4万件の手書き作業をDX!業務時間を75%削減 アプリで「時間削減・売上UP・セキュリティ強化」を実現

取材日:2024/07/16

北海道の厳しい冬を乗り切るために各家庭に設置された灯油タンクは、寒冷地ならではの住宅設備です。灯油販売及び配送を行う株式会社エネコープ(コープさっぽろの家庭の総合エネルギー会社)は、それまで手書きだった定期配送契約者への灯油タンクの保守・点検作業にアプリを導入し、大幅なコスト削減に成功しました。導入にあたっての工夫や得られた効果についてお話を伺います。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 廣田孝次さん

    廣田孝次さん

    株式会社エネコープ

    住設部/マネージャー

  • 林剛央さん

    林剛央さん

    生活協同組合コープさっぽろ

    IT民主化チーム/リーダー

この事例のポイント

  1. 各家庭・ビルの灯油タンクの点検結果を記録するアプリを導入
  2. 現場作業員の「使いやすさ」と「わかりやすさ」を重視したDX
  3. 「IT民主化チーム」がデジタルツールの活用例を社内に紹介

DX以前は点検結果4万件を手書きし、システムに集約

アプリを導入する以前の灯油タンクの点検では、どのような作業フローがあったのでしょうか。

廣田:北海道のほとんどの一戸建ての家やマンション、ビルには灯油タンクがあります。中の灯油は、暖房や給湯に使用していて、冬に故障して使えなくなると、それこそ命にもかかわる住宅設備なので、エネコープの定期配送契約者様に対して、毎年春~夏にかけて点検サービスを行っております。

点検作業では、タンクに錆や汚れ、水のたまりがないか、部品に破損がないか、といった項目を確認し、腐食や破損があれば、お客様に対してタンク全体あるいは部品の交換、洗浄を提案しています。

その際、作業員が手書きで作成した点検用紙1枚をお客様に渡し、同じものを営業所や本社で保管していました。会社に持ち帰った点検用紙をスキャナーで読み込み、システムにデータを取り込むまでが一連の作業でした。

時間や人員はどのくらい割いていましたか。

廣田:点検し、システムに取り込んで集約。正常に読み込めなかった箇所を手作業で修正し、誤りがないかを確認するといったプロセスをすべて合算すると、1件あたり1時間ほどかかっていました。

当社で点検作業を行う灯油タンクは、計4万件ほどあるため、この作業も4万件発生するわけです。アプリ導入前は、各営業所の作業員計50人ほどが各地で一斉に点検し、オフィスで派遣スタッフ4人が読み込み作業をしていました。

膨大な点検件数、システムへの集約や修正をするうえで、課題となっていたことは何ですか。

廣田:とにかく業務量がとても多かったこと、ですね。また、作業も非効率で、点検結果が書かれた紙をスキャンしてOCRで文字を読み込むときには、手書きだと誤って読み込まれたり、エラーになってしまったりすることが多々あります。

点検用紙への記入は、現場で作業しながら書き込むものなので、人が読んでも「何て書いてあるんだろう...」といった文字もありますし...。書類と読み込んだデータの突合せや修正、作業員への確認作業など、作業が効率的に進まない原因が数多くありました。

また、点検用紙を各作業員に渡していましたが、個人情報が多く記載されていたので、紙で持ち歩くのは非常に危険だという、情報管理の面での懸念もありました。

現場の作業員に、アプリ導入のメリットを丁寧に周知

今回、導入されたアプリはどのように選定されたのでしょうか。

廣田:ノーコードツールの「AppSheet」というアプリを使い、自社内で開発しました。「AppSheet」はGoogle Workspaceのサービスの一つです。

コープグループではGoogle Workspaceをずっと使ってきたので親和性が高かったうえ、カスタマイズがしやすい点、追加費用がかからない点が魅力でした。アプリの開発には3ヶ月、テストには1ヶ月をかけました。

アプリを開発する際に工夫したことはありますか。

廣田:現場の作業員に、アプリに搭載してほしい機能をヒアリングして開発を進めました。

たとえば、点検後は部品交換などの対応が必要な項目に応じて見積もり金額を算出するのですが、その都度電卓で計算するのが面倒だという声がありました。そのため、項目を選択すれば自動で見積もり金額を計算できる機能をつけました。

そのほかにも、アプリなら紙だと記録できなかった写真も残せるので、不良箇所や腐食箇所を写真で残し、データベース化する機能も追加しました。

また、実際にアプリを使う作業員の年齢層は、30代や40代の方もいますが、メインは50代以上と年齢層が高めです。そのため、少ないタップ数で簡単に使えるよう、とにかく「簡単に、わかりやすく」「使いやすく」を心がけて開発しました。

アプリの使い方はどのように周知されたのでしょうか。

廣田:まず、1週間かけて勉強会を実施しました。勉強会や説明会は、対面で集まってもらうこともあれば、オンラインで開催することもありましたね。

そのあとは、ある程度アプリを使えるようになった人が、各営業所でさらに教えていくという仕組みにしていました。あとは、使い方を紹介した資料や動画も共有して、視覚的に見て覚えられる体制を整えて導入・使い方の浸透を図りました。

そこは、かなり丁寧に行ったという感覚があります。

アプリ導入について、現場の方々からの反応はいかがでしたか。

廣田:これはある程度、想定はしていましたが、やはり長年紙で行っていたことを急にデジタル化することに抵抗のある人も少なからずいて、反発はありました。

ですが、DXすることで業務量が減るというメリットをしっかりと伝え、理解してもらったうえで導入しました。

当初、「アプリを使うことで、今まで以上に時間がかかるのでは」と思っていた人もいましたが、実際に導入されると「紙よりも早く点検作業を終えられる」「紙を持ち歩くのが大変だったが、スマホだけになったので荷物が減った」「お客様にタンクや部品の交換などを提案するときに、現状の写真を使って説明できる」といった声が多く聞かれ、概ね好評です。

お客様への効率的な提案で、営業成績20%UPのメンバーも

アプリ導入後、点検作業の流れはどう変化しましたか。

廣田:以前は、各営業所から点検用紙をまとめて本部へと送ってもらい、本部でスキャンして読み込み、システムに登録する、という流れで進めていました。

アプリを導入してからは、現場で点検結果を入力するだけで、そのままシステムに登録され、データベース化されるようになりました。紙の読み込みエラーもないため、点検用紙とシステム登録データの突き合わせや、ダブルチェックを行っていた作業の省略なども実現できています。

お客様から灯油タンクの状況について問い合わせがあった際も、今までは紙に書いてあることしかわかりませんでしたが、今は写真で確認したうえで、錆の程度や部品の状態などを正確にお客様にお伝えすることができます。

その結果、お客様に対しより的確な提案ができるようになり、営業メンバーによっては20%ほど営業成績が向上したという成果も出ています。

そのほか、これまで紙で持ち運びしていた個人情報を業務用スマホで管理できるようになったので、個人情報を紛失するリスクを大きく減らせたこともメリットです。

点検作業にかかる時間や人手は変化しましたか。

廣田:1件あたり1時間かかっていた点検作業は15分にまで減りました。それまでは、毎年、システム登録作業を派遣スタッフの方に依頼していたのですが、全て社内リソースで作業できるようになり、コストも大幅に削減できています。

また、点検結果を見たお客様から部品交換や、タンク交換、洗浄の注文もいただくのですが、これまでの電話に加え、WEBでも受付できるようにしました。

その結果、4割がWEB上での注文となっています。WEBでの注文は、すぐにデータベースの情報と連動させる仕組みも構築されているので、ここでも人手への負担を大幅に軽減できています。

もともと御社の中では、業務のDXに対する意識は高かったのでしょうか。

廣田:そんなに高まっていたわけではなかったと思います。社内で「DX」という言葉は出ていましたし、必要性にも薄々気づいていたものの、実際には、何から初めて、どう進めたらいいかわからず、具体的な行動に移せていなかった状況でした。

そうした中で今回、DXが進められた要因は何かあったのでしょうか。

廣田:私は、入社して数年なのですが、もともとWeb関連の仕事をしていたこともあり、ITに関する知識があったことも一つの要因だと思います。

そのうえで、実際に灯油タンクの点検作業から発生する一連の業務を実際に経験してみて、これはITツールの活用で必ず効率化できると確信を持てたので、迷いなく進められたことがよかったのかもしれません。

各部署メンバーが「チーム」になり、現場に即したDXを推進

コープさっぽろには「IT民主化チーム」があると伺いました。どのようなことに取り組んでいるのですか。

林:デジタル推進本部の中に、私を含めた5人のメンバーでつくる「IT民主化チーム」があり、主に「デジタル勉強会」を開催しています。社内の「デジタルツールがあるのはわかっているけれども、ツールで何ができるのかわからない」という方に対して、ツールの使い方そのものというより、ツールをどんな場面で活用できるか、実際にどんな活用例があるかについて、紹介をしています。

さらに、この勉強会だけでは扱いきれない事柄については、個別相談も実施し、一緒に伴走する形で、エネコープでも使われている「AppSheet」など、デジタルツールの活用の幅を組織全体に広げています。

「デジタル勉強会」や個別相談には、どういった方々が参加しているのですか。

林:回によってさまざまですが、「AppSheet」を活用して作ったアプリを体験する会には全社から30~40人ほどが集まりました。

個別相談では、部署の関係者が2,3人集まってその部署の具体的な業務に関するDXについて学んでいただくこともあります。たとえば、過去にはGoogleスプレッドシートやコミュニケーションツールを使う際の効率的な「テータ一元管理の方法」といった具体的な解決策や方法をお伝えすることがありました。

「IT民主化チーム」ができた経緯や、「民主化」という、ユニークなネーミングにした理由を教えてください。

林:チームを作って勉強会を始めた目的は、デジタル推進本部だけが、ITを理解して使いこなすのではなく、それぞれの部署レベルでデジタルへの理解を高めたかったからです。

私たちデジタル推進本部も、寄せられた相談に対して改善策を提案することはできますが、業務の詳細の流れや問題点は、それを実施している部署が一番よくわかっています。だからこそ、それぞれの部署がデジタル活用の理解を深めて、「自走」で「これはDXで効率化できるかも」という気づきが持てるようにしたかった。

組織内には、ファックスや紙を使っている業務はまだまだたくさんあります。デジタルツールを使える人がその使い方を他の人にも広め、活用できる人をどんどん増やしていければ、組織全体での効率化が、よりスピーディに進められるようになると思います。

全員がスペシャリストとしてデジタルツールを使えることを目指しているわけではなく、使える人を増やし、組織が前に進んでいけばうれしいですね。その思いを込めて「民主化」という名前をつけています。

ただ、対「組合員さん」に関連した業務でいえば、何もかもDXすることがいいとは限りません。お客様には、紙でのやり取りを希望されるご高齢の方もいらっしゃいます。すべてをデジタルツールに移行してデジタル一択になるのではなく、その人にとって便利な「選択肢」があることが大切だと思います。

ほかにも、組織全体でデジタルツールを活用するための取り組みはありますか。

林:今年からは、各部署の代表者を募ってデジタル推進本部に「短期留学」する仕組みも始めました。たとえば店舗を所管している部署、宅配を所管している部署、会計を担当している部署、組合員活動を実施している部署などからそれぞれ代表者を募って、デジタルツールを活用して自部署の業務を改善していくという取り組みをしています。

それぞれの部署からの課題を吸い上げるという目的でしょうか。

林:そうですね。先ほどの勉強会開催の目的と同様に、各部署の方がデジタルツールの使い方を覚えて、業務で困っている部分を各部署主導でも改善していけるようにしていきたいというねらいがあります。

アプリ導入が成功し、社内のDX機運が盛り上がり

DXに関する現在の課題や、取り組みたいことを教えてください。

廣田:まだまだメールの内容をひたすらエクセルに転記するなど、「必ずしも人がやらなくてもいい」単純作業が非常に多いので、そうした作業を自動化していきたいと考えています。上層部も今回のアプリ導入によるDXは成功だと評価してくれているので、幸い内部のDXへの機運は高まっています。これを機に、さらにDXを推進したいですね。

DXをする業務、しない業務を決めるときの基準はありますか。

林:まずはペーパーレスにすることで、検索性が向上したり、管理の手間が軽減されたりするなど、確実に利便性が上がる業務はDXのターゲットかなと思います。

ほかにも、業務インパクトが大きい業務もDXの優先順位が高い業務です。極端な例ですが、1年に1回しかやらない作業をDXするよりも、従業員1万5000人が毎日実施している業務を効率的なものにした方が、より業務へのインパクトが大きいですよね。そうした観点で、DXする業務を決めていきたいと思います。

今後進めていきたい業務改革や働き方改革について教えてください。

廣田:今後は、社内用のAIチャットボットを作りたいと思っています。

社内での手続きの仕方や、商品知識など、誰かに聞いていたものをAIチャットボットに聞いて解決できる、というシステムですね。
社内の問い合わせは、往々にして別々の社員から寄せられる同じような質問に何度も対応するということが少なくありません。まず最初の問い合わせ窓口としてチャットボットが社内のスペシャリストのようなツールになれば、問い合わせ対応を行ってきた社員のリソースを別の業務にあてることができるようになります。こういった少しずつの積み重ねで、「より人にしかできないことに集中する」環境も整えて行きたいですね。

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