「ひとり一人に向き合う」を徹底スピード感のある組織に Re:lationを生んだスタートアップの企業哲学

取材日:2023/02/22

顧客対応クラウド「Re:lation(リレーション)」を開発・提供する株式会社インゲージ。導入実績4,000社を超えるサービスを生み出せた背景には、人との向き合い方や情報の捉え方についての明確な企業哲学がありました。詳しくお話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 松田隆宏さん

    松田隆宏さん

    株式会社インゲージ

    カスタマーサクセス部 戦略営業チーム/マネージャー

  • 福地信男さん

    福地信男さん

    株式会社インゲージ

    管理部 人事・総務チーム/マネージャー

  • 西澤あずささん

    西澤あずささん

    株式会社インゲージ

    管理部 広報担当

この事例のポイント

  1. 納得感、連帯感、主体性の3要素による働きがい創出
  2. 社員発のアイデアが多数生まれる社内コミュニケーション戦略

役職関係なく、提言し議論できる機会を数多く設定

インゲージはミッションとして「ひとり一人に向き合うをカタチにする」を掲げ、コミュニケーションを大切にしています。この考え方を進めた背景から教えてください。

西澤:2014年のインゲージ設立以前に、代表の和田(哲也氏)が、10年ほどアメリカに駐在していたことがあります。その際、人それぞれの違いを認める文化を目の当たりにしたことが大きく影響しています。今でこそ多様性はよく耳にする言葉ですが、代表自らがひとり一人の個性や違いを認め合う環境にいたことがミッションの出発点にあると思います。

この考え方は、組織内でどのように具現化されていますか。

西澤:職があるから偉いということではなく、社員みんなが平等という考え方が根付いています。社長であっても社員「ひとり一人」にきちんと向き合ってくれるので、私たち社員も何でも話そうという姿勢になります。

松田:たとえば、社長室の扉がいつも開いていることも特徴の一つだと思います。「会社のためにはこうした方がいい」という意見を持ち、トップに伝えたいと思ったらいつでも聞き入れる環境を作っているわけです。一般にトップとの距離が近く風通しがいいスタートアップ企業であっても、ある程度組織が出来上がってしまうとこうした取り組みは実践しづらいと思うのですが、当社は社長が率先して話を聞く、ウェルカムな姿勢を整えてくれているところが大きいですね。実際、私も過去に恐らく社長にとっては耳の痛い話だろうなという提言を行い、聞き入れてもらったことがあります。

社長室の扉が開いている以外に、お互い意見を言い合える場は作られていますか。

松田:開発部門とセールス部門で毎週1回おこなっている開発会議があります。部署が異なると縦割りな議論になりがちなのですが、そうならないようにセールス側から顧客の要望や課題を開発側にしっかり伝えています。

西澤:全社的な取り組みだと、東京と大阪にいる全社員をオンラインでつないでミーティングをする全社会議も毎月おこなっていますね。各部署の事業の現状説明や今後の方向性のほか、成功事項だけでなく失敗についても全て共有します。とはいえ決して堅苦しいものではなく、お祝い事のお知らせもこの場で行うので、和気あいあいとした雰囲気です。

福地:そのほか、定期的にコミュニケーションを図るために毎月2回行っている1on1ミーティングという仕組みもあります。

これは上司が部下の意見や考えに耳を傾ける場です。業務での困りごとなど仕事の話もあるのですが、どちらかというと雑談のようなざっくばらんにプライベートの話もするので、マネジメントだけでなくコミュニケーションの機会として活用しています。

全社員、社長とランチをする機会もあるとか。

福地:新入社員は入社1カ月目と3カ月目にありますし、全社的には、誕生月のランチをおこなっています。

松田:代表とのランチというと堅苦しいイメージを持たれがちですが、プライベートな話もしつつ、お互いの人となりを知るようなカジュアルな雰囲気のランチです。

特に誕生月のランチは他の部署の方と一緒に参加するので、普段仕事では接点がない社員同士が理解を深めるいい機会になっています。現にこれを機に部門を超えて仕事の相談がしやすくなっていると感じることもありました。

非常にフラットで風通しのよいコミュニケーション戦略を意識して取られていることがわかります。組織運営面だけではなく、製品開発にも好影響があるのでは?

松田:そうですね。特にポジティブな影響があると実感できているのが、開発面と顧客満足度向上への効果です。

まず開発面ですが、何らかのサービスを提供する会社としては、顧客が抱える課題をどう解決するかが基本ですので、この点については全社会議などさまざまな場面で、多くの情報が寄せられ、かつ、解決に向けて役職関係なく議論する機会が設けられているのは、品質向上につながっていると考えられますね。

顧客満足度の観点から言えば、製品を使っていただいたお客様から上がってくる声を受け、軽微な改善や修正なら週単位のペースで実現しています。このスピード感は会社としての強みでもあり、フラットなコミュニケーションが頻繁に行われているからだと確信しています。

代表自身の「顧客体験」が事業アイデアの原点

ところで「Re:lation」は問い合わせ窓口を一元管理し、組織で共有できるサービスです。インゲージには全社員がお互いを知り、仕事の情報を共有する文化があると伺いましたが、これがサービス誕生につながっているのでしょうか。

西澤:サービスの発端は代表の和田がアメリカ駐在時代に体験したことに基づいています。

アメリカのある有名な通販会社を利用して買い物をした際、到着日になっても商品が届かず、問い合わせをしてもなかなか返事が来ないことがあったそうです。しかし、これは決してその会社の方がサボっていたわけではなく、当時その通販には注文が殺到し対応が間に合っていなかった。

別のサービスでも同じようなことを体験し、問い合わせ管理に特化したサービスの必要性を感じ、「Re:lation」が誕生しました。

松田:コミュニケーションの手段はメールや電話に加え、LINEやTwitterなどさまざまなツールがあります。どれを使うかは人それぞれで、好みやITスキル、環境などに左右されます。

もちろん顧客対応を行う側としては、その手段を「一つに絞る」方が、リソース・管理ともに負担は軽減されますが、それでは顧客の満足度が上がることはありません。かといって、管理する側の手間や効率を無視していたら、今度は生産性が低下してしまう。

これは顧客対応に限ったことではありませんが、情報共有を疎かにすることで会社が被る不利益は計り知れないとも思っています。実際、仕事の効率が落ちるだけでなく、業務の質が下がることもありますし、共有性の低さが仕事への不満や人間関係に影響してしまうこともありますよね。

そのような課題を解決するには、コミュニケーションツールに関係なく情報を集約し、コミュニケーションの内容も含めて一元管理する必要があるなと。「Re:lation」は、当社が提供するサービスではありますが、当社の社内外のコミュニケーションの「摩擦」を減らす上でも、欠かせないツールになっているんです。

情報の一元化、共有化の重要性が伝わります。「Re:lation」を活用することで、社内でもコミュニケーションのストレスは減っているのでしょうか。

松田:個人の見解ですが、「ひとり一人に向き合うをカタチにする」ミッション達成には、コミュニケーションの摩擦を減らすことが必要で、一元管理は意味があると考えています。実際、部門をまたいで連携する際もスムーズに情報が共有できていますので、意思決定のスピード感を上げる要素になっていると思います。

自分で会社を変えられる実感が働きがいに

インゲージはVMV(ビジョン・ミッション・バリュー)を大切にされていますね。これが働きがいにつながっているのでしょうか。

福地:働きがいを構成する要素は納得感、連帯感、主体性の3つがあると考えています。まず会社のビジョンに納得できること、次に同じ価値基準のもとで働き、生まれてくる連帯感。そして会社の方向性に従い、役割を考えて主体的に動く文化。この3点を重視することが、VMVを大切にするという意味でもあります。

VMVプロジェクトという活動も行っていると聞きました。

福地:そうですね。役職関係なく社員有志が集まり、自分たちで新しいVMVを作る試みとして2022年12月から実施しています。

プロジェクトでは、社員にアンケートを取ると、VMVがあまり鮮明ではなく浸透していないことが判明したため、そもそも現状のVMVを維持した上で浸透させる施策を進めるのか、VMV自体を新しいものにする必要があるかという点から議論を始めました。

創業時は社員も少なかったので、全社員に社長の意志が正確に届いていましたが、社員が増加し、東京と大阪のオフィスに分かれる組織になると、理念などの意思疎通が難しい部分も出てきてしまっていたんです。そこで、この機会に見直そう、と取り組みました。まだ道半ばではありますが、新しいVMVの策定まで完了し、まさにVMVを組織にどう浸透させるかという重要なフェーズの真っ只中ですね。

代表自身が「社員からの提案が非常に多い会社」とホームページで書かれています。アイデアや提言が生まれやすい組織づくりのコツについて、どうお考えですか。

福地:相手の意見をしっかり聞き、アイデアを引き出す姿勢、実現を後押しする姿勢を持つことです。足りない部分があった場合「そのアイデアを実現するには、もっとこうしたらいい!」と一緒に前向きに検討することで、アイデアがどんどん挙がってくるようになります。

すぐに取り組んだ方がいい提案があれば、上司に相談した上で全社会議などで周知できる仕組みが取られています。

先ほどの主体性の話に関連しますが、自身の行動によって組織が変わったり新しい製品につながる経験をしたりする機会が多いわけですね。

福地:社員は皆、提案して即採用されることもあると経験上わかっていますので、それによりどんどん会社を良くしていけると確信できていると思います。

松田:そもそもの話として、大企業でもなく、有名企業でもないスタートアップ企業に参加する人は、自分の力で会社を変えていこうという意欲の高い人が多いという人材の特徴もあるかもしれません。

そのような前提がある中で、私自身もマネージャーとして部下には、意見や提案に関しては発散的なものでもいいからどんどん上げてと常に伝えています。それを集約して、風呂敷を広げたり、たたんだりするのはマネジャーや経営陣の仕事だと思っているからです。

そして、提案の中で実行すべきと判断されたアイデアは、重要度や緊急度、事業に対するインパクトを掛け合わせつつスピーディーに実行します。自分の意見が会社の施策に組み込まれていく。そのスピードがとても速いので、自分が会社を動かしているという実感につながり、働きがいを生むことに寄与しているのではないでしょうか。

最後に、インゲージのような優れたコミュニケーションを実現し、スピード感を持った経営改善や組織運営を行うためには、どのような取り組みがポイントになるでしょうか。

福地:「ひとり一人」にしっかり向き合うために定期的なコミュニケーションの機会を設けることは非常に有効です。1on1などは定期的にコミュニケーションを取る機会になりますので、そういった仕組みや制度が大事でしょう。もうひとつは、しっかりフィードバックすること。意見を聞いて、その提案を受けるならスピード感をもって形にして発信しますし、無理なら理由をきちんと本人に伝えることも大事だと思っています。

西澤:社長や上司が自分の話を否定せず、耳を傾けて向き合ってくれるので何でも相談しやすいです。コミュニケーションの円滑さと仕事や業務の円滑さはつながっていると実感していますね。

松田:文化と仕組みではないでしょうか。否定しない、賞賛する文化を醸成していくことが重要です。スタートアップ企業には職場や職種のさまざまなカルチャーを体験した人が入ってきますので、その人たちが馴染めるような新たな企業文化の醸成が必要かなと。あとは、意見を吸い上げる仕組みやプラットフォームをどう作るかですね。

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