを知りませんでしたし、自分は自分、会社は会社と割り切った考え方をしていました。

しかし、経営陣との合宿の中で、経営陣にM&A前後や新型コロナウイルス感染症の流行時の話をしてもらい、考え方が変わったのです。経営陣の担う責任の重みや苦労を知り、その苦労の上に今の私たちの事業や組織があると気づき、思わず涙をこぼしてしまいました。話を伺って以来、自分が大事にしたい範囲が広がりました。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

窪田:今後は、働き方における制度や経営層・マネジメント層からのメッセージの本質を理解してもらうための文化づくりの仕組み化にも注力していきたいですね。

今までは仕組みや制度を設けた場合、本質が伝わらないまま活用される心配をしていました。例を挙げると、在宅勤務制度は、環境や働きやすさを整えることでミッションに対するエンゲージメントを高めてもらい、生産性を向上させることが目的の一つでもあります。しかし、単に在宅で働くための制度と捉えられてしまうとコミュニケーションやチーム連携の難易度がただ増えてしまうリスクもあるのです。

このような意識の違いに対しては、しっかりと本来の目的を伝え続け、齟齬なく、そして、高い解像度で、組織のメッセージを伝えていく必要があると実感しています。相互理解を深めつつ、企業文化を育んでいく取り組みを、「仕組み化」する方法を模索し実行していきたいですね。

また、在宅勤務はあくまで一例ですが、LOVEとPOWERをもって取り組みを仕組み化し伝え続けることで、「ひとつひとつの制度の目的や本質を、皆が全体性の中で根底から理解し活用している状態」を目指しています。その過程そのものが企業文化となり、働きやすさや生産性の向上、そして「All as one」へとつながる道なのではないでしょうか。

次に読みたいおすすめ事例

ビズクロ編集部
「ビズクロ」は、経営改善を実現する総合支援メディアです。ユーザーの皆さまにとって有意義なビジネスの情報やコンテンツの発信を継続的におこなっていきます。